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マーシュ・スリート 13 過去の悪因
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陛下の、いや我々の学園時代の黒歴史。
その歴史の象徴。私からすれば歴史の残りかす。
アレが残した男児が今年精霊契約を迎える年齢になった。
帯剣の儀に関しては、流石の陛下も周囲の空気を感じてか、自分が出席するとか王城で行うとか、したくてたまらないという雰囲気は醸し出しつつも、実行されることはなかった。
しかし、精霊契約の儀式に対しては、彼の存在に関係なく王や王妃は祝福を寿ぐために出席することになっている。
堂々と出席することに否を唱えるものはいないのだ。それは王妃様とて同じこと。
儀式の日が近づくにつれて落ち着きがなくなってきた陛下をどう思っているのか、しっかりと仮面をかぶられた王妃様からは特別な様子を感じることはない。
あくまでも公務の一環であるという態度を崩されることはないのだ。
それはアーク殿下の帯剣の儀の時も同じこと、ご自分のお腹を痛めてお産みになった御子であるはずの殿下と、それこそ5年振りに顔を合わせたその時にも、全く表情に変化が現れることがなかったのだから。
あれこそ淑女の鏡というのであれば、私でも陛下の行った事を納得してしまう心持を否定できない。
直接陛下たちと顔を合わせることがなくなって久しいが、陛下の侍従をしてきた時に培ったつながりは、まさに今の私の宝の一つであるのだ。どれ程陛下たちとの物理的距離があろうとも、その動向は手に取るようにわかるのだから。
それは、陛下だけではなくこの城の中にいる者全てを網羅しているといってもおうげさではない程に。
王族や上級貴族など、止ん事無い人々は気にも留めない、それこそ人とも思っていないかもしれない我ら使用人にも、心があり彼らが考えもしないところにつながりがあるのだ。それは、いくら忠誠を誓い使えている主人といえども、突き崩すことのできない絆。反逆とか謀反とかそのようなことではない。つまり心というものだ。
だから、陛下たち上層部と繋がりを絶たれていると思われている私にも、十分陛下たちのことは知りたいと思うことについて知ることは難しくないのだ。
精霊契約の儀式の結果も時間差なく知ることができた。
流石にあの阿婆擦れも、王子以外には手を出していないということか、若しくはそう手ごろな値段ではないがしっかりと効果がある魔法薬でも使用していたのだろう。背後にいた者もそのことには注意を払っていたのだろう。
母親の魔力量が多くなかったこともあったのか、王家直系の血を引いている者としては、魔力量も少なく下級の精霊としか契約できなかったようであるが、彼本人には何の罪があるわけでもなく。養子元となっている伯爵家の教育が良いためか悪いうわさも聞かない。
ウインド伯爵家は武よりであるためか、言い方を変えれば脳筋であるためか、政治的な動きを考えることさえしないので、単純に愛情をもって赤子を育ててきたのだろう。
しかし、周りの者達はそうもいっていられない奴らが、この王城には五万といるのだ。
早速、離宮を探ろうとする者も後を絶たない。
血筋も正当性もアーク殿下が劣るところは一つもないのだ。年が下であるということ以外。
であるにも関わらず、次代が伯爵家の養子になることなどありえないのに、この様に宮廷雀たちが騒がしく鳴くのは偏に陛下たちの態度によることが大きいのだ。
勿論、お生まれになった直後の様子から、心を天の庭に置いてきた子供であるように見えたことは否定しない。
私も、殿下が帯剣の儀の後で、お言葉を発せられるまで、何度このままただ身体が成長されるだけなのかと、神をお恨み申し上げたことか。
表立って発言する者はいないが、殿下は王妃様が不倫の上授かられたものであるから、陛下も王妃様も殿下を忌避されているのではないかと。
それは余りにも不敬であるから言い出すものはいないが、陛下はともかく母である王妃殿下が殿下を嫌うのは自分の不倫が暴かれることを恐れているためであると、このままでいけば王妃の立場も殿下の精霊契約の儀式までであると。
しかし、ごく近くで陛下が婚姻を結んだ時から見ているごく一部の者は、その真相を知っている。
もちろん私も……。
それは、陛下たちが生まれてきた殿下を『忌避』しているのではなく『恐れて』いるということを。
王妃様が殿下を宿された瞬間から、あまりにも多い殿下の魔力量に慈しみよりも恐れを抱かれた。陛下にあっては、まだお生まれになっていない殿下に、自分では決して及ばない魔力量に敗北したことで、男としての矜持を傷つけられたのか、殿下がお生まれになる前から全く王妃の元を訪れることもなくなったのだ。
王妃は恐れを抱くだけでなく、陛下の態度も含めて腹の中の子を憎んだのだ。
私や陛下の腹心である『青』や『赤』は上級精霊と契約を結んでいる者として、畏怖は覚えても、恐怖まで感じることはなかった。
つまり、両陛下が、生まれる前の殿下よりも余りにも魔力量が少なかったことから起こった悲劇だったのだ。
しかし、この王国の長である陛下が、生まれてくる前の子供が恐ろしいなど口にすることができない。
生まれてきた我が子を抱き上げることもできず。本能的な恐怖心に勝つことのできなかった両陛下は、殿下を無視することしかできなかった。
殿下を恐れることのなかった私と、逆に魔力を感じることのない平民や精霊契約のできなかった貴族で、殿下をお育てすることとなったのだ。
言葉を出されることもなかった殿下であるが、2歳になるころには自然と魔力をコントロールすることができるようになり、恐怖感を抱かせるようなことがなくなった殿下であるが、そのことを陛下たちは知ろうともせず、結果現在に至るまで殿下たちに交流が生まれることはなかった。
