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4 古い神々のように
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義兄が体温の低い人だと気づいたのは、まもなくのことだった。
姉のベッドで抱かれた日から、陽花はむやみに義兄に抵抗することができなくなった。陽花にとって聖域である姉を、陽花自らが穢したような罪悪感が陽花を刺した。次第に甘い声を上げて義兄に手足をからめている自分を、どこか遠くから見ていた。
それから日の感覚がなくなるまで、陽花は義兄に繰り返し穿たれた。自分はどこにいて、何から逃れようとしていたのか、考えることもできなくなっていた。ただ義兄のささやく愛の言葉が、麻薬のように陽花の中に浸透していって……自分は義兄を愛しているのではと思うほどになった。
何度目かの意識の欠落の後、陽花は入ったことがない部屋の寝台の上にいた。黒いシーツ、灰色の調度、そこに王者のように馴染んでいる義兄を見て、彼の部屋なのだと知った。
窓の外に欠けた月が見えた。陽花はまた義兄に穿たれて、頬をシーツに押し付けられながらぼんやりとそれを眺める。
「義兄、さん……月が見えるよ」
陽花が掠れた声で義兄に言うと、義兄は陽花の後ろからそれを見たようだった。
この行為のとき、義兄は陽花が泣いて懇願しても決して途中でやめることはなかった。けれどそのとき、ふいに義兄は動きを止めて陽花に問いかけた。
「月は好きか」
「ううん。岩だらけで、骨ばって……私みたい」
「お前は神の作った細工物みたいな体だ」
義兄は陽花の体を反転させると、胸の小さな飾りを甘噛みして言う。
「ここは果物より甘い味がする。唇も、胎から溶けだしてくる蜜も」
「そんなことない……」
陽花は首を横に振って顔を背ける。そんな陽花を咎めるように、義兄は陽花の顎を取って自分の方を向かせた。
「ん……っ」
義兄のキスは最初から今まで、野蛮なほど執拗だ。舌をからめて吸われ、呼吸もままらないほど深く深く、陽花の口腔をかき乱す。
いつも陽花は子どものように口の端から唾液をこぼして、助けを求めるように義兄の肩を叩く。義兄はそれでもキスをやめなくて、陽花が口からこぼした唾液をなめとると、また口腔に舌を入れて陽花の舌を吸う。
けれど信じられないことに、陽花はそれをじんとした痺れと共に受け入れるようになっていた。触れ合う舌の熱に体の芯も熱くなって、顎を滴り落ちていく雫の感触さえ心地よかった。
「……私、けだものになっちゃったのかな」
長い長いキスの後、ようやく離してもらえた唇で、陽花はぽつりとつぶやく。
義兄はキスのせいで赤く腫れた陽花の唇を、ふいに優しく唇で包んだ。
「そうだ。俺専属の……愛おしい、けだものだ」
その夜、義兄は陽花の悦楽を引き出すように、ゆっくりと突いては離し、陽花の体のあちこちを吸って赤い跡を残した。
義兄は初めての行為のときさえ、陽花の体を傷つけるような抱き方はしなかった。けれどずっと執拗で容赦のない交合だったのに、その夜は優しささえ感じる、甘やかな交わりだった。
「義兄さんの肌、冷たい……」
だから行為が終わった後、義兄に包まれて寝台に身を沈めたとき、陽花は彼の体温が低いことに気づいた。
たとえ行為は止めたとしても、義兄は陽花の体を離すことはしなかった。陽花は手足を義兄にからめて、胸を押しつぶすように引き寄せられていた。
「苦しいよ……義兄さん」
こんなに接着したら、石膏のように義兄の形になってしまう。陽花はそんな恐れさえ抱いたのに、義兄の答えは陽花をますます引き寄せることだった。
「もっとだ。……まだ足りない」
体の中心は二人分の体液で濡れたままで、乾けば二人は中心で接合してしまうかもしれない。
けれど陽花は苦しさの中で、義兄の首筋に頬を寄せてつぶやいた。
「冷たくて……気持ちいい」
……まるで古い神々のように、二人で一つの体になってしまう。
