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第二章★生かすということ
生かすということ
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松奈とイルドナは三年程前に知り合った仲だ。
たった三年の仲とは思えないくらいに馬が合う。
一年中、各国を飛び回るイルドナは、いつ来るのか、はたまたいつ去ってゆくのかわからない。
嵐のように突然やってきて、さっさと去ってゆく。
そんなイルドナにとって重荷になる女は御免だ。
事前に知らせを欲しがる女。
次の約束を求める女。
去ってゆく背中を笑って送り出せない女。
なぜ来たのか、何をしているのか、どこに行くのか、そんなことをいちいち聞く女も御免だ。
松奈はそんな女には当てはまらないイイ女なのだ。
何も求めず、全てを受け入れ、温かく見守ってくれる。
それでいて、イルドナの存在を身近な人に他言したりしない。
とてもイイ女なのだ。
「しっかりと…足跡を残してくれて…これはこれは感謝しなくてはですね」
慶馬は木で出来たベビーベッドに放り込まれたままの、汚れたイルドナの服を見つけた。
毒物を扱うように、剣先でその服をツン…と突いた。
今度はスッ…と服を持ち上げると、そこには赤子が眠っていた。
スヤスヤと気持ちよさそうに。
「やめて…子供にそんな物…向けないで…」
震える松奈の声。
慶馬は先程とは打って変わり、ニヤケ顔が止まらない。
「ふふふ…」
ザッ…!!!!!!!
「ーーーーぃやぁめてぇぇえええ…!!!!!!!!」
剣先だけを素早く器用に動かす!
松奈は赤子が斬られたと思い悲鳴を上げた!
「おやおや…?」
「………あっ…はぁ…はぁ…」
松奈は激しい動機から呼吸を荒あげてしまった。
一瞬、両手で覆ってしまった目を、ゆっくりと開ける。
慶馬は赤子をまだ斬り殺してはおらず、剣先で服を切り裂いただけであった。
柔らかい赤子の肌が見え隠れしている。
「…やめて…やめて…」
それでもまだ赤子はスヤスヤと眠ったまま。
松奈は恐怖で、慶馬にしがみついて願い出るしかなかった。
すると…
「ーーーーーふぅぎゃぁあぁぁ…!!!!!!」
奥の部屋から、赤子の泣き声が。
「あっ…!」
松奈はビクンと身体を強張らせ、小さな悲鳴を上げてしまう。
それに敏感に反応した慶馬はクツクツと笑いだした。
「おやおやおや…?
赤子ちゃんは…もう一人いましたかぁ?」
「や…めて…!やめて…!
あの子は違うの…!違うのよ!違うのよぉ…!!!!!!」
ツカツカと奥の部屋に向かう慶馬を必死に引き止める松奈。
今度は全力で腕を引く。
「ふふふふ…何が違うのですかぁ?」
わざとらしい丁寧語。
一度は松奈に目線を合わせ、ニヤニヤ笑っておどけたような顔を見せる。
兵隊達はそれに続き、松奈を両側から取り押さえた。
「やめてって…言ってるでしょ…!!!!!
その子は違うの…!!!違うって言ってるでしょ!!!!」
急に発狂しだす松奈に、慶馬は『ビンゴぉ!』などと言って遊びだす。
奥の部屋に押し入ると、割れんばかりの泣き声で赤子は意思表示していた。
だが、慶馬にとって赤子の泣く理由などどうでもいい。
サッ…!!!!
包まれたタオルを剥ぎとると、赤子はますます泣き出す。
「ふぎゃあぁあ…!!!!!…ふぅぎゃあぁああ!!!!!!」
「やめてぇー!!!!!!その子から離れてぇ!!!」
ググッ…!!!!!
松奈の発狂を笑って聞き流し、慶馬は赤子を片手で乱暴に持ち上げた!
「いやぁぁあぁ…!!!!!!!!!!」
「ふはははっ…!当りですよ!大当たり…!!」
慶馬は確信する。
間違いない!
「違うのよぉ!!!!!!この子じゃないわ…!!!!!
この子じゃないって…言ってるでしょ…!!!!!」
「いいえ、この子です。100%間違いありません。
あなたが何と言おうと、間違いないのです!」
赤子の姿をしっかり確認した上で、慶馬は確信する。
松奈は顔面蒼白で、何度も何度も首を横に振った。
「何言ってるのよ…!この子じゃないわっ!!!!
あっちよ!イルの子はあっちだって言ってるでしょ…!!!!!」
「ははははっ…!ついに男の存在を認めましたね。
それにしても…そこまで庇うとは、あなたは出来た女ですねぇ…ふふふ…」
慶馬は松奈の顎に触れ、その顔を覗き込む。
いい女だ。
松奈はガクガクと膝から震えだし、兵隊達に掴まれている両腕の感覚もなくなってしまう程に震えていた。
「嘘よ…!あなた何見てるのよ…!
ちゃんと見てよ…!イルの子はあっちだって言ってるでしょーーーーーーーっっ!!!!!!!」
松奈は決して、世に言うサバサバした性格ではなかった。
他人を羨ましがるし、嫉妬するし、恨んだりもする。
自慢もしたいし、上から物も言いたいし、優越感に浸りたい。
なんの変化もない退屈な日常生活の中で生きている松奈にとって、強引で強くて突然現れるイルドナは刺激的な存在だった。
この街で完全に浮いてしまうイルドナの筋肉美を、何度、他人に自慢したかったことか。
颯爽と去ってゆくその姿に、何度すがりつきたかったことか。
でも、イルドナはそれを求めていないことを知っている。
だから、押し殺したのだ。
女々しい本当の自分の気持ちを。
つまり、都合のいい女を自ら演じてたという訳だ。
ガタンッーーーーーーーーーー!!!!!!
イルドナが勢い良く松奈の家に飛び込むこむと…
「ーーーーーーー」
松奈が床に力なく座りこんでいた。
あんなに明るく感じた部屋が、どこからともなく重苦しく陰湿な雰囲気を醸し出している。
「松奈!」
イルドナは松奈に駆け寄り、肩を強く揺すった。
「………」
茫然とただただ口をぽかんと開けて魂の抜けた松奈のその表情に、イルドナは語りかけることもせず、すぐに立ち上がり赤子の姿を探し始める。
ガタッ…!ガタッ…!
