双子は不吉と消された僕が、真の血統魔法の使い手でした‼

HIROTOYUKI

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3 魔の森に愛された少年

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「森に行ってきま~す!」

「ルフェル!気を付けて。お昼までには帰ってきなさいね」

「は~い」
 
 老人が巻かれてから10日後。社交場前の広場から可愛らしい声が響いてきた。

 社交場の建物の中の一角を治療院として仕事をしている母親に声を掛けると、普段着に肩掛けカバン、採取用の小さいナイフを腰に装備した軽装で、そのまま踵を返すように魔の森方向に駆けていく。

 声が聞こえたところで、今回後を追いかける担当になった現役のC級冒険者が、周りにいる者に目で合図を送り、音を立てずに建物を出て、ルフェルを追う。

 現役の冒険者だけあって、8歳、にしては少し小さめのルフェルの姿を見失うことは無かった。

 森の中に入るまでは……。

 一瞬も目を離した時はなかったはずなのに、森に入った瞬間ルフェルの姿が描き消えたように見えなくなったのだ。

 気づかれないようにという気遣いをかなぐり捨てて、現役の冒険者の意地もかけて、その周辺を探してみたが全くその影さえ掴むことができず、社交場に戻ってきたのは、実のところ薬草を取ってきたルフェルよりも後だったりする。

 その時の様子を事細かくプライドもかなぐり捨てて説明をしたのだが、信じてくれたのは先に同じような体験をした老人だけだった。

 結局、その後何人か尾行を試みたところ、誰も森に入った後のルフェルの姿を見つける事ができた者は一人としていなかった。

「無事に帰ってくるのだから」

 ということで、有耶無耶のまま、13歳になった最近では薬草だけでなく、小さいながらも魔獣までをどのようにしてか狩ってくるルフェルが森に入ることは、暗黙の了解状態に置かれているのであった。



 ルフェルにとって、魔の森と呼ばれているその森は、ただ名前が『魔の森』であるだけで、決してその森の中に『魔』なるものを感じることは無かった。

 ルフェルの周りには必ず誰かが居て、そのことで淋しさを感じることは無かったが、ただ、自分と同じぐらいの子供が一人も居ないことで、いつも一人で遊ばなくてはいけないことには少なからずルフェルの心に影を落とすものであった。

 ある程度一人で留守番ができる年齢になると、毎日母の職場でもある社交場に行くことはせずに、一人家で過ごす時間も増えてきた。

 幼いなりに、火は使はない家事を、母が居ない間にできるだけするようになった。

 本当は食事の支度もしたかったけれど、火を扱うにはまだ小さすぎることも理解していたルフェルは、そのような点でも全くわがままを言うことのない子供に育ったのだった。

 一人で過ごすようになっってから、いや意識というものが出来上がってからずっと、ルフェルは目には見えないが優しい何かがいつも自分のすぐ近くに居てくれているような感じがしていた。

 それは、母が居ないときに面倒をみてくれる村人たちとはまた違った存在で、その存在があったから淋しさを殊更感じなかったのかもしれない、とルフェルは思っている。

 初めて村人や母が『魔の森』と呼び、決して入ってはいけないと言われている場所に足を踏み入れたのは、大人達が気付く随分前、5歳になった時だった。

 いつものように洗濯物を干していた時、母が大切にしているハンカチが一枚風に飛ばされてしまったのだ。

 折しも不意に吹いてきた突風にさらわれるように舞い上がったハンカチは、そのまま魔の森の方向に飛んで行ってしまったのだ。

 自分の物であったならば、怒られはするがなくしてしまうことに何ら躊躇する気持ちは起きないが、母の大切にしている物となれば、話は違ってくる。

 魔の森に入らないという約束より、ははのたいせつにな物がなくなる方が、大問題であったから躊躇は一瞬、飛んで行ったハンカチを追って魔の森に入ってしまった。

 あれだけ恐ろしいところだから入ってはいけない、と言われていた魔の森は、入ってみれば逆に心地がいい空間としか思えないところだった。

 なぜならば、いつもは目に見えない近くて遠い存在の何かが、見ることはできないがすぐ近くにいる存在であると認識することができたから……。

 魔の森と言われる領域に入った方が、空気が澄んでいるように感じたし、目に見える草木も村で見るものよりも生き生きとしているように見える。

 不思議に感じながらも、今日この森の中に入ってきた目的である、母の大切なハンカチを探す。

 すると、ハンカチは探すことなくひらひらとルフェルの目の前に落ちてきたのだ。

 そのことにも単純に驚いたが、何よりもびっくりしたのは、見えたものの名前や効能が頭の中に直接聞こえてくることだ。

 母のハンカチを手にしたことで落ち着いて周りを見回すと、今まで見たことがなかった『魔の森』の中は様々な命にあふれている美しいところであった。そして、その見たこともない花や、草の名前と効能が頭の中に流れてきたのだ。

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