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6「ふぁぶれしょうかい」
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優秀な薬師でもある母カーラを薬で眠らせるのはとても難しいものなのだが、薬草を採取するだけでなく、母の作業を近くで見ることで習得してしまっていたルフェルは、より効能の高い薬草類を使いこなし、先ほど入れた心休まるハーブティーに、ほんの少しだけ手を加えた。
いつも働きづめのははだ。ゆっくり休んでもらってもばちは当たるまい。
今ごろは、木漏れ日の当たる心地よい我が家の居間で、優しい夢を見ていてくれるはずだ。
ルフェルは、誰にも見つからないように気配を消して、社交場前の広場で店開きをしているというキャラバン隊を見てみることにした。
キャラバン隊というものを見るのは初めてだ。この村の外から来た人に会うこともほとんどない。大きな荷物を背負って山から下りてきた行商人という人たちを何度か見たことはあったが、母がルフェルが知らない人と話をすることを非常に嫌がったため、村の外の人と話をしたことは全くない。
いつものように優しい何かは一緒にいてくれるので、平常心を持って行動することができる。
狭い村だから、村のほぼ中央にある社交場前に居るキャラバン隊はすぐ見つけることができた。
確かに馬にひかれた荷馬車?幌馬車が二両まだ馬がつけられた状態のまま止まっている。
そして、広間には、この村にこれだけ人間が居たのかよ、と思えるぐらい人がいた。
見たことない者は、このキャラバンの護衛担当の冒険者なのか?
その見知らぬ冒険者たちの中に、冒険者には見えない風体の見知らぬ人がいる。一人いると聞いていたこのキャラバンの主の商人かもしれない。
キャラバン隊の幌馬車のホロの部分に、商人の商会の名前が書かれた布が縫い付けられている。
「ふぁぶれしょうかい」
読み書きは母に習っている。この村の年寄りの中には文字の読めない者も多く、現役冒険者でも名前が書けるとか数字が読めるとか、よく知る魔獣の名前ぐらいなら読める、という人がほとんどであったことに驚いた。
そう考えてみると、母はもちろん字は書けるし、計算もできる。弱くても魔法が使える。それにとてもきれいだし、どことなく品もあるし……こんな辺境の村にいるような人間ではないような気がする。
ルフェルがは、まだ幼いながらもこの村がとても特殊な環境にあることには気が付いていた。
まず女性が居ない。
母が呼んでくれる物語にも必ず男性と女性が出てくる。
男性は王子様だったり、お父さんだったり、男の子だったり。それはこの村にもいて、お父さんはいないが、おじさんもおじいさんもいる、そして、男の子はルフェルがいる。
しかし、女の人はお母さんと社交場にいるおばさんが数人。女の子はいない。
女性と男性の数の差が、この村ではありすぎる。
不思議に思うことはたくさんあったが、決定的だったのは、社交場で酔っぱらったおじさんが話していた、
「ここは流刑地みたいなものだから」
という言葉だった。
『流刑地』のきちんとした意味は解らなかったが、話すおじさんの声の感じから、いい言葉ではないことは想像がついた。
この村で、ただ一人の若い女性である母。ただ一人である子供のルフェル。
何となく、ルフェルが原因でこの村に居るような気がしてならない。
この村では遺物であるキャラバン隊を見て、遺物である自分たち親子のことが頭に浮かんだ。
意識が思考にとられること一瞬、警戒意思が低下したようで優しい何かが注意を促した。
その一瞬の隙で、ルフェルは誰かの意識が自分に向いていることに気が付いた。
『誰?』
意識の主に気付かないように探査する。これには優しい何かが手を貸してくれる。
『見つけた!』
それは、広場の中心にいるキャラバン隊の中の、冒険者に見えない商人だろう人だった。
ただこのような村に子供が居ることに興味を惹かれたのか、そうでないのかわからない。
意識をそらさないように、こちらは気付いていることを気づかれないように注意する。
商人に彼の警護担当の冒険者だろうか?が話しかけ、こちらへの注意が途切れたのが分かった。
その隙を逃さず、気配を完全に絶ってこの場を後にする。
なんだか、今までに感じたことのない感覚の意識だった。弱そうに見えてこの辺境まで商売に来る商人の商魂のたくましさと、それとは違う、損得だけから生まれてくる感情ではないものを感じながら、ほとんど何も新しいことは知れなかったことにがっかりしながら家路につくルフェル。