扉が開けっ放しの奥の部屋に、すぐにイルドナの意識は向く。
夕方になり、眩しい夕陽の光が差し込む部屋には、真っ赤な血が。
「ーーーーっ!」
イルドナは一瞬ひるんだが、ゆっくりとその部屋に歩き出した。
血の量が多すぎる…
しかし、大人の量程はない…
ギシッ…
そこには…
見る影もない…赤子の亡骸があった…
「ーーーーーーー」
停止。
イルドナの全てが停止する。
なにもかも。
なにもかも。
現実を見なくてはならないのに、直視できない。
直視するものは残ってはいないのに、ブレーキがかかる。
真っ赤な鮮血。
あんなに温かったミルクは、小さな体の中で、こんなにも赤く冷たい鮮血に変わっていたのか。
まだ産まれたばかりなのに、こんなにも早く冷たく跡形もなく消えてしまうのか。
「……泣いたの」
イルドナの後ろから、松奈が震える声で呟いた。
「……すごく…大きな声で…」
そして、うなだれる。
「どうして…!なんで泣いたのよ…!」
あのまま泣いていなければ、見つかることはなかった。
そして殺されることはなかった。
松奈の方に振り返ると、木のベビーベッドが視線に入った。
イルドナはそのベビーベッドから見える小さな手に目をとめる。
「ーーーーーーー」
イルドナは息を大きく吸って、そのまま吐き出せなかった。
息を飲んでしまう。
「…あなたの…服を離さなくて…」
そこには、イルドナの汚れた服を握って落ち着く亜紀の子供の姿があった。
「あんなに泣く子だったのに…
あなたの服がそばにあったら…全然泣かないの…
ずっと眠ってるの…」
三時間経過した今でも、ミルクを欲しがらずに大人しく眠っている。
あんなに泣きやます方法を探して、抱っこして、揺らして揺らして抱っこして、とにかく抱っこして落ち着かせようと必死だったのに、汚れたイルドナの服たった一枚で落ち着いて眠る姿があった。
「ーーーーっ!」
イルドナはスヤスヤ眠る亜紀の子供をすぐに抱き上げ、頬をこすりつける。
生きていた…!
生きていてくれた…!
…だが、『良かった!』と声には出さなかった。
代わりに松奈の子が死んだからだ。
「どうして…どうして…なの?
どうして…あの騎士は迷いもなくあの子を殺したの…」
松奈の言葉を押し切り『100%間違いない』とまで言いきった。
「どうして…あの子は泣いたのよ…!」
泣くことなど殆どなかったのに。
辛い以外のことで泣いたりなんかしなかったのに。
まるで、松奈の悲鳴に連動するように泣いた。
それまではずっと静かにしていたのに、松奈の恐怖感と共に共鳴した。
ああ…そうか…
あの子と私は…繋がっていたんだ…
松奈は我が子が、自分の産んだ分身だったんだと実感して、その場に崩れた。
母親の恐怖を知り、泣いたんだと…
イルドナは床にうずくまる松奈の肩に手をかけた。
「松奈…すまない…」
それしか言えることがない。
この場にいなかったこと。
すぐに助けに戻れなかったこと。
身代わりになって子供を失わせてしまったこと。
「謝らないで……許し…たくないの。
謝られても…許せない…の。
何も言わないで…」
松奈は顔も上げずにそう言った。
そして、ブルブルと肩を震わせる。
「…許さなくて当然だ。
酷いことをしたのは私だ。私が憎くて当然だ」
この家に来なければ、こんなことになりはしなかった。
イルドナは赤子を抱いたまま、玄関に向かって歩き出す。
静かにこの場から消えようとしていた。
イルドナにとっては、松奈という存在はイイ女というだけにすぎなかった
傷付いた松奈を慰めるや、側にいて支えるつもりなどない。
連れてきた赤子が大事で『許さない』という松奈の言葉に、松奈が赤子を殺すとでも思っているのだろうか。
松奈の為に、亡くなった子の弔いをすることも、真っ赤に染まった部屋を片付けるということも微塵も考えていない。
松奈にはそれがわかった。
松奈はバッと顔を上げ、イルドナの腕を引っ張った。
「行かないで…!」
イルドナの背後から抱きついてしがみつく。
行かせまいと力を込める。
「松奈…」
「私をたった一人にしないでよ…!」
怒りと悲しみが入り混じった。
イルドナは大切に赤子を抱きしめたまま、松奈の手をゆっくりと解くように促す。
「それは出来ない」
「散々世話になっといて…!
子供を身代わりに殺しておいて、それで…それで…その子が無事だったからって…さっさと出ていくの…!?
私に何のお礼も、何の言葉もないの…!?
その子が生きていられるのは…私のおかげなのよ…!」
違うの…!
こんなことが言いたいんじゃないのに…!
松奈は言いながら、イルドナが最も嫌がる言葉を言ってしまっているであろうことはわかっていた。
わかっているのに言ってしまう。
だって…これが私の本性なんだもの…
これが本当の本音なんだもの…!
「そうだ…松奈のおかげだ。…礼はさせてもらう」
「今してよ…!今すぐに感謝して!」
そう言いながら、松奈は自分の言葉に幻滅して眉間にシワを寄せた。
顔を歪ませて、額に手を当てる。
「うっ…」
「松奈…」
こんなにまで追い込んでしまった松奈に、イルドナは申し訳なく思っていた。
だが、手を差し伸べることは出来ない。
「いいの…もういいの…」
松奈は矛盾する自分の言葉に後悔する。
イルドナがいないことをいいことに、イルドナの子はあっちだと言ったのは自分だ。
何度も何度も我が子の為に、よく見ろ、こっちじゃない!あっちだ!と叫んだのは自分なんだ。
その現実の実態を、イルドナには知られたくない。
本当を言うと助けようともしなかった。
これでイルドナの赤子の方を殺されていたら、自分はどうしていたのだろう…
イルドナを止める資格は…私には無い…
それでも…
『松奈…』と名を呼ばれて、
まだ彼からの何か反省の言葉があって…
それから、今後はああしてくれる、こうしてくれるってそれ相応の対応を提案してくれて…
それに私は『もういいって言ってるでしょ!!!!』って怒鳴り散らしても、まだ懲りずに『すまなかった…』って…
バタン…
玄関のドアが閉まる音。
「あっ…イッ…イルーーーー!!!!!!」
馬鹿な期待をしているうちに出ていってしまった。
声もかけずに、さよならも言わずに。
松奈が顔を上げると、そこにイルドナの姿はもう既になく、閉ざされたドアの前に小さな袋があった。
「あっ…あっ…」
置いて行かれた。こうもあっさりと。
震える手で袋の中身を確認すると、少しばかりの金しか入っていなかった。
夕方から夜になるのは早く、あっという間に日が落ちてしまう。
日中の暑さからか、道には生ぬるい暑さがまだ残っている。
もう一度、『ルシェパリの街』へ行き、あの子供服の店を訪ねた。
この上品な街は、夜になると音もなく寝静まる。
邪魔な野盗に鉢合わせしなくて済むが、赤子が今に泣きだしてしまわないかとハラハラしてしまう程に静かであった。
「ご無事…だったんですね…!」
昼間の親切な店員はすぐに店の扉を開けてくれ、預かっていた荷物を裏から出してくれた。
イルドナは滑り込むように店に入り、早口で願い出る。
「すまないが、すぐにミルクを作らせてもらえないか?
