蛙化現象

てつや

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 2019年の4月、僕は福岡の大学に復学した。同時に、少しずつ続けていた就職活動を再始動した。

 目標企業はただ一つ。それは休学中に働いていた会社。
 
 そこに社員として戻ることが目標だった。

 「絶対に戻ってやる」

 その一心で、エントリーシート、SPI対策を行った。結果は一次試験の合格。二次試験へと駒を進めた。

 「おれならできる!」

 その熱い気持ちで、二次試験であるグループデスカッションに臨んだ。

 結果は不合格であった。

 面接までも行けなかった。屈辱とやるせなさで心は覆われて行った。

 その後3番目に行きたかった企業に内定をいただき、2019年の6月、僕は就職活動を終えた。

 確かに大本命の企業を落ちた時、それはそれは絶望であった。

 しかし「この企業で力を付ければ、いつか大本命企業に戻ることができる」

 そう半分論理的で、半分見えない自信を持てたことで、自分の就活に納得感を抱くことができた。

 
 就活を終えてからは、カフェのバイトと卒論に追われる日々が続いた。

 どちらも自分で選択し、好き好んで進んだ道。もちろん嫌なことはあったが、それなりに楽しさを感じていた。

 そして2019年11月。

 僕にとって、その年1番のビックイベントである、世界野球プレミア12が開幕した。

 日本は苦戦しながらも、勝ち進んでいき韓国との決勝を迎えた。いつも通り僕はテレビの前に陣取り、固唾を飲んで戦況を見守っていた。

 この日は序盤から試合が動いた。初回にホームラン2本を浴び、日本は3-0のビハインド。しかしその裏の回に1点、そして2回にはホームランを放ち、日本はたちまち逆転した。

 その逆転ホームランに興奮が冷めない僕は、そのリプレイシーンをインスタグラムのストーリーに投稿。

 ただただこの興奮を、不特定多数の誰かと共有したかったのだ。

 
 すると数分後、通知が届く。

 「誰とこの興奮を分かち合えるんだろう!!!!!」

 楽しみで仕方がなかった。試合の戦況も垣間見ず、携帯を手に取る。

 画面には見覚えのある名前が記されていた。

 その名前を見た瞬間、僕は緊張してしまった。そう当時、初めて会った時と同じ感覚。

 そこには「あすか」と表示されていた。

 「ここまで来たら勝ってほしいですね!」

 昨日会った友達のように、彼女はダイレクトメッセージを送ってきた。

 その内容に若干ひるみながらも、僕はすぐに返信をした。

 しかし何と返信をしたのか?はたまた、決勝戦はどのような展開で最終回まで進んだのか?
 
 僕は全く覚えていない。

 ただ覚えているのは、試合が終わるまで返信が来なかったということだけである。

 ここから2人の物語は、急加速を始めていった。
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