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7 ファブレ商会と母カーラ
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家を出てから思ったよりも時間がかからずに逃げるように戻ってきたので、まだ心休まるハーブティーでお昼寝中の母カーラは目を覚まさない。
優しい何かは、さっきの商人に悪い感じはしなかったが、ルフェルに向けられた感情は、普通のものと何かが違っていたからか、少し心配気味な気配がしている。
ルフェルも好奇心で突っ走ってしまったことに少し後悔していた。
せっかく村主の勘で、社交場に近づかないようにわざわざ忠告してくれたのに、それを自分の好奇心で無駄にしてしまったかもしれないことに、何かあったらと恐怖心すら浮かんだほどだ。
キャラバン隊がこの辺境の村に来てから3日。
カーラとルフェルのこの庵は、この村に建つ家々の中で一番魔の森の近くに建っている。
つまり、辺境の中の辺境。
しかし、村の広さは限りがあり、3日もあれば一回りするのに十分おつりがくるくらいの広さであることもまた事実である。
カーラはルフェルが採取してくる薬草を使ってポーションづくりに精を出し、空いた時間に保存食を使ったりゆったりとした時間を過ごしていた。
ルフェルも2日間は母にべったりであったが、3日目からは母のための薬草を取るために、魔の森に一人入っていた。
ルフェルも外出中で、ただ一人家の中で過ごしていたカーラは、昼過ぎに玄関先からのおとないに、何の警戒もせず、返答を返しそのまま玄関扉に向かった。
「は~い。何か御用ですか?」
この村の中には知らない者はおらず、危ないのは森の中から出てきたはぐれ獣と魔獣。それはルフェルの魔法でこの敷地内にはないって来ないはずだった。
警戒せず扉を開けたカーラの前には、この場所には絶対いないはずの人物が、別れた時よりも随分と精悍な顔になって立っていた。
「……やはり、やはり……お嬢様……よくぞご無事で……」
「ヴォラス……なぜあなたが……」
そこに立っていたのは、ルフェルが注意しなければいけないと思っていた商人。
そして、カーラがまだお嬢様と呼ばれていた時、カーラの父が彼女の結婚相手にと考えていた、彼女の実家ファブレ商会の使用人のヴォラスであった。
カーラはエクサルファ帝国で幅広く商いをする豪商ファブレ商会の一人娘として、手中の珠のように育てられた、ある意味下手な貴族の娘よりもお姫様である。
この帝国でも魔法が使えるのは、圧倒的に貴族が多く、平民と言われる階級の者にはほとんど魔力もちと言われるものは現れない。つまり、魔法は貴族のものという考えが根強かった。
ファブレ商会も階級的に言えば平民であるが、この帝国が誕生した頃から存在する老舗であり、時々貴族の血も入ることもあったのだろう、一人娘のカーラに魔法の素質が現れた時、その力をなんとか伸ばせないかと考えたのも娘を愛する気持ちからであった。
また、その力を伸ばすためのコネも力もファブレ商会にはあった。
ファブレの会頭であるカーラの父親は、娘の力を伸ばすためと娘に箔を持たせるために、エクサルファ帝国内でも王族につで地位の高いディナト公爵家に、マナー及び魔法の習得のため表向きは奉公という形で送り出したのだ。
その奉公に出して一月も経たない間に、いきなり
「貴家の娘は不幸により亡くなった」
という書簡と、家から持っていった荷物の中で、持たせた現金と貴金属以外のものが申し訳ない程度に纏められて届けられただけであった。
真実を知りたいと公爵家に使いを出しても、慶事があったとお館内がお祭り騒ぎになっていて、どこにも繋ぎをつけることができなかった。
良かれと思って、王族の次に力を持っている公爵家に、無理に口をきいたことが仇となったのか。
流石の豪商ファブレ家であっても、表立って位の高い貴族に表立って文句は言えない。
娘が死んだという言葉だけで、亡骸も返してもらえない。それでも、こちらから下手に出て、情報を出してもらうしかなかったファブレ家の想いはその家族だけでなく、使用人すべての思いとなり、ファブレ商会の総力をかけて、カーラがなくなったとされた日付前後の公爵家の様子を探り出すことにしたのだ。
金に糸目をつけず探り続けた結果……。
カーラが亡くなったと言われた日の、3日後に、公爵家にご嫡男が誕生したということ。
カーラが亡くなったとされた次の日に宿下がりした男爵家の娘さんは、勤め始めていたばかりのカーラの前任者にあたる人であるが、カーラの死んだことは知らなかったこと。
公爵家にご嫡男が生まれたとされた日かその次の日に、裏口から公爵家で使わないようなみすぼらしい馬車が出ていったこと。
公爵家にご嫡男が生まれたにもかかわらず、それを取り上げたと思われる産婆が、公爵家から帰った直後その姿が見られなくなったこと。
今まで婚姻を結ばなかった公爵様が、ついに嫡男をあげた愛人とご結婚になるということ。