腹が減っていて…今にも泣き出しそうなんだ」
奇跡的にもう何時間も黙ったまま我慢している赤子。
だが、見えない目を開けてキョロキョロし始めていた。
「はっ…はい!では、私が作ってきますので、ここでお待ち下さい…!」
店員はイルドナを薄暗い店内の中央の長椅子に座らせると、早々に裏に走っていった。
ミルクを待つ間に、イルドナは不慣れな手付きでオムツを取り替える。
静かな店内に、微かな物音。
イルドナはなんとか泣かさずにオムツの取り替えが完了すると、ドッと深く椅子に腰掛けた。
「……」
バタバタバタ…
先程の店員の足音が近付き振り返ると、ミルクと温かいお茶を両手に抱えて戻ってきた。
まずはイルドナに温かいお茶を渡してくる。
「ど…どうぞ…」
「あぁなんて気が効くんだ…助かる…」
イルドナは喉の乾きを思い出し、生唾を飲みながら、有難くそのお茶を口に含んだ。
「ーーーーー」
シャコシャコシャコ…
店員は震える手を隠しながら、粉ミルクを入れた瓶を軽く振っていた。
その額には大量の汗。
イルドナは一気にお茶を飲み干し、しばらく沈黙の中なにかを考えると、目をゴシゴシと強く擦った。
「…………」
その様子をそっと確認してくる優しい店員。
イルドナは目を軽く閉じる。
「悪いが…こんな程度の毒じゃこの私は倒れんぞ」
「ひぃっ…!」
店員が悲鳴を上げるのと同時に、イルドナの後方から何者かが斬りつけようと剣を振り上げる!
ズシュュ……………!!!!!!
「あっ…うぅ…」
イルドナは振り向きざまに、死神の斧を投げて後方の男の腹を真っ二つに切り裂いた。
「あっあぁ…あぁ…!」
優しかったハズの店員は、イルドナの強さに恐れおののき、その場で腰を抜かす。
イルドナはぶん投げた斧を取りに行き、首の関節をゴキゴキと鳴らした。
「毒も場合によっては薬になるって言うしな…」
「ごめっ…ごめん…ごめんなさい…」
気持ちも温かくなりそうな温かいお茶には、毒物が混入していたのだ。
店員の震える手を、始めは緊張からだろうと思ったが、尋常じゃない汗の量が少し気になってはいた。
そして、お茶を飲んで確信したのだ。『罠』だと。
店に帰ってきてからの店員の様子が全く違うように感じたので、自分が一度この街を離れた後に何かあったのだろうと気付く。
「理由は聞かない。言い訳も聞かない。
そのミルクを早くこちらに渡せ」
「あ…あぁ…あの…ああぁ…」
イルドナは大き過ぎる斧を片手に、ミルクを奪い取ると不相応に見えるがミルクを飲んでみる。
大柄な男が死神の斧を片手に持ちミルクをほおばる姿を、店員は身体を震わせ、口に手を当てて見守った。
しばらく沈黙し…
「救いようがないな」
「まっーーーーー……」
ダンッ!!ブシュュュ……!
本当に何も聞かずにイルドナは、優しかった店員の首を躊躇なく跳ねた。
「……」
本来なら、なぜ毒を盛ったのか、誰かに頼まれたのか、それとも恨みでもあるのか、他に仲間がいるのか、事細かに聞くべきなのだが、今夜のイルドナにはそれが出来なかった。
優しくされたのが嬉しくて、
不慣れな子供服選びが楽しくて、
どっと疲労を感じている時に出された温かいお茶が、本当に嬉しかったのだ。
もしそんな優しくしてくれた店員の言い訳や泣き言など聞いたりしたら、心変わりしてしまい、これから自分の成すべきことが出来なくなってしまいそうだから、有無も言わさず首を跳ねのだ。
決定打はーーーーーミルクにも毒物が入っていたことだ。
自分だけを殺そうとしているのだったら、ここまで怯える店員を殺さなかったかもしれない。
だが、赤子のミルクにまで毒が仕込まれていた。
絶対に見逃すわけにはいかなかった。
ギシ…ギシ…ギシ…
静かになった店内を、ゆっくり歩くイルドナ足音。
最初に殺した男に近づき、斧の先で男の上着のポケットやらズボンのポケットなど突き、男を探った。
すると、胸元のポケットから一枚の紙を見つけた。
そこには『死骸国からの通達』とあった。
大柄な男・イルドナの特徴が詳しく書かれてあり、見つけた者には多額の賞金があたるとのこと。
そして、同じく生後まもない男児のこと。
二人を捕らえて、もしくは殺害して死骸国の騎士団に申し出るようにと、読む者の気持ちを煽るような文章で綴られていた。
「…………」
恐らくは、この男がこの紙切れを店員に見せて、戻ってくる自分を狙おうと計画したのだろう。
死骸国の騎士団は、松奈の子を間違えて殺害したが、それに気付いているのだろうか。
目の前の死んだ二人が、自分達の存在を第三者に他言したのかどうかはわからないが、またきっと追手がくるだろう。
イルドナは急いでその店を出ることにした。
買い込んだ荷物を持ち、赤子を静かに抱いて、店を飛び出す。
「ーーーーふぅぎゃあ…ふぎゃあ…」
赤子の泣き声が、森の中をこだまする。
イルドナが逃げ込んだ先とは…人里から少し離れた川の辺りだった。
だがそれも、こんなに大声でしかも長時間泣かれると、誰かに気付かれるのではないかと気持ちが焦ってしまう。
「ふぅぅぎゃぁぁ……ぎゃあぁあ…ふぅうぎゃあ…」
とにかくよく泣く。
それもそのハズ。
三時間置きのミルクが、もう半日我慢させられているのだから。
「ぎゃあ…ふっぎゃあぁあっ…ぎゃああ」
お湯を沸かしミルクを作る…たったそれだけのことが、とてつもなく時間がかかり、とてつもなく大作業になる。
「ーーーーーよし、できた…」
大の男が汗水流して慌てながら赤子にミルクを与えた。
今回はあっという間に飲み干し、またすぐに赤子が泣き出す。
「ーーーーうぐぅ…うぎゃあぁあっ…うぎゃあぁあっ…」
「なんだ…?足りないのか…?なんでだ…?」
イルドナの頭の上には幾つもハテナが浮かぶ。
いつも通りの温かさに、いつも通りの量。
なにが気にいらないのか、また慌てて作り直しだ。
シャコシャコシャコ…シャコシャコシャコ…
「うぎゃあぁあっ…ふぅうぎゃあ……」
赤子の口を塞ぐ訳にもいかず、泣かせっぱなしで、また時間をかけてミルクを作る。
しかしやっと作ったミルクを、赤子は一瞬で泣いて拒否し、また大泣きする。
「……なんでなんだ…どうしたらいいんだ…」
とにかく泣きやまない。
オムツを取り替えようとしても、いまやっとミルクを飲んだばかりなので汚れてもいない。
抱っこしてゆらゆら揺さぶっても怒りだして泣く。
イルドナは途方に暮れた。
「……ふっぎゃあぁあっ………ふっぎゃあぁあっ……」
ついに頭を抱えてしまう。
早く泣きやませなくてはならないのに、なにか行動を起こせば起こすほど、赤子は気にいらずに泣いているようにしか見えない。
「教えてくれ…どうしてほしいんだ…」
こんな小さな命に、一日中振り回される。
どうしていいのか、もうわからない。
「……ふっぎゃあぁあっ……ぎゃあぁあ…ぎゃあぁあ…」
クラーザならどうする…?
