転生したら当て馬王子でした~絶対攻略される王太子の俺は、フラグを折って幸せになりたい~

HIROTOYUKI

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ブラオ・マークィス・ゲイル 3

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 殿下のことでこの呪いのようなことに初めて気付いたきっかけは、帯剣の儀の時のことだった。

 帯剣の儀はこの国の男児に生まれたものが初めて体験する、とても大切な儀式だ。

 貴族であれば行う事は当然で、王族であれば、行わないとは、すなわち生れていないことと同意と言っても過言でない、それほど大切な儀式なのだ。

 その儀式のことを、我々は殿下の侍従である、マーシュ・スリートに聞かれなければ、全く思い出してもいなかったのだ。

 問いかけられたのが、儀式の直前でなくてよかった、でなければ殿下の存在を公に全く認めていないこととなったのだ。

 それまでの態度も、褒められたことではない。私の特性として、物事を忘れられないということがあるから、表面的には忘れていても思い出そうとすれば思い出せる、その能力があるから、今もこのように過去の殿下のことを話せるのかもしれない。
 
 殿下の帯剣の儀の話があった時にも、殿下のことをすぐに思い出せた私はまだしも、全く殿下のことについて反応を返さない脳筋ロートのことや、父親であるはずの陛下のことを、とても冷たい瞳で見ていたマーシュのことすら私はきっかけさえあれば思い出す、忘れられずにいるからだ。

 殿下が誕生されたことは、周りの人々の『記憶』に何故だか残りがたくなっているとしても、『文書』にはしっかりと残っていて、もちろんその時は国を挙げてのお祝いもなされたのだ、普通に……。

 普通でなくなったのは、殿下がお生まれになった後、殿下のご様子がどう見繕っても普通のお子様ではないと判明したあたりからだったか……。

 王妃殿下は、産み落とされたとたん殿下に関して全く関心を持たれることがなくなり、それはとても尋常なことではなかったが、元々の経緯を思えば妃殿下の近くにいた者ほど、そのことに関して許してしまった。

 妃殿下の近くにいる者で、お産みになった殿下のことを話す者など全く存在しなくなったのだ、殿下の存在をなかったものにするように。

 しかし、アースクエイク殿下はこの世界にしっかりと存在し、すくすくとご成長していらしたのだ、我々の意識の中では存在していなかったとしても……。

 この呪いは目の前に見えて存在している者まで、無かったことにはできないらしい、当たり前のことであるが……。

 5歳の帯剣の儀については、さすがのマーシュも一人で執り行えるものではないから、本意ではないとしても我々が動かなければ国の行事としての帯剣の儀はできない。

 だから、何もしない我々に対して、その行動を起こすことを期待しての、ぎりぎりのタイミング。これ以上何も準備をしないのならば、行事を行うことができない時に、我らに話をしに来たマーシュの気持ちを思うと、心が潰れる。そんな資格もないが……。

 マーシュには、我々の掛かっている呪いのことなどみじんもわかっていないのだから、ただただ薄情な父母、その取り巻き、以外の何物にも見えなかっただろう。それは今でもだ。

 この呪いで殿下のことを忘れてしまうと言っても、次の日に記憶喪失のように忘れるというものではない。

 このあたりの構造についてはどのようになっているのか全く分からない。

 帯剣の儀の時も、帯剣の儀を行う事実はそこにあるから、それに付随した殿下のこともきっちりと心にある。
 
 帯剣の儀も神殿がらみで行われるから、神殿の神職たちは一般的な情報として、殿下の存在は知っている。そちらからの問い合わせも、あったらしいが私の所には上がってくることがなかった。殿下のことに関わらなければならない者ほど、その存在を認識していないわけだから、神殿からの問い合わせも私のごく近くで、無かったものとされたのだろう。

 居ない者の儀式などするわけがないのだから。
 
 帯剣の儀が行われることが決まって、そのあたりの心の葛藤や矛盾もなぜか湧き上がってこなかったことも、このことが呪いの一種であると考えた所以だ。
 
 そして、極めつけは儀式のときの、「殿下に対する攻撃魔法」。

 攻撃魔法の一種と思われる白い光に襲われた時、不思議と何の抵抗も感じなかった。その場で起こったことといえば、眩しい光に曝されたことと、アースクエイク殿下が倒れて意識不明になったこと。

 王城の中心地での暴挙であるはずなのに、ほんの数日バタバタとしただけで、あの儀式に参加した者たちすべてから、その時の襲撃の記憶と襲撃された殿下の記憶が消え去ってしまった。

 私すら、殿下のことを思い出そうとしなければ、記憶の表層に現れた来ることがないのだから、これを呪いといわずして何と言っていいのか。

 
 
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