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第十七章✧きっかけ
きっかけ
しおりを挟む「ミールどうした?」
「う..ん、何でもない」
移動の途中でミールは座りこんでしまった。
イルドナが足を止め、声をかけ近寄る。
ザザザァァァァ....
風が強くなり、森の葉音が轟音を鳴らす。
イルドナは空を仰いだ。
「風が強くなってきたな..」
クラーザも足を止めた。
ゴォォオォォォ....!!!!
「ミール、辛いのか!?どうしたんだよっ!?」
アコスが慌てる。
なぜなら、下手すればクラーザやイルドナに置いていかれてしまうと思うからだ。
「うっ..うるさいわね!」
ミールが苛々する。
アコスはミールの態度よりも、クラーザやイルドナの様子に気を取られる。
「台風がきそうだな」
イルドナが言う。
それに答えるように、クラーザが遠い目をして口を開く。
「嵐がくる」
「えっ!嵐!?」
アコスが大袈裟に驚く。
「この辺りは『バヤナ団』という輩がいる。
台風に紛れて攻撃するのを得意としてくる輩だ。
....もしかしたら、鉢合わせするかもしれないな」
イルドナは、アコスとミールに説明がてら、クラーザに次の動きの確認を取る。
クラーザはこの場に留まることを選択した。
ゴォォオォォォ.....
予想は的中し、
風が嵐へと瞬く間に変わっていく!
ゴォォオォォォオオオオオ!!!!
「嵐だけにしちゃ、この変わりよう不自然じゃねぇかぁ!?」
アコスが身構える。
「何か来るっ!!!!」
ミールも立ち上がり、戦闘体勢をとった。
ゴォォオォォォオオオオオ!!!!!!!!
風を受け、イルドナの茶色の短い髪が逆立つ。
「ふはは...久々に暴れたい気分だ」
イルドナが口元で笑いニッと口角を上げると、
吸血鬼のようにキバが見えた。
ゴォォオ.......
クラーザの漆黒紫の長い髪は、後方に波打つように流れていく。
相変わらず、冷たい紅い眼で虚空を見上げる。
どんな状況でも冷静で変わらぬ態度は、
アコスから見ても格好が良く憧れだ。
「よっよーし!
ミール、お前は俺が守ってやるからゆっくり休んでなっ!」
アコスが図にのると、ミールの蹴りが後ろから飛んできた。
ガツッ!
「痛っ!」
「えらそぉーにうるさいのよ!
あんたが私を守るだなんて、二億年早いのよ!」
ミールが着物の袖をめくり上げて、動きやすい形をとった。
ゴォォオォォォオオオオオ!!!!
ビュオォォオォオオオオオオオ!!!!
激しい嵐が巻き起こり、
..ダッ!..ダッ!..ダッ!..ダッ!..ダッ!..ダッ!..ダッ!..
その嵐に紛れて、バヤナ団が現れた!
挨拶と言わんばかりに、攻撃を仕掛けてくる!
「かったるいぜぇえ!!!!」
アコスが気を高めて、戦闘に入る!
ブワァ!!!!
アコスは自らから嵐に飛び込み、肉弾攻撃を食らわせるっ!
ドダダダダダッ!!!!
キィィィ....ン
イルドナが死神の斧を振り上げる!
「アコス、どけ!」
イルドナが武者震いを隠しきれない様子で、嵐の中に突進する!
「――!」
アコスは『何か出る!』と感じ、一歩離れた。
選手交代で、アコスとイルドナが入れ代わる。
「消え去れぇぇ!!!!」
イルドナが怒鳴りながら、嵐の中に一太刀ぶち込む!
グワァァァァ!!!!
死神の斧が怒号を上げているように鳴り響いた!
ズドォオオオオッ!!!!
イルドナはバヤナ団を薙ぎ払った!
「わぁぁお♪すごぉい!」
ミールが感激の声を上げる。
そして、ミールも空かさず嵐の中に飛びこんだ!
「いっただきぃ♪」
ミールは両手を合わせ、手の平から爆撃を放射させた!
イルドナの攻撃で余ったバヤナ団に止めを指す!
ドォオンッッ!!!!
「あぁっ!ミールきったねぇ!」
アコスも慌てて、嵐に飛び込む。
まとまった嵐が横に拡大し、イルドナ達を囲んだ。
ゴォォオォォォオオオオオ!!!!
「アコス!邪魔にならないようにしなさいよっ!!!」
ミールは偉そうに言い、バヤナ団と刀を交えた!
キィン!キィン!キィン!
女のミールだが力は男以上だ。
イルドナに続き、アコスもミールも楽しむように戦いに率先してでる。
ドォオンッッ!!!!
バヤナ団は声もなく、一行に襲い掛かった!
「私達と出くわしたことを後悔するがいいっ!!!!」
イルドナが高揚して、死神の斧を乱暴に振り回す!
「はっはーっ!!!
俺様の名はアコス様だぁ!覚えときやがれぇい!」
アコスも調子にのって、バヤナ団を次から次へと消し去る!