イルドナはふと考えた。
クラーザなら、あの頭の良い涼しい顔した男ならどうするのだろうか。
自分と同じように、汗水流してあくせくするのだろうか。
『少しは考えろ。
とにかく村から連れ出せばいいだろ。後は誰かに頼め』
随分前に、何だかそんなことを言われた気がする。
だが、頼める相手もいない。
『つべこべ言わずにさっさと行け』
そうか…
クラーザなら適任者を見つけて頼むだろう。
では、私もそうしてみるか…?
「ふっぎゃあぁあっ…ふっぎゃあぁあっ…ぎゃあぁあ…」
赤子の泣き腫らした赤ら顔を見る。
そんなことは出来ない。
たった今日一日で、何度、赤子を殺されそうになって、何度、肝が縮んだことか。
手放すということは、見離すことと同じだ。
「ーーーーーーーー違うだろ…!」
泣きわめく赤子の横で、自分を罵るように叱った。
こんなんじゃダメだ…!
こんなことをしていたら、いつか殺してしまう…!
自分の甘さで、赤子を危険に晒して殺してしまう…!
いつまでも、こんなんじゃダメなんだ…!
「ふっぎゃあぁあっ…ぎゃああ…ぎゃあぁあ…」
耳が痛くなる程の泣き声。
もう逃げたくなる程の現状。
だが、逃げている場合じゃない。
よく考えるんだ…!
無い脳みそをフル活用させて、それだけに集中して、全力で考えるんだ…!
「ーーーーーーー」
すると、何気に思い出す。
自分の汚れた服を握って眠っていた赤子の安らかな顔を。
あの時の服は、松奈の家に置いてきたままもうない。
そして、今着ている服はーーーー
「ふぅうぎゃあ…!!!!…ふぅうぎゃあ……!!!!」
返り血がべっとりと付いて、それが乾いた汚服だった。
こんな生々しい汚れた服に、赤子の顔を擦り付けて抱っこしていた自分に怒りが込み上げてくる。
パサッ…!
イルドナはすぐに服を脱ぎ、そのまま赤子を抱っこした。
新しい服がない訳ではない。
だが、早く抱っこしてやりたかった。
着替える時間も惜しいほど、号泣している赤子が可哀想で、上半身裸のままに赤子を抱いた。
「ほら…ほら…すまなかった…もう大丈夫だ…大丈夫だ…」
「ふぅぎゃぁーーーー…………」
なんとーーー
赤子はヒック…と鼻をすすりながら泣き止み、イルドナの身体にすがりつくように顔を寄せて目をつむった。
「大丈夫…だ…」
あれこれやっていたのに、たったこれだけで赤子は泣きやんでしまった。
まだ産まれたての何もしゃべれない何もわからない赤子が、イルドナの抱っこひとつで安心して眠るのだ。
そうだ…
赤子のわかることと言えば、ミルクの味と、抱き心地くらいではないか。
そうか…
まだこんなに小さいのに、自分の匂いや抱き心地を記憶してくれ始めているのか…
「………」
イルドナの目からは小さな涙がこぼれた。
恥ずかしながら、なぜ泣けてくるのかわからない。
だが、とても安堵したのと、申し訳ない気持ちと、色んな思いが入り混じって声が震えた。
ドサッ…
赤子を抱いたまま、濡れた地面に膝をつき、うなだれるようにしてきつく赤子を抱きしめた。
「……うっ…ごめん…ごめんな…」
全力で守ると決めた。
それならば、全力で向き合ってやらねばならないではないか。
そして、また思い出した。クラーザのことを。
姿や形は違うけれども、クラーザもまた、今の自分と同じような時があったじゃないか。
言葉も話せず、泣いてばかりいて、身体も弱く赤子のようなーーー亜紀と二人だけの出会い。
すぐに敵に見つかって狙われ、戦いばかりの日々。
休める暇はなく、戸惑いだらけの日々。
だが、クラーザはそんな亜紀から逃げなかった。
自分を必要とする亜紀を必死で守ろうとした。
イルドナさえも邪魔したのに、クラーザは絶対に亜紀を見離そうとはしなかった。
「ーーーーーー」
クラーザ…
お前なら、命を懸けて守り抜くだろう。
私のように、音を上げそうになったり挫折しそうになったり絶対にしない。
トサッ…
赤子が深い眠りについたところで、そっと優しく地面に下ろした。
ガサ…ガサ…
子供服屋に預かっていてもらった荷物の中から、ミルクの粉を出す。
こんなんじゃダメだ…
ミルクの中に毒を盛られたというのに、なぜこの預かってもらっていたミルクを飲ませてしまったのか。
かろうじて、このミルクには毒は入っていなかったが、軽率すぎる自分の行動を後悔した。
まだまだ、もっともっと注意深くしないとダメだ…!
もっと人を疑って…簡単に信用してはダメだ…!
「……」
今度は、松奈にやるつもりで買った高価な野菜たちをながめた。
空腹の自分の為に手を伸ばすが、ぐっと我慢して野菜を全て川に投げ捨てた。
ザザァァァ…………
川の水面にうつる自分の姿を見る。
もっと考えろ…
もっと考えるんだ…
ザザァァァ…ザバッ…!!!………
川の水を手ですくい上げ、何度も何度も口に運ぶ。
もう今からは食事は摂らない。
一切の食事を断つことを決めた。
こんな姿では目立つからだ。
大柄な上に筋肉質で、人混みに隠れられない。
自分の存在から敵に見つかるなど、なんとも迂闊なことだ。
赤子を隠すことが出来ないのならば、自分を変えるしかない。
腕自慢の自分を捨てろ。
戦わずに済むなら、それが一番良い。
筋力強化を止め、人が変わるまで減量する。
赤子を育てられるだけの筋力さえあればそれでいい。
「ーーー必ず…お前を生かしてやる…」
イルドナは強い意志のこもった目で、赤子を見下ろした。
たった三年の仲とは思えないくらいに馬が合う。
一年中、各国を飛び回るイルドナは、いつ来るのか、はたまたいつ去ってゆくのかわからない。
嵐のように突然やってきて、さっさと去ってゆく。
そんなイルドナにとって重荷になる女は御免だ。
事前に知らせを欲しがる女。
次の約束を求める女。
去ってゆく背中を笑って送り出せない女。
なぜ来たのか、何をしているのか、どこに行くのか、そんなことをいちいち聞く女も御免だ。
松奈はそんな女には当てはまらないイイ女なのだ。
何も求めず、全てを受け入れ、温かく見守ってくれる。
それでいて、イルドナの存在を身近な人に他言したりしない。
とてもイイ女なのだ。
「しっかりと…足跡を残してくれて…これはこれは感謝しなくてはですね」
慶馬は木で出来たベビーベッドに放り込まれたままの、汚れたイルドナの服を見つけた。
毒物を扱うように、剣先でその服をツン…と突いた。
今度はスッ…と服を持ち上げると、そこには赤子が眠っていた。
スヤスヤと気持ちよさそうに。
「やめて…子供にそんな物…向けないで…」
震える松奈の声。
慶馬は先程とは打って変わり、ニヤケ顔が止まらない。
「ふふふ…」
ザッ…!!!!!!!
「ーーーーぃやぁめてぇぇえええ…!!!!!!!!」
剣先だけを素早く器用に動かす!
松奈は赤子が斬られたと思い悲鳴を上げた!
「おやおや…?」
「………あっ…はぁ…はぁ…」
松奈は激しい動機から呼吸を荒あげてしまった。
一瞬、両手で覆ってしまった目を、ゆっくりと開ける。
慶馬は赤子をまだ斬り殺してはおらず、剣先で服を切り裂いただけであった。
柔らかい赤子の肌が見え隠れしている。
「…やめて…やめて…」
それでもまだ赤子はスヤスヤと眠ったまま。
松奈は恐怖で、慶馬にしがみついて願い出るしかなかった。
すると…
「ーーーーーふぅぎゃぁあぁぁ…!!!!!!」
奥の部屋から、赤子の泣き声が。
「あっ…!」
松奈はビクンと身体を強張らせ、小さな悲鳴を上げてしまう。
それに敏感に反応した慶馬はクツクツと笑いだした。
「おやおやおや…?
赤子ちゃんは…もう一人いましたかぁ?」
「や…めて…!やめて…!
あの子は違うの…!違うのよ!違うのよぉ…!!!!!!」
ツカツカと奥の部屋に向かう慶馬を必死に引き止める松奈。
今度は全力で腕を引く。
「ふふふふ…何が違うのですかぁ?」
わざとらしい丁寧語。
一度は松奈に目線を合わせ、ニヤニヤ笑っておどけたような顔を見せる。
兵隊達はそれに続き、松奈を両側から取り押さえた。
「やめてって…言ってるでしょ…!!!!!
その子は違うの…!!!違うって言ってるでしょ!!!!」
急に発狂しだす松奈に、慶馬は『ビンゴぉ!』などと言って遊びだす。
奥の部屋に押し入ると、割れんばかりの泣き声で赤子は意思表示していた。
だが、慶馬にとって赤子の泣く理由などどうでもいい。
サッ…!!!!
包まれたタオルを剥ぎとると、赤子はますます泣き出す。
「ふぎゃあぁあ…!!!!!…ふぅぎゃあぁああ!!!!!!」
「やめてぇー!!!!!!その子から離れてぇ!!!」
ググッ…!!!!!
松奈の発狂を笑って聞き流し、慶馬は赤子を片手で乱暴に持ち上げた!
「いやぁぁあぁ…!!!!!!!!!!」
「ふはははっ…!当りですよ!大当たり…!!」
慶馬は確信する。
間違いない!
「違うのよぉ!!!!!!この子じゃないわ…!!!!!
この子じゃないって…言ってるでしょ…!!!!!」
「いいえ、この子です。100%間違いありません。
あなたが何と言おうと、間違いないのです!」
赤子の姿をしっかり確認した上で、慶馬は確信する。
松奈は顔面蒼白で、何度も何度も首を横に振った。
「何言ってるのよ…!この子じゃないわっ!!!!
あっちよ!イルの子はあっちだって言ってるでしょ…!!!!!」
「ははははっ…!ついに男の存在を認めましたね。
それにしても…そこまで庇うとは、あなたは出来た女ですねぇ…ふふふ…」
慶馬は松奈の顎に触れ、その顔を覗き込む。
いい女だ。
松奈はガクガクと膝から震えだし、兵隊達に掴まれている両腕の感覚もなくなってしまう程に震えていた。
「嘘よ…!あなた何見てるのよ…!
ちゃんと見てよ…!イルの子はあっちだって言ってるでしょーーーーーーーっっ!!!!!!!」
松奈は決して、世に言うサバサバした性格ではなかった。
他人を羨ましがるし、嫉妬するし、恨んだりもする。
自慢もしたいし、上から物も言いたいし、優越感に浸りたい。
なんの変化もない退屈な日常生活の中で生きている松奈にとって、強引で強くて突然現れるイルドナは刺激的な存在だった。
この街で完全に浮いてしまうイルドナの筋肉美を、何度、他人に自慢したかったことか。
颯爽と去ってゆくその姿に、何度すがりつきたかったことか。
でも、イルドナはそれを求めていないことを知っている。
だから、押し殺したのだ。
女々しい本当の自分の気持ちを。
つまり、都合のいい女を自ら演じてたという訳だ。
ガタンッーーーーーーーーーー!!!!!!
イルドナが勢い良く松奈の家に飛び込むこむと…
「ーーーーーーー」
松奈が床に力なく座りこんでいた。
あんなに明るく感じた部屋が、どこからともなく重苦しく陰湿な雰囲気を醸し出している。
「松奈!」
イルドナは松奈に駆け寄り、肩を強く揺すった。
「………」
茫然とただただ口をぽかんと開けて魂の抜けた松奈のその表情に、イルドナは語りかけることもせず、すぐに立ち上がり赤子の姿を探し始める。
ガタッ…!ガタッ…!
