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マーシュ・スリート 4 王子と『赤』と『青』と……
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「なんで……」
王子達の登場にただ驚いて、そんなありきたりな言葉が口からこぼれるだけだった。
王子はほんの少し視線を天井の方に向けて、薄く苦笑いを浮かべた。
それで、なんとなくわかった。王家には王族直属に使える『暗部』といわれる部隊があることを、おとぎ話程度に聞いてはいたが……。
王子は視線を天井からぐるりと部屋一周に巡らせたのち、痛ましげな色を瞳に載せて私の顔をじっと見つめた。
そう、私達が居るこの部屋は、離れと言うのは名ばかりの物置小屋をおざなりに改装したものだからだ。
そんな所に王子を迎え入れている事に、今更ながら気が付いてその事に頭から一瞬にして血が下がった。
今私の顔は真っ青になっているだろう。
王子に座っていただける様な椅子もない。この部屋には使用人が使う様な簡素な勉強用の机と椅子。そして、とても硬そうなシングルベットしか家具らしいものはないのだ。
座って頂くのは勿論椅子になるのだろうが、この椅子は布も何も張られていない硬い木の椅子だ。と言って、リネンも替えられていないベットに直に座って頂くわけにも……。一緒に控えている学友2人も、侯爵と伯爵の子息達だ。
幾ら魂が抜けるほどの思いをしているとも、部屋の中に入って来るまで王子の来訪に気が付かなかった私の腑抜け具合も、大概なものだが……。
色々な考えがぐるぐるして、全く身動きすらできなくなった私を放って、王子は勝手にベットの方に座ってしまった、両脇に侯爵と伯爵の子息を従えて。
「君の事は出会ってからこの2年、すべての事がわかってるなんて傲慢な事は言わないが、少しぐらいは知っているつもりだった。これまでの事も書面で読んで知っているつもりだった。ここに来るまでは……」
突っ立ているだけで、何もできない私を置いて、王子は話し始めた。
「君の家が『スリート』で、君の精霊が『地』であることから、君の置かれている立場も想像に難くない。この2年間友誼を通じながらも、君の心の中にある檻のようなものにいつも阻まれていることを感じないでは居られなかった」
両脇に控えている2人も、いつもの雰囲気は封印するようにただ王子の言葉に耳を傾けているのみだ。
「今年の精霊の儀で君の異母弟が、火の下級ではあるが精霊と契約が成立したという報告を聞いた時、これから君が取るだろう行動についても想像がついたのだ、伊達に友誼を結んだわけではないと……。しかし、私は君の置かれている本当の立場も、長く続く因習に囚われた貴族の歪みというものを、ここに来て一つもわかっていなかった事を思い知ったのだ。だから、これから君に告げる事柄が君にとってどれだけ辛いもので、そして自分の都合しか考えていなかった事であるか……、しかし私は私の利になるという理由だけで、君にこれからの事を願い……いや、命を下すのだ……」
王子を上から見下ろす形になっている自分の姿に気付き、その場に額ずこうとした。その私の肩を掴み、椅子を引きずってきて座らせたのは、私と同じ伯爵出の、私が求めて止まない真っ赤な髪色をした男。
私と同じ武門の家で脳筋、自分の心の内を隠すという事を全くできない男は、私よりもより一層悲痛な顔をして、抑え込むように私を椅子に座らせた。
「この2年間の君の努力を知っている。その成果が私やこの脳筋、そして冷徹眼鏡を抑えて全ての分野での首席卒業だ。それなのに、それまでをしてもこの扱い。君がこの家に絶望して全てを捨て去ろうとしても、誰もその事に後ろ指を指す事はないだろう、この家の者以外は……。しかし、それでも私は私のために伯爵の子息であると言う立場を捨てて欲しくないのだ」
王子は言う、王族という者はそれがどれだけ血が薄くても、その事を主張し権利のみ得ようとするのかを、そして、そのためにはどんな事でもして来る者だという事を。いくら、次の王を約束されたような立場にいる第一王子でも同じこと、心から信頼できる人物が余りにも少ないのだという。
「同級には、ありがたい事に力の強い者が例年より多い。頭脳の点では冷徹眼鏡が」
といって、視線を横に座る青い髪色の侯爵子息を見。
「武の点では、この脳筋が」
まだ私の横で心配そうな表情のまま小さくなっている赤い髪色の伯爵子息を見る。
「しかし、これで身を守れるかというととても心許ないのだ。赤い方は突っ込むだけ、青い方は頭だけ。私自身自分この身を守る事にそれなりの鍛錬を積んでいるからなんとかなったとしても、それ以上は無理な事は理解している。しかし、その場はなんとかなって自分だけ助かったところで、繰り返されればジリ貧だ。そこで、君の守りの力が必要不可欠なのだ。君はその守りの力だけではなく、武でも智でも、この中で一番であるのだから」
