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チュート殿下 112 ……動くかな……
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「マーシュにはまた余計な心労をかけることになるなぁ……」
この離宮の中で一番日当たりがいい中庭に面したリビングで、何かワチャワチャ庭でやっているリフルを含めた若い侍従たちを眺めつつ、ゆっくりと紅茶を楽しみながら思わず心の声がこぼれたのを、すぐ近くで侍従の代わりなのか軽食を準備していたキールだけがその声を拾ったようだ。
「なんだ、やっと動く気になったのかい?」
こちらの気持ちもすべて丸わかりのくせに、最近のキールはより一層人間臭くなって、なんだかそれがくすぐったいような、くやしいような、嬉しいような……。
俺のこのような感情もわかるのだろう、紅茶を用意する手が止まり、なんだか微妙な表情を浮かべている。
この頃はしっかり侍従というか、執事というか、とにかく超側近として、いつも俺の近くに居るのがこの離宮では当たり前のこととなっているキール。
俺よりも余程マーシュに信頼されているようで、そのことに関しては胸の奥がムズムズして、なんだかあまりいい気はしないのだが……。実力的にも、いくら俺のスキルから生まれた存在といえども、判断の適格性からも俺よりも上なのでしょうがないのだが……。
「アースクエイク王子はここからは動かないよ。ここに居ることが一番安全だから」
今のところ俺やキールより実力が上回る魔術師がこの国にはいないようで、その点に関してはこの離宮をどうにかされることは無いだろうから心配していない。
この離宮から外に出る時に狙われたら困るので、この離宮と同じくらいとは言えないが、攫われることがないような防御は、この離宮の関係者すべてに掛けてあるし、それ用の魔導具も渡してある。
考えたくないが、心変わりしてこちらの敵になってしまうような者がいたとしら、これまで彼らを守っていた魔導具が歯をむくことになるだろう。
「だけど……冒険者のアースは、元々どこに行くのも自由だろう?」
暫くご無沙汰になっていた冒険者家業に思いをはせた。
長距離の転移魔法は、一度行ったことある場所にしか行けないと言う制約があるが、短距離のものであれば目視できればそこまでは跳べる。視力を強化すれば結構遠くまで見られるし、上に飛んで周りを見回せばこの狭い世界どこまでも飛べるかもしれない。
旅をただの移動、前世での飛行機移動のように考えるか、移動することも旅の一部と考えるかで随分と変わってくると思うけど。
これまでよりも時間は十分に確保できるから、本格的に冒険ができるかもしれないことに今自分が置かれている状況も忘れて高揚してしまう。
そんな俺の心持が手に取る様にわかるキールは、しっかりと従者のお仕着せを纏い、部屋の隅でニヤニヤ笑って見ている。
「キールだって嬉しいだろう?これから本格的にこの世界の謎に正面から挑むことができるかもしれないんだぞ」
俺は、どうにも浮かれていることを気付かれたくなくて、早口である意味本当の目的であることをまくしたてた。
キールは表情を変えることなく、「そうですね」というだけである。
なんとなく、ばつが悪くなってキールに背を向けるように視線を動かした。
「……何やってるんだ……?」
相変わらず中庭ではリフルたちがまだワチャワチャしている。
中庭の隅に何か建てているようだ。
俺の意識が中庭に向かったことに気付いたのか、同じ様に中庭に視線を向けたキールは、少しの間その動きを止めて外の様子に集中しているように見える。
その時間数秒、俺の意識は既にいつもと違う様子のキールへ。
「殿下が学園に通わないことを宣言されたことで、これまで以上にこの離宮内にいらっしゃることになるから、アスレチックを作り直すと、頑張っているみたいですよ」
「アスレチック?」
そう言えば、前世の記憶を取り戻して本格的にこの離宮に引きこもるようになった頃、とにかく体を動かしたかった俺は、なんとなく思い出したアスレチックの記憶をもとに、いくつかの遊具もどきを作って、ボッチ遊びも充実したものにしたのだ。
その時作ったのは今思えばとても簡単で稚拙なものだ。
もちろんまだまだ子供の体であった俺が、肉体労働できるわけもなく、拙い記憶の拙い知識で、何とか形を伝えて作ってもらったものだ。
いくつかに切断した大木を高さを変えて凸凹に埋めたもの。
木材で作った雲梯(もどき)。
木の枝ににロープを結んだターザンロープのようなもの。
土魔法が得意なマーシュに滑り台も作ってもらった。
知能は大人、体は子供、のどこかの誰かと同じような状態になったばっかりの俺だったが、まだまだ体の方に心が引っ張られている感じだったから、その簡易なアスレチックで遊び倒したものだ。
それもしばらくして、体よりも頭の方に精神が追い付いて来てからは、もっぱら魔法の方に興味が行って、アスレチックに向かうことは無くなってしまった……。
あの時よりも耐久性のあるものを作らないと体が大きくなり重くなった今、直ぐに壊れてしまうかもしれないから、どれほどのものができるのか心配でもあるが、侍従たちが一生懸命に作ってくれているそれらで思い切り汗を流せる日が来るのもそう遠いものでは無いのかな、と思いながらせっかく侍従のまねごとをしているキールに、紅茶のおかわりを頼んだ。
