若頭と小鳥

真木

文字の大きさ
17 / 74

17 若頭と小鳥の二人の世界

しおりを挟む
 朔は熱を出した上に冷水のシャワーを浴びたせいで、その後何日も寝込むことになった。
 けれど銘座に会った日の血の凍るような恐怖は、毎日義兄と過ごすうちに和らいでいった。
 義兄が朔を手放す不安を忘れたわけではない。でも日々義兄が朔に降り注いでくれる愛情はどこも変わっていなかった。この数日も、義兄は喉通りのいいものを取り寄せて食べさせたりと朔の世話を甲斐甲斐しく焼き、朔の体を毎日拭いてくれた。
 朔は熱が下がった夜、ベッドの中から義兄を見上げて言った。
「明日は大学に行っていい?」
「んー、どうかな? 俺はこのままずっとさっちゃんを看病していたいかも」
「兄さん」
 朔が子どものように口をへの字にして義兄を呼ぶと、枕元の義兄はくすくすと笑って朔の髪を梳いた。
「冗談。さっちゃんが元気な方がうれしいよ。……朝診察を受けて問題なければ、大学に行っておいで」
「うん!」
 朔が屈託なく笑うと、義兄はそんな朔の頬を大きな手で包んで笑い返してくれた。
 義兄はそのまま朔の顔をみつめながら思案顔になる。
「兄さん? どうしたの?」
「んー? さっちゃんがにこにこしてるのはいいなぁと思って」
 朔が問いかけると、義兄は優しく相槌を打ちながら答える。
「昔からいじめっ子たちはさっちゃんが泣く顔がいいって言ったらしいけど。さっちゃんは笑ってる顔の方が比べられないくらいかわいいよ? 泣く顔が好きなんてさ、それは本当のところさっちゃんの良さを知らないし、さっちゃんを好きじゃないんだよ」
 朔はいじめっ子たちを思い出して、少し銘座のことも考えた。銘座もまた、朔が嫌いなのだろうか。
 ……兄弟なのに、それはちょっと寂しい。朔が瞳を揺らすと、義兄は朔の頬を撫でて苦笑した。
「ごめんね、いじめっ子たちを思い出しちゃった? さっちゃんはいじめっ子たちの言う事なんて何も気にしなくていいよって、伝えたかったんだ」
「……うん。兄さんは、いっぱい僕を愛情で包んでくれる。それで十分だよ」
 朔が淡く笑うと、義兄はうなずいて朔をぎゅっと抱いた。
「俺がさっちゃんを傷つけるどんなものからも守ってあげる。……さっちゃんは小さい頃からずっと俺のでさ、俺はさっちゃんだけが大好きなんだもの」
 朔は義兄の抱擁を幸せな気持ちで受けながら、やはり銘座のことを思い返した。
 兄弟という関係なら銘座も同じなのに、義兄は朔だけが好きだと言う。
「さっちゃん。……なんでそんなにかわいいの、さっちゃん。何をあげたら喜んでくれる?」 
 朔は迷って、義兄を抱きしめ返しながら言う。
「僕はこんなだから、いじめっ子はきっといつまでも消えない。それより……僕は兄さんに側にいてほしい。兄さんが僕から離れて行くのが、一番怖い……」
「俺はさっちゃんを置いてどこにも行かないよ」
 義兄はベッドの横に膝をついて、朔の手に自分の手をからめて言う。
「俺は確かに極道の世界にいるけど、さっちゃんと生きていく暮らしは譲らない。教会で誓おうか? それとも俺の体に入れ墨でも入れる?」
「に、兄さん」
 義兄は朔の手を頬に当てると、その感触が心地よさそうに微笑む。
「だって離れたくないんだもの。さっちゃん、俺を困らせるくらいに長生きしてね? 俺にずっとさっちゃんの世話をさせて?」
 朔が慌ててこくこくとうなずくと、義兄は朔の手に口づけて目を細める。
「……それがわかってない家族なら、要らないよね」
 朔は一瞬背筋を冷たいものが通っていった気がして、こくんと喉を鳴らした。
 翌朝義兄に診てもらって大丈夫と言われた朔は、また大学に……通い始める前に、違う場所に出かけた。
 義兄と二人だけの世界にいられれば何も要らない。朔もそう思う気持ちはあるけれど、義兄に孤独になってはもらいたくなかった。
 朔はあらかじめ電話をして、ある弁護士事務所を訪ねた。
 義父の経営するビルの一角、オフィス街の中にあるそこは、観葉植物で飾られた小奇麗な事務所だ。
 朔が待合室のソファーに掛けていると、約束の相手は苦笑して現れた。
「朔、どうしました?」
 医者がそっと問いかけるような声色に朔が顔を上げると、そこに少しふくよかな青年をみつける。
 義兄や銘座と違って猫目で可愛いような口元だが、その眼差しは鋭い。彼もまた義兄と血がつながった存在だからだった。
「くれは……兄さん。あの、心配なことがあって」
 呉葉は言葉を切り出した朔に、柔和な仕草でうなずいて聞き始めた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻本作品(オリジナル)の結末をif(運命の番)ルートに入れ替えて、他サイトでの投稿を始めました。タイトルは「一度目の結婚で愛も希望も失くした僕が、移住先で運命と出逢い、二度目の結婚で愛されるまで」に変えてます。 オリジナルの本編結末は完全なハッピーエンドとはいえないかもしれませんが、「一度目の〜…」は琳が幸せな結婚をするハッピーエンド一択です。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

病弱の花

雨水林檎
BL
痩せた身体の病弱な青年遠野空音は資産家の男、藤篠清月に望まれて単身東京に向かうことになる。清月は彼をぜひ跡継ぎにしたいのだと言う。明らかに怪しい話に乗ったのは空音が引き取られた遠縁の家に住んでいたからだった。できそこないとも言えるほど、寝込んでばかりいる空音を彼らは厄介払いしたのだ。そして空音は清月の家で同居生活を始めることになる。そんな空音の願いは一つ、誰よりも痩せていることだった。誰もが眉をひそめるようなそんな願いを、清月は何故か肯定する……。

ふたなり治験棟 企画12月31公開

ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。 男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!

【bl】砕かれた誇り

perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。 「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」 「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」 「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」 彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。 「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」 「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」 --- いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。 私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、 一部に翻訳ソフトを使用しています。 もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、 本当にありがたく思います。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。 ----------------------------------------- 0時,6時,12時,18時に2話ずつ更新

処理中です...