扉が開けっ放しの奥の部屋に、すぐにイルドナの意識は向く。
夕方になり、眩しい夕陽の光が差し込む部屋には、真っ赤な血が。
「ーーーーっ!」
イルドナは一瞬ひるんだが、ゆっくりとその部屋に歩き出した。
血の量が多すぎる…
しかし、大人の量程はない…
ギシッ…
そこには…
見る影もない…赤子の亡骸があった…
「ーーーーーーー」
停止。
イルドナの全てが停止する。
なにもかも。
なにもかも。
現実を見なくてはならないのに、直視できない。
直視するものは残ってはいないのに、ブレーキがかかる。
真っ赤な鮮血。
あんなに温かったミルクは、小さな体の中で、こんなにも赤く冷たい鮮血に変わっていたのか。
まだ産まれたばかりなのに、こんなにも早く冷たく跡形もなく消えてしまうのか。
「……泣いたの」
イルドナの後ろから、松奈が震える声で呟いた。
「……すごく…大きな声で…」
そして、うなだれる。
「どうして…!なんで泣いたのよ…!」
あのまま泣いていなければ、見つかることはなかった。
そして殺されることはなかった。
松奈の方に振り返ると、木のベビーベッドが視線に入った。
イルドナはそのベビーベッドから見える小さな手に目をとめる。
「ーーーーーーー」
イルドナは息を大きく吸って、そのまま吐き出せなかった。
息を飲んでしまう。
「…あなたの…服を離さなくて…」
そこには、イルドナの汚れた服を握って落ち着く亜紀の子供の姿があった。
「あんなに泣く子だったのに…
あなたの服がそばにあったら…全然泣かないの…
ずっと眠ってるの…」
三時間経過した今でも、ミルクを欲しがらずに大人しく眠っている。
あんなに泣きやます方法を探して、抱っこして、揺らして揺らして抱っこして、とにかく抱っこして落ち着かせようと必死だったのに、汚れたイルドナの服たった一枚で落ち着いて眠る姿があった。
「ーーーーっ!」
イルドナはスヤスヤ眠る亜紀の子供をすぐに抱き上げ、頬をこすりつける。
生きていた…!
生きていてくれた…!
…だが、『良かった!』と声には出さなかった。
代わりに松奈の子が死んだからだ。
「どうして…どうして…なの?
どうして…あの騎士は迷いもなくあの子を殺したの…」
松奈の言葉を押し切り『100%間違いない』とまで言いきった。
「どうして…あの子は泣いたのよ…!」
泣くことなど殆どなかったのに。
辛い以外のことで泣いたりなんかしなかったのに。
まるで、松奈の悲鳴に連動するように泣いた。
それまではずっと静かにしていたのに、松奈の恐怖感と共に共鳴した。
ああ…そうか…
あの子と私は…繋がっていたんだ…
松奈は我が子が、自分の産んだ分身だったんだと実感して、その場に崩れた。
母親の恐怖を知り、泣いたんだと…
イルドナは床にうずくまる松奈の肩に手をかけた。
「松奈…すまない…」
それしか言えることがない。
この場にいなかったこと。
すぐに助けに戻れなかったこと。
身代わりになって子供を失わせてしまったこと。
「謝らないで……許し…たくないの。
謝られても…許せない…の。
何も言わないで…」
松奈は顔も上げずにそう言った。
そして、ブルブルと肩を震わせる。
「…許さなくて当然だ。
酷いことをしたのは私だ。私が憎くて当然だ」
この家に来なければ、こんなことになりはしなかった。
イルドナは赤子を抱いたまま、玄関に向かって歩き出す。
静かにこの場から消えようとしていた。
イルドナにとっては、松奈という存在はイイ女というだけにすぎなかった
傷付いた松奈を慰めるや、側にいて支えるつもりなどない。
連れてきた赤子が大事で『許さない』という松奈の言葉に、松奈が赤子を殺すとでも思っているのだろうか。
松奈の為に、亡くなった子の弔いをすることも、真っ赤に染まった部屋を片付けるということも微塵も考えていない。
松奈にはそれがわかった。
松奈はバッと顔を上げ、イルドナの腕を引っ張った。
「行かないで…!」
イルドナの背後から抱きついてしがみつく。
行かせまいと力を込める。
「松奈…」
「私をたった一人にしないでよ…!」
怒りと悲しみが入り混じった。
イルドナは大切に赤子を抱きしめたまま、松奈の手をゆっくりと解くように促す。
「それは出来ない」
「散々世話になっといて…!
子供を身代わりに殺しておいて、それで…それで…その子が無事だったからって…さっさと出ていくの…!?
私に何のお礼も、何の言葉もないの…!?
その子が生きていられるのは…私のおかげなのよ…!」
違うの…!
こんなことが言いたいんじゃないのに…!
松奈は言いながら、イルドナが最も嫌がる言葉を言ってしまっているであろうことはわかっていた。
わかっているのに言ってしまう。
だって…これが私の本性なんだもの…
これが本当の本音なんだもの…!
「そうだ…松奈のおかげだ。…礼はさせてもらう」
「今してよ…!今すぐに感謝して!」
そう言いながら、松奈は自分の言葉に幻滅して眉間にシワを寄せた。
顔を歪ませて、額に手を当てる。
「うっ…」
「松奈…」
こんなにまで追い込んでしまった松奈に、イルドナは申し訳なく思っていた。
だが、手を差し伸べることは出来ない。
「いいの…もういいの…」
松奈は矛盾する自分の言葉に後悔する。
イルドナがいないことをいいことに、イルドナの子はあっちだと言ったのは自分だ。
何度も何度も我が子の為に、よく見ろ、こっちじゃない!あっちだ!と叫んだのは自分なんだ。
その現実の実態を、イルドナには知られたくない。
本当を言うと助けようともしなかった。
これでイルドナの赤子の方を殺されていたら、自分はどうしていたのだろう…
イルドナを止める資格は…私には無い…
それでも…
『松奈…』と名を呼ばれて、
まだ彼からの何か反省の言葉があって…
それから、今後はああしてくれる、こうしてくれるってそれ相応の対応を提案してくれて…
それに私は『もういいって言ってるでしょ!!!!』って怒鳴り散らしても、まだ懲りずに『すまなかった…』って…
バタン…
玄関のドアが閉まる音。
「あっ…イッ…イルーーーー!!!!!!」
馬鹿な期待をしているうちに出ていってしまった。
声もかけずに、さよならも言わずに。
松奈が顔を上げると、そこにイルドナの姿はもう既になく、閉ざされたドアの前に小さな袋があった。
「あっ…あっ…」
置いて行かれた。こうもあっさりと。
震える手で袋の中身を確認すると、少しばかりの金しか入っていなかった。
夕方から夜になるのは早く、あっという間に日が落ちてしまう。
日中の暑さからか、道には生ぬるい暑さがまだ残っている。
もう一度、『ルシェパリの街』へ行き、あの子供服の店を訪ねた。
この上品な街は、夜になると音もなく寝静まる。
邪魔な野盗に鉢合わせしなくて済むが、赤子が今に泣きだしてしまわないかとハラハラしてしまう程に静かであった。
「ご無事…だったんですね…!」
昼間の親切な店員はすぐに店の扉を開けてくれ、預かっていた荷物を裏から出してくれた。
イルドナは滑り込むように店に入り、早口で願い出る。
「すまないが、すぐにミルクを作らせてもらえないか?
