135 / 186
チュート殿下 100 生徒総会 1
しおりを挟む
講堂は入園式の時よりも大勢の生徒で埋まっていた。
あの時は、在校生は生徒会の人間だけで、そのほかの席は保護者が座っていたからか。
今日は初めから生徒会のメンバーは壇上に上がっているようだ。
今回も俺は、俺と認識することがギリギリできないくらいの認識阻害の魔法を使っている。全く認識できないほどの魔法を使うと、誰も席についていないように見えて、逆に目立ってしまうかもしれないからだ。
Sクラスの教室では、俺がボケッとしているところを隠すためなのかどうなのか、キールが幻影を出してしゃっきりした王子様の像を見せているようなので、俺の本当の姿を認識しているかどうかはわからないが、取りあえず、俺の姿を朧気に知ってはいる事だろう。
廊下を移動するときは斥候役張りに気配を消しているので、この学園内で俺の姿を知るものはまだほとんど居ないと考えている。
俺がたわいもないことを考えている間に、生徒の入場が終わったようで、壇上で並べられた椅子に座っていた生徒会の役員と思われる者の1人が中央まで出てきて声を上げた。
声はマイクのようなものを通すこともなく、大きく拡散されて講堂内に響く。
「あぁ、えぇ……生徒の入場も終了したようですので……ただいまから今年度一回目の生徒総会を始めます。会長挨拶」
役員たちの真ん中に座っていた1人がおもむろに立ち上がり中央に。
今まで話していたその人は、頭を下げながら一歩下がって中央の立ち位置から退く。
気づけば、壇上に居る人間すべて、会長と思われる人物以外、直立したまま頭を下げていた。
そして、俺の周りも含めて、この講堂に居る全員が立ち上がり、壇上の役員と同じように皆頭を下げていた。
『……なにこれ……⁉』
キールと俺の心の声が重なる。
壁際に座っていた教師たちも、深々とではないが、皆視線は床を見ているような角度を保っている。
『……どこかの独裁者?……なにかの宗教?』
キールもドン引き。むろん俺も。
俺は席から立ち上がることなくこの状況を見つめるのみ。
壇上では、しばらくこの状態を睥睨していた生徒会長が一つ大きくうなずいてから、右手をスッと上にあげてから降ろす。
まるで決められていた舞踊のように、皆一斉に頭を挙げ席につく。
その一糸乱れぬ姿は、前世で見たことがあったドキュメンタリー映像の中の独裁者を讃える祝典の姿と重なって見えて、思わず身震いしてしまった。
壇上の独裁者?は、表情を全く変えることなく、しかし視線だけはせわしなく動かして、このあたりを気にしているのがわかった。
『……もしかしたら、何か俺に関係するようなことでも企んでいるのではないのか……』
一度小さく首を振って、今心の中に浮かんだ思いを打ち消す。
伯爵王子に関する思考が、どうもこちらに対して何か仕掛けてくるのではないかという、ネガティブな思考に流れてしまってしょうがない。
彼のことについては、特に最近の彼については何も知らないのだから、悪く悪く判断するものでは無い、と戒めるのだが……。
そんな考えが浮かんで消える間もなく、何でも鑑定できてしまうキールが彼の心の表層の一部から、俺に対する悪意を見つけてしまうのだ。
『……自分よりも優れているモノはどんなモノでも許せない……』
ゲームの中のチュート殿下が根底に抱えていた真っ黒な心の源の一つともいえる、そんな考え……。
チュート殿下は身分だけはピカイチ。そのことに胡坐をかいて努力というものを全くしなかった。
周りも、国王陛下に跡取りになる王子が(表向き)ただ一人しかいなかったために、何もできないことを感じさせることなく、初級学校、中級学校と歳を重ね、誰もが手に負えない自尊人ばかり強い天狗になったところで、この学園に入園する所から、乙女ゲームが始まることになるのだ。
何もできないのに身分的なものから、その学校で成績が良いく人望の厚い者が就任するはずの生徒会の会長になり、その世代で身分が高く、一番賢い令嬢と言われていたフォスキーア・マルケーゼ・ゲイル侯爵令嬢、つまり、クリフ・マークィス・ゲイル侯爵子息の妹と婚約を結ぶ。
そして、その兄を含めた当代一といわれる側近候補たちを従えて、鳴り物入りで送る学園生活。
婚約者に関しては、今の俺にも婚約者が居ないように、伯爵王子にも誰か決まった人が居るということは報告に上がっていない。
さすがに、いくら彼が表立って国王陛下のご落胤であるという扱いを受けていても、現実的な身分は伯爵家の子息というものであるから、なかなかそれよりも上の身分で在り宰相のご令嬢であるフォスキーアと婚約を結ぶことは難しいのだろう。
一応俺も居るしね……。
あの時は、在校生は生徒会の人間だけで、そのほかの席は保護者が座っていたからか。
今日は初めから生徒会のメンバーは壇上に上がっているようだ。
今回も俺は、俺と認識することがギリギリできないくらいの認識阻害の魔法を使っている。全く認識できないほどの魔法を使うと、誰も席についていないように見えて、逆に目立ってしまうかもしれないからだ。
Sクラスの教室では、俺がボケッとしているところを隠すためなのかどうなのか、キールが幻影を出してしゃっきりした王子様の像を見せているようなので、俺の本当の姿を認識しているかどうかはわからないが、取りあえず、俺の姿を朧気に知ってはいる事だろう。
廊下を移動するときは斥候役張りに気配を消しているので、この学園内で俺の姿を知るものはまだほとんど居ないと考えている。
俺がたわいもないことを考えている間に、生徒の入場が終わったようで、壇上で並べられた椅子に座っていた生徒会の役員と思われる者の1人が中央まで出てきて声を上げた。
声はマイクのようなものを通すこともなく、大きく拡散されて講堂内に響く。
「あぁ、えぇ……生徒の入場も終了したようですので……ただいまから今年度一回目の生徒総会を始めます。会長挨拶」
役員たちの真ん中に座っていた1人がおもむろに立ち上がり中央に。
