84 / 186
ブラオ・マークィス・ゲイル 1
しおりを挟む
我がゲイル侯爵家は代々宰相を務め、このアミュレット王国の中でも重鎮といえる地位を築いてきた。
私は、そのことを誇りに思い、日々宰相職という激務に耐えてきたとも言える。
城に勤める官吏たちは、私のことを「冷徹な青の宰相」とカゲでヒナタで言われていることは知っている。
この世の中、平和が比較的長く続いている現在、緩み切った空気の中で、誰かが悪者にならないとこの王国は益々腐っていくだけである。
厳しくするのが頂点つまり国王であった場合、恐怖政治にとらわれてしまうかもしれず、健全な王国運営と言えるものではなくなる。
そこで、厳しくし嫌われ者になるのは、二番目以降に居るものが好ましいということになる。
身分のことで言えば、この国で国王陛下の次にあたるのは言うまでもなく王妃殿下であるが、妃殿下が国政に口を出すことは好まれない為、政治的な立場での二番目つまり宰相が、厳しい嫌われ者になることが、国を円滑に進めていく上で最も好ましいのだ。
私も、私の父も、祖父も、そのようにしてこの平和なアミュレット王国を発展させてきた。
嫌われ者になることに、子供の頃から抵抗を感じなかった、といえば嘘になるが、現在は国王陛下が嫌われることなく、国を営んでいくためにも、必要な事として納得をしている。
こんな嫌われ者の私も、普通の一人の人間であるわけで、それなりに大切なものも持っていたりする。
それは、子供のころは父であり母であり、そして、幼馴染であったり……。
現在の私にとっては、子供のころの思いも当然大切なものであるが、大人になって得ることができた家族、つまり妻や子供たちは私の大切なモノの、筆頭であると言い切ることができる。
子供たちの大切さに上下をつけることは難しいし、またしたくもないことだが、世間一般の父親と同じように、息子には厳しく、娘には甘く、となってしまっている事は十分自覚している。
顔を合わす時間が、ほとんど取れないことから、会えば息子には小言という形をとった期待を、娘には物という形をとった構えぬことへの穴埋めを、することしかできなかったこの10年余。
つまり、子供の教育に関しては妻任せというか、家令任せであったことは確かであったが、私自身もそうであったし、息子に関して言えば、全く間違いはなかったものと考えている。
10歳における精霊契約においても、子供たちは力の強さに差はあれど、我が一族の精霊とも言える水属性の精霊様と契約が成せたようで、青を纏うことでより一層我が息子は私の子供のころとそっくりになったと、家令が喜んでいたことを思い出す。
そんな息子は初級学校においても、1年目はヴォーテックス殿の右腕として幼馴染として友として、恙なくゲイル侯爵家の嫡子としてその力を発揮し、2年目にはヴォーテックス殿の後を継ぐ様に生徒会長となった。
この2年目を迎えるにあたって陛下には、息子には将来自身が仕える事となる方、誰もが口には出さないが誰もが事実として知っている、陛下のご落胤である伯爵子息以外に、誰もがはっきりと口にして良い立場にお生まれであったのに、誰もがまったく口にしない、または全くその存在すら認識されていなかったお方がいることを初めて伝えた。
息子は少し混乱はしていたが、新たなるお方が、その存在すら排除されるような扱いを受けていた、そのことを彼なりに推測し、その事実だけを受け止めて、立場の複雑なその方を、表向きは王族としての扱いをして接していかなければいけないことを理解して、我々の意を汲んで生徒会長として生徒会活動を行っていくことを決意したようだ。
息子に与えてやれる、殿下の情報はほとんど持ち合わせていないことに気が付いたとき、「もしかしたら……」という思いが浮かんだことは否めない。
そのようなことがあってから暫く、初級学校において1年生が学校生活に慣れてきたと思われる入学からふた月ほど過ぎた頃、珍しく息子から私に会いたいと言っている旨、家令から王城内の私の執務室に連絡が来た。
折しもその日は、ひと月に一回の騎士団長との情報を共有する日であった。
以前はほぼ毎日のように顔を合わせていた我等であったが、お互いに責任がある立場になってからは月に一度か二度会えればいいほどになっていた。
家令からの伝言が彼にも聞こえていたのだろう、昔から私の息子のことも、自分の子供のように思ってくれているからか、息子の名前が聞こえて何事かと思ったようだ。
「クリフが会いたいと言ってくるなど、よほどのことがあるのだろう、オレのことはいいから早く帰ってやれ」
事務的なことは部下にやってもらうことにして、騎士団として必要な事の調整は残った彼がしてくれることとなった。
「そう言えば……うちの息子が同じクラスの殿下について、変なこと言っていたなぁ」
殿下といえばあの方のことか?私は帰り支度の手を止めて、眉間にしわを寄せながら、体に見合わない書類を睨みつけるようにして読んでいる、彼の方に体を向けた。
「殿下はどこの国の殿下なのですか?光の精霊に非常に愛されている容姿をされているが、婚姻というには我が国には姫がいらっしゃいませんから、どのように我が国に迎えられるのかと、噂になっています」
などとまじめな顔をして言うのだ、と言って書類から顔を上げて、私の顔を見てくる。
私は、そのことを誇りに思い、日々宰相職という激務に耐えてきたとも言える。
城に勤める官吏たちは、私のことを「冷徹な青の宰相」とカゲでヒナタで言われていることは知っている。
この世の中、平和が比較的長く続いている現在、緩み切った空気の中で、誰かが悪者にならないとこの王国は益々腐っていくだけである。
厳しくするのが頂点つまり国王であった場合、恐怖政治にとらわれてしまうかもしれず、健全な王国運営と言えるものではなくなる。
そこで、厳しくし嫌われ者になるのは、二番目以降に居るものが好ましいということになる。
身分のことで言えば、この国で国王陛下の次にあたるのは言うまでもなく王妃殿下であるが、妃殿下が国政に口を出すことは好まれない為、政治的な立場での二番目つまり宰相が、厳しい嫌われ者になることが、国を円滑に進めていく上で最も好ましいのだ。
私も、私の父も、祖父も、そのようにしてこの平和なアミュレット王国を発展させてきた。
嫌われ者になることに、子供の頃から抵抗を感じなかった、といえば嘘になるが、現在は国王陛下が嫌われることなく、国を営んでいくためにも、必要な事として納得をしている。
こんな嫌われ者の私も、普通の一人の人間であるわけで、それなりに大切なものも持っていたりする。