王子達の登場にただ驚いて、そんなありきたりな言葉が口からこぼれるだけだった。
王子はほんの少し視線を天井の方に向けて、薄く苦笑いを浮かべた。
それで、なんとなくわかった。王家には王族直属に使える『暗部』といわれる部隊があることを、おとぎ話程度に聞いてはいたが……。
王子は視線を天井からぐるりと部屋一周に巡らせたのち、痛ましげな色を瞳に載せて私の顔をじっと見つめた。
そう、私達が居るこの部屋は、離れと言うのは名ばかりの物置小屋をおざなりに改装したものだからだ。
そんな所に王子を迎え入れている事に、今更ながら気が付いてその事に頭から一瞬にして血が下がった。
今私の顔は真っ青になっているだろう。
王子に座っていただける様な椅子もない。この部屋には使用人が使う様な簡素な勉強用の机と椅子。そして、とても硬そうなシングルベットしか家具らしいものはないのだ。
座って頂くのは勿論椅子になるのだろうが、この椅子は布も何も張られていない硬い木の椅子だ。と言って、リネンも替えられていないベットに直に座って頂くわけにも……。一緒に控えている学友2人も、侯爵と伯爵の子息達だ。
幾ら魂が抜けるほどの思いをしているとも、部屋の中に入って来るまで王子の来訪に気が付かなかった私の腑抜け具合も、大概なものだが……。
色々な考えがぐるぐるして、全く身動きすらできなくなった私を放って、王子は勝手にベットの方に座ってしまった、両脇に侯爵と伯爵の子息を従えて。
「君の事は出会ってからこの2年、すべての事がわかってるなんて傲慢な事は言わないが、少しぐらいは知っているつもりだった。これまでの事も書面で読んで知っているつもりだった。ここに来るまでは……」
突っ立ているだけで、何もできない私を置いて、王子は話し始めた。
「君の家が『スリート』で、君の精霊が『地』であることから、君の置かれている立場も想像に難くない。この2年間友誼を通じながらも、君の心の中にある檻のようなものにいつも阻まれていることを感じないでは居られなかった」
両脇に控えている2人も、いつもの雰囲気は封印するようにただ王子の言葉に耳を傾けているのみだ。
「今年の精霊の儀で君の異母弟が、火の下級ではあるが精霊と契約が成立したという報告を聞いた時、これから君が取るだろう行動についても想像がついたのだ、伊達に友誼を結んだわけではないと……。しかし、私は君の置かれている本当の立場も、長く続く因習に囚われた貴族の歪みというものを、ここに来て一つもわかっていなかった事を思い知ったのだ。だから、これから君に告げる事柄が君にとってどれだけ辛いもので、そして自分の都合しか考えていなかった事であるか……、しかし私は私の利になるという理由だけで、君にこれからの事を願い……いや、命を下すのだ……」
王子を上から見下ろす形になっている自分の姿に気付き、その場に額ずこうとした。その私の肩を掴み、椅子を引きずってきて座らせたのは、私と同じ伯爵出の、私が求めて止まない真っ赤な髪色をした男。
私と同じ武門の家で脳筋、自分の心の内を隠すという事を全くできない男は、私よりもより一層悲痛な顔をして、抑え込むように私を椅子に座らせた。
「この2年間の君の努力を知っている。その成果が私やこの脳筋、そして冷徹眼鏡を抑えて全ての分野での首席卒業だ。それなのに、それまでをしてもこの扱い。君がこの家に絶望して全てを捨て去ろうとしても、誰もその事に後ろ指を指す事はないだろう、この家の者以外は……。しかし、それでも私は私のために伯爵の子息であると言う立場を捨てて欲しくないのだ」
王子は言う、王族という者はそれがどれだけ血が薄くても、その事を主張し権利のみ得ようとするのかを、そして、そのためにはどんな事でもして来る者だという事を。いくら、次の王を約束されたような立場にいる第一王子でも同じこと、心から信頼できる人物が余りにも少ないのだという。
「同級には、ありがたい事に力の強い者が例年より多い。頭脳の点では冷徹眼鏡が」
といって、視線を横に座る青い髪色の侯爵子息を見。
「武の点では、この脳筋が」
まだ私の横で心配そうな表情のまま小さくなっている赤い髪色の伯爵子息を見る。
「しかし、これで身を守れるかというととても心許ないのだ。赤い方は突っ込むだけ、青い方は頭だけ。私自身自分この身を守る事にそれなりの鍛錬を積んでいるからなんとかなったとしても、それ以上は無理な事は理解している。しかし、その場はなんとかなって自分だけ助かったところで、繰り返されればジリ貧だ。そこで、君の守りの力が必要不可欠なのだ。君はその守りの力だけではなく、武でも智でも、この中で一番であるのだから」
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