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クリフ・マークィス・ゲイル 8
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最悪な結果に終わった邂逅にも関わらず、殿下は役員候補として顔を出してくれた。我々が任されている所謂雑務も不満を漏らすことなく行ってくれていた。
が、殿下を受け入れる立場にある私達の態度はお世辞にも褒められたものではなかった。
今までと変わらず殿下を居ないように扱う者や、出来損ないと嘲る者。
上位貴族と言えどもまだマナーとはなんなのか、貴族とはそもそもどの様な者なのかを学び始めたばかりの子供の我々には、その模範となるものが近くの大人、つまり自分の両親か、学園の教師位しか居ない。その大人たちの態度にこそ問題があるのだ……。
殿下はただ黙って、我々の裏にいる大人たちを篩にかけているのではないか。
それが確信に変わったのは、一年生が学園に入って初めて行う学力試験と魔力操作の実技試験が行われた時であった。
学力試験は、まず例年との違いがいくつもあった事に違和感を持ったのが始まりだった。
私には試験当事者の妹がいた事で、比較的早くその試験の異常さに気付くことができた一人だった。
私は、学園の中で殿下の近くで殿下を知ることができた極一部の人間である生徒会の役員でいたことで、より一層学園上層部の犯罪とも言える行いをより正確により早く知ることができたのは、僥倖であったと言えよう。
「問題が難しすぎた」
と、珍しく家族の揃った食卓で私に話しかけてきた妹からの問題提起があったことも、学園の姑息な手段を暴く一因になったことも大きいが、何と言っても殿下のあの記憶力。2年生どころか中等部の者でも解を導く事が難しいだろう幾何の問題を全て、一文字も漏らす事なく覚えておられるその頭脳。
その事実を認める事ができずに、あらかじめ知っていたのだろうなどと、役員の中に口にする者もいたが、あの問題数とあの複雑な数式を記憶できる事で、初めからその考えが破綻している事に何故気づかないのか、逆に口に出した奴の知能の低さに口が塞がらない思いだった。
だから、少なくとも目の前でスラスラと全ての試験問題とその答えを書き出した殿下の、その後に発表された試験結果の点数との乖離に、意を唱える事なく口を噤んでいることなど私はできなかったのだ。
魔力操作の実技試験については、そもそも私が殿下と初めて直接顔を合わせる事ができたその時間は、魔力操作の授業時間だった。
妹によるとクラスでは、殿下の我儘で魔力操作の授業に出ていないのだ、と担任から聞いたそうだが、私の見た所、学園側が授業を受けさせていない事は明白だった。
それなのに、いきなり実技試験を受けさせるのは、殿下の実力を侮って恥をかかそうとしている事に他ならない。
1年生の初めて受ける実技試験。例年保護者が見に来ることも分かっていた上で、態と行おうとしたのだ。
実技試験の会場で、妹の試験を見るために来ていた隣に座る宰相でもある父に、目の前で起ころうとしていることを止めてもらおうと顔を横に向けて仰ぎ見た時の、あの父の顔……。
貴賓席の中央で、それこそ王様みたいな態度で観覧している学園長達に、気づかない者も居ないはずであるのに、彼よりも身分の高い公爵、侯爵、伯爵……も見て見ぬ振りでいる事の異常。
侯爵であり宰相である父が、今日は忍びで来ていて表立っての挨拶もしていない事は分かっていたが、事ここに及んで、見世物の様に扱われようとしている殿下を見ても何もしようとしない、何の表情も浮かべていない父の顔を見た時の絶望感。
しかし、誰もが思いもよらなかった殿下の実技試験での実力の物凄さに、顔色を失ったのは一体誰だったのか。
学園はその後直ぐに長期休暇に入ってしまったため、生徒会長である私でも表立っては何も知る事ができなかった。
大人の世界では色々な事があった様だが、まだ成人していない私には遠い世界の事。特に上位貴族の家庭では、大人達の世界のあれこれを子供に話す様な事はない。下位貴族においてはそうでもない様だが……。
結局、長期休暇が終わり、学園長を始め幾人もの教師が学園に来なくなった事で、あの謀られた試験の正しい結果が発表された時、殿下におかれては、その学力、魔力操作ともに、初級はもとより中級果ては高等教育までも学ぶ必要がないと判断されたと聞いた。
