ありそうでない話。

てつや

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準備

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2026年、4月1日。

 携帯のスヌーズ、テレビのおはようタイマーで嫌々目を覚ます。渋々カーテンを開けると、途轍もない勢いで光を浴びた。どうやら人間たちの功績を太陽が称えているようである。過去5年間を振り返れば、それもそのはずだ。

 猫背で腰パンという、何とも覇気のない態度で洗面所へ向かう。

 ほうれい線の深さ、でこの広さ、頬シミの多さ、鏡を見て自分が中年男へと着実に向かっていることを悟る。次に来るのは体臭のきつさだろう。未来に希望なんて、これぽっちもなかった。

 シュン「明日で35歳か」

 鏡に向かって独り呟き、再びリビングへ向かう。ピンクの腕時計と、家族宛の手紙を取りに行くために。

 翌日は彼の記念すべき誕生日であった、、、、、、



ЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖ

 

 ここ最近で、世界は目まぐるしく変化した。私たち日本人はもちろんのこと、全人類がその対応に追われていた。

 あの悪夢は2020年がきっかけだった。年明けから世界中で感染症が蔓延し、多くの人が苦しめられた。その年に開催予定であった、東京オリンピックは2年後に開催されるも、各国ベストメンバーが出場することができず、人気はかなりの衰退。その後2025年まで、感染症に対する恐怖は消えなかった。

 見えない敵と戦うために、労働は在宅勤務が主流となり外出は控えるようになる。仕事を首になり途方に迷う者もいれば、新事業が大当たりし富豪へと上り詰めた者もいる。生活も常識もビジネスも、大きく転換していった。

 一方ポジティブに言うならば、この収束までの期間は、最も人間らしさが出た時代かもしれない。呑気な言い方であるが、人々は地獄と天国を行き来しながら、精一杯自分の人生を真っ当しようとした。

 この大変革時代を生き抜き、なんとか2026年を迎えることができた。ワクチンの開発が成功し多くの命が助けられた。ウイルスも死んだ。いつも通りの日常が戻ったのだ。世界中は歓喜の渦に巻き込まれた。

 しかしこの大義達成に全くと言って喜べない、1人の男性がいた。

続く

※ この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

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