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16 ルフェルとヴォラスとカーラ
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ルフェルは生まれてこの方、母が他人を家の中まで入れたことを見たのが初めてだ。
それも、ルフェルが会ったことがない、この村の住人では絶対にない、ルフェルが全く知らない人物を玄関ではなく、居間まで入れていることに、非常に動揺した。
母のために摘んできた、花束を握りつぶしてしまうほどに。
いやルフェルはショックだったのだ。
「おかえり」
と、言って自分を見た母が、今まで一度も見たことがない母だったから……。
優しい声も優しい顔も、外側は同じなのに、内側が、心の持っている色が今までの母には見なかった、とってもやわらかい色だったから……今まで自分が出してあげられない、心の底からの安心という色だったから……。
一方、カーラの前でお茶を飲んでいたヴォラスもショックを受けていた。
命がけでこの辺境の村にたどり着いて3日。
疲れ切ってはいたが、到着したその日のその時から、彼は何とかカーラの情報を得ようと頑張っていた。それはもう必死に!
その必死加減が逆にこの村の者たちに警戒心を与え、到着から2日間全くこの村の情報を得ることができなくなっていることに、気持ち的に焦っていたヴォラスが気付くのが今日3日目の朝だったのだ。
つまり、頭を冷やすのに2昼夜掛かったわけで、ヴォラスのことについて信頼できる人物であることの証明を買って出てくれたベテラン冒険者の口添えもあって、やっとポーション製作者の情報をもらうことができたのだ。
それが1時間前で、社交場を飛び出すように出てきて、カーラの顔を見た途端、何を話せばいいのかわからなくなり、言われるがままテーブルにつき、どのように来たのか聞かれたので、そのことに応えていて、今に至った。
にこにこと微笑みながら相槌を打ってくれるカーラに促されるまま、熱に浮かされるように自分の事を話した。
話して一息ついて、カーラが新しくお茶を入れ直してくれて、これからカーラのことを聞きたいと考えていたところで、玄関扉がいきなり開いて、6歳?7歳か、せいぜい8歳くらいにしか見えない子供が、部屋の中に飛び込んできたのだ。「お母さん」といいながら……。
「オカアサン?そうか?ここにお母さんがいるのか?だれが?カーラが?……ここはカーラの家で、この家には今俺とカーラしかいなくて……俺の子?いやまさか俺とカーラはそんなことしたことないし……7歳?8歳?か?……この村にきて10年……」
口をつけようと手に持っていたカップから、腕の小刻みな震えに合わせて、中のお茶がピチャピチャと膝の上にこぼれている。
心の中の声も駄々洩れで、ブツブツ呟いている様子はちょっと怪しい人物に見えなくもない。
そんな、ヴォラスの様子に全く頓着することなく、笑顔でそれぞれのことを紹介するカーラ。
「おかえりなさいルフェル、早かったのね?どこにもけがはない?あら、このお花私に?ありがとう」
玄関を開けたまま、その場で動きを止めて声を発せず、部屋の中まで入ってこないルフェルに、首をかしげながらも近づいて、頭の上から足の先までゆっくりと撫でながらけがの有無を確認する、いつものカーラの様子にルフェルも体の力を抜いて、カーラの肩越しに座ったままの男の様子をうかがった。
ルフェルに異常がないことが確認できて満足したのか、ルフェルの頭を撫ぜながら、振り返りヴォラスにルフェルのことを紹介するカーラ。
「ヴォラス。この子はルフェル。かわいいでしょ」
ヴォラスにしてみれば何の情報の足しにもならない名前だけの紹介で終了するカーラ。
それはルフェルに対してもそう変わることは無く。
「ルフェル。彼はヴォラス。私の……そう私の古い友人なのよ」
にこにこと紹介するカーラの心の色がわかるルフェルには、ヴォラスという目の前の男性が、この村にいるどの男の人とも違う存在で、自分に対するのとは違う気持ちで愛していることもわかった。
ルフェルは心の色がわかるからこそショックだったのだが、ヴォラスはそのような能力はなく普通の人間であったから、カーラの心の中かがわかることなく、「古い友人」という自分の紹介にショックを受けていたのだ。
ヴォラスは自分がそうであったように、カーラもあのときと変わらず、10年たっても自分の事を思ってくれていると……。
しかし、自分の目の前にはカーラの子供と思われる、10歳に全然満たない子供が居るのだ。
カーラと会えたことで、カーラしか見えていなかった視覚が、この家にきて初めて現実を目に映し出す。
どう見てもひとり暮らしには見えない室内。
テーブルの椅子は……2客?
飾られるように収納されているカトラリーは2セットづつ?