ゴォォオォォォオオオオオ!!!!
嵐はクラーザにも及んだ!
クラーザは紅い眼をカッと見開き、全身から極光を放った!
カァアアアアア――!!!!
そのオーラで、バヤナ団を覆っていた嵐が吹き飛ぶ!
「すごっ...」
ミールは立ち止まり、クラーザの凄さに魅入った。
手を触れずとも、眼を見開くだけで敵を討つことが出来るのか!
「―――」
クラーザはゆっくりと静かに手を胸の前に出し、
手を外へと押し出した。
シュゥゥウウウウ!!!!
風が何処からともなく突風に変わり、
鎌鼬のように、バヤナ団を斬り裂くっっ!!!!
「ぎゃあああああ!!!!!!!!」
ミールはイイ物を見せてもらったと機嫌を良くし、
自分も負けられないと戦いに没頭した。
ゴォォオォォォオオオオオ
四人を中心に激しい旋風が起きた!
だが、誰ひとり恐れる者はいなかった。
むしろ、好んで戦いに挑んでいく。
気にかけて守るモノなど無い。
この身ひとつで戦えばいい。それだけだ。
ザザザァァァァ........
バヤナ団との戦いが終わり、
気が付くと、土砂降りの雨が森を濡らしていた。
「あっ..」
ミールが足を滑らせたのか、パシャリと地面に手をつく。
「ミール、大丈夫か?」
近くのイルドナが手を伸ばす。
と、同時に血の香りがツンとした。
皆、今ほど戦いを終えたばかりだ。
「あ..あんたは、無事なの?」
ミールはイルドナの手を借りて立ち上がる。
「..あ?..これは返り血だ」
イルドナは服に付着した血を指差す。
ザザザァァァァ....
大雨の中、向こう側でアコスが叫んでいる。
「おーいっ!こっち!こっちだぞぉ!」
雨音であまり大きく聞こえなかった。
まるで、やまびこをして楽しんでいる子供のようなアコスの姿に、ミールは舌打ちをした。
「...ほんっとに、うざいんだから!」
隣でイルドナは苦笑いした。
イルドナとミールが、アコスに呼ばれるままに行くと、
アコスの指差す方向に大きな洞窟があった。
ザザザァァァァ...
「ここなら雨を凌げるぞ!」
アコスが目を輝かせて話す。
「ベルカイヌンはどうしたのよ?」
ミールの冷たい視線にもめげず、
アコスは「もう中にいるよ」と教えた。
イルドナとアコスは、すぐに洞窟に入っていった。
ミールも後に続く。
..しかし、傷を負った訳ではないのに、足元がふらついた。
パシャ..
またよろめき、だがすぐに歩きだし、洞窟の中に入っていった。
ザザザァァァァ....
雨音が遠ざかり、洞窟の静けさに耳がなれていく。
「バナナ団もあっちゅー間に片付いちまったな!ふははっ」
アコスはご機嫌の様子。
「バヤナ団だぞ」
イルドナはそう訂正しながら、同じように機嫌良くニタニタと笑った。
二人とも、気兼ねなく戦えたことに満足していた。
「ベルカイヌン、ここはいつ発つ?」
アコスが偉そうに声をかけた。
共に仲間として戦ったのだと優越感に浸っている。
俺達は最強だと。
「...雨が上がるまでだ」
ミールは無言で近付いた。
雨でびしょ濡れになったクラーザの服を見る。
「...」
ピッタリと服が張り付き、身体の線が見えた。
たくましい身体...
ボッ..
イルドナが火をおこし、辺りが少し明るくなった。
パサッ
クラーザが上着を脱ぐ。
「雨で気持ちわりぃ~!」
アコスも濡れた服を脱ぐ。
しかし、ミールはクラーザから目を離さなかった。
完璧な肉体があらわになる。
とても男らしい体つき。
すごくたくましかった。
(あの腕に抱かれてみたい...
一度でいいから、抱かれたい)
「なんだ?クラーザの裸に何かついてるか?」
イルドナがミールの横で、意地悪な言葉を投げかけた。
「えっ..」
ミールが我に返ると、
今度はアコスがミールの横にピタリとくっつき、クラーザを指差した。
「え~っと、乳首がふたぁーつ
ヘソがひとぉーつ、
腹の筋肉が.....ひとつふたつみっつ..」
「ばかっ!!!!黙りなさいよっ!!」
ミールは手加減なしで、アコスの頭を殴った。
「いってぇ~~っ!!!!」
クラーザは冷たい視線を送り、新しい服を着る。
「う...!」
いきなりミールは今度は胸を押さえてうずくまった。
「ミール??!」
アコスがミールの背中に触れる。
痛みは一瞬で、すぐにミールは身体を起こす。
「.......触らないでよっ!」
アコスの手を払い退けた。
「....大丈夫..なのかぁ?」
アコスは訳のわからない顔をして、ミールを見つめる。
イルドナが腕組みをして、ため息をついた。
「ミール、邪気祓いをなぜしなかったんだ?」
「邪気祓い?
