双子は不吉と消された僕が、真の血統魔法の使い手でした‼

HIROTOYUKI

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53 ルフェルとテリオ 魔の森の深遠で

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 これから旅立つ者達の中にとりあえず秘匿されている事項が開示されたことで、ルフェル達の旅立ちの準備は思いのほかはかどり、これまでの経験で一番ストレスなく山脈の向こう側に行けるであろう最短の日付で出発することとなった。

 ルフェルにすれば思いもかけない旅立ちであり、そのことで母を巻き込んでしまったのかもしれないという思いが、日に日に大きくなっていった毎日でもあった。

 母親のカーラからすれば、いつか訪れる日であり、その日付が刻々と近づいてきていたことを肌から感じていたこともあり、渡りに船という感覚すら持っていたので、ルフェルのそのような心持に全く気が付いていなかった。

 ただ、生まれ育ったとも言える慣れ親しんだこの地から離れたくないというものだけだと思っていた。

 明日この村から出発するという日になった。

 気づけばルフェルの姿が家から消えていた。

 ルフェルはテリオと共にこの魔の森の深淵に近い場所に来ていた。

 どのような姿もとれるテリオは、今この時に一番ふさわしいと思える形に姿を取った。

「どうした、ルフェル。このところ気持ちが塞がっているようだが、明日この地を離れることが不安なのか?」

 話がしやすい様に人型に。

 ルフェルが声にしなくとも、テリオにはルフェルの心の中も手に取るようにわかってはいるが、ここは心の内をすべて吐露させた方がよいだろうという判断の元、心持を話すように促した。

 しばらく、黙って景色に目をやっていたルフェルは、ポツリポツリと心の中を言葉にして吐き出した。

「僕はこの村しか知らないから、確かに外の世界に対して不安もあるけど……それ以上に好奇心の方が抑えきれない……僕のことでこの地を離れることになって……僕のせいでこの地を離れることになったテリオももちろんだけど、この村でとても幸せに暮らしているお母さんも、この村から連れ出すようなことになってよかったのかなぁ……そんなことを考えちゃうと、この村を出ることがいいことなのか……僕の得体の知れない力?のせいで、冒険者に見つかってしまったのが原因でもあるし……」

 徐々に視線も下に向かいながら、声も小さくなっていく。

 自分の気持ちが前向きな出発であるだけに、他の人の気持ちを慮って悩んでいる心優しいルフェルの心の柔らかさを、これから強い北風が風ているような地でも守りたいと、守り切ってやろうとテリオは改めて誓った。

「ルフェル。母に今の自分の気持ちを話したことはあるのか?母の気持ちがわからないようにルフェルの気持ちも母にはわからない。今ルフェルが考えている母の気持ちが真実かどうかも、聞いてみなければわからない」

 テリオの言葉にルフェルは下を向いていた顔を挙げた。

 ルフェルにしか見えないテリオはとても優しい顔をしていた。

「テリオはいいの?この場所を離れても……」

 ここはテリオのもともと。離れることで何かあるかもしれないということを考えてしまう。

「テリオと離れることは考えられない……考えたくもない……けど……テリオにないかあったらそれ以上にイヤだ!」

 ルフェルは全身の力を持ってテリオに抱き着いた。

 そんなルフェルを難なく受け止めて、テリオはその腰のあたりにある跳ね回っている髪の毛をやさしくなでた。

「確かにこの場は大切な場所。しかし、この場をほんの少し離れるくらい何のことは無い。この場にもすぐに戻ってこられるからね。ルフェルが何も気にすることは無いんだ」

 長い時間この場にとどまっているが、全くこの場から離れたことがないわけではない。人間の時間にすれば随分と昔のことではあるが、好奇心に誘われるように人間たちの国を流れ歩いたこともある。

「今のこの姿はその時の知り合いの形をとっているものだしな」

 ルフェルは抱きつきがいがあるテリオを仰ぎ見た。やわらかい視線で自分を見下ろしていた。

「僕は今のテリオも、犬君のテリオも大好きだよ」

「あれは犬ではないんだけどなぁ……まぁありがとう」

 心の奥をくすぐるような言葉を発して、その自分の言葉に照れたのか顔をまたテリオの腹にうずめてしまったルフェルの頭をまたやさしくなでた。

「明日は出発だ。我の姿はルフェルが思うままに……。新しい場所で落ち着くまでは今までのようにルフェルにだけしか見られないように……どのような場所であろうとも共にあろう」

 テリオの心の中を移したような穏やかな美しい景色の中、時間が許す限りこの景色を堪能しておこうと、抱き着いたままうとうとし始めたルフェルをやさしく抱え直して、テリオはその場に腰を下ろした。
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