旧王家の兄妹

真木

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9 旧王家の交合

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 寝台の中、一糸まとわぬ姿でからみあう男女がいる。
 二人の銀髪は生き物のように睦みあい、汗ばんだ肌をこすりあうようにしてお互いを愛撫する。二人の手足はもつれあって、どこからが一人の人間なのかもあいまいにしていた。
 二人の容姿を見れば近親同士であることなどあきらかで、それにもかかわらずたまらなく甘い交わりだった。乳房を胸板で押しつぶすように合わせても、二人はもっと近くへというようにお互いを引き寄せあった。
 旧王家の兄妹を二人だけにしてはいけない。それは旧王家が奴隷として飼われていた頃から言われていたことだった。
 古い時代、旧王家の一族を掛け合わせてより美しい子を産ませるのが流行っていた。それは必然的に近親相姦の禁を侵し、濃すぎる血ゆえに早逝する子らを生み出した。家族に執着する彼らは幼くして子を亡くすことに耐えきれず、多くの者たちが心を病んだ。
 だからあるときから、一族は安定して夫婦に男女一人ずつの子をもうける方法を身に着けた。薬草を駆使して男性は射精し、女性は排卵する。その行為はさながら植物のような営みで、夫婦は愛というよりは補完のために連れ合った。
 それは彼らの動物的な営みに歯止めをかけるために必要だったからだ。両親が生きている内はまだいい。子が産まれれば愛着もわく。しかし旧王家の兄妹が二人だけで残されたとき……彼らは取り返しのつかない禁忌に踏み込む。
「ねえ、ロザリア。何度、私以外に抱かれた?」
 ジルはロザリアの首筋に点々としるしをつけながら、嫉妬に焦がれた問いを投げる。
「君と最初に肌を重ねるのは私のはずだった。たとえ君が夫を持っても、誰よりも君を愛するのは私だとわかっていたね?」
「お兄様……言わないで」
 ロザリアは罪悪感にさえ切ないようなうずきを感じて、ジルの首筋を唇で愛撫する。
「こんな汚らわしい体、お兄様の前にさらしたくなどなかった」
「まったくだ。私の知るロザリアは穢れなど知らない少女だったのに」
 揶揄するような言葉にロザリアが悲しそうに目を伏せると、ジルはロザリアの手をつかむ。
「自分からこんなに足を開いて……。何人、こうやって誘ってきたの?」
「違う……」
 ロザリアが自分から体を開いたのは、ジルだけだった。口づけに酔うのも愛撫に熱っぽいため息をつくのも、今夜が初めてだった。
「お兄様だから。ずっと会いたかったお兄様だから。お願い、意地悪を言わないで」
 地下室に来てどれほど時間が経ったかわからない。肌を触れ合わせるだけで体は歓喜して火照っていくのに、ジルはその先に進んでくれない。
「お兄様の……」
 もう限界だった。ロザリアは本能のような情欲に突き動かされて、そのみだらな言葉を口にする。
「欲しいの。もうだめ、体がとけてなくなってしまいそうで……今すぐ」
 自らにジルの男性を押し付けて、ロザリアは乞う。
「お兄様のこれで、私をいじめて、ください……」
 擦りつけるように腰を動かしながら、ロザリアは自らそれを受け入れ始めた。それが体を押し拡げていく感触に、別の生き物になったように震える。
 もっと奥へとロザリアは腰を動かすのに、それだけでは力が足らない。ジルはくすくすと笑いながらからかうように身を引く。そのたびロザリアはいやいやと首を横に振りながら懸命にジルを引き寄せた。
「あ……」
 ふいにジルが身を起こして、ロザリアの奥深くまでそれを押し込む。
 ようやく最奥までジルを感じられて、ロザリアは頬を染めて彼を見上げた。ひととき身じろぎもせず二人は見つめあう。
「不思議だ。昔から続く交合を果たすだけなのに」
 ぽたりとジルの目から涙が落ちて、ロザリアの頬を流れていく。
「涙が止まらないんだ……」
 ジルはくしゃりと泣き笑いの顔になって、律動を始める。ロザリアは感じたことのない悦楽に身を震わせて、応えるように自らも体を揺らした。
 地下室の中、粘着質な水音と荒い呼吸音が混ざりあう。
 旧王家の兄妹が二人だけで残ったとき、二人は命絶えるまで交わり続ける。お互いの命を飲み込むまで、二人の愛の渇望はやまない。
 ジルもロザリアもそれを知っていながら、ただ自らの愛の望むままに任せた。
 それは背徳の、純粋な一対の男女の交合だった。
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