それは、子供のころは父であり母であり、そして、幼馴染であったり……。
現在の私にとっては、子供のころの思いも当然大切なものであるが、大人になって得ることができた家族、つまり妻や子供たちは私の大切なモノの、筆頭であると言い切ることができる。
子供たちの大切さに上下をつけることは難しいし、またしたくもないことだが、世間一般の父親と同じように、息子には厳しく、娘には甘く、となってしまっている事は十分自覚している。
顔を合わす時間が、ほとんど取れないことから、会えば息子には小言という形をとった期待を、娘には物という形をとった構えぬことへの穴埋めを、することしかできなかったこの10年余。
つまり、子供の教育に関しては妻任せというか、家令任せであったことは確かであったが、私自身もそうであったし、息子に関して言えば、全く間違いはなかったものと考えている。
10歳における精霊契約においても、子供たちは力の強さに差はあれど、我が一族の精霊とも言える水属性の精霊様と契約が成せたようで、青を纏うことでより一層我が息子は私の子供のころとそっくりになったと、家令が喜んでいたことを思い出す。
そんな息子は初級学校においても、1年目はヴォーテックス殿の右腕として幼馴染として友として、恙なくゲイル侯爵家の嫡子としてその力を発揮し、2年目にはヴォーテックス殿の後を継ぐ様に生徒会長となった。
この2年目を迎えるにあたって陛下には、息子には将来自身が仕える事となる方、誰もが口には出さないが誰もが事実として知っている、陛下のご落胤である伯爵子息以外に、誰もがはっきりと口にして良い立場にお生まれであったのに、誰もがまったく口にしない、または全くその存在すら認識されていなかったお方がいることを初めて伝えた。
息子は少し混乱はしていたが、新たなるお方が、その存在すら排除されるような扱いを受けていた、そのことを彼なりに推測し、その事実だけを受け止めて、立場の複雑なその方を、表向きは王族としての扱いをして接していかなければいけないことを理解して、我々の意を汲んで生徒会長として生徒会活動を行っていくことを決意したようだ。
息子に与えてやれる、殿下の情報はほとんど持ち合わせていないことに気が付いたとき、「もしかしたら……」という思いが浮かんだことは否めない。
そのようなことがあってから暫く、初級学校において1年生が学校生活に慣れてきたと思われる入学からふた月ほど過ぎた頃、珍しく息子から私に会いたいと言っている旨、家令から王城内の私の執務室に連絡が来た。
折しもその日は、ひと月に一回の騎士団長との情報を共有する日であった。
以前はほぼ毎日のように顔を合わせていた我等であったが、お互いに責任がある立場になってからは月に一度か二度会えればいいほどになっていた。
家令からの伝言が彼にも聞こえていたのだろう、昔から私の息子のことも、自分の子供のように思ってくれているからか、息子の名前が聞こえて何事かと思ったようだ。
「クリフが会いたいと言ってくるなど、よほどのことがあるのだろう、オレのことはいいから早く帰ってやれ」
事務的なことは部下にやってもらうことにして、騎士団として必要な事の調整は残った彼がしてくれることとなった。
「そう言えば……うちの息子が同じクラスの殿下について、変なこと言っていたなぁ」
殿下といえばあの方のことか?私は帰り支度の手を止めて、眉間にしわを寄せながら、体に見合わない書類を睨みつけるようにして読んでいる、彼の方に体を向けた。
「殿下はどこの国の殿下なのですか?光の精霊に非常に愛されている容姿をされているが、婚姻というには我が国には姫がいらっしゃいませんから、どのように我が国に迎えられるのかと、噂になっています」
などとまじめな顔をして言うのだ、と言って書類から顔を上げて、私の顔を見てくる。
11
お気に入りに追加
1,706
あなたにおすすめの小説

幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~
月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。
「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。
そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。
『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。
その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。
スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。
※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。)
※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。

婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです
かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。
強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。
これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

【完結】ゲーム開始は自由の時! 乙女ゲーム? いいえ。ここは農業系ゲームの世界ですよ?
キーノ
ファンタジー
私はゲームの世界に転生したようです。主人公なのですが、前世の記憶が戻ったら、なんという不遇な状況。これもゲームで語られなかった裏設定でしょうか。
ある日、我が家に勝手に住み着いた平民の少女が私に罵声を浴びせて来ました。乙女ゲーム? ヒロイン? 訳が解りません。ここはファーミングゲームの世界ですよ?
自称妹の事は無視していたら、今度は食事に毒を盛られる始末。これもゲームで語られなかった裏設定でしょうか?
私はどんな辛いことも頑張って乗り越えて、ゲーム開始を楽しみにいたしますわ!
※紹介文と本編は微妙に違います。
完結いたしました。
感想うけつけています。
4月4日、誤字修正しました。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる