双子は不吉と消された僕が、真の血統魔法の使い手でした‼

HIROTOYUKI

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35 物語の挿絵のような小さな家

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 男だけのブレーズのパーティーは、冒険中は誰も食事を作るものが居ないこともあり、専ら堅パンと干し肉、食後のドライフルーツで済ましてお終い。

 長い護衛やダンジョンの攻略などに携わることになると、食事の悪さからやせ細ることになったこともあった。

 それでも誰も食事当番に手を挙げるものはいやしない。

 と言って、全く食べることに興味がないわけではなく、食事を作るという行為が面倒くさい上に、やったものが勝ち!ではなく、やったものが負け!すべて一人でやらせれることが想像できて、誰も手を出さない、そんなところなのだ。

 だからこの村での休日を、ただ寝て過ごす者一人、変わった食べ物探訪することにした者二人、残りの一人は村の散策にしたようだ。

  ブレーズは一人この村の中を散策していた。

 食に興味がないこともなかったが、記憶が残る前からエクサルファ帝国の中では上位貴族の子息として生まれたこともあり、美食の中で生活してきたと言っても過言ではない。

 冒険者になりたての頃はあまりにも今までに食べてきたものとの違いから、一時期拒食症のようなことになったこともあったが、開き直った今では逆に食べ物に対してこだわりが全くなくなってしまった。

 命をつなぐことができれば何でもいいというスタンスだ。

 寝て過ごすのも自分の性ではないから、散策するくらいしか選択肢がなかったとも言える。

 休日なのだから別に冒険者ギルドに顔を出すこともなく、普段の向かっている魔の森とは反対の方に足を向ける。

 一人きりだから魔の森に足を踏み入れようとはさすがに思わない。

 この村は塀や濠など全くないから、村の中といえども獣や魔獣が入り込んでくることもあると聞いた。

 フル装備ではないが、腰に剣を佩くことはしてから社交場を出たのだった。
 
 

 すぐ横に迫っている魔の森のことを考えなければ、長閑などこにでもある小さな村である。

 必ず視線の中に入ってくる、大きさが半端ない木々が生い茂っている魔の森のことを見なかったことにすれば……。

 怖いギルドの姉さんが、やたらとこの村の中をうろつくなといっていたことが気になったが、それは自分の腕がまだ未熟で、いつ魔獣が出てくるかわからない村の中を一人で歩くことが危険だということなのか?この長閑な様子に、魔獣の魔の字も感ずることができないが、それほどにこの村は危険なのだろうか?

 心の中の葛藤とは反対に、どこまでも長閑な景色が続き、ぽつんぽつんと小さな家が見えるだけの村。

 確かに、この村の中のどこかに特別訪ねて行ける所は無いような気がする。

 自給自足が基本の村であるようで、詳しくはわからないが、この辺りに植えられているのは主食である小麦であろうと思われる。さすがに魔の森産ではないだろう、よく見る小麦と大きさは変わらない。

 それにしても誰にも会わない。この村の住人の少なさは予め知っていたが、昼日中に全く人の姿を見ることがないとは思っていなかった。

 それにしても、女性と子供の姿は全くといっていいほどこの村に来てから目にしていない。ギルドの怖いお姉さんは除いて……、若いお嬢さんんも若くないお嬢さんも全く目にしない。

 この村が特殊であることは、この村に来るために自分の辿った経緯考えてもわかっていたが、これほどいびつなものであることは体験して初めて感じるものだった。

 別に女好きというわけではないが、冒険者として護衛の仕事やダンジョンアタックが終わった後などは、まぁそれなりにそれなりの場所に行ってそれなりのことをして、心と体のリフレッシュをしてきたものだが、ここではそれはかなわない。

 散歩なんて休みの時に行うこととして自分に一番似合ってないことをしているなぁ、と思いながら歩を進めた。

 そんなに広い村ではない。民家といえるものも村の中心部に近いところに多くあるもので、ここまで村の端の方までくれば建物は存在しないだろう。

 後は魔の森に飲み込まれるばかり、もう引き返そうと思った時に、目の端に何か人工物があるように見えて、もう一度視線をそちらに回した。

 魔の森に極々近いその場所に、この村の中でも特に小さな家がポツンと建っているのを見つけた。

 見つけた最初は猟師小屋かと思った。自分が考える人の住んでいける家の大きさではないくらい小さな家だったから……。

 しかし、何気なく近づいてみてそれが違っている事に気付いた。

 初めに見えたのとは反対側に小さな庭がありそこに洗濯物がはためいていたからである。

「⁉」
 
 ハッとした。

 頭の中に突然浮かび上がったその情景は、子供の頃に読んだ大好きだった物語の挿絵にあった主人公の家。

 この小さくかわいい家はその主人公の家にとても似ている気がして、思わず近づく速度が上がる。

 まだ物干し作業の途中であったのか、はためく洗濯物の中に人影があることに気付く。

 大きなシーツのようなものの向こうに透けるシルエットは、子供ではなく大人のモノ、そして男ではなく女……?

 たまたまこちらは風下のようで、スキルとまではいかないが冒険者として鍛えられてきた聞き耳を使い、当人には気付かれていないだろう距離を保って、声を拾う。

 あの家に居るのは洗濯物を干している人物だけではなく、もう一人以上は居るようだ。独り言が多い人物でなければ、会話を交わしているのだろうから。

 家の中に居る人物の声は聞こえない。

 会話の途中に彼女の笑い声が混じって聞こえてくることからも、中に居る人物と彼女はとても親しい間柄だろうと想像がついた。

 そう彼女だ!声からの推測だが、女性だろうその人の声は自分とそう変わらないようで、年を取った女性の声には思えなかったのだ。

 益々、あの魔の森のごく近くに建てられた家の住人のことが気になった。
 



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