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28 ルフェルと本と魔法の話
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結局ルフェルは何も言い出せないまま、母は仕事に行ってしまった。
午前中のルフェルの仕事というかやることは、ヴォラスが持って来てくれた色々な国の学校で使われている教科書を使っての勉強。
色々な種類の使う年齢も様々なたくさんの教科書たち。節操なく、ただカーラへの愛だけに集めました、と言わなくても語っている本の数々。使われている言葉までも様々で、大人たちのだれ一人として理解できないものもあり、これは誰がルフェルに教えることができるのか、疑問を感じる教科書も少なくなかった。
知識にとても飢えていたルフェルはとても喜んだが、やって来るたびに数が増え、内容も混迷してくる教科書にフロマはもとよりカーラも呆れずにはいられないヴォラスの昨今だった。
大人たちの困惑も全く気にすることなく、ルフェルはほぼ独学で勉強を進めていった。この村周辺、といっても山向こうだが、で使われている一般的な文字は、ヴォラスがこの村にたどり着くよりずっと前、ルフェルが言葉を話せるような歳になったころには、カーラから教えてもらっていた。
カーラからすれば教えたという認識は全くなく、カーラの周りにある書物や、仕事場に置かれている文書などから勝手にルフェルが覚えたものだ、という認識で、
「うちの子天才!」
で片付けているカーラもある意味天才である。
これは魔法適性の高い子供に時々見られるもので、自身の持つ高い魔力量に振り回されないために、それを補うことのできる知識をできるだけ早くできるだけたくさん、という自己防衛能力の一つではないかと考えられているが、ほぼ、魔法の天才である彼らが、自身のことについては無関心のこともあり、その方面の研究は進んでいない。
ルフェルももちろんその天才の一種に数えられる存在であることは間違いないが、彼の場合その他の天才のほとんどが貴族の子息子女として教育されていることに反して、教師に当たる人々がほぼ脳筋冒険者であったことから、知識よりも実地の方が先だったことは、他の天才たちと大きく違うところである。
その足りていなかった知識に関しては、一般的とは言えないが5歳の時に魔の森に入ったことで出会った優しい何かであったテリオが、人間世界には全く関係ないが、ルフェルがこの世界で生きていくためにはとても必要な様々なことを、本人には意識させることなく教えてくれている。
そして10歳になった時に出会ったヴォラスが、人間世界の知識をその愛の力で節操なしにルフェルにもたらしてくれているのだ。教える手立ては考えられていないが……。
大人たちの心配は杞憂に終わり、なぜかルフェルは教えられていない言語も原理も何もかも、勝手に読んで勝手に理解していく。まぁ、きちんと読めているのか理解できているのか確かめられる人物がルフェルの周りに居ないので、一見ただ子供が本を見て遊んでいるようにしか見えていなかったのであるが、ルフェルがこれらの本の内容全てを理解していたことは、いずれルフェルの前に現れる学者と名乗る大人たちによって明らかになるのだが……。
一応たくさん並べられている教科書の中から一冊手に取り、パラパラと中の内容を見てみる。この近くで使われている言葉でない言語で書かれた、魔法理論の本のようである。
「なんだこれ、全く間違ってるな」
実体化しているテリオが後ろからルフェルの手元を覗き込み、そう一言言い捨てると、全くその本には興味がなくなったのか、村の中心部の方に視線を向けている。
テリオも何となくカーラと、助けてしまった男のことが気になっているようだ。
ルフェルのやる気の無さそうな様子を横目で見つつ、テリオは、
「ちょっと行ってみてくるよ」
そういい置くと、ルフェルが頭をあげた時にはその気配すらなくなっていた。
テリオに間違っていると言われた魔法理論の本を読んで理解しても意味はない。
「この本もきっといい値段はしただろうに……」
ヴォラスのことを思うと少し切なくなるが、人間の使っている魔法とテリオたち魔力の塊のような存在が使っているそれとはそもそもが違うようで、威力を抑える時に人間の魔法を使っているルフェルには、人間の魔法は本当のモノの劣化版にしかならないことを知識以前に体験として知っている。
この村の中には図書館のようなものはもちろんない、本そのものが貴重なこの世界では、貴族であっても男爵や子爵ぐらいではせいぜいが図書室。平民であれば簡単に綴じられた本のようなものは持っていたとしても、きちっと装丁のなされた本は持っていない。本を作るのは『複写』という魔法持ちが全く同じものを作るか、教会や神殿の修行の一環として内容を書き写された物しかない。
だから、比較的宗教的な教義の載った本は多いが、それ以外はさっぱりでとても高価なのだ。
教科書は、授業の一環として写し取るものがあるらしく、字の拙さや内容が一部解読不明なことに目をつぶれば、比較的安価で手に入れやすい。
ヴォラスの持ってきてくれた本のほとんどが、わざわざこのようなところまで持ってきてくれたこともあってか、きちんとした装丁の『本』なのだ。
貴族の子供は教科書であってもきちんと装丁のなされた本で勉強するのかもしれない。その内容は間違っているとしても。
この外国の言葉で書かれた本よりも随分と以前に見た、このあたりと同じ言葉で書かれた魔法理論の本も、今回と同じようにテリオからは鼻で笑われていたっけ。
その本については、これからの知識としてこのあたりの魔法に関しての常識であるようなので、覚えてみた。
確かに実用的には無駄なことがとても多いことが分かった。この無駄がなければ魔力量のそんなに多くない人も魔法を使えると思えるのだが……。
