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マーシュ・スリート 3 落ちた嫡男
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精霊契約後の数年間は思い出したくないことばかりだ。
私が契約をした年に我がスリート家一門から精霊契約に成功した者は私以外居なかったが、私が契約したのが『火』ではない事がその全てを打ち消していた。
私の髪は『漆黒』つまり『地』の上級精霊と契約を結んだ事を教えてくれている。
瞳の色は『濃茶』。『地』以外の精霊とは契約を結んでいない事を表していた。
『地』の精霊は守りに特化した精霊と言われている。
私が契約した次の年、契約の儀に臨んだ従兄弟たちは誰一人も契約に成功した者はいなかった。
またその次の年、私の異母弟が契約に臨み……下級であるが『火』の精霊と契約が成立した時と知った時、私の宙ぶらりんな待遇に自分でハッキリと引導を渡す事ができた。
つまり、家を捨てるという事を……。
私の代の誰一人も精霊契約に成功していない現状で、歓迎されない系統といえども上級精霊と契約が成功した私を、父も母も持て余している事はその態度から十二分に分かる事だった。家の使用人達も、どのように扱っていいか割れ物にでも触るような余所余所しさだったが、異母弟が下級とはいえ曲がりなりにも『火』の精霊と契約が成立した途端に、周りの者達全てが手の平を返すように態度を変えた時、悲しみや怒りよりももっと、そんな関係しか結べて来なかった自分に対しての絶望と虚しさに、過去の自分に対しての全ての事に決別する覚悟が生まれたのだった。
初級学校では、光の精霊と無事契約を結び、その地位を確固とした第一王子と同級であったし、クラスも親の地位及び上級精霊と契約できた者として、同じくクラスであった。
異母弟が次期当主と決定するまでの2年間。心のどこかに遣り切れない思いを抱きながらも、上級精霊と契約できた者として、また武門の伯爵家に生まれた者として、どのような教科も精一杯学び、攻撃魔法を得意としない性質である事に苦慮しながらも、常に首席を守り続けた。同学年には他学年に見られないほど上級精霊と契約を結べた者が多かったので、並大抵な事ではなかったが、上級貴族としては一番下位の伯爵子息である事に難癖をつけるような友も居らずに、学園生活は充実したものだった。
件の第一王子とも身分を超えた友誼も結べ、その他の侯爵等の子息子女とも良好な関係を築けた事は今この時に於いても、私の人生の唯一つの宝だと言っても言い過ぎではない。
その様な我々の交わりを、社交界の噂で聞いていたのだろう、異母弟の事がハッキリした後も、当主である父は我が家の因襲と、実益になる私の掴んだコネを計りに掛けて、周りの者達の私に対する態度には何も言わぬくせに、次期当主の名を言明する事はなかった。
その貴族らしいといえば貴族らしい父の態度に、私は心底幻滅したのだ、貴族である事を捨てるほどに。また、母も妾の息子に次期の座を奪われた私に、酔って恨み言をいいに来るくらいしか顔を合わす事もなく、親に対する未練も感じなくなっていた。
2年間の初級学校が終わると、それぞれ自分の進むべき職に向けての専門分野に分かれて学ぶ中級学校に進む事になる、ここで3年学ぶと丁度卒業する年がこの国における成人とみなされる15歳となるのだ。その上にまた3年、上級貴族や選ばれた者だけが通える高級学校があるのだが……。
初級学校はこの国の国民であれば誰でも通う事が義務付けられている。私の通った学校は、流石に王子が通う学校であるから、上級貴族以外の貴族や平民は通う事が許されていない。何と言っても王城の中の敷地に建っていたので、平民のましてや10歳から12歳の、まだまだ身分がなんであるのか教えられていない子供が、貴族の子供と一緒に学ぶ事は叶わない。中級学校でもその気質は受け継がれており、下級貴族や平民の子供でも精霊契約の結べた者が上級貴族と一緒に学ぶ事が出来る様になるのは、もう一段階上の高級学校からだ。
丁度初級学校も終わった時だったので、私は中級学校からは家を出て、数年前に家から暇をとり、田舎に引っ込んでいる唯一信頼できる乳母の元に転がり込もうと計画を練っていた。
そんな折、おしゃべりスズメの多い貴族社会のこと、我が家の噂でも聞いたのか、第一王子が態々私の元に足を運んでくれた事があった。その頃既に私は母屋から離れに部屋を移されていたので、お忍びで訪れた王子は我が家の誰にも見咎められず、突然目の前に現れた時には大層吃驚したものだ。王子には護衛騎士と共に、2人の同級生も付き従っていた。