今まで話していたその人は、頭を下げながら一歩下がって中央の立ち位置から退く。
気づけば、壇上に居る人間すべて、会長と思われる人物以外、直立したまま頭を下げていた。
そして、俺の周りも含めて、この講堂に居る全員が立ち上がり、壇上の役員と同じように皆頭を下げていた。
『……なにこれ……⁉』
キールと俺の心の声が重なる。
壁際に座っていた教師たちも、深々とではないが、皆視線は床を見ているような角度を保っている。
『……どこかの独裁者?……なにかの宗教?』
キールもドン引き。むろん俺も。
俺は席から立ち上がることなくこの状況を見つめるのみ。
壇上では、しばらくこの状態を睥睨していた生徒会長が一つ大きくうなずいてから、右手をスッと上にあげてから降ろす。
まるで決められていた舞踊のように、皆一斉に頭を挙げ席につく。
その一糸乱れぬ姿は、前世で見たことがあったドキュメンタリー映像の中の独裁者を讃える祝典の姿と重なって見えて、思わず身震いしてしまった。
壇上の独裁者?は、表情を全く変えることなく、しかし視線だけはせわしなく動かして、このあたりを気にしているのがわかった。
『……もしかしたら、何か俺に関係するようなことでも企んでいるのではないのか……』
一度小さく首を振って、今心の中に浮かんだ思いを打ち消す。
伯爵王子に関する思考が、どうもこちらに対して何か仕掛けてくるのではないかという、ネガティブな思考に流れてしまってしょうがない。
彼のことについては、特に最近の彼については何も知らないのだから、悪く悪く判断するものでは無い、と戒めるのだが……。
そんな考えが浮かんで消える間もなく、何でも鑑定できてしまうキールが彼の心の表層の一部から、俺に対する悪意を見つけてしまうのだ。
『……自分よりも優れているモノはどんなモノでも許せない……』
ゲームの中のチュート殿下が根底に抱えていた真っ黒な心の源の一つともいえる、そんな考え……。
チュート殿下は身分だけはピカイチ。そのことに胡坐をかいて努力というものを全くしなかった。
周りも、国王陛下に跡取りになる王子が(表向き)ただ一人しかいなかったために、何もできないことを感じさせることなく、初級学校、中級学校と歳を重ね、誰もが手に負えない自尊人ばかり強い天狗になったところで、この学園に入園する所から、乙女ゲームが始まることになるのだ。
何もできないのに身分的なものから、その学校で成績が良いく人望の厚い者が就任するはずの生徒会の会長になり、その世代で身分が高く、一番賢い令嬢と言われていたフォスキーア・マルケーゼ・ゲイル侯爵令嬢、つまり、クリフ・マークィス・ゲイル侯爵子息の妹と婚約を結ぶ。
そして、その兄を含めた当代一といわれる側近候補たちを従えて、鳴り物入りで送る学園生活。
婚約者に関しては、今の俺にも婚約者が居ないように、伯爵王子にも誰か決まった人が居るということは報告に上がっていない。
さすがに、いくら彼が表立って国王陛下のご落胤であるという扱いを受けていても、現実的な身分は伯爵家の子息というものであるから、なかなかそれよりも上の身分で在り宰相のご令嬢であるフォスキーアと婚約を結ぶことは難しいのだろう。
一応俺も居るしね……。
10
お気に入りに追加
1,706
あなたにおすすめの小説

幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~
月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。
「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。
そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。
『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。
その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。
スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。
※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。)
※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。

婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです
かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。
強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。
これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

【完結】ゲーム開始は自由の時! 乙女ゲーム? いいえ。ここは農業系ゲームの世界ですよ?
キーノ
ファンタジー
私はゲームの世界に転生したようです。主人公なのですが、前世の記憶が戻ったら、なんという不遇な状況。これもゲームで語られなかった裏設定でしょうか。
ある日、我が家に勝手に住み着いた平民の少女が私に罵声を浴びせて来ました。乙女ゲーム? ヒロイン? 訳が解りません。ここはファーミングゲームの世界ですよ?
自称妹の事は無視していたら、今度は食事に毒を盛られる始末。これもゲームで語られなかった裏設定でしょうか?
私はどんな辛いことも頑張って乗り越えて、ゲーム開始を楽しみにいたしますわ!
※紹介文と本編は微妙に違います。
完結いたしました。
感想うけつけています。
4月4日、誤字修正しました。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる