転生したら当て馬王子でした~絶対攻略される王太子の俺は、フラグを折って幸せになりたい~

HIROTOYUKI

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マーシュ・スリート  5 12歳の決意

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 たかが12歳の子供の成績だ。これからそれぞれの精霊の力を使いこなしていけば、今の成績なんてまったく関係のないものとなるだろう事はわかりきっている。

 しかし、私はこの2年間の私の努力と葛藤を、認めてくれた王子の言葉に心動かされずにはいられなかった。この家の誰もが髪色が赤くないと言うだけで、一切認めてくれないという現実に、気が付かない間にすでに私の心は押しつぶされていたのだ。

「これから3年だ。中等学校の3年間、ここに居ればこれまで以上に辛い仕打ちを受ける事になるだろう。それでも、私の近くに居てもらう為には伯爵子息の身分がどうしても必要なのだ。異母弟が次期当主として決定したとしても、君が成人しどこかに養子に出されるまでは伯爵子息の扱いを受けるのだ。そして、成人するまでのこの3年で、この家の者に何も言わせないような立場を君が作り上げればいい。その後も私の近くに居てもらう為だ、いくらでも私を利用して、そして自分の居場所を作り出すんだ」

「何も悪い事をしていない、お前が逃げ出すなんて事、しなくていい!」

 私の横に立ったまま、なぜか涙を流しながら赤い犬が吠えている。

 その姿を見る度に、羨ましくて羨ましくて、黒い影が胸の奥に湧き上がるのを認めたくなくて、殊更冷たく一線を引いてきた彼。でも、まっすぐに向けられる純粋な視線が生まれたての子犬にしか見えなくて、突き離しきれなかった彼。

「そうだ、貴方が逃げ出す事なんてないのだ。……精霊契約で己の求める者と契約できた我々には貴方の本当の気持ちがわかるなんて、口が裂けても言ってはいけない事だ。しかし、家の求める精霊に選ばれなかったらという恐怖は、貴方が味わった事の万分の一であるとしても知っている者として、立派に上級精霊と契約できる魂を持つ者の、このような扱いはとても容認できない」

 いつも王子の隣で澄ました顔で佇んでいる様子で、醒めた目で私を見下ろしていた印象の青い髪の侯爵子息は、普段より随分と人間臭い表情を浮かべて、語気強くその感情を隠しもしない。

 感情を表に出してはいけないと教育されている彼等が、私の為に怒りや悲しみやその他の様々な気持ちをぶつけてくれているその姿を見て、尚更、『地』の精霊と契約を交わした後の今までに、家族と言えるのかわからないが、血は繋がった者達から向けられた蔑みのみの感情を思い出すにつれ、血族やつらの為に自分が折れなければならないと考えていた事が、本当に馬鹿らしくなった。


 そうだ、私は何も悪くないのだ。


確かに『火』の精霊と契約は結べなかったとしても、とても稀で強大な力を持つ『地』の上級精霊と契約は成ったのだし。第一王子を脇に置いて、すべての科目で首席を勝ち取ったのだ。なんの後ろ指を刺される事があるものか!

「高等学校は全寮制だ。中等学校の最後の1年は異母弟が入学してくるから少し煩わしいかもしれないが、所詮1年。3年の我々に何を言う事ができるわけでもなし」

 私の瞳の中の決意の色に気がついたのか、若干明るくなった声で王子は言う。

「王宮に寝泊まりは無理でも、我が家に泊まる事はなんの障害もない」

 青髪のその言いように赤髪も反論する。

「だったら、俺のところでも……!」

「馬鹿!お前とこの家スリートとは、ライバル関係だろ。ややこしくなるから脳筋は黙ってろ」

 涙目だった赤犬の頭を叩いて尚更涙目にしている侯爵子息。武は苦手だと聞いていたがあの叩くときの手首のスナップの利かせ方は中々のものだ。


 結論から言うと、私は王子の希望を受け入れる形で、乳母のところに逃げ込む計画は白紙に戻した。



 それからの3年間は確かに自宅に置いては針の筵に座るがごとくの事も多々あったが、王子も侯爵子息もついでに赤犬も、初めの言質を違える事なく実行してくれた。

 あの時纏めていた荷物はその場で解かれる事なく、侯爵家の立派な離れで開梱され、そこは王子の息抜きの場ともなったのだ。

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