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冒険者ギルド…?
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町に到着して馬車を降りる。
「ありがとうございました。助かりました」
「次は750ゴルじゃ絶対乗せねえからな」
「…すみませんでした」
大丈夫。次にあなたに出会っても頼まないから…たぶん。
「お仕事頑張って下さい」
「ふん。あんたもシスター辞めて働いたらどうだ?」
「いいえ。今はそのつもりはありませんので。では、失礼します」
辞める以前に違うから。てか、言われなくても仕事探しますよ。お金も無いし、借金してるし。
その場を後にする。凄く疲れた。犬魔獣と戦ったし、お墓も作ったからもうヘトヘトだった。身体が重い。今日は帰ろう。魔獣の素材は明日売りに行くかな。
中央地区の自宅に向かって歩く。こちらの世界に来てから歩いてばっかり。2、3年後にはアスリートみたいな身体になってるかも…。歩くだけでそれはないか。
ゆっくり、トボトボと歩きやっと食堂『流星と旅人』に着いた。時計を見ると午後9時前だった。食堂は相変わらず賑わっている。今日もテイクアウトにしよう。格好も泥だらけだし。
「すみません」
ママさんが気付いて近付いてくる。
「いらっしゃいませ…じゃなくておかえりなさい♪…かな?」
「どちらでも大丈夫ですよ」
ママさんの顔を見て気持ちが安らぐ。
「その格好…何かあったの?」
泥だらけの服をママさんが見つめている。
「えっと…少し森で作業をしておりまして…」
犬魔獣と戦ったことは言わない。心配かけたくないからね。
「ケガとかしてない?」
「はい。服が汚れているだけですので。心配していただきありがとうございます」
脚のケガはスカートで隠れているから見えない。
「それならいいけど…」
「ですので、今日もお持ち帰りにさせていただけたらなと思います」
「わかったわ。悪いわね、気を使わせちゃって…」
「とんでもないです。ママさんのお店を汚す訳にはいきませんから」
今日もおにぎりセットとお茶を購入し、自宅に引き上げる。
部屋に入るなりバックパックを床に置き、修道服・その他全ての来ていた服を洗濯機に投げ込む。シャワーを浴びさっぱりしてからご飯を食べよう。
タオルを外しケガをした脛の具合を見てみると、傷口は綺麗に塞がっていた。少し皮膚の表面が赤くなっているけど、そのうち消えるかも…。骨が折れてなくて良かった。
シャワーを浴び疲れを癒す。明日はどうしよう。とりあえず、魔獣の素材を売りにいき、アルバイトも探さないと…。夕方には引き上げて、図書館で借りた本でも読むかな。魔獣やお金稼ぎについてよく調べておこう。
お風呂から上がり着替えておにぎりを頬張る。とてもおいしいかったけど、やっぱり夕飯はもっとボリュームのあるものを食べたいな。そのためには早くバイトを見つけて…。
かなり眠くなってきた。今日頂いた布団をベットに敷き整える。
歯を磨き目覚まし時計をセット。ベットに横になる。気持ち良い…。
長い一日だった。シスター様とペコマル…天国で仲良くしてるかな。そうだといいな…。そんなことを考えながら眠りに落ちていった。
ジリリリリリ…
枕元で目覚まし時計が鳴っている。うるさい…。時計を引っ掴みスイッチをオフにする。よし…これでゆっくり眠れる。
…。
ダメだよね…起きなきゃ。上半身を起こし、伸びをする。ベッドから降りて身支度を整える。一晩経つと脚の痛みは無くなっており、赤みも引いていた。回復薬様々だね。
洗濯物を干し、外出の準備をする。今日は修道服が着れないので町の外には出ないようにしよう。防具無しでうろつくのは危険過ぎる。安価で買ったジーンズとブラウスを適当に着て外出する。財布には350ゴルしか残っていないけど紅茶の一杯くらい飲めるかも…と思い食堂にお邪魔する。
「おはようございます」
キッチンのママさんに声を掛ける。
「ユリカさんおはよう♪あら?今日は修道服じゃないのね?」
「はい。少々私用がありまして…」
「そうなの?じゃあ、今日はゆっくり休んでね♪何か頼むかしら?」
「えっと…アップルティーをお願いします」
「畏まりました♪少し待っててね♪」
待っているとママさんではなく、仏頂面をしたミリーが紅茶を運んできてくれた。
「おはようございます。ミリーさん」
「……おはよう。はい、これ。…ごゆっくり」
愛想無さすぎ…。カップを置いて奥へ下がろうとするミリー。
「こちらはミリーさんが淹れてくれたのですか?」
「…だったら何?」
「凄いじゃないですか♪私なんてインスタントのしか作れないんですよ」
ミリーがジト目で見つめてくる。
「それ作るって言わないから。てか、私ママの娘だし。紅茶くらい淹れられなきゃダメでしょ」
「そう…ですね。あはは…。大変失礼致しました」
うぅー…話を盛り上げる事が出来ない。まあ、ゆっくり地道に距離を縮めよう。借金を全額返済したら少しは反応も良くしてくれるかな…。
紅茶に口をつける。
「良い香り。味もとっても美味しいです♪」
「…良かったね。じゃ」
スタスタと奥へ引っ込むミリー。
『嬉しい!また淹れてあげるね!ユリカお姉さん!』
とは、当然言ってくれない。
入れ代わりにママさんが近付いてくる。
「ごめんなさいね。無愛想で…あの娘人見知りする性格だから」
「いえいえ♪まだ会ったばかりですし。全然気にしてませんよ!諦めずに頑張ります!」
「ユリカさんって…明るくてポジティブな方ね♪シスターさんって物静かで大人しいイメージがあったけど…」
はい。本物の方はそうだと思います。
「すみません。イメージを壊してしまって…」
「とんでもないわ。むしろ嬉しいの。あー…早くミリーとユリカさんが仲良くフォークダンスを踊っているところがみたいわ♪」
…何でダンスなのかな。前も言ってたけど…。相当好きな感じですか…?
その後も少しママさんと話して代金を支払い食堂を後にする。
美味しかった。やはり紅茶は個人的にアップルティーが一番。お金が貯まったら、まず最初に電気ポットを買いたい。そして、インスタント紅茶を買って毎朝優雅(?)に目覚めの一杯を…。
前の世界では当たり前に出来ていた事が今は難しい。それはどうしてなのか…もちろんお金がないから。神様…なぜお金を持った状態で復活させてくれなかったのでしょう?『最初から金持ちだと?…ズルは許さんぞ』ということかな。…いや普通にバイトして貯めたお金だし、ズルじゃないような…。あー…もったいない。
気を取り直して魔獣の素材を売りに行こう。確か武器・防具屋さんか冒険者ギルドに持って行けば引き取ってくれる、と本に書いてあったはず…。どっちでもいいけど、見学も兼ねて冒険者ギルドに持って行こうかな。
ギルドの建物は今いる中央地区と同じ区域にあったはず。歩いて行けるね。…というより歩く以外の移動手段がほぼないんだった。…自転車欲しい…。
20分ほどメインストリートを道なりに歩くと『冒険者ギルド』と看板が掛かった三階建ての大きな建物が見えてきた。三階建ての建物はママさんの食堂以外では初めて見たかも…。
しかし…イメージとかなり違うような…。冒険者ギルドというくらいだから中世ヨーロッパ風の雰囲気が漂う建物かと思っていたら、ただの古い雑居ビルみたい。横幅は結構あるから規模字体は大きいのだけど…。まあ、この町の雰囲気に溶け込んでいるような気もするからこれでいいのかな。さっそく入ってみよう。
入り口の扉の前に立つと何やら張り紙が貼ってある。
『ギルドへご依頼・ご用件は三階にお越し下さいませ。こちらは関係者の備品庫となっております』
…え?三階まで上がらなきゃいけないの?てっきり一階が受付かと思っていたのに…。エレベーターは?…当然見当たらない。階段しかない。話をするのに毎回三階まで上がるの?かなり不便なような…。いや、文句は言うまい。これがこの世界の常識なんだ。適応しなきゃ。