このことがこの世界の魔法に対して貴族が利益を得る根本となっているようで、すべての考え方がこれだったら、この村から出ていきたくないなぁ、と思ったことを思い出した。
午前中のルフェルの仕事というかやることは、ヴォラスが持って来てくれた色々な国の学校で使われている教科書を使っての勉強。
色々な種類の使う年齢も様々なたくさんの教科書たち。節操なく、ただカーラへの愛だけに集めました、と言わなくても語っている本の数々。使われている言葉までも様々で、大人たちのだれ一人として理解できないものもあり、これは誰がルフェルに教えることができるのか、疑問を感じる教科書も少なくなかった。
知識にとても飢えていたルフェルはとても喜んだが、やって来るたびに数が増え、内容も混迷してくる教科書にフロマはもとよりカーラも呆れずにはいられないヴォラスの昨今だった。
大人たちの困惑も全く気にすることなく、ルフェルはほぼ独学で勉強を進めていった。この村周辺、といっても山向こうだが、で使われている一般的な文字は、ヴォラスがこの村にたどり着くよりずっと前、ルフェルが言葉を話せるような歳になったころには、カーラから教えてもらっていた。
カーラからすれば教えたという認識は全くなく、カーラの周りにある書物や、仕事場に置かれている文書などから勝手にルフェルが覚えたものだ、という認識で、
「うちの子天才!」
で片付けているカーラもある意味天才である。
これは魔法適性の高い子供に時々見られるもので、自身の持つ高い魔力量に振り回されないために、それを補うことのできる知識をできるだけ早くできるだけたくさん、という自己防衛能力の一つではないかと考えられているが、ほぼ、魔法の天才である彼らが、自身のことについては無関心のこともあり、その方面の研究は進んでいない。
ルフェルももちろんその天才の一種に数えられる存在であることは間違いないが、彼の場合その他の天才のほとんどが貴族の子息子女として教育されていることに反して、教師に当たる人々がほぼ脳筋冒険者であったことから、知識よりも実地の方が先だったことは、他の天才たちと大きく違うところである。
その足りていなかった知識に関しては、一般的とは言えないが5歳の時に魔の森に入ったことで出会った優しい何かであったテリオが、人間世界には全く関係ないが、ルフェルがこの世界で生きていくためにはとても必要な様々なことを、本人には意識させることなく教えてくれている。
そして10歳になった時に出会ったヴォラスが、人間世界の知識をその愛の力で節操なしにルフェルにもたらしてくれているのだ。教える手立ては考えられていないが……。
大人たちの心配は杞憂に終わり、なぜかルフェルは教えられていない言語も原理も何もかも、勝手に読んで勝手に理解していく。まぁ、きちんと読めているのか理解できているのか確かめられる人物がルフェルの周りに居ないので、一見ただ子供が本を見て遊んでいるようにしか見えていなかったのであるが、ルフェルがこれらの本の内容全てを理解していたことは、いずれルフェルの前に現れる学者と名乗る大人たちによって明らかになるのだが……。
一応たくさん並べられている教科書の中から一冊手に取り、パラパラと中の内容を見てみる。この近くで使われている言葉でない言語で書かれた、魔法理論の本のようである。
「なんだこれ、全く間違ってるな」
実体化しているテリオが後ろからルフェルの手元を覗き込み、そう一言言い捨てると、全くその本には興味がなくなったのか、村の中心部の方に視線を向けている。
テリオも何となくカーラと、助けてしまった男のことが気になっているようだ。
ルフェルのやる気の無さそうな様子を横目で見つつ、テリオは、
「ちょっと行ってみてくるよ」
そういい置くと、ルフェルが頭をあげた時にはその気配すらなくなっていた。
テリオに間違っていると言われた魔法理論の本を読んで理解しても意味はない。
「この本もきっといい値段はしただろうに……」
ヴォラスのことを思うと少し切なくなるが、人間の使っている魔法とテリオたち魔力の塊のような存在が使っているそれとはそもそもが違うようで、威力を抑える時に人間の魔法を使っているルフェルには、人間の魔法は本当のモノの劣化版にしかならないことを知識以前に体験として知っている。
この村の中には図書館のようなものはもちろんない、本そのものが貴重なこの世界では、貴族であっても男爵や子爵ぐらいではせいぜいが図書室。平民であれば簡単に綴じられた本のようなものは持っていたとしても、きちっと装丁のなされた本は持っていない。本を作るのは『複写』という魔法持ちが全く同じものを作るか、教会や神殿の修行の一環として内容を書き写された物しかない。
だから、比較的宗教的な教義の載った本は多いが、それ以外はさっぱりでとても高価なのだ。
教科書は、授業の一環として写し取るものがあるらしく、字の拙さや内容が一部解読不明なことに目をつぶれば、比較的安価で手に入れやすい。
ヴォラスの持ってきてくれた本のほとんどが、わざわざこのようなところまで持ってきてくれたこともあってか、きちんとした装丁の『本』なのだ。
貴族の子供は教科書であってもきちんと装丁のなされた本で勉強するのかもしれない。その内容は間違っているとしても。
この外国の言葉で書かれた本よりも随分と以前に見た、このあたりと同じ言葉で書かれた魔法理論の本も、今回と同じようにテリオからは鼻で笑われていたっけ。
その本については、これからの知識としてこのあたりの魔法に関しての常識であるようなので、覚えてみた。
確かに実用的には無駄なことがとても多いことが分かった。この無駄がなければ魔力量のそんなに多くない人も魔法を使えると思えるのだが……。
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