このタイムスリップは強制非公開!

輝石☆彡

文字の大きさ
上 下
29 / 97
第十六章✧下ろされた暗幕

下ろされた暗幕

しおりを挟む
昼過ぎに、クラーザとイルドナとアコスとミールは『息の深い谷の村』を離れて行った。

盛大な見送りなどなく、
発つ時は『滝の果て村』の主と蒼史達の戦士たちだけが見送りをした。

新罹は出てこなかった。

いつも欠かさず見送りにも出てくるのに...と主や戦士達は思ったが、そのことには誰も触れず、何事もなく過ぎていった。

高い跳躍と、素早いスピードで、
クラーザ達の姿はあっという間に森に消えていった。





亜紀は仕事も途中に、部屋の中にいた。
昼も過ぎているというのに、
敷かれた布団に横になり物思いにふけっていた。

「.....」

唇に指をあてて、クラーザのことを想う。

クラーザは、もう去ってしまったというのに、
不思議と涙は出てこなかった。

心が暖かくて、
何故かまたすぐに会える...とそんな気持ちになっていた。

(キス..しちゃった..)

亜紀は夢の中にいるような、フワフワした気持ちでいて、
クラーザと口づけしたことが、まだ信じられなかった。

(...クラーザ、アタシのこと....
......好き...なのかな.....)

亜紀は頬を赤くし、両手で唇に触れた。

(アタシはクラーザが..好き...
もっと好きになっちゃったよ..
今のアタシ、すごく幸せ.....もうこれだけで充分だよ..)

亜紀は先程のことを思い返しては、顔を赤くし恥ずかしくなったり、胸をキュンとときめかせていた。

ガッ...!!!

戸が荒々しく開かれた。
亜紀は驚き、咄嗟に身を起こして戸の先を見た。

「――――!」

そこには無言で発つ、鬼の面をした新罹の姿が。

「..新..罹さま..」

亜紀は突然のことで、布団の上で上体を起こしただけの姿勢でいた。
新罹は亜紀を睨み見た。
もうここ数日睨みすぎて、目が充血している。

亜紀は...
驚きの表情で新罹を見ている。

その唇は..
朝見た時には、赤の紅が塗られていたのに、
今は色も全て落ち、ピンク色のふっくらした形に戻っていた。

「...クッ..」

新罹は歯に力を加え、ギリギリと歯ぎしりをする。

ピシャン..!!!

新罹は部屋に入り、すぐに戸を閉めた。

「...あ..あの..新ら..」

亜紀が何事かと慌てるが、
新罹は目を見開き、亜紀に突進してきた。

「――――!!!」

新罹は何も言わず、亜紀の首に手をかけた!

ググッ!!!

「新..罹さっ!!――ぅうっ!!」

亜紀は首を閉められ、
それでも何が起こってるのか、
突然のことで理解ができなかった。

新罹は亜紀の首を力いっぱい絞め、亜紀を布団に押し倒した。

「――あっ!!!...やっ!!...」

亜紀は苦しがり、顔を歪ませる。

「――――!!!!」

新罹は見開かれた目を更に大きく開き、
亜紀の上に馬乗りになった。

「...う..」

亜紀の苦しがる表情を見て、
新罹は無性に腹ただしく感じた。
苦しがる顔も艶っぽく見え、乱れた漆黒の髪がなまめかしい...

「....ゆるさぬぅ..!!!!」

新罹の口からは、怨念のような低い声がもれる。

「あっ!!..はあっ.....」

亜紀は震える手で、新罹の手を退けようする。
が、力のこもった新罹には全く通じない。

グググッ..

新罹の手にますます力が入った。

「.....あ....うぅ...」

パタッ...

亜紀の手が力無く、畳の上に落ちた..
亜紀の目は空を泳ぎ、口は少し開かれ、
白い顔が、なお白く見えた。

「―――っ!」

新罹は途中で、その狂暴な手を止めた。
すると、亜紀の肺に一気に酸素が流れ込み咳き込んだ。

「ゴホッゴホッ...!!!」

新罹の顔が、亜紀の顔に近づく。

「....美しいままでは死なさぬ」

嫉妬と憎悪が新罹の中で渦巻き、
醜い顔へと変貌する。

「...や...めて...」

亜紀が朦朧とした意識の中、か細い声を出す。

「黙れ、汚らわしい女がぁ!」

パシンッ..!!

新罹は亜紀の頬を叩いた。
亜紀の透けてしまいそうな白い肌が、
痛みでじんわりと赤くなる。

パシンッ!パシンッ!パシンッ!

