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マーシュ・スリート 7 悪意の中で
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月足らずで余りにもお小さくお生まれになった殿下は、何に対しても反応を返すことをなさらなかったが故、恐れ多くもお頭も身体も虚弱な王子として、誰にも、両親にさえも顧みられず、無き者のように扱われていらした。
ただ、表向き今の王にはアースクエイク殿下しか、お子様はいないことになっているし、例の風邪をり患したため、これから後決してお子様を授かることは不可能になったため、少なくとも7年は殿下が第一王子であり、実質王太子として扱われることは、裏事情をよく知るものほど理解しなければならないことであった。
しかし、人間の理性と感情は必ずしも一致しないものである。
特に頂点に立つ人物の感情が、大きく影響する。
国の頂点たる国王が、あからさまに無き者として扱っているものに気を向けるのは、自分の首を自分で締めることに等しい。そのような、奇特な人物は腐った貴族社会にどっぷりと浸り暮らしている人々の中には全くいなかった。
かかわりを持つこと、すなわち世話をすることを仕事として命じられている者以外は……。
私も、自分の意志で侍従長になったとはいえ、このことで糧を得ていることに変わりなく、あくまでも仕事として、臣下としてお側にいることしかできなかったのである。
お生まれになった時の所謂産声すら上げることなくお生まれになった殿下。
王妃様がお生みになったご自身のお子様を、慈しんでいただけるかは、妊娠期間中のご様子を見ても絶望的なことは誰もが認めていた。父である陛下(まだこの時は第一王子殿下であったが)も、その性別のみに関心を持たれている様子で、それも、表向きは男児を、心の内では義務さえ果たされれば言い訳の付く存在を求めていただけは、城中の誰しもが知る事実であった。
私には優秀な乳母を準備することくらいしかできなかった。
その後の養育についても、全て私に丸投げ。下手に口出しされるよりは幾分かましではあるが、あくまでも私の身分は、騎士爵位しか持たない底辺の貴族に他ならない。
この城に以前からかかわりを持ち、優秀な頭脳、情報を持つ貴族であれば、上級貴族であっても私に絡むものはいないが、そうではない、最近顔を出し始めた、上位の者には媚び諂い、下位の者には威張り散らす、貴族らしい貴族の中には、態々後宮の入り口あたりでまちぶせをしてまで、大声で絡んでくる者もいた。
「おやおや、元伯爵家の後継候補にして、現在ただの騎士爵、後宮の下働きマーシュ殿」
まだ私が伯爵家にいたころ、異母弟の後をついて回っていた、遠縁の男爵家の次男だったか三男だった……その当時から、だらしがない体型をしていたが、そちらは随分と立派になっていた。
瞳は茶のまま、髪もごくごく薄い赤茶色。スリート家の門閥としては最低水準の精霊と契約できたこいつでも大きな顔ができる状況にあるのだな。何と言っても、次期当主予定の愚弟が下級精霊としか契約できていないのだから。
この者と関わったことは一切なかったはずだが、出てくるかどうかもわからない私を待ってまでいやみをいいたいらしい。
「お世話されている王子様のご機嫌はいかがですか?あぁ、私のような身分低者はそのご尊顔を拝すること一度足りもないのは当たり前のことですが、我がご当主も御目文字したことがないとか……口さがないものは、王子様はきちんとお生まれになったのか疑問を……」
相手にするつもりなく、無視して執務棟に歩みを進めていくが、奴は並ぶようについてきながら大声で一方的に話しかけてくる。
執務棟に近づくほど、周りで聞き耳を立てる者が増えてくる。そのまま振り切って執務棟に入ってしまおうかと歩く速度をあげていたが、余りにも聞き捨てならないことを口にしだした奴の言葉の途中、奴にきつく目線を当てることで口を閉じさせる。
いくら頭が緩くても、殺気は動物の本能として感じるものらしい、次の言葉はのどに張り付いたように出すことができないようだ。
「これ以上の言葉は、不敬罪に当たるが、覚悟はおありか?」
