154 / 186
クリフ・マークィス・ゲイル 5
しおりを挟む
私が王都にやって来て五年の歳月が流れた。
昨年、無事に精霊契約の儀式に臨み、我が侯爵家の当主が必ず結ばれなくてはならない水の精霊と契約を結ぶことができた。
それもただの水の聖霊ではなく、どうも父親の契約した精霊よりも上位の精霊のようで、髪の色も目の色も父親よりも濃い青色を得ることができた。
そのことに喜びながらも時々余り良い感情がこもったとは思えない瞳で私を見ることが増えてきた父親に、今までのように肯定できない気持ちが育ってきていることを止めることができないでいた。
そして私の一年前には、あの伯爵王子も精霊契約を済ませ、一般的な感覚でいえば不義の子供であったことをその契約で表ざたになったということなのに、王の子供であることを証明したことによって、その立場がより明確になった、という少しおかしなことになっている。
つまり、弱くはあるが非常に弱くはあるが、我が国の王家特有ともいえる光の精霊と契約ができたということだ。髪の色にほんのりと金が浮かぶような一見薄い茶色に、瞳は薄い青の二属性。
この年は精霊と契約できた者が殊の外少なく、髪の色と瞳の色が契約によって変化した伯爵王子は、それは目立ち、控えの間で待っていた国王陛下に抱きしめられて寿がれたことで、一気にその存在が在野まで知られることになった。
そして今年は我が妹フォスキーアを含めて、かの本物の殿下も精霊契約を結ぶ十歳だ。
まだ成人前である私は、当然の如く神殿までついていくことは許されなかったので、タウンハウスで大人しく儀式を終えて帰ってくる妹たちを待つ。
流石に精霊契約の儀式を受けない、などということはできるわけもなく、この王都に来ることを嫌がっていた妹も母と共に五日前にはこの屋敷に到着していた。
初めての王都に興味を示すことは無く、何か本能的にこの王都を嫌っている妹。
母も幼い妹の意志を尊重する態度を崩す事なく、自身もこの王都に滞在することを厭っていることを隠しもしない。
子供の目からも決して夫婦仲が悪いようにも見えないのだが、表ではなく裏側の力関係が、父よりも母が強い面があることに、その醸し出す空気で気付くものだ。
今日も母は神殿までついていくことなく、渋る妹をこの屋敷で見送った。
今はこの屋敷の中で一番見晴らしと日当たりの良い夫人の主室で、私と同じように妹たちの帰りを待っていることだろう。
……結果。妹は無事私と同じように精霊と契約ができたようで、朝とは全く違う色を纏って帰ってきた。
ただ私がほぼ水に特化していることとは違って、水とそして土の精霊の二属性を備え、魔力量も多い、とても貴重な令嬢に生まれ変わって帰ってきたのだが……。
このことは本来ならば、とても喜ばしく誇らしいものであるはずのものである。
しかし、喜びの儀式から帰ってきたはずの妹は、挨拶もそこそこに自室にこもってしまったし、率先して祝いの宴でも開こうとした父親も、娘のこと以上に気になることでもあったのか、館に帰ってきたと思いしな、王城にとんぼ返りしてしまった。
私は仕方なく、今日の儀式に付添としていた侍女長に説明を求めたが、もちろんあの儀式の中までついて行けるわけもなく、神殿の中にも入っていくことができずに、外で待っていた侍女長には詳しい状況もわかるはずもなく……。
「お嬢様が、『きらきらひかる髪の毛の方が居たの……。あの方は……怖い……』とおっしゃられた後ふさぎこまれてしまいまして……。旦那様も魔法でどなたかとお話をされていたのか、馬車の中でも全くお嬢様にお声をかけてくださることもなくて……」
と、いつもは全く浮かべない不満を顔一面に浮かばせて、母に呼ばれると下がっていった。
何が起こったのかわからないまま、結局妹のための祝いを行うこともなく、妹は流石にプレ舞踏会には出席しなければならずに出席したが、その感想を話すことなく領地に帰ってしまった。
すぐに初級学校に入学しなければならないのにだ。
もちろん母は妹について行き、父はそのことに何も言わなかった。
そんな父は、妹のことにも母のことにも全く気を留めていないようで、そのことに日々不満が募っていた矢先に、私は父に王城の執務室に呼び出された。
初めて訪れる宰相である父の執務室。
ドキドキする心臓を抑えながら、憧れの王城で、何かと不満に思っていることがあったとしても尊敬している父から直接下された初仕事は、初級学校においての王子殿下との接触だった。
昨年、無事に精霊契約の儀式に臨み、我が侯爵家の当主が必ず結ばれなくてはならない水の精霊と契約を結ぶことができた。
それもただの水の聖霊ではなく、どうも父親の契約した精霊よりも上位の精霊のようで、髪の色も目の色も父親よりも濃い青色を得ることができた。
そのことに喜びながらも時々余り良い感情がこもったとは思えない瞳で私を見ることが増えてきた父親に、今までのように肯定できない気持ちが育ってきていることを止めることができないでいた。
そして私の一年前には、あの伯爵王子も精霊契約を済ませ、一般的な感覚でいえば不義の子供であったことをその契約で表ざたになったということなのに、王の子供であることを証明したことによって、その立場がより明確になった、という少しおかしなことになっている。
つまり、弱くはあるが非常に弱くはあるが、我が国の王家特有ともいえる光の精霊と契約ができたということだ。髪の色にほんのりと金が浮かぶような一見薄い茶色に、瞳は薄い青の二属性。
この年は精霊と契約できた者が殊の外少なく、髪の色と瞳の色が契約によって変化した伯爵王子は、それは目立ち、控えの間で待っていた国王陛下に抱きしめられて寿がれたことで、一気にその存在が在野まで知られることになった。
そして今年は我が妹フォスキーアを含めて、かの本物の殿下も精霊契約を結ぶ十歳だ。