窓の外、庭に干されている洗濯物は……見ちゃいけないか……でも……。小さいシャツと女性用の……。
男性用の服の存在は一つもなさそうで……。
この家の中は2人暮らしのようにしか見えない。かと言って、子供は1人で作れるものではない。
1人ジレンマに陥っているヴォラスを、カーラは笑顔を浮かべながら、ルフェルは怪訝な表情のまま見ていた。
それも、ルフェルが会ったことがない、この村の住人では絶対にない、ルフェルが全く知らない人物を玄関ではなく、居間まで入れていることに、非常に動揺した。
母のために摘んできた、花束を握りつぶしてしまうほどに。
いやルフェルはショックだったのだ。
「おかえり」
と、言って自分を見た母が、今まで一度も見たことがない母だったから……。
優しい声も優しい顔も、外側は同じなのに、内側が、心の持っている色が今までの母には見なかった、とってもやわらかい色だったから……今まで自分が出してあげられない、心の底からの安心という色だったから……。
一方、カーラの前でお茶を飲んでいたヴォラスもショックを受けていた。
命がけでこの辺境の村にたどり着いて3日。
疲れ切ってはいたが、到着したその日のその時から、彼は何とかカーラの情報を得ようと頑張っていた。それはもう必死に!
その必死加減が逆にこの村の者たちに警戒心を与え、到着から2日間全くこの村の情報を得ることができなくなっていることに、気持ち的に焦っていたヴォラスが気付くのが今日3日目の朝だったのだ。
つまり、頭を冷やすのに2昼夜掛かったわけで、ヴォラスのことについて信頼できる人物であることの証明を買って出てくれたベテラン冒険者の口添えもあって、やっとポーション製作者の情報をもらうことができたのだ。
それが1時間前で、社交場を飛び出すように出てきて、カーラの顔を見た途端、何を話せばいいのかわからなくなり、言われるがままテーブルにつき、どのように来たのか聞かれたので、そのことに応えていて、今に至った。
にこにこと微笑みながら相槌を打ってくれるカーラに促されるまま、熱に浮かされるように自分の事を話した。
話して一息ついて、カーラが新しくお茶を入れ直してくれて、これからカーラのことを聞きたいと考えていたところで、玄関扉がいきなり開いて、6歳?7歳か、せいぜい8歳くらいにしか見えない子供が、部屋の中に飛び込んできたのだ。「お母さん」といいながら……。
「オカアサン?そうか?ここにお母さんがいるのか?だれが?カーラが?……ここはカーラの家で、この家には今俺とカーラしかいなくて……俺の子?いやまさか俺とカーラはそんなことしたことないし……7歳?8歳?か?……この村にきて10年……」
口をつけようと手に持っていたカップから、腕の小刻みな震えに合わせて、中のお茶がピチャピチャと膝の上にこぼれている。
心の中の声も駄々洩れで、ブツブツ呟いている様子はちょっと怪しい人物に見えなくもない。
そんな、ヴォラスの様子に全く頓着することなく、笑顔でそれぞれのことを紹介するカーラ。
「おかえりなさいルフェル、早かったのね?どこにもけがはない?あら、このお花私に?ありがとう」
玄関を開けたまま、その場で動きを止めて声を発せず、部屋の中まで入ってこないルフェルに、首をかしげながらも近づいて、頭の上から足の先までゆっくりと撫でながらけがの有無を確認する、いつものカーラの様子にルフェルも体の力を抜いて、カーラの肩越しに座ったままの男の様子をうかがった。
ルフェルに異常がないことが確認できて満足したのか、ルフェルの頭を撫ぜながら、振り返りヴォラスにルフェルのことを紹介するカーラ。
「ヴォラス。この子はルフェル。かわいいでしょ」
ヴォラスにしてみれば何の情報の足しにもならない名前だけの紹介で終了するカーラ。
それはルフェルに対してもそう変わることは無く。
「ルフェル。彼はヴォラス。私の……そう私の古い友人なのよ」
にこにこと紹介するカーラの心の色がわかるルフェルには、ヴォラスという目の前の男性が、この村にいるどの男の人とも違う存在で、自分に対するのとは違う気持ちで愛していることもわかった。
ルフェルは心の色がわかるからこそショックだったのだが、ヴォラスはそのような能力はなく普通の人間であったから、カーラの心の中かがわかることなく、「古い友人」という自分の紹介にショックを受けていたのだ。
ヴォラスは自分がそうであったように、カーラもあのときと変わらず、10年たっても自分の事を思ってくれていると……。
しかし、自分の目の前にはカーラの子供と思われる、10歳に全然満たない子供が居るのだ。
カーラと会えたことで、カーラしか見えていなかった視覚が、この家にきて初めて現実を目に映し出す。
どう見てもひとり暮らしには見えない室内。
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窓の外、庭に干されている洗濯物は……見ちゃいけないか……でも……。小さいシャツと女性用の……。
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この家の中は2人暮らしのようにしか見えない。かと言って、子供は1人で作れるものではない。
1人ジレンマに陥っているヴォラスを、カーラは笑顔を浮かべながら、ルフェルは怪訝な表情のまま見ていた。
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