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チュート殿下 37 儀式の間。前室から中へ……。
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開かれた扉の真ん中に進み出た神官長。
王族の証であるか金色はその聖服の刺繡に見られるだけで、結構な年齢に達しているであろう前前王様の弟殿下は、すでに髪色も真っ白だ。
「今日の良き日を迎えた皆に、神からの寿ぎと加護を」
年齢には見合わない若々しい大声が、控えの間に響く。
その一言だけ発すると、神官長は儀式の間に姿を消した。
具体的な説明はまるでない。ここにいる子供たちはそれなりの教育をうけているだろう子供だから、だけでなく、この国この世界に住む人間にとって、10歳で受ける精霊との儀式について知っていることが当たり前だからだ。
『10歳の夏至の日、太陽が天中にいるその時に、言葉を発することなく、ただ儀式の間を通り過ぎること』
ただそれだけ。
儀式の間を通り抜けて、後室と呼ばれる部屋に着いたその時には、すべてが終わっている。
改めて調べることなく、儀式の間に入室する前と後とで、その纏っている色が変わっているのだから。
入室の順は決まっていないが、身分の高いものから入ることが暗黙の了解となっている。
とすれば、俺が一番に入室しなければいけないのだが、とにかく今回は目立たず通過が目標であるから、一番に入室は有り得ない。
現実的にも、今居るこの場所から先頭に移動するのも難しい。ほぼ一番後ろだし……。
そろそろ太陽が天中に来る時間だ。
昔は天中に来るその瞬間が一番加護を受けられる確率が高くなると考えられて、その時間まで上位貴族がとどまり、又は占領するようなことも在ったらしいが、現在はそこまできっちりと時間制限されている訳ではなく、その日のその時にその儀式の間に入室することが必要なことがわかってきた。
一番大切なことは、今日の昼に儀式の間の魔方陣の中に少しでも触れること。
流石の上位貴族、同年に一応王子が生まれていることを知っているのだろう、最前列に居る、数人がキョロキョロと周りを見渡し探しているような様子が見える。
この儀式の責任者は一応神官長だろうが、元々殿下の神官長が事務的なことまで把握しているか怪しい。
一応彼の兄のひ孫に当たる俺であるが、その存在を知っているかも怪しい。
事務責任者らしい、ある程度年を重ねた外見の神官が、名簿のようなものを見ながら、何やら若めの神官に指図をしている。
控室からこの控えの間に到着していることが伝わっていないのか?
順番を守ろうとすれば俺が一番に入室しなければならないが、探している時間は無さそうだ。
俺も出ていく気はないしな。
どちらが責任を取らされないか気が付いたのだろう。圧倒的に、居るか居ないかわからない王族を優先するよりも、儀式に支障をきたすことの方が問題が大きいことに。
そんな間にも、儀式の間の光の柱、その光の柱の明るさが増して儀式の間全体が輝き出しているように見えているのが、最後列の俺からもわかる。
しびれを切らしたのか、儀式の間で待っていた神官長がひょっこりと顔を出した。
声を出すことは憚られるのか、顔を出すだけだが、その表情から心情を慮るのは誰でもできるくらい、厳しい表情を浮かべている神官長。
タイムアップ!
俺のことは無かったことにして、俺の次に位が高い侯爵の息子が一番に入室しするために移動を始めたようだ。
待っていました、とばかりにソワソワと入室を待っていた子供達が移動を始める。
前の人に後れを取らないように、くっつくように儀式の間に移動する。
決して俺は大きくないので……はっきり言おうチビなので、集団の中に入ると全く前は見えなくなる。
最後列のままでも、扉の近くにいる神官たちの目についてしまうので、小さいからだを生かして少し前に体を滑り込ませて、移動中の俺の姿を見られないようにする。
自分の横に滑り込んできた俺の姿にぎょっと目を見張る男の子や、驚いて一瞬身体を固くする女の子。
そんな、一人一人を無視するように、何十人もの子供達が儀式の間に飲み込まれていく。
儀式の間は既に光があふれるように輝いていて、そこに入った瞬間、その光に目を焼かれるような感じがした。
まるであの時、帯剣の儀の時に、襲い掛かってきた白い光にとても良く似たそれに包み込まれた時、すべての感覚が奪われて、ひしめくように周りにいた人々も全くその存在を感じ取れなくなった。
儀式の間に入ったらフードを取るように言われてたが、自分の体の感覚すらまるでないこの空間では、指一つ自分の意志で動かすことがままならなかった。
経験者の大人たちに聞いていたのとまるで違う。
ただ儀式の間の光る魔方陣の上を歩いて、その部屋を通り抜けるだけ。簡単に終わる。
儀式の結果の重大さが噓のように、あまりにも簡単なものである。と、聞いていたのに……。
