転生したら当て馬王子でした~絶対攻略される王太子の俺は、フラグを折って幸せになりたい~

HIROTOYUKI

文字の大きさ
上 下
16 / 186

マーシュ・スリート  7 悪意の中で

しおりを挟む
 月足らずで余りにもお小さくお生まれになった殿下は、何に対しても反応を返すことをなさらなかったが故、恐れ多くもお頭も身体も虚弱な王子として、誰にも、両親にさえも顧みられず、無き者のように扱われていらした。

 ただ、表向き今の王にはアースクエイク殿下しか、お子様はいないことになっているし、例の風邪をり患したため、これから後決してお子様を授かることは不可能になったため、少なくとも7年は殿下が第一王子であり、実質王太子として扱われることは、裏事情をよく知るものほど理解しなければならないことであった。

 しかし、人間の理性と感情は必ずしも一致しないものである。

 特に頂点に立つ人物の感情が、大きく影響する。

 国の頂点たる国王が、あからさまに無き者として扱っているものに気を向けるのは、自分の首を自分で締めることに等しい。そのような、奇特な人物は腐った貴族社会にどっぷりと浸り暮らしている人々の中には全くいなかった。

 かかわりを持つこと、すなわち世話をすることを仕事として命じられている者以外は……。
 
 私も、自分の意志で侍従長になったとはいえ、このことで糧を得ていることに変わりなく、あくまでも仕事として、臣下としてお側にいることしかできなかったのである。

 お生まれになった時の所謂産声すら上げることなくお生まれになった殿下。

 王妃様がお生みになったご自身のお子様を、慈しんでいただけるかは、妊娠期間中のご様子を見ても絶望的なことは誰もが認めていた。父である陛下(まだこの時は第一王子殿下であったが)も、その性別のみに関心を持たれている様子で、それも、表向きは男児を、心の内では義務さえ果たされれば言い訳の付く存在を求めていただけは、城中の誰しもが知る事実であった。

 私には優秀な乳母を準備することくらいしかできなかった。

 その後の養育についても、全て私に丸投げ。下手に口出しされるよりは幾分かましではあるが、あくまでも私の身分は、騎士爵位しか持たない底辺の貴族に他ならない。

 この城に以前からかかわりを持ち、優秀な頭脳、情報を持つ貴族であれば、上級貴族であっても私に絡むものはいないが、そうではない、最近顔を出し始めた、上位の者には媚び諂い、下位の者には威張り散らす、貴族らしい貴族の中には、態々後宮の入り口あたりでまちぶせをしてまで、大声で絡んでくる者もいた。

「おやおや、元伯爵家の後継候補にして、現在ただの騎士爵、後宮の下働きマーシュ殿」

 まだ私が伯爵家にいたころ、異母弟の後をついて回っていた、遠縁の男爵家の次男だったか三男だった……その当時から、だらしがない体型をしていたが、そちらは随分と立派になっていた。

 瞳は茶のまま、髪もごくごく薄い赤茶色。スリート家の門閥としては最低水準の精霊と契約できたこいつでも大きな顔ができる状況にあるのだな。何と言っても、次期当主予定の愚弟が下級精霊としか契約できていないのだから。

 この者と関わったことは一切なかったはずだが、出てくるかどうかもわからない私を待ってまでいやみをいいたいらしい。

「お世話されている王子様のご機嫌はいかがですか?あぁ、私のような身分低者はそのご尊顔を拝すること一度足りもないのは当たり前のことですが、我がご当主も御目文字したことがないとか……口さがないものは、王子様はきちんとお生まれになったのか疑問を……」

 相手にするつもりなく、無視して執務棟に歩みを進めていくが、奴は並ぶようについてきながら大声で一方的に話しかけてくる。

 執務棟に近づくほど、周りで聞き耳を立てる者が増えてくる。そのまま振り切って執務棟に入ってしまおうかと歩く速度をあげていたが、余りにも聞き捨てならないことを口にしだした奴の言葉の途中、奴にきつく目線を当てることで口を閉じさせる。

 いくら頭が緩くても、殺気は動物の本能として感じるものらしい、次の言葉はのどに張り付いたように出すことができないようだ。

「これ以上の言葉は、不敬罪に当たるが、覚悟はおありか?」

 奴とすれば、一応身内という気安さと、甘えた気持ちがあったのだろう。今の立場であれば、本家から外された元嫡男より自分の方が上であると、そして上であれば下の者に何を言っても、何をしてもいいものであると……。

しおりを挟む
感想 137

あなたにおすすめの小説

幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~

月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。 「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。 そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。 『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。 その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。 スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。 ※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。) ※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです

かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。 強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。 これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

【完結】ゲーム開始は自由の時! 乙女ゲーム? いいえ。ここは農業系ゲームの世界ですよ?

キーノ
ファンタジー
 私はゲームの世界に転生したようです。主人公なのですが、前世の記憶が戻ったら、なんという不遇な状況。これもゲームで語られなかった裏設定でしょうか。  ある日、我が家に勝手に住み着いた平民の少女が私に罵声を浴びせて来ました。乙女ゲーム? ヒロイン? 訳が解りません。ここはファーミングゲームの世界ですよ?  自称妹の事は無視していたら、今度は食事に毒を盛られる始末。これもゲームで語られなかった裏設定でしょうか?  私はどんな辛いことも頑張って乗り越えて、ゲーム開始を楽しみにいたしますわ! ※紹介文と本編は微妙に違います。 完結いたしました。 感想うけつけています。 4月4日、誤字修正しました。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...