陽花はほの暗い闇のような気持ちを胸に抱きながら、ゆっくりと目を閉じた。
姉のベッドで抱かれた日から、陽花はむやみに義兄に抵抗することができなくなった。陽花にとって聖域である姉を、陽花自らが穢したような罪悪感が陽花を刺した。次第に甘い声を上げて義兄に手足をからめている自分を、どこか遠くから見ていた。
それから日の感覚がなくなるまで、陽花は義兄に繰り返し穿たれた。自分はどこにいて、何から逃れようとしていたのか、考えることもできなくなっていた。ただ義兄のささやく愛の言葉が、麻薬のように陽花の中に浸透していって……自分は義兄を愛しているのではと思うほどになった。
何度目かの意識の欠落の後、陽花は入ったことがない部屋の寝台の上にいた。黒いシーツ、灰色の調度、そこに王者のように馴染んでいる義兄を見て、彼の部屋なのだと知った。
窓の外に欠けた月が見えた。陽花はまた義兄に穿たれて、頬をシーツに押し付けられながらぼんやりとそれを眺める。
「義兄、さん……月が見えるよ」
陽花が掠れた声で義兄に言うと、義兄は陽花の後ろからそれを見たようだった。
この行為のとき、義兄は陽花が泣いて懇願しても決して途中でやめることはなかった。けれどそのとき、ふいに義兄は動きを止めて陽花に問いかけた。
「月は好きか」
「ううん。岩だらけで、骨ばって……私みたい」
「お前は神の作った細工物みたいな体だ」
義兄は陽花の体を反転させると、胸の小さな飾りを甘噛みして言う。
「ここは果物より甘い味がする。唇も、胎から溶けだしてくる蜜も」
「そんなことない……」
陽花は首を横に振って顔を背ける。そんな陽花を咎めるように、義兄は陽花の顎を取って自分の方を向かせた。
「ん……っ」
義兄のキスは最初から今まで、野蛮なほど執拗だ。舌をからめて吸われ、呼吸もままらないほど深く深く、陽花の口腔をかき乱す。
いつも陽花は子どものように口の端から唾液をこぼして、助けを求めるように義兄の肩を叩く。義兄はそれでもキスをやめなくて、陽花が口からこぼした唾液をなめとると、また口腔に舌を入れて陽花の舌を吸う。
けれど信じられないことに、陽花はそれをじんとした痺れと共に受け入れるようになっていた。触れ合う舌の熱に体の芯も熱くなって、顎を滴り落ちていく雫の感触さえ心地よかった。
「……私、けだものになっちゃったのかな」
長い長いキスの後、ようやく離してもらえた唇で、陽花はぽつりとつぶやく。
義兄はキスのせいで赤く腫れた陽花の唇を、ふいに優しく唇で包んだ。
「そうだ。俺専属の……愛おしい、けだものだ」
その夜、義兄は陽花の悦楽を引き出すように、ゆっくりと突いては離し、陽花の体のあちこちを吸って赤い跡を残した。
義兄は初めての行為のときさえ、陽花の体を傷つけるような抱き方はしなかった。けれどずっと執拗で容赦のない交合だったのに、その夜は優しささえ感じる、甘やかな交わりだった。
「義兄さんの肌、冷たい……」
だから行為が終わった後、義兄に包まれて寝台に身を沈めたとき、陽花は彼の体温が低いことに気づいた。
たとえ行為は止めたとしても、義兄は陽花の体を離すことはしなかった。陽花は手足を義兄にからめて、胸を押しつぶすように引き寄せられていた。
「苦しいよ……義兄さん」
こんなに接着したら、石膏のように義兄の形になってしまう。陽花はそんな恐れさえ抱いたのに、義兄の答えは陽花をますます引き寄せることだった。
「もっとだ。……まだ足りない」
体の中心は二人分の体液で濡れたままで、乾けば二人は中心で接合してしまうかもしれない。
けれど陽花は苦しさの中で、義兄の首筋に頬を寄せてつぶやいた。
「冷たくて……気持ちいい」
……まるで古い神々のように、二人で一つの体になってしまう。
陽花はほの暗い闇のような気持ちを胸に抱きながら、ゆっくりと目を閉じた。
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