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8 ファブレ商会とヴォラスと治癒師
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「この帝国の、この王都の、ディナト公爵家の力が及ぶところでは、まともな情報を得ることはできない」
決して娘カーラが死んではいないと信じていても、その真偽が全く分からない状態で、カーラの母親ファブレ商会会頭の妻は寝込んでしまい、それでも公爵家を探ろうとする商会に、どこからともなく圧力がかかりだす。
圧力がかかることで逆に、婚約者であったヴォラスはカーラがなにがしかの陰謀に巻き込まれたことを確信したのであった。
意気消沈している商会に追い打ちをかけるように、巷に一人娘であるカーラが死亡したという噂が流れ始め、押しかけ跡取りが後を絶たず、よりいっそう会頭夫妻を疲弊させる。
「カーラのことがどうなろうとも、私の後を継ぐのはヴォラスお前だよ」
お前を見込んで婿にすることにした、何よりお前たちの気持ちが大切だったが、私の目利きは間違っていなかっただろう。
そう言って、心労でしぼんでしまった身体と、消えない目の下のクマに、ヴォラスは切なくなって、義理の父になるはずであった会頭から目をそらす。
「私は、お嬢さんなしにこの商会を継ごうなど……考えておりませんし、考えられません」
絶対どこかでお嬢様は生きておられます。私にはわかります。ですから……。
ヴォラスは商会本部の責任者の立場を捨てて、地方を回り商品を売るキャラバン部隊の責任者になり、王都から出てこの帝国内のみならず、広い広い大陸内をカーラの消息を訪ねさすらう道を選んだのだった。
初めの数年全く新しい情報を得ることはできず、キャラバン隊には影響はないものの、地方の支店に顔を出すたびに、商会の営業に影さすことが増え。三年たつ頃、一度王家の御用から外されることもあり、商会の存続自体を危ぶまれることもあったが、帝国以外で堅実な経営を続ける事で、何とかその山を乗り越え、本店をエクサルファ帝国から大河を挟んで隣り合うペダルファ王国に移すことで、大陸内の販路を確保することができた。
ヴォラスは、元本国の帝国から随分と離れた小さな王国に足を延ばしていた、カーラの消息が絶たれてから5年以上経っていた。
キャラバン隊の中の一人が風土病のようなものに罹ってしまったので、その町で腕のいいと言われる治癒師に見てもらうことにした、その治癒師がヴォラスが探し求めていた、カーラの亡くなったとされる3日後に公爵家の跡取りを取り上げたとされる産婆だったのだ。
この国では治癒師として患者を取る場合その姓名を明らかにしなければいけないという決まりがあって、部下を連れて訪れた時、何気なく目にした名前が、探していたそれと同じっだったのだ。
本人は否定したが言葉の訛りから、帝国出身のことを指摘すると、治癒師は渋々ながら自身の正体を認め、ヴォラスが求めた5年前の帝国から逃げ出したことの真相を聞き出すことに成功したのだ。
「私が取り上げた公爵家の跡取りは双子だったのさ。男児の双子。初めに取り上げた子は真っ赤な髪色が印象的な大きくて元気な赤ん坊。二人目の子はとても小さくて、死にかけ状態だったのを私が何とか蘇生した、そんな状態の……髪も生えていなかったし、目の色もわからなかったが、とにかく男児だった」
思い出したくもないが忘れられない事。今まで話したくても全く話せなかったことを,堰が切れたように語る。
「貴族は本当に恐ろしい。自分が腹を痛めて産んだ子供だっていうのに、二人目の子供は不吉だ。そんな弱々しい子供に用はないって、その場で始末することにきめたんだよ。でもさすがに、慶事が起こったその屋敷の中でケチが付くことを恐れたのか、公爵家にきて間もない平民の下働きか何かにその赤ん坊を押し付けた」