二階に上がる。こちらも一応調べておこう。扉には『関係者・集会所』とプレートが掛かっている。関係者…ギルドメンバーの事だね。中から人の気配と声が聞こえてくる。おそらく、腕自慢の猛者達が互いに情報交換したり、武勇伝を語り合ったりしているのかな。残念ながら私には関係ないけど…。
二階の扉はほっといて三階に上がる。やっと着いた。地味に疲れたかも…。荷物が無かったら楽勝(?)なのに…。
三階の扉をノックする。
「どうぞ」
「失礼します」
扉を開け入室する。
「いらっしゃいませ。ようこそ、冒険者ギルドへ。ご用件をお伺いします」
眼鏡は…掛けていないけど清潔感のある快活な女性がカウンターから挨拶をしてくれる。ん…?初対面なのに何となく既視感があるような…。
「お客様…?」
「あっ…すみません。失礼しました。本日は魔獣の素材を引き取って頂けたらなと思いまして…」
「かしこまりました。素材を拝見してもよろしいでしょうか?」
「もちろんです。よろしくお願いします」
バックパックからビニール袋に入った血まみれの素材(気持ち悪い)を出し手渡す。
「こちらは犬魔獣ドッグルの素材ですね」
「はい。とても凶暴な犬でした。やたらめったら噛み付こうとしてくるんですよ」
「それは大変でしたね。ですが、こうして無事に戻って来られている、という事はお客様はお強い方なんですね!」
「いえ…。まあ…それなりには…です」
素直に『大ケガして危なかった。死ぬかと思った』って言えばいいのに…。何を格好つけてるんだか…私は。
「それでは素材の買取金額ですが…合計で2800ゴルとなります」
「…え?たったの2800ゴル?」
「左様でございます」
コラコラ…待ちなさい。人を当たり前のように食い殺す魔獣の素材ですよ?そんな安い訳ないでしょう?これで装備品とか作るんじゃないの?
「あの…内訳を見せていただいてもよろしいでしょうか?」
「構いませんよ。こちらです」
受付嬢から紙を受け取る。
・犬魔獣の爪×4………2000ゴル
・犬魔獣の尻尾………800ゴル
合計………2800ゴル。以上
「…」
あんな死ぬような思いしてその報酬がたったの2800ゴル?当然、納得いきませんよ。
「魔獣の素材…爪が一個500ゴル?昔のゲームソフトの買取じゃあるまいし…これはひどいんじゃないですか?」
不思議そうな顔する受付嬢。
「ゲームソフト?…とは何でしょう?」
…そっか。この世界には無かったね。
「あっ…いえ。すみません。もう少し高くなりませんか?」
「申し訳ございませんが、お受けすることができません。魔獣の素材価格は種類・部位によって決められています。こちらの犬魔獣ドッグルは町の外の草原・森など広範囲に生息している小型魔獣ですし、素材としての強度も低いため利用価値も低いのです」
つまり、どこにでもいる雑魚魔獣の素材だから、高く買い取れない…ということだね。『アレ』で雑魚なんだ…。じゃあ大型魔獣とかはどんなレベルなんだろう…。クジラとかかな…。でも、海じゃどうしようもないような…。
「ちなみに武器屋さんや防具屋さんに持って行った場合でも価格は同じでしょうか?」
「いいえ。寧ろこちらより安くなると思います。職人の方は素材を一つ一つを厳選しますし、不要だと感じる物は引き取ってさえもらえない場合もありますので…」
「そうですか…」
「いかがなさいますか?」
仕方ない。もっと食い下がってもいいんだけど…。たぶん、無理っぽい。睨まれないうちに決めよう。揉め事起こして出禁になったら後々困るかもしれないし…。
「では、その価格で大丈夫です。お願いします」
「かしこまりました。お受け取り致しますね」
うーん…冒険者って職業は本当に儲かるのかな…。メンバー全員が大暴れして稼ぎまくっている、なんて話は無いような気がする。副業感覚でやってるとか…?よくわからないけど…。
「こちらが領収書と代金です。本日はご利用ありがとうございました。またお越しくださいませ」
「こちらこそありがとうございました。失礼します」
お金と領収書を受け取り退室する。何の気なしに領収書の記入欄を見る。
『ギルドカウンター担当・ルーナ』
…。
まあ、別に気にする事でもないかな。お金も少し手に入ったし、適当に町をぶらついてお昼ご飯にしよう。バイト探しはその後で…。