しかし、様々な情報をいろいろ手を尽くして集めたが、カーラに関する直接的な情報は、公爵家の中からは箝口令が敷かれているようで、全く浮かんでこなかったのだ。
優しい何かは、さっきの商人に悪い感じはしなかったが、ルフェルに向けられた感情は、普通のものと何かが違っていたからか、少し心配気味な気配がしている。
ルフェルも好奇心で突っ走ってしまったことに少し後悔していた。
せっかく村主の勘で、社交場に近づかないようにわざわざ忠告してくれたのに、それを自分の好奇心で無駄にしてしまったかもしれないことに、何かあったらと恐怖心すら浮かんだほどだ。
キャラバン隊がこの辺境の村に来てから3日。
カーラとルフェルのこの庵は、この村に建つ家々の中で一番魔の森の近くに建っている。
つまり、辺境の中の辺境。
しかし、村の広さは限りがあり、3日もあれば一回りするのに十分おつりがくるくらいの広さであることもまた事実である。
カーラはルフェルが採取してくる薬草を使ってポーションづくりに精を出し、空いた時間に保存食を使ったりゆったりとした時間を過ごしていた。
ルフェルも2日間は母にべったりであったが、3日目からは母のための薬草を取るために、魔の森に一人入っていた。
ルフェルも外出中で、ただ一人家の中で過ごしていたカーラは、昼過ぎに玄関先からのおとないに、何の警戒もせず、返答を返しそのまま玄関扉に向かった。
「は~い。何か御用ですか?」
この村の中には知らない者はおらず、危ないのは森の中から出てきたはぐれ獣と魔獣。それはルフェルの魔法でこの敷地内にはないって来ないはずだった。
警戒せず扉を開けたカーラの前には、この場所には絶対いないはずの人物が、別れた時よりも随分と精悍な顔になって立っていた。
「……やはり、やはり……お嬢様……よくぞご無事で……」
「ヴォラス……なぜあなたが……」
そこに立っていたのは、ルフェルが注意しなければいけないと思っていた商人。
そして、カーラがまだお嬢様と呼ばれていた時、カーラの父が彼女の結婚相手にと考えていた、彼女の実家ファブレ商会の使用人のヴォラスであった。
カーラはエクサルファ帝国で幅広く商いをする豪商ファブレ商会の一人娘として、手中の珠のように育てられた、ある意味下手な貴族の娘よりもお姫様である。
この帝国でも魔法が使えるのは、圧倒的に貴族が多く、平民と言われる階級の者にはほとんど魔力もちと言われるものは現れない。つまり、魔法は貴族のものという考えが根強かった。
ファブレ商会も階級的に言えば平民であるが、この帝国が誕生した頃から存在する老舗であり、時々貴族の血も入ることもあったのだろう、一人娘のカーラに魔法の素質が現れた時、その力をなんとか伸ばせないかと考えたのも娘を愛する気持ちからであった。
また、その力を伸ばすためのコネも力もファブレ商会にはあった。
ファブレの会頭であるカーラの父親は、娘の力を伸ばすためと娘に箔を持たせるために、エクサルファ帝国内でも王族につで地位の高いディナト公爵家に、マナー及び魔法の習得のため表向きは奉公という形で送り出したのだ。
その奉公に出して一月も経たない間に、いきなり
「貴家の娘は不幸により亡くなった」
という書簡と、家から持っていった荷物の中で、持たせた現金と貴金属以外のものが申し訳ない程度に纏められて届けられただけであった。
真実を知りたいと公爵家に使いを出しても、慶事があったとお館内がお祭り騒ぎになっていて、どこにも繋ぎをつけることができなかった。
良かれと思って、王族の次に力を持っている公爵家に、無理に口をきいたことが仇となったのか。
流石の豪商ファブレ家であっても、表立って位の高い貴族に表立って文句は言えない。
娘が死んだという言葉だけで、亡骸も返してもらえない。それでも、こちらから下手に出て、情報を出してもらうしかなかったファブレ家の想いはその家族だけでなく、使用人すべての思いとなり、ファブレ商会の総力をかけて、カーラがなくなったとされた日付前後の公爵家の様子を探り出すことにしたのだ。
金に糸目をつけず探り続けた結果……。
カーラが亡くなったと言われた日の、3日後に、公爵家にご嫡男が誕生したということ。
カーラが亡くなったとされた次の日に宿下がりした男爵家の娘さんは、勤め始めていたばかりのカーラの前任者にあたる人であるが、カーラの死んだことは知らなかったこと。
公爵家にご嫡男が生まれたとされた日かその次の日に、裏口から公爵家で使わないようなみすぼらしい馬車が出ていったこと。
公爵家にご嫡男が生まれたにもかかわらず、それを取り上げたと思われる産婆が、公爵家から帰った直後その姿が見られなくなったこと。
今まで婚姻を結ばなかった公爵様が、ついに嫡男をあげた愛人とご結婚になるということ。
しかし、様々な情報をいろいろ手を尽くして集めたが、カーラに関する直接的な情報は、公爵家の中からは箝口令が敷かれているようで、全く浮かんでこなかったのだ。
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