ふんっ!そんなもの私には関係ないわよっ!」
ミールはバッバッと手で服の水気を払う。
「お前、死ぬぞ」
クラーザの低い声が洞窟の中をこだました。
「なっ...」
ミールが言葉を失う。
「邪気を甘くみると取り返しのつかないことになる」
クラーザが服の裾を直しながら言う。
「.....どうなろうと関心は無いが」
「邪気なんて.....」
ミールは言葉を濁して慌てる。
その様子を見て、イルドナが詳しく説明に入った。
「邪気とは身体よりも魂に蝕むんだ。
だから、気付かない者は全く気付かない。
このまま放っておいたら、まずは魂を喰われ、身体を内側から食い尽くされる」
アコスもミールも目を丸くした。
ふたりは邪気などという類いのものには、全く無頓着だった。
「ミール...それで..?」
先程から具合の悪そうなミールの顔を、アコスは恐る恐る見た。
「なによっ!」
ミールはアコスのオロオロする様子に苛立ちを感じた。
「ミール..本気で甘く考えない方がいいぞ」
イルドナがミールの肩を叩く。
ミールはふと不安気な顔を見せた。
「どうしたら...」
イルドナが難しい顔をする。
すると、クラーザが横目で冷たい視線を送ったまま、重い口を開いた。
「戻れ」
ザザザァァァァ
外から微かな雨音が聞こえた。
「嫌だ...あんなとこで頼みたくないわ」
ミールは虚勢を張るが、いつも程の強気がない。
ミール一人で『息の深い谷の村』に戻るのは、ミール自身の変なプライドが許さなかった。
「他の祈祷師に頼むわ..」
ミールが言い慣れない『祈祷師』という言葉を使う。
すると、無口なクラーザが続けた。
「....もう手遅れだ。
他の祈祷師にはお前の邪気を祓うことは不可能だ。
だが、新罹ならまだ間に合う」
ミールと視線を合わす。
「気に入らんのはわかるが、死にたくなければ、引き返せ」
「....」
ミールは何か言いたげに、しかし言葉が口から出てこず黙った。
「ミール、クラーザの言う通りだ。
しかし、何故、邪気祓いをしてこなかった?
あの新罹のことだ。きっとネチネチ何か言われるぞ」
イルドナは気の毒そうに笑みを浮かべた。
「ミール、今なら間に合うんだから行こうぜ?」
アコスが説得するように言う。
「私一人で行くわよ。アコスは邪魔なだけ」
嵐が止むのを四人は待った。
ザザザァァァァ.....
滝のように雨は降り続く。
アコスは大の字で、イビキをかきながら寝ている。
イルドナは洞窟の周りを散策に出ていた。
クラーザは目を細めながら、外の景色を見ていた。
「ねぇ..」
ミールがクラーザに近寄る。
クラーザは振り向きもしない。
「あんたは..戻らないの?」
ザザザァァァァ......
ミールは立った状態で、
方膝を立てて座っているクラーザを見下ろす。
「..何が言いたい」
クラーザが低い声で問う。
ミールは口の先を尖らせて、ツンとした。
「別に」
ただ...と付け加える。
「あの月の女神サンはいいんだ?
さすがのベルカイヌンでも、手に入らないモノもあるのね」
「女神...」
イルドナが勝手につけた呼び名を、ミールは使った。
何よりもそのネーミングが合っていると思ったからだ。
「ま...私には関心のないことですけどねっ」
ミールはくるりと背を向けた。
ザザザァァァァ.....
雨はその後、半日程、降り続いた。
サァァァアアア...
次第に小雨に変わっていく。
時はもう夕刻を回っていた。
「そろそろだな」
イルドナが出発の言葉を匂わす。
「ミール、本当に一人で大丈夫かよっ?」
目覚めの良いアコスは、耳障りな程の大きな声を出す。
「だぁから!あんたがいる方がよっぽど邪魔なのよ!」
四人は洞窟の外へ出た。
激しい雨の影響で、土砂崩れが起きている。
地盤も緩く、危ない。
クラーザとイルドナとアコスは、東の方角を。
ミールは来た方角を向く。
「じゃぁ、気をつけろよ。
邪気祓いする前に、新罹と揉めないようにな」
イルドナが皮肉を交えて、苦笑いをする。
「いちいち、うるさいわねぇ!」
ミールは愛想笑いをする。
アコスもカッカッカッと笑う。
「....」
一瞬、間が空いて、出発を覚悟する。
「ミール、これを」
クラーザが最後に声をかけた。
プツッ..
クラーザは腕にしていた腕輪の紐をちぎり、
ミールに投げた。
「...あ..」
ミールは上手に受け取り、クラーザの顔を見る。
「三日だけ待つ。『朝凪の浜』だ」
「―――!」
まさかクラーザが、ミールだけを待つ為に三日も時間をさくのか!
ミールは感激を通り越し驚いた。
が、すぐに笑顔をつくった。
「一日で行くから!」
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