そう考えギルドの階段を下りる。
「ありがとうございました。助かりました」
「次は750ゴルじゃ絶対乗せねえからな」
「…すみませんでした」
大丈夫。次にあなたに出会っても頼まないから…たぶん。
「お仕事頑張って下さい」
「ふん。あんたもシスター辞めて働いたらどうだ?」
「いいえ。今はそのつもりはありませんので。では、失礼します」
辞める以前に違うから。てか、言われなくても仕事探しますよ。お金も無いし、借金してるし。
その場を後にする。凄く疲れた。犬魔獣と戦ったし、お墓も作ったからもうヘトヘトだった。身体が重い。今日は帰ろう。魔獣の素材は明日売りに行くかな。
中央地区の自宅に向かって歩く。こちらの世界に来てから歩いてばっかり。2、3年後にはアスリートみたいな身体になってるかも…。歩くだけでそれはないか。
ゆっくり、トボトボと歩きやっと食堂『流星と旅人』に着いた。時計を見ると午後9時前だった。食堂は相変わらず賑わっている。今日もテイクアウトにしよう。格好も泥だらけだし。
「すみません」
ママさんが気付いて近付いてくる。
「いらっしゃいませ…じゃなくておかえりなさい♪…かな?」
「どちらでも大丈夫ですよ」
ママさんの顔を見て気持ちが安らぐ。
「その格好…何かあったの?」
泥だらけの服をママさんが見つめている。
「えっと…少し森で作業をしておりまして…」
犬魔獣と戦ったことは言わない。心配かけたくないからね。
「ケガとかしてない?」
「はい。服が汚れているだけですので。心配していただきありがとうございます」
脚のケガはスカートで隠れているから見えない。
「それならいいけど…」
「ですので、今日もお持ち帰りにさせていただけたらなと思います」
「わかったわ。悪いわね、気を使わせちゃって…」
「とんでもないです。ママさんのお店を汚す訳にはいきませんから」
今日もおにぎりセットとお茶を購入し、自宅に引き上げる。
部屋に入るなりバックパックを床に置き、修道服・その他全ての来ていた服を洗濯機に投げ込む。シャワーを浴びさっぱりしてからご飯を食べよう。
タオルを外しケガをした脛の具合を見てみると、傷口は綺麗に塞がっていた。少し皮膚の表面が赤くなっているけど、そのうち消えるかも…。骨が折れてなくて良かった。
シャワーを浴び疲れを癒す。明日はどうしよう。とりあえず、魔獣の素材を売りにいき、アルバイトも探さないと…。夕方には引き上げて、図書館で借りた本でも読むかな。魔獣やお金稼ぎについてよく調べておこう。
お風呂から上がり着替えておにぎりを頬張る。とてもおいしいかったけど、やっぱり夕飯はもっとボリュームのあるものを食べたいな。そのためには早くバイトを見つけて…。
かなり眠くなってきた。今日頂いた布団をベットに敷き整える。
歯を磨き目覚まし時計をセット。ベットに横になる。気持ち良い…。
長い一日だった。シスター様とペコマル…天国で仲良くしてるかな。そうだといいな…。そんなことを考えながら眠りに落ちていった。
ジリリリリリ…
枕元で目覚まし時計が鳴っている。うるさい…。時計を引っ掴みスイッチをオフにする。よし…これでゆっくり眠れる。
…。
ダメだよね…起きなきゃ。上半身を起こし、伸びをする。ベッドから降りて身支度を整える。一晩経つと脚の痛みは無くなっており、赤みも引いていた。回復薬様々だね。
洗濯物を干し、外出の準備をする。今日は修道服が着れないので町の外には出ないようにしよう。防具無しでうろつくのは危険過ぎる。安価で買ったジーンズとブラウスを適当に着て外出する。財布には350ゴルしか残っていないけど紅茶の一杯くらい飲めるかも…と思い食堂にお邪魔する。
「おはようございます」
キッチンのママさんに声を掛ける。
「ユリカさんおはよう♪あら?今日は修道服じゃないのね?」
「はい。少々私用がありまして…」
「そうなの?じゃあ、今日はゆっくり休んでね♪何か頼むかしら?」
「えっと…アップルティーをお願いします」
「畏まりました♪少し待っててね♪」
