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8 約束
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時間になるとやって来る、看護師の食事と診察と掃除。それ以外は外部との接触もできないまま、三日の時が過ぎた。
月岡を怒らせてしまったのかと珈涼は怯えたが、彼は前以上に甲斐甲斐しくなった。ドライヤーで髪を乾かしてくれたり、爪を切ってくれたりする。毎日花や装飾品の類を買ってくる。
ただし珈涼には下着さえ身に着けさせなかった。室温はエアコンで調節されていて寒くはないが、やはり落ち着かない。
「あの……恥ずかしい、です」
とても向き合って夕食は取れないとうつむいたら、月岡の膝に乗せられた。そのまま膝の上で食事を取らされる。
長身の月岡の膝の上では、小柄な珈涼は子どものようだった。月岡は珈涼に食べさせて自身も食べながら、珈涼に繰り返し話しかける。
具合はどうですか、欲しいものはありませんか、不自由があるなら何でも仰ってください。
こうして裸で月岡の膝に乗っていること自体が珈涼には戸惑いだらけだったが、月岡の口調はいつも優しかった。
夜の行為は今でも怖い。けれど月岡は必ず避妊してくれたし、珈涼を傷つけるようなことはしなかった。終わるといつも体を洗って、広い胸に包み込んでくれる。
だから珈涼は何も言えなくなる。不満も希望も、喉の奥で詰まる。
今も珈涼の心の大半を占めているのは、不安だった。これがいつまで続くのか、終わった後に自分はどうするのか、それが見えない。
アルバイトもやめさせられてしまった。いろいろ教えてくれたマスターに申し訳なく思う。
ただコーヒーを飲むまでの間は、月岡のまとう雰囲気は母親のようだ。こんな格好で男の人の膝に乗っている自分は恥ずかしくて仕方がないが、月岡の目はそういう色を持っていないからまだ安心できる。
変わるのはいつも、月岡がコーヒーを飲み終わった時。
月岡が触れる意味が違うものになる。珈涼を支えていた腕は肌を滑り、珈涼の弱いところを弄ぶ。
珈涼はただ貪られるだけなら、怖いという感情だけで逃げていられた。近頃の月岡はそれも許してくれない。珈涼が甘い痺れに震えて涙を滲ませても、月岡は珈涼をみつめるばかりで終わらせたりしない。
「つ、き……おか、さん」
「彰大」
滲んだ視界の中で、珈涼は訴えるように問いかける。
「あきひろ、まだ……?」
「まだとは?」
待つような間があって、珈涼は朦朧とした意識の中でつぶやく。
「もう……終わりたいの」
珈涼の口から本音がこぼれ出た。
不安に押しつぶされそうになりながら毎日を過ごすより、いっそこの甘い日々が終わればいい。
自分に飽きてどこか余所にやってしまうのなら、それでもいい。珈涼は究極的にはこの思うままにならない体の命がついえてしまっても、構わないとさえ思えた。
月岡はそれを聞いて珈涼の舌を絡め取ると、奇妙に優しい目で見下ろした。
「言う通りにするなら、終わらせてもいいですよ」
舌が触れあうだけでも、珈涼に甘い痺れがさざなみのように襲ってきた。月岡の手は珈涼の胸の形を確かめるように動く。
「言う通りにする……から」
懇願するように珈涼が告げると、唐突に月岡が入ってきた。
もやのようだった痺れが爆発するようで、珈涼はそれをこらえるように唇を噛んだ。
「約束しますね?」
その唇がなぞられて、押しこめていた吐息が漏れる。
ためらった珈涼を責めるように、月岡が止まる。珈涼は慌ててうなずく。
「約束、する」
そう言うと、ご褒美のように動いてくれる。
次第に何も考えられなくなる中、珈涼はうわごとのようにつぶやく。
うん、言う通りにする……あきひろ、すき、すき……。
どこまでが本音だったのかは、珈涼にもわからなかった。
月岡を怒らせてしまったのかと珈涼は怯えたが、彼は前以上に甲斐甲斐しくなった。ドライヤーで髪を乾かしてくれたり、爪を切ってくれたりする。毎日花や装飾品の類を買ってくる。
ただし珈涼には下着さえ身に着けさせなかった。室温はエアコンで調節されていて寒くはないが、やはり落ち着かない。
「あの……恥ずかしい、です」
とても向き合って夕食は取れないとうつむいたら、月岡の膝に乗せられた。そのまま膝の上で食事を取らされる。
長身の月岡の膝の上では、小柄な珈涼は子どものようだった。月岡は珈涼に食べさせて自身も食べながら、珈涼に繰り返し話しかける。
具合はどうですか、欲しいものはありませんか、不自由があるなら何でも仰ってください。
こうして裸で月岡の膝に乗っていること自体が珈涼には戸惑いだらけだったが、月岡の口調はいつも優しかった。
夜の行為は今でも怖い。けれど月岡は必ず避妊してくれたし、珈涼を傷つけるようなことはしなかった。終わるといつも体を洗って、広い胸に包み込んでくれる。
だから珈涼は何も言えなくなる。不満も希望も、喉の奥で詰まる。
今も珈涼の心の大半を占めているのは、不安だった。これがいつまで続くのか、終わった後に自分はどうするのか、それが見えない。
アルバイトもやめさせられてしまった。いろいろ教えてくれたマスターに申し訳なく思う。
ただコーヒーを飲むまでの間は、月岡のまとう雰囲気は母親のようだ。こんな格好で男の人の膝に乗っている自分は恥ずかしくて仕方がないが、月岡の目はそういう色を持っていないからまだ安心できる。
変わるのはいつも、月岡がコーヒーを飲み終わった時。
月岡が触れる意味が違うものになる。珈涼を支えていた腕は肌を滑り、珈涼の弱いところを弄ぶ。
珈涼はただ貪られるだけなら、怖いという感情だけで逃げていられた。近頃の月岡はそれも許してくれない。珈涼が甘い痺れに震えて涙を滲ませても、月岡は珈涼をみつめるばかりで終わらせたりしない。
「つ、き……おか、さん」
「彰大」
滲んだ視界の中で、珈涼は訴えるように問いかける。
「あきひろ、まだ……?」
「まだとは?」
待つような間があって、珈涼は朦朧とした意識の中でつぶやく。
「もう……終わりたいの」
珈涼の口から本音がこぼれ出た。
不安に押しつぶされそうになりながら毎日を過ごすより、いっそこの甘い日々が終わればいい。
自分に飽きてどこか余所にやってしまうのなら、それでもいい。珈涼は究極的にはこの思うままにならない体の命がついえてしまっても、構わないとさえ思えた。
月岡はそれを聞いて珈涼の舌を絡め取ると、奇妙に優しい目で見下ろした。
「言う通りにするなら、終わらせてもいいですよ」
舌が触れあうだけでも、珈涼に甘い痺れがさざなみのように襲ってきた。月岡の手は珈涼の胸の形を確かめるように動く。
「言う通りにする……から」
懇願するように珈涼が告げると、唐突に月岡が入ってきた。
もやのようだった痺れが爆発するようで、珈涼はそれをこらえるように唇を噛んだ。
「約束しますね?」
その唇がなぞられて、押しこめていた吐息が漏れる。
ためらった珈涼を責めるように、月岡が止まる。珈涼は慌ててうなずく。
「約束、する」
そう言うと、ご褒美のように動いてくれる。
次第に何も考えられなくなる中、珈涼はうわごとのようにつぶやく。
うん、言う通りにする……あきひろ、すき、すき……。
どこまでが本音だったのかは、珈涼にもわからなかった。
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