転生したら当て馬王子でした~絶対攻略される王太子の俺は、フラグを折って幸せになりたい~

HIROTOYUKI

文字の大きさ
上 下
157 / 186

チュート殿下 115 この世界の理に 3

しおりを挟む
「その姿でよろしいのですか」

 俺が大きくうなずくと。

「それでは」と一言発したキールは、俺に向けて何かを放った。

「えぇぇ……⁉」

 まさかキールが……身内から裏切られたのか、そう思った瞬間、あの帯剣の儀の時にも味わったような頭の中をかき回されるような不快感と共に、知りもしない映像が頭の中に流れ込んできた。

 もしかしたら一瞬気を失っていたのかもしれない、その場に立っていたままであったのは一応この世界で大人と認められる15歳になった意地。気がついてキールの膝枕だとかだったら恥ずか死ねるかもしれない。

 その場に立っていたことに安堵して、目の前でニヤ付いていたキールを睨んだ。

「今の何?」

 つっけんどんに問いかけてもここは許されると思う。

「この世界における、冒険者としての私たちの物語かな」

 胡散臭い笑みを浮かべてキールが答える。

「いわゆるモブキャラ。今のところこのあたりの国々では冒険者が主役の物語は採用されていないようだから、冒険者であればほぼモブ。まぁ、何があるかわからないから、慎重に探りながら行くけどね」

 キールはアミュレット王国を包み込んでいる結界のような何かを睨みつけるように一度視線をやると、これから向かうだろう魔の森の奥の方に顔を向けた。

 一瞬で入って来た映像による記録によれば、俺はアースという名の冒険者で、それなりの家出身であるが精霊と契約ができなかったことで魔法が使えないことが決定し、虐げられた5年間を経て唯一の味方であった遠い親戚のキールと共に15歳になったことをきっかけとして、冒険者として身を立てるために祖国を後にする。

 というところが今らしい。

『キールは俺の親戚のお兄さんてこと?』

 ゆっくりとこの場を後にしながら、肩を並べてこれから進む道の方に視線を向けた。道なんてどこにもないけど……。

「親戚といっても平民扱いになっているという設定みたいですよ。ただ私は精霊契約に成功したみたいで、それなりのいい扱いを受けていた、ってことみたいですけど」

 自分の設定が面白かったからか、肩を揺らしながら一応この辺りに探査をかけているようだ。

 そういえばキールは俺の成長した後の姿なのかも、と思いながらもやたらイケメンだった。

 今の姿とは違う標準装備?のキールは、ほとんど実態を持つことがなかったからほぼ俺だけが目にすることになるキールであったわけだが、どちらかといえば色見は前世寄り、見慣れている黒目に黒い髪だったが、考えてみれば最近姿を見ることになった離宮の者たちからすれば、マーシュの親戚に見えたかもしれない、色的に……。

 今の冒険者ギルドに登録したときから成長した姿を取っているキールは、あの時少しは魔法が使えることが自然である方が良いだろうという考えの元、攻撃には「火」ということで、少し赤みが買った茶色の髪色にしたのだった。真っ赤すぎるとこれも面倒を起こさないとも限らないということで……。

 俺はとにかく目立たないということをモットーに、この国で一番多い色見の茶色にしたのだ。目立って俺に魔法を使わせる気も全くなかったようだから一層使えないということにした方がいいだろうという考えだったみたい。

「魔法も使えて形もいいと、子供ほど狙われる可能性が高いですからね。もちろん誰にも触らせもしない自信は十分にありますが、わざわざ面倒を呼び込むこともありますまい」

 とは、キールの談であったが、この前まで殆ど認識阻害を外すことは無かったのだから、考えてみれば全くこのような姿を取ることは関係がなかったのかもしれない。と今ごろ思ったりしている。

「話は追々。暗くなる前に隣の国の街に入ってしまいましょう。いきなり野宿は私も嫌ですよ」

 折角誰にでも認識されるしっかりとした実態を持ったのですから、という心の声がはっきりと聞こえてきた。

 ここからわざわざ魔の森の中のけもの道を通ることもない。短距離か又は長距離のジャンプでもいいが、ジャンプした先の状況を探るのも手がかかるから、とりあえず空を飛んでいくことにした。

 空間魔法に関しては、精霊魔法ではその存在事態怪しいということらしいが、この国タリスマン帝国における魔法、スクロールを用いて手に入れることができるスキルを持って行う魔法では、全くその存在がないとも言えないものらしい。

「ダンジョンで手に入れることができるレアスキルの中に空間魔法もあるようです。今のところはマジックバックに使われている以上のものは秘匿されているためなのか、その存在を確認されてはいないようですが」

 もう既にこちらの国のどこかの情報にアクセスしたのか、俺よりもこの世界の理に近いところまで行くことができる一種のバグであるキールは、簡単にそんなことを言ってくる。

「そもそもこの世界のバグは、アースの方ですよ。アースが居なければ私の存在なんてないのですからね」

 森の木の上を飛行しながら、時々高く飛んでこのあたりのマッピングも行う。

 冒険者の行き来が全くないこともないという程度の忌み嫌われている土地だ。もちろんきっちりとした地図などない。需要もない。

 この世界にはない移動速度でタリスマン帝国の魔の森の端に向かう。

 一番はじめにタリスマン帝国に向かったのは、そこがすぐ隣の国ということはもちろんだが、あのお花畑ヒロインが関係している国であることは疑いのないところであるから、とりあえず探ってみることにした、という理由もあったりする。
しおりを挟む
感想 137

あなたにおすすめの小説

幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~

月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。 「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。 そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。 『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。 その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。 スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。 ※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。) ※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。

婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです

かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。 強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。 これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

【完結】ゲーム開始は自由の時! 乙女ゲーム? いいえ。ここは農業系ゲームの世界ですよ?

キーノ
ファンタジー
 私はゲームの世界に転生したようです。主人公なのですが、前世の記憶が戻ったら、なんという不遇な状況。これもゲームで語られなかった裏設定でしょうか。  ある日、我が家に勝手に住み着いた平民の少女が私に罵声を浴びせて来ました。乙女ゲーム? ヒロイン? 訳が解りません。ここはファーミングゲームの世界ですよ?  自称妹の事は無視していたら、今度は食事に毒を盛られる始末。これもゲームで語られなかった裏設定でしょうか?  私はどんな辛いことも頑張って乗り越えて、ゲーム開始を楽しみにいたしますわ! ※紹介文と本編は微妙に違います。 完結いたしました。 感想うけつけています。 4月4日、誤字修正しました。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...