目を開いているのか閉じているのか、全く分からない真っ白な世界に投げ込まれた。
そんな感じがしていた。
王族の証であるか金色はその聖服の刺繡に見られるだけで、結構な年齢に達しているであろう前前王様の弟殿下は、すでに髪色も真っ白だ。
「今日の良き日を迎えた皆に、神からの寿ぎと加護を」
年齢には見合わない若々しい大声が、控えの間に響く。
その一言だけ発すると、神官長は儀式の間に姿を消した。
具体的な説明はまるでない。ここにいる子供たちはそれなりの教育をうけているだろう子供だから、だけでなく、この国この世界に住む人間にとって、10歳で受ける精霊との儀式について知っていることが当たり前だからだ。
『10歳の夏至の日、太陽が天中にいるその時に、言葉を発することなく、ただ儀式の間を通り過ぎること』
ただそれだけ。
儀式の間を通り抜けて、後室と呼ばれる部屋に着いたその時には、すべてが終わっている。
改めて調べることなく、儀式の間に入室する前と後とで、その纏っている色が変わっているのだから。
入室の順は決まっていないが、身分の高いものから入ることが暗黙の了解となっている。
とすれば、俺が一番に入室しなければいけないのだが、とにかく今回は目立たず通過が目標であるから、一番に入室は有り得ない。
現実的にも、今居るこの場所から先頭に移動するのも難しい。ほぼ一番後ろだし……。
そろそろ太陽が天中に来る時間だ。
昔は天中に来るその瞬間が一番加護を受けられる確率が高くなると考えられて、その時間まで上位貴族がとどまり、又は占領するようなことも在ったらしいが、現在はそこまできっちりと時間制限されている訳ではなく、その日のその時にその儀式の間に入室することが必要なことがわかってきた。
一番大切なことは、今日の昼に儀式の間の魔方陣の中に少しでも触れること。
流石の上位貴族、同年に一応王子が生まれていることを知っているのだろう、最前列に居る、数人がキョロキョロと周りを見渡し探しているような様子が見える。
この儀式の責任者は一応神官長だろうが、元々殿下の神官長が事務的なことまで把握しているか怪しい。
一応彼の兄のひ孫に当たる俺であるが、その存在を知っているかも怪しい。
事務責任者らしい、ある程度年を重ねた外見の神官が、名簿のようなものを見ながら、何やら若めの神官に指図をしている。
控室からこの控えの間に到着していることが伝わっていないのか?
順番を守ろうとすれば俺が一番に入室しなければならないが、探している時間は無さそうだ。
俺も出ていく気はないしな。
どちらが責任を取らされないか気が付いたのだろう。圧倒的に、居るか居ないかわからない王族を優先するよりも、儀式に支障をきたすことの方が問題が大きいことに。
そんな間にも、儀式の間の光の柱、その光の柱の明るさが増して儀式の間全体が輝き出しているように見えているのが、最後列の俺からもわかる。
しびれを切らしたのか、儀式の間で待っていた神官長がひょっこりと顔を出した。
声を出すことは憚られるのか、顔を出すだけだが、その表情から心情を慮るのは誰でもできるくらい、厳しい表情を浮かべている神官長。
タイムアップ!
俺のことは無かったことにして、俺の次に位が高い侯爵の息子が一番に入室しするために移動を始めたようだ。
待っていました、とばかりにソワソワと入室を待っていた子供達が移動を始める。
前の人に後れを取らないように、くっつくように儀式の間に移動する。
決して俺は大きくないので……はっきり言おうチビなので、集団の中に入ると全く前は見えなくなる。
最後列のままでも、扉の近くにいる神官たちの目についてしまうので、小さいからだを生かして少し前に体を滑り込ませて、移動中の俺の姿を見られないようにする。
自分の横に滑り込んできた俺の姿にぎょっと目を見張る男の子や、驚いて一瞬身体を固くする女の子。
そんな、一人一人を無視するように、何十人もの子供達が儀式の間に飲み込まれていく。
儀式の間は既に光があふれるように輝いていて、そこに入った瞬間、その光に目を焼かれるような感じがした。
まるであの時、帯剣の儀の時に、襲い掛かってきた白い光にとても良く似たそれに包み込まれた時、すべての感覚が奪われて、ひしめくように周りにいた人々も全くその存在を感じ取れなくなった。
儀式の間に入ったらフードを取るように言われてたが、自分の体の感覚すらまるでないこの空間では、指一つ自分の意志で動かすことがままならなかった。
経験者の大人たちに聞いていたのとまるで違う。
ただ儀式の間の光る魔方陣の上を歩いて、その部屋を通り抜けるだけ。簡単に終わる。
儀式の結果の重大さが噓のように、あまりにも簡単なものである。と、聞いていたのに……。
目を開いているのか閉じているのか、全く分からない真っ白な世界に投げ込まれた。
そんな感じがしていた。
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