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46 脅威から守る為に 1
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人間にとって脅威の対象である魔の森。
もちろん、その中にはなかなか手に入らないような素材の宝庫であることから、あえて挑む冒険者も居るにはいるが、一般人にとってはその浅いところであっても危険な生き物の存在が、足を踏み入れることも躊躇する、だから魔の森と呼ばれる場所。
その魔の森と目と鼻の先で育ったとはいえ、この村に住む者すべてがおいそれと足を踏み入れることを躊躇する所であるそこに、一人歩きができるようになるとなんの恐れも抱くことなく散歩をしに行くルフェルに何度注意を払うことを言い聞かせたことか……。
しかし、気がつけば魔の森からの宝物をたくさん手にして、何事もなく帰ってくるルフェルに、きっと我々の目に見ることができない、強力な加護のようなものが付いているのだろうと納得させて、恐る恐る送り出す毎日に、カーラの神経がおかしくなりそうになったその時、森の中から帰ってくるルフェルに寄り添うような大きな存在を目にした事があった。
それはカーラが知るどの様な生き物でもなく、だからと言って魔獣のような負のオーラを発している生き物でももちろんなく、子供のころ読んだ物語の挿絵に描かれていた神獣と言われるものの姿によく似た生き物が、わざと姿を見せたのか、しっかりとカーラと目を合わせてきたときに、ストンと何もかもに納得がいった気がしたのだった。
「この子は大丈夫なのだ。この子はこの魔と言われる森にすら愛されているのだから……」
この子の脅威となるものは、人間以外何物もいないのだ、人間の悪意から守ることが私の役割。
ヴォラスが探し出してくれてからは、一人きりで頑張らなくてもいいことで心に余裕もできて、しかし、山脈の向こう側人間の世界からの脅威は近づいてくるばかりで……。
そんな時に偶然にも出会った、驚異の源と同じ力を持つかもしれない貴族の男。
引き合わせかもしれない。
そうでないかもしれない。
男の言葉を聞きながら、今まで起こったことや様々な状況を思い出して、この瞬間がこれからの自分も含めた何人もの人生を決定するその時であると感じていた。
「……あっ!」
カーラは、今、帰って来たと感じた。いつもルフェルを守るようにこの家の中にいる存在が、ルフェルのもとに戻ってきたことを。
ブレーズもまた、あの時、魔の森の奥で助けられた時、助けてくれた魔力と共にあった、もう一つの力の塊。その存在がこの家の中に入ってきたことを感じた。
二人とも息を合わせたようにルフェルの眠る寝室の扉に目をやった。
カーラは、優しい眼差しを。
ブレーズは、驚きの眼差しを。
感じることができる者は感じる、その大きすぎる存在感に、体の芯から震える心地がして、ドアの先にあるだろう存在から目を離すことができずにいた。
「ルフェルはもう大丈夫でしょう……」
カーラの声音は今までブレーズが聞いていたものとはまるで違う、とてもやさしい声だった。
その声につられるように扉から視線を離し、改めて前に座るカーラに視線を向けるブレーズ。
女性慣れをしているようで、結局は公爵家のお坊ちゃんであるブレーズは、どう言い訳をしょうとも一つの部屋に女性と二人きりである事実に気が付き、今更ながら慌てだした。
更にこの女性は、子供がいるご婦人で、旦那に関しては生きているのか死んでいるのかわからないが、とにかく旦那の居ないところで二人きりであることは、婚約者でもない限り許されることではないという、きっちりと染みついている貴族の教えに、表情に出さないように気を付けつつも、混乱しているブレーズ。
そんなブレーズの様子を、隣の部屋に帰ってきたあのルフェルの守護神のようなものの力の大きさに驚いているものであると解釈をして、自分のことを意識しておかしくなっていることは、爪の先ほども思っていないカーラ。
当の隣の部屋の守護神ならぬテリオが、今の状況を素早く確認し、隣の存在に関しては注意を払いながらも、魔力の枯渇で倒れたルフェルに、自らの魔力を受け渡すことによってルフェルの魔力枯渇を素早く改善をした。
少し苦しそうに眠っていたルフェルの寝息も穏やかなものになった。
テリオは、自分のテリトリーの中心部まで久しぶりに帰ったこのタイミングで、ルフェルのもとに脅威になるかもしれない存在がやってきたことにも、何かしらの意味があるのかもしれない、と考えていた。
今回、ちょっとした身辺整理のようなことをしに本拠地ともいえる魔の森の中心部に帰ったのだが、その行動を起こす気になったのも、予知とも言い換えることができる一種の勘が働いたからに他ならないのだ。
このままこの自分のテリトリーの中だけで、人と関わることなく暮らしていけるものならば、それはテリオにとってはこの上もない幸せと言えるかもしれないが、ルフェルにとっては?