腹が減っていて…今にも泣き出しそうなんだ」
奇跡的にもう何時間も黙ったまま我慢している赤子。
だが、見えない目を開けてキョロキョロし始めていた。
「はっ…はい!では、私が作ってきますので、ここでお待ち下さい…!」
店員はイルドナを薄暗い店内の中央の長椅子に座らせると、早々に裏に走っていった。
ミルクを待つ間に、イルドナは不慣れな手付きでオムツを取り替える。
静かな店内に、微かな物音。
イルドナはなんとか泣かさずにオムツの取り替えが完了すると、ドッと深く椅子に腰掛けた。
「……」
バタバタバタ…
先程の店員の足音が近付き振り返ると、ミルクと温かいお茶を両手に抱えて戻ってきた。
まずはイルドナに温かいお茶を渡してくる。
「ど…どうぞ…」
「あぁなんて気が効くんだ…助かる…」
イルドナは喉の乾きを思い出し、生唾を飲みながら、有難くそのお茶を口に含んだ。
「ーーーーー」
シャコシャコシャコ…
店員は震える手を隠しながら、粉ミルクを入れた瓶を軽く振っていた。
その額には大量の汗。
イルドナは一気にお茶を飲み干し、しばらく沈黙の中なにかを考えると、目をゴシゴシと強く擦った。
「…………」
その様子をそっと確認してくる優しい店員。
イルドナは目を軽く閉じる。
「悪いが…こんな程度の毒じゃこの私は倒れんぞ」
「ひぃっ…!」
店員が悲鳴を上げるのと同時に、イルドナの後方から何者かが斬りつけようと剣を振り上げる!
ズシュュ……………!!!!!!
「あっ…うぅ…」
イルドナは振り向きざまに、死神の斧を投げて後方の男の腹を真っ二つに切り裂いた。
「あっあぁ…あぁ…!」
優しかったハズの店員は、イルドナの強さに恐れおののき、その場で腰を抜かす。
イルドナはぶん投げた斧を取りに行き、首の関節をゴキゴキと鳴らした。
「毒も場合によっては薬になるって言うしな…」
「ごめっ…ごめん…ごめんなさい…」
気持ちも温かくなりそうな温かいお茶には、毒物が混入していたのだ。
店員の震える手を、始めは緊張からだろうと思ったが、尋常じゃない汗の量が少し気になってはいた。
そして、お茶を飲んで確信したのだ。『罠』だと。
店に帰ってきてからの店員の様子が全く違うように感じたので、自分が一度この街を離れた後に何かあったのだろうと気付く。
「理由は聞かない。言い訳も聞かない。
そのミルクを早くこちらに渡せ」
「あ…あぁ…あの…ああぁ…」
イルドナは大き過ぎる斧を片手に、ミルクを奪い取ると不相応に見えるがミルクを飲んでみる。
大柄な男が死神の斧を片手に持ちミルクをほおばる姿を、店員は身体を震わせ、口に手を当てて見守った。
しばらく沈黙し…
「救いようがないな」
「まっーーーーー……」
ダンッ!!ブシュュュ……!
本当に何も聞かずにイルドナは、優しかった店員の首を躊躇なく跳ねた。
「……」
本来なら、なぜ毒を盛ったのか、誰かに頼まれたのか、それとも恨みでもあるのか、他に仲間がいるのか、事細かに聞くべきなのだが、今夜のイルドナにはそれが出来なかった。
優しくされたのが嬉しくて、
不慣れな子供服選びが楽しくて、
どっと疲労を感じている時に出された温かいお茶が、本当に嬉しかったのだ。
もしそんな優しくしてくれた店員の言い訳や泣き言など聞いたりしたら、心変わりしてしまい、これから自分の成すべきことが出来なくなってしまいそうだから、有無も言わさず首を跳ねのだ。
決定打はーーーーーミルクにも毒物が入っていたことだ。
自分だけを殺そうとしているのだったら、ここまで怯える店員を殺さなかったかもしれない。
だが、赤子のミルクにまで毒が仕込まれていた。
絶対に見逃すわけにはいかなかった。
ギシ…ギシ…ギシ…
静かになった店内を、ゆっくり歩くイルドナ足音。
最初に殺した男に近づき、斧の先で男の上着のポケットやらズボンのポケットなど突き、男を探った。
すると、胸元のポケットから一枚の紙を見つけた。
そこには『死骸国からの通達』とあった。
大柄な男・イルドナの特徴が詳しく書かれてあり、見つけた者には多額の賞金があたるとのこと。
そして、同じく生後まもない男児のこと。
二人を捕らえて、もしくは殺害して死骸国の騎士団に申し出るようにと、読む者の気持ちを煽るような文章で綴られていた。
「…………」
恐らくは、この男がこの紙切れを店員に見せて、戻ってくる自分を狙おうと計画したのだろう。
死骸国の騎士団は、松奈の子を間違えて殺害したが、それに気付いているのだろうか。
目の前の死んだ二人が、自分達の存在を第三者に他言したのかどうかはわからないが、またきっと追手がくるだろう。
イルドナは急いでその店を出ることにした。
買い込んだ荷物を持ち、赤子を静かに抱いて、店を飛び出す。
「ーーーーふぅぎゃあ…ふぎゃあ…」
赤子の泣き声が、森の中をこだまする。
イルドナが逃げ込んだ先とは…人里から少し離れた川の辺りだった。
だがそれも、こんなに大声でしかも長時間泣かれると、誰かに気付かれるのではないかと気持ちが焦ってしまう。
「ふぅぅぎゃぁぁ……ぎゃあぁあ…ふぅうぎゃあ…」
とにかくよく泣く。
それもそのハズ。
三時間置きのミルクが、もう半日我慢させられているのだから。
「ぎゃあ…ふっぎゃあぁあっ…ぎゃああ」
お湯を沸かしミルクを作る…たったそれだけのことが、とてつもなく時間がかかり、とてつもなく大作業になる。
「ーーーーーよし、できた…」
大の男が汗水流して慌てながら赤子にミルクを与えた。
今回はあっという間に飲み干し、またすぐに赤子が泣き出す。
「ーーーーうぐぅ…うぎゃあぁあっ…うぎゃあぁあっ…」
「なんだ…?足りないのか…?なんでだ…?」
イルドナの頭の上には幾つもハテナが浮かぶ。
いつも通りの温かさに、いつも通りの量。
なにが気にいらないのか、また慌てて作り直しだ。
シャコシャコシャコ…シャコシャコシャコ…
「うぎゃあぁあっ…ふぅうぎゃあ……」
赤子の口を塞ぐ訳にもいかず、泣かせっぱなしで、また時間をかけてミルクを作る。
しかしやっと作ったミルクを、赤子は一瞬で泣いて拒否し、また大泣きする。
「……なんでなんだ…どうしたらいいんだ…」
とにかく泣きやまない。
オムツを取り替えようとしても、いまやっとミルクを飲んだばかりなので汚れてもいない。
抱っこしてゆらゆら揺さぶっても怒りだして泣く。
イルドナは途方に暮れた。
「……ふっぎゃあぁあっ………ふっぎゃあぁあっ……」
ついに頭を抱えてしまう。
早く泣きやませなくてはならないのに、なにか行動を起こせば起こすほど、赤子は気にいらずに泣いているようにしか見えない。
「教えてくれ…どうしてほしいんだ…」
こんな小さな命に、一日中振り回される。
どうしていいのか、もうわからない。
「……ふっぎゃあぁあっ……ぎゃあぁあ…ぎゃあぁあ…」
クラーザならどうする…?
