転生したら当て馬王子でした~絶対攻略される王太子の俺は、フラグを折って幸せになりたい~

HIROTOYUKI

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チュート殿下 5 目覚めてそして……ひとつになった

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『俺』というか、『僕』が儀式の途中で襲撃を受け、気を失ってからどのくらいの時間が過ぎたのだろうか?

 ことが事だけに箝口令と共に人払いもしているだろうから、侍医と侍従以外がこの部屋に顔を出さないことも、事後の後始末だけで忙殺されていることも、十分理解できる、『俺』は。

 しかし、まだ5歳児の『僕』は、国王王妃も、誰も顔を見に来てくれない事実に、心が押しつぶされそうになっている。

 それでなくても存在が薄い『僕』が、完全に消えてなくなってしまうほどに……。

 国王・王妃両親というか、こちらの肉親に対しては、あくまでも画面の向こうの人であり、ほとんど他人事の『俺』は、国内外の上級貴族を招いての第一王子のお披露目を兼ねた儀式で、あんなことが起きれば見舞いどころではないことが予想できるし、何と言っても他人だし、精神年齢17歳だしで、それ以外のことに思考を持っていきたいのだが、『僕』の心の痛みがそれを許さない。

(金髪になったことがまだ知られていないのか?命に別状がないことを知って後回しにされているのか……?)

 金髪事件は世界観が変わらないのならば結構大きいことであると思われるが、命に問題がなければ対外的なことの方が大切かな。

 大人な『俺』は『僕』を納得させようと試みるが、『俺』の声は『僕』の心に届かない。

 それどころか、存在が消えかかっていた『僕』の纏う色が段々と闇に飲まれるように黒くなり『俺』の心までその色で侵食されるような重苦しいモノが迫ってくる。

(これか?これで僕は闇に飲み込まれてあんな性格になり果てるのか?)

『俺』は意識を集中して、もう一人の自分自身に声をかける。

 小さな『僕』には持て余す大きくて黒い感情を『俺』が受け止めてあげることを。

 小さな小さな『僕』を抱きしめて、背中をゆっくりとさすってあげる。

『俺』の姿は自分ではわからないけど、『僕』が見上げる碧眼の大きな瞳に映っているのは、どう見てもフツメンののっぺりした日本人顔の17歳の俺。

 金色のふわふわな猫っ毛を撫でて、ゆっくりと眠るように促すと、一回ぎゅっとしがみついてきて、涙をホロリと零しながら目を閉じる『僕』。

 少し安心して周りを見渡すと、さっきまで感じていた圧迫感もなくなり、腕の中の『僕』もいなくなっていた。

 気がつくと俺は眠っていたようで、大きな寝台の周りを囲むように降ろされている天蓋の紗から覗く部屋の暗さが随分と増している。

 顔を撫でるとほっぺたが湿っていた。

 黒い気持ちは消え去っていた。

 薄っすら在った『僕』の自我も黒を纏うことなく『俺』と一つになったような気がする。

 心の奥に眠っている感じだ。

 いつかまた会えるようなそんな気がする、いつか……。





 天蓋の鏡に映っている金色の塊。薄暗いなかしばらく仰向けの状態で動きもせずににらめっこ。

 気合を入れて起き上がった時には『僕』を飲み込んだ『俺』は腹をくくった。

 心のどこかにまだ存在する現実感のなさや、認めたくないこの状況。
  
 生まれ変わりか何なのか成ってしまったものは仕方がない。

 生まれる時と場所は選べないものだ。

 ちょっと、イヤ、随分と面倒な奴に生まれてしまったが、考えようによってはこんなによく知っている奴に生まれ変わったのだから、利用しない手はないのだ。

 いくつもの受け入れがたい末路を知っている。

 自業自得と言えないところもあれば、全くそうでないところもある。

『彼』がまだ5歳ならば『ゲーム』が始まるまでは10年という月日があるのだから。

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