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23 ロセロ公爵家の冒険者
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男は優しい光に包まれた時には意識を取り戻していた。
体の痛みに気を失ったはずなのに、どこにも痛みが感じなかった。
光に包まれ体の痛みがなくなった時は、もしかしてこれが死んだということなのか?と感じたくらいふわりと優しい心地がしたのだ。
男は所謂貴族の世界に馴染めなくて冒険者になったクチであるが、ただの弱小貴族の次男三男というわけではなく、このエクサルファ帝国の四大公爵家の中の一つロセロ公爵家の長男であった。しかし、長男ではあったが嫡男ではなかった。彼の母が正妻ではなかったからである。
そのようなこともあってか、彼は元から公爵家を継ぐつもりも止まるつもりもなく、帝国において貴族の義務ともいえる、高等魔導学院を卒業した後、公爵家から飛び出して冒険者になったのであった。
しかし、公爵家にとって魔導学院においても優秀な成績で卒業し、血統魔法を発動する可能性を持つ彼を手放すことはためらわれたのか、彼の冒険者になる事を認めることと引き換えに、彼のお目付役と成る人物を常に側に置く事を約束させられていた。
資金も公爵家から援助されることもあり、彼とすれば現在位置を知られることぐらいしか不利益を感じなかったこともあり、冒険者になって10年近く、すでにそのお目付役は彼の片腕のようになっていたのであったが……。
今回この魔の森を目指したのも、もちろん冒険者の階級を上げることももちろんであるが、実家の目の全く届かないところに行きたくなったという気持ちもあったのかもしれない。
父の正妻に長男が生まれその弟も自分が公爵家を飛び出した頃から考えると、もう少しで学院に入る年齢になる。彼に血統魔法が発現してくれれば、父の自分に対する気持ちもなくなってくれるのだろうか。
彼はすでに上級と言える冒険者であったが、彼の右腕は体力よりも頭脳を使うタイプのため、山越は難しかった。この魔の森の情報も正規のルートで得ることができる立場であったが、ネックは彼の右腕の体力。仕方なく、山登りはしなくてもすむが、治安の悪い小国を突っ切るルートを選んで魔の森に行くことに決めたのだ。
商隊ではないので襲われることはなく、山脈をぐるりと周って反対側へ、魔法に精通している者からすると、突然空気自体が魔素の濃さで重たくなったことを感じることで、ここが魔の森の中であることがわかる。
山肌を横に見ながらどこかにあるという辺境の村にを目指す。村は山脈の最高峰の真下あたりに位置することは聞いていた。山のすぐ横を歩いているからか、ここから山の頂上は雲に隠れて確認することができない。
上ばかり気にしているわけにもいかない、横の魔の森の木々が大きく揺れて中からこれまで見たことがないような大きな獣が飛び出してきたりするからだ。初めて出会ったときは、魔獣かと思ったが、纏う魔力の量が非常に少ないことから、魔獣ではないと判断したのだ。
そのようなことを繰り返しながら何とか山肌を見ながら進んで来たのだが、今までの獣とは余りにも大きさの違う巨大なイノシシのような獣が飛び出して来た時に、ここ数年組んできた5人のパーティーが逃げる時にバラバラになってしまったのだ。
このパーティーのリーダーとして咄嗟に巨大イノシシの前に飛び出した彼は、大きく跳ね飛ばされ山肌とは逆の魔の森の中に大きく飛ばされた。
突進をもろに受けてしまった足は折れ曲がり、時間にすれば短いものだったのだろうが、飛ばされ足が引きちぎられるような痛さを感じながら、今まで体験したことがないくらいの高さを森の緑を下に見ながら景色が流れていくのをただ見ているしかできなかった、目の端にパーティーメンバーがそれぞれにイノシシのお化けから逃げ切ったことを確認できたときに、彼の意識は黒く塗りつぶされた。
地面にたたきつけられる前に意識がなくなったのは、不幸中の幸いだったのかもしれない。
彼が飛ばされたのは、そうはいっても山肌からそう離れていないところのはずであった。しかし、上空から飛ばされていた血の跡をパーティーメンバーがたどりながら着いたところには彼の姿を見つけることができなかった。
彼が流した血痕もいきなり途切れたように途切れ、その近くを探したが見つけることができなかった。
「これ以上奥に行くことは危険です。あなたも冒険者ならこの森の噂を聞いたことぐらいあるでしょう」
『魔の森は迷いの森。その時その時でいきつく場所は違う。力のないものは浅いところから踏み込むことなかれ。』
公爵家当主から命じられた仕事が始まりだった。ただ彼の行動を見張りそれを漏れなく報告すること。しかし、10年、仕事とは割り切れない絆が生まれていることも事実。何とか見つけるための手がかりを、必死だった。
今いる所が目指す辺境の村からどのくらいの位置なのか。
山頂の雲が晴れてくれないかと祈りながら目の先をそれがある方向を見る。相変わらず鈍色の雲しか見ることができない。
このような時に判断を下す役目のリーダーが魔の森の中に飛ばされ、消息が不明なのだ。
中々でない答え、しかし、この場にとどまっていることは悪手である。
祈るようにもう一度、お目掴役であり副リーダーである剣士が、山を仰ぎ見た時、一瞬雲の切れ間から尖った切っ先のような山の頂がはっきりと見えたのだ。思いのほか顔を垂直に上げなければ見えないような位置に。
「あそこが山頂?それならば、目指す村はもうすぐそこのはず……」