「ふぁぶれしょうかい」
キャラバン隊の名前、それだけが今日の収穫。
いつも働きづめのははだ。ゆっくり休んでもらってもばちは当たるまい。
今ごろは、木漏れ日の当たる心地よい我が家の居間で、優しい夢を見ていてくれるはずだ。
ルフェルは、誰にも見つからないように気配を消して、社交場前の広場で店開きをしているというキャラバン隊を見てみることにした。
キャラバン隊というものを見るのは初めてだ。この村の外から来た人に会うこともほとんどない。大きな荷物を背負って山から下りてきた行商人という人たちを何度か見たことはあったが、母がルフェルが知らない人と話をすることを非常に嫌がったため、村の外の人と話をしたことは全くない。
いつものように優しい何かは一緒にいてくれるので、平常心を持って行動することができる。
狭い村だから、村のほぼ中央にある社交場前に居るキャラバン隊はすぐ見つけることができた。
確かに馬にひかれた荷馬車?幌馬車が二両まだ馬がつけられた状態のまま止まっている。
そして、広間には、この村にこれだけ人間が居たのかよ、と思えるぐらい人がいた。
見たことない者は、このキャラバンの護衛担当の冒険者なのか?
その見知らぬ冒険者たちの中に、冒険者には見えない風体の見知らぬ人がいる。一人いると聞いていたこのキャラバンの主の商人かもしれない。
キャラバン隊の幌馬車のホロの部分に、商人の商会の名前が書かれた布が縫い付けられている。
「ふぁぶれしょうかい」
読み書きは母に習っている。この村の年寄りの中には文字の読めない者も多く、現役冒険者でも名前が書けるとか数字が読めるとか、よく知る魔獣の名前ぐらいなら読める、という人がほとんどであったことに驚いた。
そう考えてみると、母はもちろん字は書けるし、計算もできる。弱くても魔法が使える。それにとてもきれいだし、どことなく品もあるし……こんな辺境の村にいるような人間ではないような気がする。
ルフェルがは、まだ幼いながらもこの村がとても特殊な環境にあることには気が付いていた。
まず女性が居ない。
母が呼んでくれる物語にも必ず男性と女性が出てくる。
男性は王子様だったり、お父さんだったり、男の子だったり。それはこの村にもいて、お父さんはいないが、おじさんもおじいさんもいる、そして、男の子はルフェルがいる。
しかし、女の人はお母さんと社交場にいるおばさんが数人。女の子はいない。
女性と男性の数の差が、この村ではありすぎる。
不思議に思うことはたくさんあったが、決定的だったのは、社交場で酔っぱらったおじさんが話していた、
「ここは流刑地みたいなものだから」
という言葉だった。
『流刑地』のきちんとした意味は解らなかったが、話すおじさんの声の感じから、いい言葉ではないことは想像がついた。
この村で、ただ一人の若い女性である母。ただ一人である子供のルフェル。
何となく、ルフェルが原因でこの村に居るような気がしてならない。
この村では遺物であるキャラバン隊を見て、遺物である自分たち親子のことが頭に浮かんだ。
意識が思考にとられること一瞬、警戒意思が低下したようで優しい何かが注意を促した。
その一瞬の隙で、ルフェルは誰かの意識が自分に向いていることに気が付いた。
『誰?』
意識の主に気付かないように探査する。これには優しい何かが手を貸してくれる。
『見つけた!』
それは、広場の中心にいるキャラバン隊の中の、冒険者に見えない商人だろう人だった。
ただこのような村に子供が居ることに興味を惹かれたのか、そうでないのかわからない。
意識をそらさないように、こちらは気付いていることを気づかれないように注意する。
商人に彼の警護担当の冒険者だろうか?が話しかけ、こちらへの注意が途切れたのが分かった。
その隙を逃さず、気配を完全に絶ってこの場を後にする。
なんだか、今までに感じたことのない感覚の意識だった。弱そうに見えてこの辺境まで商売に来る商人の商魂のたくましさと、それとは違う、損得だけから生まれてくる感情ではないものを感じながら、ほとんど何も新しいことは知れなかったことにがっかりしながら家路につくルフェル。
「ふぁぶれしょうかい」
キャラバン隊の名前、それだけが今日の収穫。
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