私が契約をした年に我がスリート家一門から精霊契約に成功した者は私以外居なかったが、私が契約したのが『火』ではない事がその全てを打ち消していた。
私の髪は『漆黒』つまり『地』の上級精霊と契約を結んだ事を教えてくれている。
瞳の色は『濃茶』。『地』以外の精霊とは契約を結んでいない事を表していた。
『地』の精霊は守りに特化した精霊と言われている。
私が契約した次の年、契約の儀に臨んだ従兄弟たちは誰一人も契約に成功した者はいなかった。
またその次の年、私の異母弟が契約に臨み……下級であるが『火』の精霊と契約が成立した時と知った時、私の宙ぶらりんな待遇に自分でハッキリと引導を渡す事ができた。
つまり、家を捨てるという事を……。
私の代の誰一人も精霊契約に成功していない現状で、歓迎されない系統といえども上級精霊と契約が成功した私を、父も母も持て余している事はその態度から十二分に分かる事だった。家の使用人達も、どのように扱っていいか割れ物にでも触るような余所余所しさだったが、異母弟が下級とはいえ曲がりなりにも『火』の精霊と契約が成立した途端に、周りの者達全てが手の平を返すように態度を変えた時、悲しみや怒りよりももっと、そんな関係しか結べて来なかった自分に対しての絶望と虚しさに、過去の自分に対しての全ての事に決別する覚悟が生まれたのだった。
初級学校では、光の精霊と無事契約を結び、その地位を確固とした第一王子と同級であったし、クラスも親の地位及び上級精霊と契約できた者として、同じくクラスであった。
異母弟が次期当主と決定するまでの2年間。心のどこかに遣り切れない思いを抱きながらも、上級精霊と契約できた者として、また武門の伯爵家に生まれた者として、どのような教科も精一杯学び、攻撃魔法を得意としない性質である事に苦慮しながらも、常に首席を守り続けた。同学年には他学年に見られないほど上級精霊と契約を結べた者が多かったので、並大抵な事ではなかったが、上級貴族としては一番下位の伯爵子息である事に難癖をつけるような友も居らずに、学園生活は充実したものだった。
件の第一王子とも身分を超えた友誼も結べ、その他の侯爵等の子息子女とも良好な関係を築けた事は今この時に於いても、私の人生の唯一つの宝だと言っても言い過ぎではない。
その様な我々の交わりを、社交界の噂で聞いていたのだろう、異母弟の事がハッキリした後も、当主である父は我が家の因襲と、実益になる私の掴んだコネを計りに掛けて、周りの者達の私に対する態度には何も言わぬくせに、次期当主の名を言明する事はなかった。
その貴族らしいといえば貴族らしい父の態度に、私は心底幻滅したのだ、貴族である事を捨てるほどに。また、母も妾の息子に次期の座を奪われた私に、酔って恨み言をいいに来るくらいしか顔を合わす事もなく、親に対する未練も感じなくなっていた。
2年間の初級学校が終わると、それぞれ自分の進むべき職に向けての専門分野に分かれて学ぶ中級学校に進む事になる、ここで3年学ぶと丁度卒業する年がこの国における成人とみなされる15歳となるのだ。その上にまた3年、上級貴族や選ばれた者だけが通える高級学校があるのだが……。
初級学校はこの国の国民であれば誰でも通う事が義務付けられている。私の通った学校は、流石に王子が通う学校であるから、上級貴族以外の貴族や平民は通う事が許されていない。何と言っても王城の中の敷地に建っていたので、平民のましてや10歳から12歳の、まだまだ身分がなんであるのか教えられていない子供が、貴族の子供と一緒に学ぶ事は叶わない。中級学校でもその気質は受け継がれており、下級貴族や平民の子供でも精霊契約の結べた者が上級貴族と一緒に学ぶ事が出来る様になるのは、もう一段階上の高級学校からだ。
丁度初級学校も終わった時だったので、私は中級学校からは家を出て、数年前に家から暇をとり、田舎に引っ込んでいる唯一信頼できる乳母の元に転がり込もうと計画を練っていた。
そんな折、おしゃべりスズメの多い貴族社会のこと、我が家の噂でも聞いたのか、第一王子が態々私の元に足を運んでくれた事があった。その頃既に私は母屋から離れに部屋を移されていたので、お忍びで訪れた王子は我が家の誰にも見咎められず、突然目の前に現れた時には大層吃驚したものだ。王子には護衛騎士と共に、2人の同級生も付き従っていた。
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