とにかく助けを求めに行かないと。しぼみかけていた気力を振り絞って、村のある方向へパーティーメンバー4人が一斉に走り出したのだった。
体の痛みに気を失ったはずなのに、どこにも痛みが感じなかった。
光に包まれ体の痛みがなくなった時は、もしかしてこれが死んだということなのか?と感じたくらいふわりと優しい心地がしたのだ。
男は所謂貴族の世界に馴染めなくて冒険者になったクチであるが、ただの弱小貴族の次男三男というわけではなく、このエクサルファ帝国の四大公爵家の中の一つロセロ公爵家の長男であった。しかし、長男ではあったが嫡男ではなかった。彼の母が正妻ではなかったからである。
そのようなこともあってか、彼は元から公爵家を継ぐつもりも止まるつもりもなく、帝国において貴族の義務ともいえる、高等魔導学院を卒業した後、公爵家から飛び出して冒険者になったのであった。
しかし、公爵家にとって魔導学院においても優秀な成績で卒業し、血統魔法を発動する可能性を持つ彼を手放すことはためらわれたのか、彼の冒険者になる事を認めることと引き換えに、彼のお目付役と成る人物を常に側に置く事を約束させられていた。
資金も公爵家から援助されることもあり、彼とすれば現在位置を知られることぐらいしか不利益を感じなかったこともあり、冒険者になって10年近く、すでにそのお目付役は彼の片腕のようになっていたのであったが……。
今回この魔の森を目指したのも、もちろん冒険者の階級を上げることももちろんであるが、実家の目の全く届かないところに行きたくなったという気持ちもあったのかもしれない。
父の正妻に長男が生まれその弟も自分が公爵家を飛び出した頃から考えると、もう少しで学院に入る年齢になる。彼に血統魔法が発現してくれれば、父の自分に対する気持ちもなくなってくれるのだろうか。
彼はすでに上級と言える冒険者であったが、彼の右腕は体力よりも頭脳を使うタイプのため、山越は難しかった。この魔の森の情報も正規のルートで得ることができる立場であったが、ネックは彼の右腕の体力。仕方なく、山登りはしなくてもすむが、治安の悪い小国を突っ切るルートを選んで魔の森に行くことに決めたのだ。
商隊ではないので襲われることはなく、山脈をぐるりと周って反対側へ、魔法に精通している者からすると、突然空気自体が魔素の濃さで重たくなったことを感じることで、ここが魔の森の中であることがわかる。
山肌を横に見ながらどこかにあるという辺境の村にを目指す。村は山脈の最高峰の真下あたりに位置することは聞いていた。山のすぐ横を歩いているからか、ここから山の頂上は雲に隠れて確認することができない。
上ばかり気にしているわけにもいかない、横の魔の森の木々が大きく揺れて中からこれまで見たことがないような大きな獣が飛び出してきたりするからだ。初めて出会ったときは、魔獣かと思ったが、纏う魔力の量が非常に少ないことから、魔獣ではないと判断したのだ。
そのようなことを繰り返しながら何とか山肌を見ながら進んで来たのだが、今までの獣とは余りにも大きさの違う巨大なイノシシのような獣が飛び出して来た時に、ここ数年組んできた5人のパーティーが逃げる時にバラバラになってしまったのだ。
このパーティーのリーダーとして咄嗟に巨大イノシシの前に飛び出した彼は、大きく跳ね飛ばされ山肌とは逆の魔の森の中に大きく飛ばされた。
突進をもろに受けてしまった足は折れ曲がり、時間にすれば短いものだったのだろうが、飛ばされ足が引きちぎられるような痛さを感じながら、今まで体験したことがないくらいの高さを森の緑を下に見ながら景色が流れていくのをただ見ているしかできなかった、目の端にパーティーメンバーがそれぞれにイノシシのお化けから逃げ切ったことを確認できたときに、彼の意識は黒く塗りつぶされた。
地面にたたきつけられる前に意識がなくなったのは、不幸中の幸いだったのかもしれない。
彼が飛ばされたのは、そうはいっても山肌からそう離れていないところのはずであった。しかし、上空から飛ばされていた血の跡をパーティーメンバーがたどりながら着いたところには彼の姿を見つけることができなかった。
彼が流した血痕もいきなり途切れたように途切れ、その近くを探したが見つけることができなかった。
「これ以上奥に行くことは危険です。あなたも冒険者ならこの森の噂を聞いたことぐらいあるでしょう」
『魔の森は迷いの森。その時その時でいきつく場所は違う。力のないものは浅いところから踏み込むことなかれ。』
公爵家当主から命じられた仕事が始まりだった。ただ彼の行動を見張りそれを漏れなく報告すること。しかし、10年、仕事とは割り切れない絆が生まれていることも事実。何とか見つけるための手がかりを、必死だった。
今いる所が目指す辺境の村からどのくらいの位置なのか。
山頂の雲が晴れてくれないかと祈りながら目の先をそれがある方向を見る。相変わらず鈍色の雲しか見ることができない。
このような時に判断を下す役目のリーダーが魔の森の中に飛ばされ、消息が不明なのだ。
中々でない答え、しかし、この場にとどまっていることは悪手である。
祈るようにもう一度、お目掴役であり副リーダーである剣士が、山を仰ぎ見た時、一瞬雲の切れ間から尖った切っ先のような山の頂がはっきりと見えたのだ。思いのほか顔を垂直に上げなければ見えないような位置に。
「あそこが山頂?それならば、目指す村はもうすぐそこのはず……」
とにかく助けを求めに行かないと。しぼみかけていた気力を振り絞って、村のある方向へパーティーメンバー4人が一斉に走り出したのだった。
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