まだ成人前である私は、当然の如く神殿までついていくことは許されなかったので、タウンハウスで大人しく儀式を終えて帰ってくる妹たちを待つ。
流石に精霊契約の儀式を受けない、などということはできるわけもなく、この王都に来ることを嫌がっていた妹も母と共に五日前にはこの屋敷に到着していた。
初めての王都に興味を示すことは無く、何か本能的にこの王都を嫌っている妹。
母も幼い妹の意志を尊重する態度を崩す事なく、自身もこの王都に滞在することを厭っていることを隠しもしない。
子供の目からも決して夫婦仲が悪いようにも見えないのだが、表ではなく裏側の力関係が、父よりも母が強い面があることに、その醸し出す空気で気付くものだ。
今日も母は神殿までついていくことなく、渋る妹をこの屋敷で見送った。
今はこの屋敷の中で一番見晴らしと日当たりの良い夫人の主室で、私と同じように妹たちの帰りを待っていることだろう。
……結果。妹は無事私と同じように精霊と契約ができたようで、朝とは全く違う色を纏って帰ってきた。
ただ私がほぼ水に特化していることとは違って、水とそして土の精霊の二属性を備え、魔力量も多い、とても貴重な令嬢に生まれ変わって帰ってきたのだが……。
このことは本来ならば、とても喜ばしく誇らしいものであるはずのものである。
しかし、喜びの儀式から帰ってきたはずの妹は、挨拶もそこそこに自室にこもってしまったし、率先して祝いの宴でも開こうとした父親も、娘のこと以上に気になることでもあったのか、館に帰ってきたと思いしな、王城にとんぼ返りしてしまった。
私は仕方なく、今日の儀式に付添としていた侍女長に説明を求めたが、もちろんあの儀式の中までついて行けるわけもなく、神殿の中にも入っていくことができずに、外で待っていた侍女長には詳しい状況もわかるはずもなく……。
「お嬢様が、『きらきらひかる髪の毛の方が居たの……。あの方は……怖い……』とおっしゃられた後ふさぎこまれてしまいまして……。旦那様も魔法でどなたかとお話をされていたのか、馬車の中でも全くお嬢様にお声をかけてくださることもなくて……」
と、いつもは全く浮かべない不満を顔一面に浮かばせて、母に呼ばれると下がっていった。
何が起こったのかわからないまま、結局妹のための祝いを行うこともなく、妹は流石にプレ舞踏会には出席しなければならずに出席したが、その感想を話すことなく領地に帰ってしまった。
すぐに初級学校に入学しなければならないのにだ。
もちろん母は妹について行き、父はそのことに何も言わなかった。
そんな父は、妹のことにも母のことにも全く気を留めていないようで、そのことに日々不満が募っていた矢先に、私は父に王城の執務室に呼び出された。
初めて訪れる宰相である父の執務室。
ドキドキする心臓を抑えながら、憧れの王城で、何かと不満に思っていることがあったとしても尊敬している父から直接下された初仕事は、初級学校においての王子殿下との接触だった。
20
お気に入りに追加
1,706
あなたにおすすめの小説

幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~
月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。
「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。
そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。
『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。
その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。
スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。
※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。)
※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。

婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです
かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。
強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。
これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

【完結】ゲーム開始は自由の時! 乙女ゲーム? いいえ。ここは農業系ゲームの世界ですよ?
キーノ
ファンタジー
私はゲームの世界に転生したようです。主人公なのですが、前世の記憶が戻ったら、なんという不遇な状況。これもゲームで語られなかった裏設定でしょうか。
ある日、我が家に勝手に住み着いた平民の少女が私に罵声を浴びせて来ました。乙女ゲーム? ヒロイン? 訳が解りません。ここはファーミングゲームの世界ですよ?
自称妹の事は無視していたら、今度は食事に毒を盛られる始末。これもゲームで語られなかった裏設定でしょうか?
私はどんな辛いことも頑張って乗り越えて、ゲーム開始を楽しみにいたしますわ!
※紹介文と本編は微妙に違います。
完結いたしました。
感想うけつけています。
4月4日、誤字修正しました。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる