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序章 凍雲の日のひとり
003 名無しの手紙
しおりを挟む親愛なるあなたへ
霧の国の窓の外にも美しい銀雪の景色が広がり、こちらは冬篭りの季節です。どうしてもあなたに手紙を書きたくて、筆を取りました。
まず初めに、この手紙に名を記さない無礼をお許しください。誰にも読まれることのない手紙だとしても、あなたの名前も、僕の名前も、書いてはならないということは承知しています。
一つ前の手紙で、学を修め、評議会の一次採用試験に合格したことをお伝えしましたね。
今日は二次試験の結果が発表され、これも無事通りました。
晴れて僕も今日からあの評議会の一員ですよ。まだ配属される部署は決まっていませんが、捜査官として【霧雨】への配属希望を出しました。望み通りにことが運ぶかは分かりませんが、きっと、そうなると思っています。
僕には、未だにあの日のことが忘れられません。あの赤と金色の空が、眠るたび、夢になって出てくるのです。
なぜ、あの様な事が起きてしまったのか、評議会に所属したとしても、何かしらの情報を掴むこと自体やはり難しそうでした。
情報はかなり高度な魔法で秘匿されていて、全てに、第一級の封鎖法式が施されています。ですから、さらに上を目指さなければ、閲覧さえもできないということです。
聞いたかぎりでは、あなたの耳飾りの片方は評議会の最深部で保管されています(これはいつか必ず取り戻してみせます)。もう片方はまだ見つけることができていません。あなたの手の中にあるのなら、それで良いのですけれど。
あの時、第一の守人様が指揮権を持っていたとだけ、耳にしました。
あのお方の真意は、僕には全く汲み取れません。
友人であったあなたなら、あの方の考えに納得されたのでしょうか。あのような仕打ちは、正しかったのだと言うのでしょうか。あなたを貶めて、何の後悔も抱いていないのでしょうか。
考えれば考えるほど、のうのうと生きているあいつらを見ていると、堪らないのです。
なぜあいつらは生きていて、あなたは生きていないんだろうって。
まだ約束を覚えていますか?
あの時の約束を、僕は違えてしまった。許して欲しいなんて言いません。だけど、もう一度、もう一度だけ機会をください。
あなたが死んでから、十二年の月日が経った。僕にとってこの年月は、長くて、でも、短かった。今はただ、あなたの無念を晴らしたいのです。
カラディの戦いも、夜明けの乱でも、あなたの行いは正しかったはずだ。何も間違えたことなんてしていなかった。だから僕は、あなたの身に起きた出来事の真実を、絶対、明らかするつもりです。
いつもより短いものとなってしまいましたが、今回はこのくらいにします。
いえ、本当は、あなたへの手紙はこれで最後にするつもりです。どうかこれは、評議会に入る僕の決意だと思ってください。
それでは、また、いつか全てが終わった時に。
【Runue - theruna - ieruramoruta】
いつまでも、あなたの傍に。
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