イルドナはふと考えた。
クラーザなら、あの頭の良い涼しい顔した男ならどうするのだろうか。
自分と同じように、汗水流してあくせくするのだろうか。
『少しは考えろ。
とにかく村から連れ出せばいいだろ。後は誰かに頼め』
随分前に、何だかそんなことを言われた気がする。
だが、頼める相手もいない。
『つべこべ言わずにさっさと行け』
そうか…
クラーザなら適任者を見つけて頼むだろう。
では、私もそうしてみるか…?
「ふっぎゃあぁあっ…ふっぎゃあぁあっ…ぎゃあぁあ…」
赤子の泣き腫らした赤ら顔を見る。
そんなことは出来ない。
たった今日一日で、何度、赤子を殺されそうになって、何度、肝が縮んだことか。
手放すということは、見離すことと同じだ。
「ーーーーーーーー違うだろ…!」
泣きわめく赤子の横で、自分を罵るように叱った。
こんなんじゃダメだ…!
こんなことをしていたら、いつか殺してしまう…!
自分の甘さで、赤子を危険に晒して殺してしまう…!
いつまでも、こんなんじゃダメなんだ…!
「ふっぎゃあぁあっ…ぎゃああ…ぎゃあぁあ…」
耳が痛くなる程の泣き声。
もう逃げたくなる程の現状。
だが、逃げている場合じゃない。
よく考えるんだ…!
無い脳みそをフル活用させて、それだけに集中して、全力で考えるんだ…!
「ーーーーーーー」
すると、何気に思い出す。
自分の汚れた服を握って眠っていた赤子の安らかな顔を。
あの時の服は、松奈の家に置いてきたままもうない。
そして、今着ている服はーーーー
「ふぅうぎゃあ…!!!!…ふぅうぎゃあ……!!!!」
返り血がべっとりと付いて、それが乾いた汚服だった。
こんな生々しい汚れた服に、赤子の顔を擦り付けて抱っこしていた自分に怒りが込み上げてくる。
パサッ…!
イルドナはすぐに服を脱ぎ、そのまま赤子を抱っこした。
新しい服がない訳ではない。
だが、早く抱っこしてやりたかった。
着替える時間も惜しいほど、号泣している赤子が可哀想で、上半身裸のままに赤子を抱いた。
「ほら…ほら…すまなかった…もう大丈夫だ…大丈夫だ…」
「ふぅぎゃぁーーーー…………」
なんとーーー
赤子はヒック…と鼻をすすりながら泣き止み、イルドナの身体にすがりつくように顔を寄せて目をつむった。
「大丈夫…だ…」
あれこれやっていたのに、たったこれだけで赤子は泣きやんでしまった。
まだ産まれたての何もしゃべれない何もわからない赤子が、イルドナの抱っこひとつで安心して眠るのだ。
そうだ…
赤子のわかることと言えば、ミルクの味と、抱き心地くらいではないか。
そうか…
まだこんなに小さいのに、自分の匂いや抱き心地を記憶してくれ始めているのか…
「………」
イルドナの目からは小さな涙がこぼれた。
恥ずかしながら、なぜ泣けてくるのかわからない。
だが、とても安堵したのと、申し訳ない気持ちと、色んな思いが入り混じって声が震えた。
ドサッ…
赤子を抱いたまま、濡れた地面に膝をつき、うなだれるようにしてきつく赤子を抱きしめた。
「……うっ…ごめん…ごめんな…」
全力で守ると決めた。
それならば、全力で向き合ってやらねばならないではないか。
そして、また思い出した。クラーザのことを。
姿や形は違うけれども、クラーザもまた、今の自分と同じような時があったじゃないか。
言葉も話せず、泣いてばかりいて、身体も弱く赤子のようなーーー亜紀と二人だけの出会い。
すぐに敵に見つかって狙われ、戦いばかりの日々。
休める暇はなく、戸惑いだらけの日々。
だが、クラーザはそんな亜紀から逃げなかった。
自分を必要とする亜紀を必死で守ろうとした。
イルドナさえも邪魔したのに、クラーザは絶対に亜紀を見離そうとはしなかった。
「ーーーーーー」
クラーザ…
お前なら、命を懸けて守り抜くだろう。
私のように、音を上げそうになったり挫折しそうになったり絶対にしない。
トサッ…
赤子が深い眠りについたところで、そっと優しく地面に下ろした。
ガサ…ガサ…
子供服屋に預かっていてもらった荷物の中から、ミルクの粉を出す。
こんなんじゃダメだ…
ミルクの中に毒を盛られたというのに、なぜこの預かってもらっていたミルクを飲ませてしまったのか。
かろうじて、このミルクには毒は入っていなかったが、軽率すぎる自分の行動を後悔した。
まだまだ、もっともっと注意深くしないとダメだ…!
もっと人を疑って…簡単に信用してはダメだ…!
「……」
今度は、松奈にやるつもりで買った高価な野菜たちをながめた。
空腹の自分の為に手を伸ばすが、ぐっと我慢して野菜を全て川に投げ捨てた。
ザザァァァ…………
川の水面にうつる自分の姿を見る。
もっと考えろ…
もっと考えるんだ…
ザザァァァ…ザバッ…!!!………
川の水を手ですくい上げ、何度も何度も口に運ぶ。
もう今からは食事は摂らない。
一切の食事を断つことを決めた。
こんな姿では目立つからだ。
大柄な上に筋肉質で、人混みに隠れられない。
自分の存在から敵に見つかるなど、なんとも迂闊なことだ。
赤子を隠すことが出来ないのならば、自分を変えるしかない。
腕自慢の自分を捨てろ。
戦わずに済むなら、それが一番良い。
筋力強化を止め、人が変わるまで減量する。
赤子を育てられるだけの筋力さえあればそれでいい。
「ーーー必ず…お前を生かしてやる…」
イルドナは強い意志のこもった目で、赤子を見下ろした。
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