この離宮の中で一番日当たりがいい中庭に面したリビングで、何かワチャワチャ庭でやっているリフルを含めた若い侍従たちを眺めつつ、ゆっくりと紅茶を楽しみながら思わず心の声がこぼれたのを、すぐ近くで侍従の代わりなのか軽食を準備していたキールだけがその声を拾ったようだ。
「なんだ、やっと動く気になったのかい?」
こちらの気持ちもすべて丸わかりのくせに、最近のキールはより一層人間臭くなって、なんだかそれがくすぐったいような、くやしいような、嬉しいような……。
俺のこのような感情もわかるのだろう、紅茶を用意する手が止まり、なんだか微妙な表情を浮かべている。
この頃はしっかり侍従というか、執事というか、とにかく超側近として、いつも俺の近くに居るのがこの離宮では当たり前のこととなっているキール。
俺よりも余程マーシュに信頼されているようで、そのことに関しては胸の奥がムズムズして、なんだかあまりいい気はしないのだが……。実力的にも、いくら俺のスキルから生まれた存在といえども、判断の適格性からも俺よりも上なのでしょうがないのだが……。
「アースクエイク王子はここからは動かないよ。ここに居ることが一番安全だから」
今のところ俺やキールより実力が上回る魔術師がこの国にはいないようで、その点に関してはこの離宮をどうにかされることは無いだろうから心配していない。
この離宮から外に出る時に狙われたら困るので、この離宮と同じくらいとは言えないが、攫われることがないような防御は、この離宮の関係者すべてに掛けてあるし、それ用の魔導具も渡してある。
考えたくないが、心変わりしてこちらの敵になってしまうような者がいたとしら、これまで彼らを守っていた魔導具が歯をむくことになるだろう。
「だけど……冒険者のアースは、元々どこに行くのも自由だろう?」
暫くご無沙汰になっていた冒険者家業に思いをはせた。
長距離の転移魔法は、一度行ったことある場所にしか行けないと言う制約があるが、短距離のものであれば目視できればそこまでは跳べる。視力を強化すれば結構遠くまで見られるし、上に飛んで周りを見回せばこの狭い世界どこまでも飛べるかもしれない。
旅をただの移動、前世での飛行機移動のように考えるか、移動することも旅の一部と考えるかで随分と変わってくると思うけど。
これまでよりも時間は十分に確保できるから、本格的に冒険ができるかもしれないことに今自分が置かれている状況も忘れて高揚してしまう。
そんな俺の心持が手に取る様にわかるキールは、しっかりと従者のお仕着せを纏い、部屋の隅でニヤニヤ笑って見ている。
「キールだって嬉しいだろう?これから本格的にこの世界の謎に正面から挑むことができるかもしれないんだぞ」
俺は、どうにも浮かれていることを気付かれたくなくて、早口である意味本当の目的であることをまくしたてた。
キールは表情を変えることなく、「そうですね」というだけである。
なんとなく、ばつが悪くなってキールに背を向けるように視線を動かした。
「……何やってるんだ……?」
相変わらず中庭ではリフルたちがまだワチャワチャしている。
中庭の隅に何か建てているようだ。
俺の意識が中庭に向かったことに気付いたのか、同じ様に中庭に視線を向けたキールは、少しの間その動きを止めて外の様子に集中しているように見える。
その時間数秒、俺の意識は既にいつもと違う様子のキールへ。
「殿下が学園に通わないことを宣言されたことで、これまで以上にこの離宮内にいらっしゃることになるから、アスレチックを作り直すと、頑張っているみたいですよ」
「アスレチック?」
そう言えば、前世の記憶を取り戻して本格的にこの離宮に引きこもるようになった頃、とにかく体を動かしたかった俺は、なんとなく思い出したアスレチックの記憶をもとに、いくつかの遊具もどきを作って、ボッチ遊びも充実したものにしたのだ。
その時作ったのは今思えばとても簡単で稚拙なものだ。
もちろんまだまだ子供の体であった俺が、肉体労働できるわけもなく、拙い記憶の拙い知識で、何とか形を伝えて作ってもらったものだ。
いくつかに切断した大木を高さを変えて凸凹に埋めたもの。
木材で作った雲梯(もどき)。
木の枝ににロープを結んだターザンロープのようなもの。
土魔法が得意なマーシュに滑り台も作ってもらった。
知能は大人、体は子供、のどこかの誰かと同じような状態になったばっかりの俺だったが、まだまだ体の方に心が引っ張られている感じだったから、その簡易なアスレチックで遊び倒したものだ。
それもしばらくして、体よりも頭の方に精神が追い付いて来てからは、もっぱら魔法の方に興味が行って、アスレチックに向かうことは無くなってしまった……。
あの時よりも耐久性のあるものを作らないと体が大きくなり重くなった今、直ぐに壊れてしまうかもしれないから、どれほどのものができるのか心配でもあるが、侍従たちが一生懸命に作ってくれているそれらで思い切り汗を流せる日が来るのもそう遠いものでは無いのかな、と思いながらせっかく侍従のまねごとをしているキールに、紅茶のおかわりを頼んだ。
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