転生したら当て馬王子でした~絶対攻略される王太子の俺は、フラグを折って幸せになりたい~

HIROTOYUKI

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マーシュ・スリート 25 殿下を共に守る者 2

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   真っ直ぐで澄んだ瞳は、色も違うのにまるで今から数年後の殿下と話をしているような、そんな錯覚をしてしまうほど、殿下の一部であり全部であると言う、彼は殿下と似ていた。

   彼の話すことのほとんどは私の理解が及ばないことであったが、彼が殿下の一部であると言うそれは何故だか納得のいく事だったのだ。

   殿下の本能が殿下の力、これはこの世界の範疇では計り知れないほどのものらしいのだが、この世界の真理に迫る不都合な理由から殿下の命を翻弄する出来事を回避する手段として、殿下自身が無意識下で生み出したそれが今目の前にいる『キール』であると言う事だ。

「殿下自身が私の存在を納得するために、スキルの一つである「スキルのキール」と認識しているのです」

   たしかに、この世界にはスキルという概念が存在する。それは国によって若干考え方が違うが、その人間が生まれながらに持つ、もしくは神に与えられた、特別な能力である、という考え方だ。

   殿下がこの国で魔術を行使するための精霊との契約も、10歳ではなく5歳の時の帯剣の儀の時であった様に思われるし、その後の殿下の魔法についても、根本が私の使う所謂精霊魔法とは違うものだろう事は分かっていた。

   殿下が使える魔法が余りにも多岐に渡り、契約を交わしていると思われる精霊の力では行使できないモノであるから、きっとそれ以外の何かしらの力で、魔法という現象を起こしているのだろうと、想像はしていたのだ。

「アークはそれを私の力だと思っているようですが、そもそもが本人の力なのです。彼は自分を過小評価している」

   キールと名乗った彼は、少し寂しそうな顔をしてそう言った。

   今までキールが実態を現さなかったのは、アークが他の人に姿を見せることを希望していなかったからだという。

「では何故今私に前に姿を現す事にしたんだい」

   殿下の一部であるならば、殿下の意思が彼の意思であるはずではないのか?

「たしかに私はアークの一部、そしてアーク自身。アークの深層心理、彼の意識していないところでアークはこのスキルキールの力を使わずにいる事にどこか後ろめたい気持ちを持っていたんです。それは、マーシュさまが死に物狂いの努力を肌で感じていたからなんとかしないといけないと、このままではマーシュさままで自分の未来に巻き込まれて……」

   そこでキールは言葉を切って、下を向いてしまった。

   殿下の未来?その他にもいくつか私にはわからない言葉があったが、とにかくこの彼が殿下の私を思う気持ちから、キールが姿を私だけに見せてくれたことがわかった。

   私も彼も少し落ち着いたところで、飲み物でも入れようと席を立った。

   殿下にはまだお出しする事はないが、私がよく口にしているストレートティーを彼にも出した。

   彼は珍しそうにそのカップを見ていたが、手をつけようとしない。

   私も座って、一緒に口をつけるように勧めると

「私はスキルですから、食べものも水分も口にする必要はありません。ただこれは、前からアークが飲みたいって思っていたものだから」

   ちょっと気になったのだと言って彼は少し微笑んだ。

   そういえば、彼の出現に驚きすぎて忘れていた、彼の姿についての疑問が頭をもたげた。

   私は冷めないうちに紅茶を飲みながら、彼に直接その姿について疑問をぶつけた。

「君のその姿形は?」

   彼は、自分の姿については全く意識していなかったようで、改めて自身の姿を認識して頭を抱えた。

「自分の姿は意識した事なかったから、アークのやつ……」

   頭から手を外し、しばらく目を閉じて顔を天井を向けていた彼は、意を決したように頷いて私の目を真っ直ぐに見つめた。

「この姿は……以前のアーク……この世界に生まれて来る前のアーク自身の姿、その姿カタチ……。これ以上はアークが口にするまで待ってあげてほしい、この姿もアークの深層心理から生まれたものだと思うから、きっと意識して創ったわけではないと思う、私も今のこの姿を見るまで意識していなかったから」

   ゼンセ?生まれて来る前?理解できない。

   しかし、一番理解が及ばない存在がここに居るのだから、飲み込まなければいけないのだろう。

   私にとって何よりも優先する事は、殿下をお守りする事、ただそれだけなのだから、その事に目の前に存在するキールの力が有効に利用することができるならば、今は私の疑問など小さなものだ。

   彼キールを目にすることができるのは今のところ私と殿下だけ、それ以外の人間は誰もキールの事を見ることも感じることもできない。

   そして、キールはアーク殿下の使える魔法は使う事はできるし、実はそれ以上も使うことができるらしい。

「詳しくはいえないし私自身もまだわからないところもある、ただ、きっとアークはこの世界ではできない事は何もないかもしれない。まだ、私もこの世界に生まれ出て日も浅いし、行動範囲もアークの目にした範囲に限られているから……でもこれからは、マーシュさまが私を認識してくれたから、アークの心の縛りから少しは抜け出して行動できるようになるかもしれない」

   キールの言葉にはまだわからない理解できないものが沢山あるが、私はこれからもアーク殿下をお守りすると言うことを大優先に、私がお守りする殿下と同じ雰囲気を纏う殿下自身でもあると言う、正気であれば疑う以外何者でもないキールとともに。

「しかし、私にこんなお大きな秘密を隠していたなんて……少し殿下にはお仕置きもしないといけませんね」

   私はキールに、キールの事を認識できていることを殿下にはしばらくの間黙っているようにお願い・・・した。

   

   
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