奴とすれば、一応身内という気安さと、甘えた気持ちがあったのだろう。今の立場であれば、本家から外された元嫡男より自分の方が上であると、そして上であれば下の者に何を言っても、何をしてもいいものであると……。
ただ、表向き今の王にはアースクエイク殿下しか、お子様はいないことになっているし、例の風邪をり患したため、これから後決してお子様を授かることは不可能になったため、少なくとも7年は殿下が第一王子であり、実質王太子として扱われることは、裏事情をよく知るものほど理解しなければならないことであった。
しかし、人間の理性と感情は必ずしも一致しないものである。
特に頂点に立つ人物の感情が、大きく影響する。
国の頂点たる国王が、あからさまに無き者として扱っているものに気を向けるのは、自分の首を自分で締めることに等しい。そのような、奇特な人物は腐った貴族社会にどっぷりと浸り暮らしている人々の中には全くいなかった。
かかわりを持つこと、すなわち世話をすることを仕事として命じられている者以外は……。
私も、自分の意志で侍従長になったとはいえ、このことで糧を得ていることに変わりなく、あくまでも仕事として、臣下としてお側にいることしかできなかったのである。
お生まれになった時の所謂産声すら上げることなくお生まれになった殿下。
王妃様がお生みになったご自身のお子様を、慈しんでいただけるかは、妊娠期間中のご様子を見ても絶望的なことは誰もが認めていた。父である陛下(まだこの時は第一王子殿下であったが)も、その性別のみに関心を持たれている様子で、それも、表向きは男児を、心の内では義務さえ果たされれば言い訳の付く存在を求めていただけは、城中の誰しもが知る事実であった。
私には優秀な乳母を準備することくらいしかできなかった。
その後の養育についても、全て私に丸投げ。下手に口出しされるよりは幾分かましではあるが、あくまでも私の身分は、騎士爵位しか持たない底辺の貴族に他ならない。
この城に以前からかかわりを持ち、優秀な頭脳、情報を持つ貴族であれば、上級貴族であっても私に絡むものはいないが、そうではない、最近顔を出し始めた、上位の者には媚び諂い、下位の者には威張り散らす、貴族らしい貴族の中には、態々後宮の入り口あたりでまちぶせをしてまで、大声で絡んでくる者もいた。
「おやおや、元伯爵家の後継候補にして、現在ただの騎士爵、後宮の下働きマーシュ殿」
まだ私が伯爵家にいたころ、異母弟の後をついて回っていた、遠縁の男爵家の次男だったか三男だった……その当時から、だらしがない体型をしていたが、そちらは随分と立派になっていた。
瞳は茶のまま、髪もごくごく薄い赤茶色。スリート家の門閥としては最低水準の精霊と契約できたこいつでも大きな顔ができる状況にあるのだな。何と言っても、次期当主予定の愚弟が下級精霊としか契約できていないのだから。
この者と関わったことは一切なかったはずだが、出てくるかどうかもわからない私を待ってまでいやみをいいたいらしい。
「お世話されている王子様のご機嫌はいかがですか?あぁ、私のような身分低者はそのご尊顔を拝すること一度足りもないのは当たり前のことですが、我がご当主も御目文字したことがないとか……口さがないものは、王子様はきちんとお生まれになったのか疑問を……」
相手にするつもりなく、無視して執務棟に歩みを進めていくが、奴は並ぶようについてきながら大声で一方的に話しかけてくる。
執務棟に近づくほど、周りで聞き耳を立てる者が増えてくる。そのまま振り切って執務棟に入ってしまおうかと歩く速度をあげていたが、余りにも聞き捨てならないことを口にしだした奴の言葉の途中、奴にきつく目線を当てることで口を閉じさせる。
いくら頭が緩くても、殺気は動物の本能として感じるものらしい、次の言葉はのどに張り付いたように出すことができないようだ。
「これ以上の言葉は、不敬罪に当たるが、覚悟はおありか?」
奴とすれば、一応身内という気安さと、甘えた気持ちがあったのだろう。今の立場であれば、本家から外された元嫡男より自分の方が上であると、そして上であれば下の者に何を言っても、何をしてもいいものであると……。
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