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29 優しい何かテリオそれは……。

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 今日の午前中の勉強は全くはかどらない。

 教師役のテリオもいないし、母はお昼には帰ってくると言っていたから、今から少し時間のかかるパイでも作って時間を潰すことにしょうと考えるルフェルだった。

 一方村の中心部を覗きに行ったテリオであるが……。

 昨日助けた男も、もちろんカーラも魔力持ちの者は探すのも非常に簡単だ。それぞれが意識せずとも自分はここに居ると魔力を放出しているのだから。

 テリオはこの世界でいうところの動物ではない。生き物というカテゴリーにも引っかかるかどうか……。

 生きていると言えばそうであるが、命に限りがあるのかと聞かれればそれは自身でもわからないところで、あるかもしれないしないかもしれないとしか言えない。

 テリオの認識として、人間という生き物がこの大地に文明と呼べるようなものを作ってきた最初の方から見てきたともいえるし、時々はその人間の生活に寄り添ったこともあった。

 その度に呼ばれ方も変わったけれど、結局失望して、寂しくなって、自分の住処に戻ってくることになるのだけれど……。

 今回も人間の時間でいえば、生まれてきたものが年を取って儚くなってその子供その孫も儚くなったくらい時間が過ぎたような気がする。

 まだしばらくこの自分のねぐらとも言える人の手の入っていない、魔力だまりのような場所でゆったりまどろんでいようかと思っていたら、とっても興味が引かれる存在が……。

 いつもこれで失敗するのだから、としばらく様子を見ていたが、どうにも抑えられない気持ちがわいてきて……。

 結局『テリオ』なんてまるで使役獣のような名前を付けられても、一番近くに居たい存在ができてしまったのだ。

 このことが果たして愛し子のためになるのかならないのか全く分からない。

 このまま、この自分のテリトリーの中でずっと一緒に居られるのならば、どのような厄災からも傷一つつけつことなく守り切ってやれるのに。

 予言や未来視の能力は持っていないはずなのに、心のどこかでこのままでいられないことがはっきりと感じ取れて、そのことにこのところ少しイラつく自分がなんだか嫌だった。

 思わず力を爆発させそうで、それもあって少しルフェルと離れることにしたのもあった。

 人間はおろかで、だからこそ面白い。しかしそれは、自分に関係のないところで行われることにであって、自分が愛し子とした者に対しては、どのような愁いも与えるものは許さない。

 ある時は『神』

 ある時は『魔』

 と呼ばれたそんな生き物の独り言。



 そんな神かもしれない生き物の心に引っかかる生き物。昨日不本意ながら助けることになった男は、機嫌よく社交場の酒場で昼間から酒を飲んでいた、金も持っていないのに……。

 同じ社交場内に仕事場があるカーラは、朝職場に訪れる直前で、それを待っていたフロマに呼び止められることになった。

 フロマはルフェルのことは話すことなく、とりあえず夜中に訪れた迷惑千万の冒険者が、どうにも高位の貴族出身らしいことを伝え、面倒なことになりそうだから顔を合わせないように忠告をしたのだ。

 カーラの詳しいことはまだ彼女の口から聞いていないが、彼女がこのようなところに自分から好んで暮らしていることから考えられることは、何か貴族がらみのことなのだろうということ。

 恋人らしいヴォラスが居るにもかかわらず、この村に住み続けるのは、カーラだけではなくルフェルにも何か関係があること。

 隠れ住むにはこの村はうってつけなのだから……。

 だから、どのような理由からかわからないが貴族が絡むことは無いことに越したことがなく、特に頭のねじが緩そうなあの男の妖精発言は、危機意識を高めること以外の何物でもないのだから。

 フロマと同じ考えの者は多かったようで、フロマだけではなくこの村でそれなりの立場にあるような元冒険者たちもカーラと男を会わさないことにしたようだ。

 金を持っていないはずのあの男が昼間から酒を飲んでいるのも、カーラと会わさないための作戦だったようだ。

 カーラもこの村に暮らして10年以上、この社交場に流れている何とも言えない空気から、何かいつもとは違うことが起こっていることは察することができる。

 フロマに会う前から、いつものように社交場の正面玄関から入ることはせず、普段使わない裏口に続く道から社交場に近づくことにしたのだ、そこにフロマが待っていたことで、何かしらの危機を回避できたことにカーラはホッとしていた。

 あまりよくわからないが、貴族の冒険者が居る。顔を見せるだけで面倒くさいことになりそうなので、用事が済んだらすぐに帰るとともに、しばらくは顔を出さなくてもいい、ということになったようだ。

 今日の所はポーションの在庫確認をするくらいで、帰宅することになった。しばらく来なくてもいいと言われると、本当は自分がこの場所で必要とされていないのでは、と勘繰りたくなるところだが、決してそうでないことは周りの人たちの様子できちんと理解できる。

「なんだかあの時と似てるわね」

 3年前のヴォラスの騒動のことを思い出して、少しおかしくなったカーラだった。


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