転生したら当て馬王子でした~絶対攻略される王太子の俺は、フラグを折って幸せになりたい~

HIROTOYUKI

文字の大きさ
上 下
173 / 186

クリフ・マークィス・ゲイル 8

しおりを挟む
   最悪な結果に終わった邂逅にも関わらず、殿下は役員候補として顔を出してくれた。我々が任されている所謂雑務も不満を漏らすことなく行ってくれていた。

   が、殿下を受け入れる立場にある私達の態度はお世辞にも褒められたものではなかった。

   今までと変わらず殿下を居ないように扱う無視する者や、出来損ないと嘲る者。

   上位貴族と言えどもまだマナーとはなんなのか、貴族とはそもそもどの様な者なのかを学び始めたばかりの子供の我々には、その模範となるものが近くの大人、つまり自分の両親か、学園の教師位しか居ない。その大人たちの態度にこそ問題があるのだ……。

   殿下はただ黙って、我々の裏にいる大人たちを篩にかけているのではないか。

   それが確信に変わったのは、一年生が学園に入って初めて行う学力試験と魔力操作の実技試験が行われた時であった。

   学力試験は、まず例年との違いがいくつもあった事に違和感を持ったのが始まりだった。

   私には試験当事者の妹がいた事で、比較的早くその試験の異常さに気付くことができた一人だった。

   私は、学園の中で殿下の近くで殿下を知ることができた極一部の人間である生徒会の役員でいたことで、より一層学園上層部の犯罪とも言える行いをより正確により早く知ることができたのは、僥倖であったと言えよう。

「問題が難しすぎた」

   と、珍しく家族の揃った食卓で私に話しかけてきた妹からの問題提起があったことも、学園の姑息な手段を暴く一因になったことも大きいが、何と言っても殿下のあの記憶力。2年生どころか中等部の者でも解を導く事が難しいだろう幾何の問題を全て、一文字も漏らす事なく覚えておられるその頭脳。

   その事実を認める事ができずに、あらかじめ知っていたのだろうなどと、役員の中に口にする者もいたが、あの問題数とあの複雑な数式を記憶できる事で、初めからその考えが破綻している事に何故気づかないのか、逆に口に出した奴の知能の低さに口が塞がらない思いだった。

    だから、少なくとも目の前でスラスラと全ての試験問題とその答えを書き出した殿下の、その後に発表された試験結果の点数との乖離に、意を唱える事なく口を噤んでいることなど私はできなかったのだ。

    魔力操作の実技試験については、そもそも私が殿下と初めて直接顔を合わせる事ができたその時間は、魔力操作の授業時間だった。

   妹によるとクラスでは、殿下の我儘で魔力操作の授業に出ていないのだ、と担任から聞いたそうだが、私の見た所、学園側が授業を受けさせていない事は明白だった。

   それなのに、いきなり実技試験を受けさせるのは、殿下の実力を侮って恥をかかそうとしている事に他ならない。

   1年生の初めて受ける実技試験。例年保護者貴族達が見に来ることも分かっていた上で、態と行おうとしたのだ。
 
   実技試験の会場で、妹の試験を見るために来ていた隣に座る宰相でもある父に、目の前で起ころうとしていることを止めてもらおうと顔を横に向けて仰ぎ見た時の、あの父の顔……。

   貴賓席の中央で、それこそ王様みたいな態度で観覧している学園長達に、気づかない者も居ないはずであるのに、彼よりも身分の高い公爵、侯爵、伯爵……も見て見ぬ振りでいる事の異常。

   侯爵であり宰相である父が、今日は忍びで来ていて表立っての挨拶もしていない事は分かっていたが、事ここに及んで、見世物の様に扱われようとしている殿下を見ても何もしようとしない、何の表情も浮かべていない父の顔を見た時の絶望感。

   しかし、誰もが思いもよらなかった殿下の実技試験での実力の物凄さに、顔色を失ったのは一体誰だったのか。

   学園はその後直ぐに長期休暇に入ってしまったため、生徒会長である私でも表立っては何も知る事ができなかった。

    大人の世界では色々な事があった様だが、まだ成人していない私には遠い世界の事。特に上位貴族の家庭では、大人達の世界のあれこれを子供に話す様な事はない。下位貴族においてはそうでもない様だが……。

   結局、長期休暇が終わり、学園長を始め幾人もの教師が学園に来なくなった事で、あの謀られた試験の正しい結果が発表された時、殿下におかれては、その学力、魔力操作ともに、初級はもとより中級果ては高等教育までも学ぶ必要がないと判断されたと聞いた。

   ただし、この時、ここアミュレット王国では高等教育に当たる王立学園で学ぶ過ごす事が、貴族の義務とされているので、王族である殿下であれば尚の事、王立学園にてお会いする事ができるだろうと、その長い年月に想いを馳せた。

   
しおりを挟む
感想 137

あなたにおすすめの小説

幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~

月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。 「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。 そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。 『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。 その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。 スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。 ※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。) ※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。

婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです

かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。 強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。 これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

【完結】ゲーム開始は自由の時! 乙女ゲーム? いいえ。ここは農業系ゲームの世界ですよ?

キーノ
ファンタジー
 私はゲームの世界に転生したようです。主人公なのですが、前世の記憶が戻ったら、なんという不遇な状況。これもゲームで語られなかった裏設定でしょうか。  ある日、我が家に勝手に住み着いた平民の少女が私に罵声を浴びせて来ました。乙女ゲーム? ヒロイン? 訳が解りません。ここはファーミングゲームの世界ですよ?  自称妹の事は無視していたら、今度は食事に毒を盛られる始末。これもゲームで語られなかった裏設定でしょうか?  私はどんな辛いことも頑張って乗り越えて、ゲーム開始を楽しみにいたしますわ! ※紹介文と本編は微妙に違います。 完結いたしました。 感想うけつけています。 4月4日、誤字修正しました。

虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ
ファンタジー
【虐殺者《スレイヤー》】の汚名を着せられた王国戦士エリクと、 【才姫《プリンセス》】と帝国内で謳われる公爵令嬢アリア。 互いに理由は違いながらも国から追われた先で出会い、 戦士エリクはアリアの護衛として雇われる事となった。 そして安寧の地を求めて二人で旅を繰り広げる。 暴走気味の前向き美少女アリアに振り回される戦士エリクと、 不器用で愚直なエリクに呆れながらも付き合う元公爵令嬢アリア。 凸凹コンビが織り成し紡ぐ異世界を巡るファンタジー作品です。

処理中です...