新罹は夢中になって亜紀を叩く。
白い肌がほんのり赤くなるのでさえも憎らしく、
亜紀の頬が別の色に変わるまで叩き続けた。

「このぉ!このぉお!!!!
なぜ、わしがこのようなことをしなければならんのだぁ!!!!」

パシンッ!!パシンッ!!!

「お前が悪い!憎らしいお前が全部悪いのだ!!!!
わしにこんな悍ましいことをさせるなんて、お前は悪魔だぁ!!!!」

新罹は絶叫し、亜紀の首に再び手をかけた。

「...ぁ.....はぁ.....」

亜紀は殆ど意識を失っていた。




「.....ク..ラーザ...」





腫れ上がった顔の小さな口から出た名前に、
新罹は理性がぶっ飛んだ。

憎らしい憎らしい...!!!

なおも儚い亜紀の美しさに、怒りをあらわにする。

「ぎゃぁああ!!!!黙れぇぇえ!!」

バッッ!!!!

新罹は懐から、長い針を取り出した!
長針を握り締め、高くかざす!

新罹は自分の唇を噛み締めると同時に、
亜紀の目に長針を振り下ろしたっ!!

「ぎゃああぁあ!!!!」

新罹の雄叫びとも叫びともいえぬ声が部屋中に響き渡った!

ザシュ....!!!!

「あぎゃぁあ!!!!ぎぇええ!!!」

興奮状態の新罹は、頭に血がのぼり、

叫ぶ!叫ぶ!!叫ぶ!!!!



「...はぁぁっ..!!!!」

亜紀の口からは、ため息のような悲鳴がもれる。
――亜紀の瞳には、長針が真っ直ぐに突き刺さっていた!





あ...はぁ..はぁ...
助けて..
誰か...

....あぁ....はぁ..はあ..
...クラーザ..助けて...!!!

闇の中を、ひたすら走った。

(助けて...いやっ...)

息を切らして走るのは、
黒のワンピースを着た亜紀だ。
真っ暗闇を、方角もわからず、ただ走り続けた。

(いやだっ...来ないで...)

そして、急に固い床が柔らかい土に変化する。

(あっっ....!)

亜紀は足を取られ、履いていた黒のエナメルのミュールを失う。

ドサッ..

そのまま地面に倒れこむ。

(..うっ....はぁ...はぁ...)

その時...


『あき』


どこからともなくクラーザの声が聞こえた。

(クラーザ..!!?)

亜紀はすぐに顔を上げ、再び闇雲に走り出した。

(クラーザ!どこなの?クラーザ!!)

亜紀はひたすら走った。


『あき』



クラーザの声が聞こえる。
けれど、見つけることができない。

(クラーザァァァ――――!!!!)

亜紀は叫んだ。

(きゃっ!)

再び足をすくわれ倒れる。

ドサッ...

亜紀が顔を上げると、そこには..

(いっ....いやっ...)

倒れた身体に跨がる碧い身体の色をした化け物が!

(やめて!はなして!)

亜紀は必死に抵抗するが、あっさりとその化け物によってワンピースが派手に破かれた。

ビビッ...!!!

(いやぁぁっ!!!!)

亜紀の手を縛り、化け物は亜紀の胸にしゃぶりつく。

(いやっ!助けてクラーザァァ!!!)

化け物は亜紀の胸を一通り舐め終わると、
今度は足元に顔を下ろしていく!

(いやっ!やだぁっっ!!!!)
 

『あき』


クラーザの声が聞こえながら、亜紀は化け物に襲われた。

(クラーザァァァ.....)

亜紀が泣き叫ぶと、
足元で顔を埋めていた化け物が顔を上げる。

すると..
その顔が、いつの間にか新罹に!

(やっやめて!離れて!)

亜紀の言葉も聞かず、
新罹はムクッと起き上がった。

手には刀が!

(...あ....あぁ.....)

亜紀は恐ろしさに動けなかった。

ズッ!

ブシュュッ....!

ブサッ!

亜紀はいくつも斬りつけられた。

(やだ!やめてぇーっ!!!!)

亜紀の腕が転がり、
亜紀の足が斬り落とされ、
とうとう首だけが残った...!


『早く、消え失せろ!』



イルドナのような、
新罹のような、
女のような、
男のような声が響いた。






(助けて...クラーザ.....)

亜紀は辛い夢を見ていた。
しかし夢から覚めても闇だった。
全く目が見えない。

「...あっ.....あ...」

亜紀は激痛の走る目元に手をやり、顔をかばう。

(痛い...痛いよ....)



しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

処理中です...