待っているとママさんではなく、仏頂面をしたミリーが紅茶を運んできてくれた。
「おはようございます。ミリーさん」
「……おはよう。はい、これ。…ごゆっくり」
愛想無さすぎ…。カップを置いて奥へ下がろうとするミリー。
「こちらはミリーさんが淹れてくれたのですか?」
「…だったら何?」
「凄いじゃないですか♪私なんてインスタントのしか作れないんですよ」
ミリーがジト目で見つめてくる。
「それ作るって言わないから。てか、私ママの娘だし。紅茶くらい淹れられなきゃダメでしょ」
「そう…ですね。あはは…。大変失礼致しました」
うぅー…話を盛り上げる事が出来ない。まあ、ゆっくり地道に距離を縮めよう。借金を全額返済したら少しは反応も良くしてくれるかな…。
紅茶に口をつける。
「良い香り。味もとっても美味しいです♪」
「…良かったね。じゃ」
スタスタと奥へ引っ込むミリー。
『嬉しい!また淹れてあげるね!ユリカお姉さん!』
とは、当然言ってくれない。
入れ代わりにママさんが近付いてくる。
「ごめんなさいね。無愛想で…あの娘人見知りする性格だから」
「いえいえ♪まだ会ったばかりですし。全然気にしてませんよ!諦めずに頑張ります!」
「ユリカさんって…明るくてポジティブな方ね♪シスターさんって物静かで大人しいイメージがあったけど…」
はい。本物の方はそうだと思います。
「すみません。イメージを壊してしまって…」
「とんでもないわ。むしろ嬉しいの。あー…早くミリーとユリカさんが仲良くフォークダンスを踊っているところがみたいわ♪」
…何でダンスなのかな。前も言ってたけど…。相当好きな感じですか…?
その後も少しママさんと話して代金を支払い食堂を後にする。
美味しかった。やはり紅茶は個人的にアップルティーが一番。お金が貯まったら、まず最初に電気ポットを買いたい。そして、インスタント紅茶を買って毎朝優雅(?)に目覚めの一杯を…。
前の世界では当たり前に出来ていた事が今は難しい。それはどうしてなのか…もちろんお金がないから。神様…なぜお金を持った状態で復活させてくれなかったのでしょう?『最初から金持ちだと?…ズルは許さんぞ』ということかな。…いや普通にバイトして貯めたお金だし、ズルじゃないような…。あー…もったいない。
気を取り直して魔獣の素材を売りに行こう。確か武器・防具屋さんか冒険者ギルドに持って行けば引き取ってくれる、と本に書いてあったはず…。どっちでもいいけど、見学も兼ねて冒険者ギルドに持って行こうかな。
ギルドの建物は今いる中央地区と同じ区域にあったはず。歩いて行けるね。…というより歩く以外の移動手段がほぼないんだった。…自転車欲しい…。
20分ほどメインストリートを道なりに歩くと『冒険者ギルド』と看板が掛かった三階建ての大きな建物が見えてきた。三階建ての建物はママさんの食堂以外では初めて見たかも…。
しかし…イメージとかなり違うような…。冒険者ギルドというくらいだから中世ヨーロッパ風の雰囲気が漂う建物かと思っていたら、ただの古い雑居ビルみたい。横幅は結構あるから規模字体は大きいのだけど…。まあ、この町の雰囲気に溶け込んでいるような気もするからこれでいいのかな。さっそく入ってみよう。
入り口の扉の前に立つと何やら張り紙が貼ってある。
『ギルドへご依頼・ご用件は三階にお越し下さいませ。こちらは関係者の備品庫となっております』
…え?三階まで上がらなきゃいけないの?てっきり一階が受付かと思っていたのに…。エレベーターは?…当然見当たらない。階段しかない。話をするのに毎回三階まで上がるの?かなり不便なような…。いや、文句は言うまい。これがこの世界の常識なんだ。適応しなきゃ。
二階に上がる。こちらも一応調べておこう。扉には『関係者・集会所』とプレートが掛かっている。関係者…ギルドメンバーの事だね。中から人の気配と声が聞こえてくる。おそらく、腕自慢の猛者達が互いに情報交換したり、武勇伝を語り合ったりしているのかな。残念ながら私には関係ないけど…。