ただし、この時、ここアミュレット王国では高等教育に当たる王立学園で学ぶ事が、貴族の義務とされているので、王族である殿下であれば尚の事、王立学園にてお会いする事ができるだろうと、その長い年月に想いを馳せた。
が、殿下を受け入れる立場にある私達の態度はお世辞にも褒められたものではなかった。
今までと変わらず殿下を居ないように扱う者や、出来損ないと嘲る者。
上位貴族と言えどもまだマナーとはなんなのか、貴族とはそもそもどの様な者なのかを学び始めたばかりの子供の我々には、その模範となるものが近くの大人、つまり自分の両親か、学園の教師位しか居ない。その大人たちの態度にこそ問題があるのだ……。
殿下はただ黙って、我々の裏にいる大人たちを篩にかけているのではないか。
それが確信に変わったのは、一年生が学園に入って初めて行う学力試験と魔力操作の実技試験が行われた時であった。
学力試験は、まず例年との違いがいくつもあった事に違和感を持ったのが始まりだった。
私には試験当事者の妹がいた事で、比較的早くその試験の異常さに気付くことができた一人だった。
私は、学園の中で殿下の近くで殿下を知ることができた極一部の人間である生徒会の役員でいたことで、より一層学園上層部の犯罪とも言える行いをより正確により早く知ることができたのは、僥倖であったと言えよう。
「問題が難しすぎた」
と、珍しく家族の揃った食卓で私に話しかけてきた妹からの問題提起があったことも、学園の姑息な手段を暴く一因になったことも大きいが、何と言っても殿下のあの記憶力。2年生どころか中等部の者でも解を導く事が難しいだろう幾何の問題を全て、一文字も漏らす事なく覚えておられるその頭脳。
その事実を認める事ができずに、あらかじめ知っていたのだろうなどと、役員の中に口にする者もいたが、あの問題数とあの複雑な数式を記憶できる事で、初めからその考えが破綻している事に何故気づかないのか、逆に口に出した奴の知能の低さに口が塞がらない思いだった。
だから、少なくとも目の前でスラスラと全ての試験問題とその答えを書き出した殿下の、その後に発表された試験結果の点数との乖離に、意を唱える事なく口を噤んでいることなど私はできなかったのだ。
魔力操作の実技試験については、そもそも私が殿下と初めて直接顔を合わせる事ができたその時間は、魔力操作の授業時間だった。
妹によるとクラスでは、殿下の我儘で魔力操作の授業に出ていないのだ、と担任から聞いたそうだが、私の見た所、学園側が授業を受けさせていない事は明白だった。
それなのに、いきなり実技試験を受けさせるのは、殿下の実力を侮って恥をかかそうとしている事に他ならない。
1年生の初めて受ける実技試験。例年保護者が見に来ることも分かっていた上で、態と行おうとしたのだ。
実技試験の会場で、妹の試験を見るために来ていた隣に座る宰相でもある父に、目の前で起ころうとしていることを止めてもらおうと顔を横に向けて仰ぎ見た時の、あの父の顔……。
貴賓席の中央で、それこそ王様みたいな態度で観覧している学園長達に、気づかない者も居ないはずであるのに、彼よりも身分の高い公爵、侯爵、伯爵……も見て見ぬ振りでいる事の異常。
侯爵であり宰相である父が、今日は忍びで来ていて表立っての挨拶もしていない事は分かっていたが、事ここに及んで、見世物の様に扱われようとしている殿下を見ても何もしようとしない、何の表情も浮かべていない父の顔を見た時の絶望感。
しかし、誰もが思いもよらなかった殿下の実技試験での実力の物凄さに、顔色を失ったのは一体誰だったのか。
学園はその後直ぐに長期休暇に入ってしまったため、生徒会長である私でも表立っては何も知る事ができなかった。
大人の世界では色々な事があった様だが、まだ成人していない私には遠い世界の事。特に上位貴族の家庭では、大人達の世界のあれこれを子供に話す様な事はない。下位貴族においてはそうでもない様だが……。
結局、長期休暇が終わり、学園長を始め幾人もの教師が学園に来なくなった事で、あの謀られた試験の正しい結果が発表された時、殿下におかれては、その学力、魔力操作ともに、初級はもとより中級果ては高等教育までも学ぶ必要がないと判断されたと聞いた。
ただし、この時、ここアミュレット王国では高等教育に当たる王立学園で学ぶ事が、貴族の義務とされているので、王族である殿下であれば尚の事、王立学園にてお会いする事ができるだろうと、その長い年月に想いを馳せた。
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