自分が魅かれた、自分が選んだルフェルは、このような狭い世界の中に閉じ込められているような器ではないことだけは、出会った時からわかりきっている事であった。
もちろん、その中にはなかなか手に入らないような素材の宝庫であることから、あえて挑む冒険者も居るにはいるが、一般人にとってはその浅いところであっても危険な生き物の存在が、足を踏み入れることも躊躇する、だから魔の森と呼ばれる場所。
その魔の森と目と鼻の先で育ったとはいえ、この村に住む者すべてがおいそれと足を踏み入れることを躊躇する所であるそこに、一人歩きができるようになるとなんの恐れも抱くことなく散歩をしに行くルフェルに何度注意を払うことを言い聞かせたことか……。
しかし、気がつけば魔の森からの宝物をたくさん手にして、何事もなく帰ってくるルフェルに、きっと我々の目に見ることができない、強力な加護のようなものが付いているのだろうと納得させて、恐る恐る送り出す毎日に、カーラの神経がおかしくなりそうになったその時、森の中から帰ってくるルフェルに寄り添うような大きな存在を目にした事があった。
それはカーラが知るどの様な生き物でもなく、だからと言って魔獣のような負のオーラを発している生き物でももちろんなく、子供のころ読んだ物語の挿絵に描かれていた神獣と言われるものの姿によく似た生き物が、わざと姿を見せたのか、しっかりとカーラと目を合わせてきたときに、ストンと何もかもに納得がいった気がしたのだった。
「この子は大丈夫なのだ。この子はこの魔と言われる森にすら愛されているのだから……」
この子の脅威となるものは、人間以外何物もいないのだ、人間の悪意から守ることが私の役割。
ヴォラスが探し出してくれてからは、一人きりで頑張らなくてもいいことで心に余裕もできて、しかし、山脈の向こう側人間の世界からの脅威は近づいてくるばかりで……。
そんな時に偶然にも出会った、驚異の源と同じ力を持つかもしれない貴族の男。
引き合わせかもしれない。
そうでないかもしれない。
男の言葉を聞きながら、今まで起こったことや様々な状況を思い出して、この瞬間がこれからの自分も含めた何人もの人生を決定するその時であると感じていた。
「……あっ!」
カーラは、今、帰って来たと感じた。いつもルフェルを守るようにこの家の中にいる存在が、ルフェルのもとに戻ってきたことを。
ブレーズもまた、あの時、魔の森の奥で助けられた時、助けてくれた魔力と共にあった、もう一つの力の塊。その存在がこの家の中に入ってきたことを感じた。
二人とも息を合わせたようにルフェルの眠る寝室の扉に目をやった。
カーラは、優しい眼差しを。
ブレーズは、驚きの眼差しを。
感じることができる者は感じる、その大きすぎる存在感に、体の芯から震える心地がして、ドアの先にあるだろう存在から目を離すことができずにいた。
「ルフェルはもう大丈夫でしょう……」
カーラの声音は今までブレーズが聞いていたものとはまるで違う、とてもやさしい声だった。
その声につられるように扉から視線を離し、改めて前に座るカーラに視線を向けるブレーズ。
女性慣れをしているようで、結局は公爵家のお坊ちゃんであるブレーズは、どう言い訳をしょうとも一つの部屋に女性と二人きりである事実に気が付き、今更ながら慌てだした。
更にこの女性は、子供がいるご婦人で、旦那に関しては生きているのか死んでいるのかわからないが、とにかく旦那の居ないところで二人きりであることは、婚約者でもない限り許されることではないという、きっちりと染みついている貴族の教えに、表情に出さないように気を付けつつも、混乱しているブレーズ。
そんなブレーズの様子を、隣の部屋に帰ってきたあのルフェルの守護神のようなものの力の大きさに驚いているものであると解釈をして、自分のことを意識しておかしくなっていることは、爪の先ほども思っていないカーラ。
当の隣の部屋の守護神ならぬテリオが、今の状況を素早く確認し、隣の存在に関しては注意を払いながらも、魔力の枯渇で倒れたルフェルに、自らの魔力を受け渡すことによってルフェルの魔力枯渇を素早く改善をした。
少し苦しそうに眠っていたルフェルの寝息も穏やかなものになった。
テリオは、自分のテリトリーの中心部まで久しぶりに帰ったこのタイミングで、ルフェルのもとに脅威になるかもしれない存在がやってきたことにも、何かしらの意味があるのかもしれない、と考えていた。
今回、ちょっとした身辺整理のようなことをしに本拠地ともいえる魔の森の中心部に帰ったのだが、その行動を起こす気になったのも、予知とも言い換えることができる一種の勘が働いたからに他ならないのだ。
このままこの自分のテリトリーの中だけで、人と関わることなく暮らしていけるものならば、それはテリオにとってはこの上もない幸せと言えるかもしれないが、ルフェルにとっては?
自分が魅かれた、自分が選んだルフェルは、このような狭い世界の中に閉じ込められているような器ではないことだけは、出会った時からわかりきっている事であった。
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