二階の扉はほっといて三階に上がる。やっと着いた。地味に疲れたかも…。荷物が無かったら楽勝(?)なのに…。
三階の扉をノックする。
「どうぞ」
「失礼します」
扉を開け入室する。
「いらっしゃいませ。ようこそ、冒険者ギルドへ。ご用件をお伺いします」
眼鏡は…掛けていないけど清潔感のある快活な女性がカウンターから挨拶をしてくれる。ん…?初対面なのに何となく既視感があるような…。
「お客様…?」
「あっ…すみません。失礼しました。本日は魔獣の素材を引き取って頂けたらなと思いまして…」
「かしこまりました。素材を拝見してもよろしいでしょうか?」
「もちろんです。よろしくお願いします」
バックパックからビニール袋に入った血まみれの素材(気持ち悪い)を出し手渡す。
「こちらは犬魔獣ドッグルの素材ですね」
「はい。とても凶暴な犬でした。やたらめったら噛み付こうとしてくるんですよ」
「それは大変でしたね。ですが、こうして無事に戻って来られている、という事はお客様はお強い方なんですね!」
「いえ…。まあ…それなりには…です」
素直に『大ケガして危なかった。死ぬかと思った』って言えばいいのに…。何を格好つけてるんだか…私は。
「それでは素材の買取金額ですが…合計で2800ゴルとなります」
「…え?たったの2800ゴル?」
「左様でございます」
コラコラ…待ちなさい。人を当たり前のように食い殺す魔獣の素材ですよ?そんな安い訳ないでしょう?これで装備品とか作るんじゃないの?
「あの…内訳を見せていただいてもよろしいでしょうか?」
「構いませんよ。こちらです」
受付嬢から紙を受け取る。
・犬魔獣の爪×4………2000ゴル
・犬魔獣の尻尾………800ゴル
合計………2800ゴル。以上
「…」
あんな死ぬような思いしてその報酬がたったの2800ゴル?当然、納得いきませんよ。
「魔獣の素材…爪が一個500ゴル?昔のゲームソフトの買取じゃあるまいし…これはひどいんじゃないですか?」
不思議そうな顔する受付嬢。
「ゲームソフト?…とは何でしょう?」
…そっか。この世界には無かったね。
「あっ…いえ。すみません。もう少し高くなりませんか?」
「申し訳ございませんが、お受けすることができません。魔獣の素材価格は種類・部位によって決められています。こちらの犬魔獣ドッグルは町の外の草原・森など広範囲に生息している小型魔獣ですし、素材としての強度も低いため利用価値も低いのです」
つまり、どこにでもいる雑魚魔獣の素材だから、高く買い取れない…ということだね。『アレ』で雑魚なんだ…。じゃあ大型魔獣とかはどんなレベルなんだろう…。クジラとかかな…。でも、海じゃどうしようもないような…。
「ちなみに武器屋さんや防具屋さんに持って行った場合でも価格は同じでしょうか?」
「いいえ。寧ろこちらより安くなると思います。職人の方は素材を一つ一つを厳選しますし、不要だと感じる物は引き取ってさえもらえない場合もありますので…」
「そうですか…」
「いかがなさいますか?」
仕方ない。もっと食い下がってもいいんだけど…。たぶん、無理っぽい。睨まれないうちに決めよう。揉め事起こして出禁になったら後々困るかもしれないし…。
「では、その価格で大丈夫です。お願いします」
「かしこまりました。お受け取り致しますね」
うーん…冒険者って職業は本当に儲かるのかな…。メンバー全員が大暴れして稼ぎまくっている、なんて話は無いような気がする。副業感覚でやってるとか…?よくわからないけど…。
「こちらが領収書と代金です。本日はご利用ありがとうございました。またお越しくださいませ」
「こちらこそありがとうございました。失礼します」
お金と領収書を受け取り退室する。何の気なしに領収書の記入欄を見る。
『ギルドカウンター担当・ルーナ』
…。
まあ、別に気にする事でもないかな。お金も少し手に入ったし、適当に町をぶらついてお昼ご飯にしよう。バイト探しはその後で…。
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