その歴史の象徴。私からすれば歴史の残りかす。
アレが残した男児が今年精霊契約を迎える年齢になった。
帯剣の儀に関しては、流石の陛下も周囲の空気を感じてか、自分が出席するとか王城で行うとか、したくてたまらないという雰囲気は醸し出しつつも、実行されることはなかった。
しかし、精霊契約の儀式に対しては、彼の存在に関係なく王や王妃は祝福を寿ぐために出席することになっている。
堂々と出席することに否を唱えるものはいないのだ。それは王妃様とて同じこと。
儀式の日が近づくにつれて落ち着きがなくなってきた陛下をどう思っているのか、しっかりと仮面をかぶられた王妃様からは特別な様子を感じることはない。
あくまでも公務の一環であるという態度を崩されることはないのだ。
それはアーク殿下の帯剣の儀の時も同じこと、ご自分のお腹を痛めてお産みになった御子であるはずの殿下と、それこそ5年振りに顔を合わせたその時にも、全く表情に変化が現れることがなかったのだから。
あれこそ淑女の鏡というのであれば、私でも陛下の行った事を納得してしまう心持を否定できない。
直接陛下たちと顔を合わせることがなくなって久しいが、陛下の侍従をしてきた時に培ったつながりは、まさに今の私の宝の一つであるのだ。どれ程陛下たちとの物理的距離があろうとも、その動向は手に取るようにわかるのだから。
それは、陛下だけではなくこの城の中にいる者全てを網羅しているといってもおうげさではない程に。
王族や上級貴族など、止ん事無い人々は気にも留めない、それこそ人とも思っていないかもしれない我ら使用人にも、心があり彼らが考えもしないところにつながりがあるのだ。それは、いくら忠誠を誓い使えている主人といえども、突き崩すことのできない絆。反逆とか謀反とかそのようなことではない。つまり心というものだ。
だから、陛下たち上層部と繋がりを絶たれていると思われている私にも、十分陛下たちのことは知りたいと思うことについて知ることは難しくないのだ。
精霊契約の儀式の結果も時間差なく知ることができた。
流石にあの阿婆擦れも、王子以外には手を出していないということか、若しくはそう手ごろな値段ではないがしっかりと効果がある魔法薬でも使用していたのだろう。背後にいた者もそのことには注意を払っていたのだろう。
母親の魔力量が多くなかったこともあったのか、王家直系の血を引いている者としては、魔力量も少なく下級の精霊としか契約できなかったようであるが、彼本人には何の罪があるわけでもなく。養子元となっている伯爵家の教育が良いためか悪いうわさも聞かない。
ウインド伯爵家は武よりであるためか、言い方を変えれば脳筋であるためか、政治的な動きを考えることさえしないので、単純に愛情をもって赤子を育ててきたのだろう。
しかし、周りの者達はそうもいっていられない奴らが、この王城には五万といるのだ。
早速、離宮を探ろうとする者も後を絶たない。
血筋も正当性もアーク殿下が劣るところは一つもないのだ。年が下であるということ以外。
であるにも関わらず、次代が伯爵家の養子になることなどありえないのに、この様に宮廷雀たちが騒がしく鳴くのは偏に陛下たちの態度によることが大きいのだ。
勿論、お生まれになった直後の様子から、心を天の庭に置いてきた子供であるように見えたことは否定しない。
私も、殿下が帯剣の儀の後で、お言葉を発せられるまで、何度このままただ身体が成長されるだけなのかと、神をお恨み申し上げたことか。
表立って発言する者はいないが、殿下は王妃様が不倫の上授かられたものであるから、陛下も王妃様も殿下を忌避されているのではないかと。
それは余りにも不敬であるから言い出すものはいないが、陛下はともかく母である王妃殿下が殿下を嫌うのは自分の不倫が暴かれることを恐れているためであると、このままでいけば王妃の立場も殿下の精霊契約の儀式までであると。
しかし、ごく近くで陛下が婚姻を結んだ時から見ているごく一部の者は、その真相を知っている。
もちろん私も……。
それは、陛下たちが生まれてきた殿下を『忌避』しているのではなく『恐れて』いるということを。
王妃様が殿下を宿された瞬間から、あまりにも多い殿下の魔力量に慈しみよりも恐れを抱かれた。陛下にあっては、まだお生まれになっていない殿下に、自分では決して及ばない魔力量に敗北したことで、男としての矜持を傷つけられたのか、殿下がお生まれになる前から全く王妃の元を訪れることもなくなったのだ。
王妃は恐れを抱くだけでなく、陛下の態度も含めて腹の中の子を憎んだのだ。
私や陛下の腹心である『青』や『赤』は上級精霊と契約を結んでいる者として、畏怖は覚えても、恐怖まで感じることはなかった。
つまり、両陛下が、生まれる前の殿下よりも余りにも魔力量が少なかったことから起こった悲劇だったのだ。
しかし、この王国の長である陛下が、生まれてくる前の子供が恐ろしいなど口にすることができない。
生まれてきた我が子を抱き上げることもできず。本能的な恐怖心に勝つことのできなかった両陛下は、殿下を無視することしかできなかった。
殿下を恐れることのなかった私と、逆に魔力を感じることのない平民や精霊契約のできなかった貴族で、殿下をお育てすることとなったのだ。
言葉を出されることもなかった殿下であるが、2歳になるころには自然と魔力をコントロールすることができるようになり、恐怖感を抱かせるようなことがなくなった殿下であるが、そのことを陛下たちは知ろうともせず、結果現在に至るまで殿下たちに交流が生まれることはなかった。
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