5年前のことが昨日のように思い出せるようで、震えながら遠くを見つめて話を続ける。
「私には破格の報酬を提示して専属の治癒師になるように言ってきた。私がこの仕事をして何年たっていると思っているんだ、その時のあいつらの目を見れば、時間を置いてほとぼりが冷めたころに私をなんだかの理由をつけてこの世から消す、そのくらいしかねない目の色をしていたさ」
大切な方の赤子の状態が落ち着いても、私をお屋敷から出そうとしないところを、赤子や奥様のための薬に必要なものを家に取りに帰ると言って、何とか建物から脱出して、その足で取るものもとりあえず、監視の目を盗んで王都どころか帝国から逃げ出した。
そこまで話すと、治癒師は冷めたお茶を一口飲んで話を止めた。
ヴォラスは一番気になった、もう一人のいらないとされた赤ん坊を託された娘について改めて聞いた。
「あの時は私も自分の身を守ることに気を取られていたから……ん~……確かあの時悪魔のような乳母が、平民の娘で来たばかりの誰かを連れて来いって命令していたよ。あいつら平民のことを同じ人間とは全く思っていないのさ!」
結局その時の娘がカーラかどうかわからない、しかし、赤子が生まれそうだと呼ばれて生まれるまで五日以上公爵邸に滞在したが、その時に誰かが亡くなったということは、全く聞かなかっと治癒師は言う。
「あいつら貴族は、魔力を持つものを特別視するのと同じように、穢れだとか、言霊だとか、理屈で判断できないものを神聖視するのさ。だから、双子は不吉とか何ら根拠のないことを本気で感じて、子供を殺そうとまでする。それと同じように、赤ん坊が生まれる前に同じ建物の中で穢れが生まれることを非常に嫌う。建物ではなく関係者としても同じこと、使用人が死んだとなれば、大騒ぎにならないわけがない。産屋を変えると言い出すのが普通さ。それが特に跡取りになるかもしれない子供が生まれるとなればね」
だから、自分が詰めていたその時に、公爵家関係の誰もなくなったなんてことは考えられない、前々からの病気でなく不慮の事故でなどでは特に考えられない。
と、治癒師は言い切った。
決して娘カーラが死んではいないと信じていても、その真偽が全く分からない状態で、カーラの母親ファブレ商会会頭の妻は寝込んでしまい、それでも公爵家を探ろうとする商会に、どこからともなく圧力がかかりだす。
圧力がかかることで逆に、婚約者であったヴォラスはカーラがなにがしかの陰謀に巻き込まれたことを確信したのであった。
意気消沈している商会に追い打ちをかけるように、巷に一人娘であるカーラが死亡したという噂が流れ始め、押しかけ跡取りが後を絶たず、よりいっそう会頭夫妻を疲弊させる。
「カーラのことがどうなろうとも、私の後を継ぐのはヴォラスお前だよ」
お前を見込んで婿にすることにした、何よりお前たちの気持ちが大切だったが、私の目利きは間違っていなかっただろう。
そう言って、心労でしぼんでしまった身体と、消えない目の下のクマに、ヴォラスは切なくなって、義理の父になるはずであった会頭から目をそらす。
「私は、お嬢さんなしにこの商会を継ごうなど……考えておりませんし、考えられません」
絶対どこかでお嬢様は生きておられます。私にはわかります。ですから……。
ヴォラスは商会本部の責任者の立場を捨てて、地方を回り商品を売るキャラバン部隊の責任者になり、王都から出てこの帝国内のみならず、広い広い大陸内をカーラの消息を訪ねさすらう道を選んだのだった。
初めの数年全く新しい情報を得ることはできず、キャラバン隊には影響はないものの、地方の支店に顔を出すたびに、商会の営業に影さすことが増え。三年たつ頃、一度王家の御用から外されることもあり、商会の存続自体を危ぶまれることもあったが、帝国以外で堅実な経営を続ける事で、何とかその山を乗り越え、本店をエクサルファ帝国から大河を挟んで隣り合うペダルファ王国に移すことで、大陸内の販路を確保することができた。
ヴォラスは、元本国の帝国から随分と離れた小さな王国に足を延ばしていた、カーラの消息が絶たれてから5年以上経っていた。
キャラバン隊の中の一人が風土病のようなものに罹ってしまったので、その町で腕のいいと言われる治癒師に見てもらうことにした、その治癒師がヴォラスが探し求めていた、カーラの亡くなったとされる3日後に公爵家の跡取りを取り上げたとされる産婆だったのだ。
この国では治癒師として患者を取る場合その姓名を明らかにしなければいけないという決まりがあって、部下を連れて訪れた時、何気なく目にした名前が、探していたそれと同じっだったのだ。
本人は否定したが言葉の訛りから、帝国出身のことを指摘すると、治癒師は渋々ながら自身の正体を認め、ヴォラスが求めた5年前の帝国から逃げ出したことの真相を聞き出すことに成功したのだ。
「私が取り上げた公爵家の跡取りは双子だったのさ。男児の双子。初めに取り上げた子は真っ赤な髪色が印象的な大きくて元気な赤ん坊。二人目の子はとても小さくて、死にかけ状態だったのを私が何とか蘇生した、そんな状態の……髪も生えていなかったし、目の色もわからなかったが、とにかく男児だった」
思い出したくもないが忘れられない事。今まで話したくても全く話せなかったことを,堰が切れたように語る。
「貴族は本当に恐ろしい。自分が腹を痛めて産んだ子供だっていうのに、二人目の子供は不吉だ。そんな弱々しい子供に用はないって、その場で始末することにきめたんだよ。でもさすがに、慶事が起こったその屋敷の中でケチが付くことを恐れたのか、公爵家にきて間もない平民の下働きか何かにその赤ん坊を押し付けた」
5年前のことが昨日のように思い出せるようで、震えながら遠くを見つめて話を続ける。
「私には破格の報酬を提示して専属の治癒師になるように言ってきた。私がこの仕事をして何年たっていると思っているんだ、その時のあいつらの目を見れば、時間を置いてほとぼりが冷めたころに私をなんだかの理由をつけてこの世から消す、そのくらいしかねない目の色をしていたさ」
大切な方の赤子の状態が落ち着いても、私をお屋敷から出そうとしないところを、赤子や奥様のための薬に必要なものを家に取りに帰ると言って、何とか建物から脱出して、その足で取るものもとりあえず、監視の目を盗んで王都どころか帝国から逃げ出した。
そこまで話すと、治癒師は冷めたお茶を一口飲んで話を止めた。
ヴォラスは一番気になった、もう一人のいらないとされた赤ん坊を託された娘について改めて聞いた。
「あの時は私も自分の身を守ることに気を取られていたから……ん~……確かあの時悪魔のような乳母が、平民の娘で来たばかりの誰かを連れて来いって命令していたよ。あいつら平民のことを同じ人間とは全く思っていないのさ!」
結局その時の娘がカーラかどうかわからない、しかし、赤子が生まれそうだと呼ばれて生まれるまで五日以上公爵邸に滞在したが、その時に誰かが亡くなったということは、全く聞かなかっと治癒師は言う。
「あいつら貴族は、魔力を持つものを特別視するのと同じように、穢れだとか、言霊だとか、理屈で判断できないものを神聖視するのさ。だから、双子は不吉とか何ら根拠のないことを本気で感じて、子供を殺そうとまでする。それと同じように、赤ん坊が生まれる前に同じ建物の中で穢れが生まれることを非常に嫌う。建物ではなく関係者としても同じこと、使用人が死んだとなれば、大騒ぎにならないわけがない。産屋を変えると言い出すのが普通さ。それが特に跡取りになるかもしれない子供が生まれるとなればね」
だから、自分が詰めていたその時に、公爵家関係の誰もなくなったなんてことは考えられない、前々からの病気でなく不慮の事故でなどでは特に考えられない。
と、治癒師は言い切った。
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