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「気にするな。それより書けたから書類を取りに行こう」
「はい、確かにお預かりしました」
手紙を受け取り、一緒に生徒会室へと向かう。
他の生徒会メンバーはすでに帰った後だった。アルサムは書類をその場で確認し、小さくコクコクと頷いた。
「何かメモに出来るものあるか?」
「ありますよ、何に使うんですか?」
「研究室の見学日の希望を書いておこうと思ってな」
フッと笑うアルサムにペンとメモを渡す。
「これもさっきの封筒に入れておいてくれ」
メモには、『見学希望日』の文字の下に日にちと時間だけが書かれている。シンプルすぎるが、封筒を渡す時に先ほどの言葉を伝えればいいだろう。メモを先ほどの封筒に入れる。アルサムはそれを見届けると書類を小脇に挟み、生徒会室を後にした。
アルサムが去ってからすぐに生徒会室の戸締まりをし、馬車に乗り込んだ。そのまま王城に、第一王子の執務室に向かった。アルサムの研究室とは正反対の、埃一つない部屋だ。資料も綺麗にファイリングされている。書類が山になるなんてこともない。
「ーーというわけで、アルサム=ベルガからの手紙を預かってきたわ」
義兄に事情を説明して封筒を渡す。彼はすぐに中身を確認し、スッと視線を上げた。
「三ヶ月と経たずに立ち直らせるとは……。やはりメリッサに頼んで正解だったな」
「別に私じゃなくても良かったと思うけど。それにベルガ伯爵家の問題は何も解決していない」
「アルサムはすでにベルガ伯爵家の人間ではない。長年本人との連絡が取れなかったことを理由に、数ヶ月ほど前から籍を抜かれている。アカデミーの警備は王城の次に強固で、家族であろうと認可証を持たない限り入れない。そしてベルガ伯爵家は何度も認可証申請を拒まれていた」
「え?」
衝撃的な事実に思わず目を丸くしてしまう。私が認可証なしで出入り出来たのは、義兄が手回しをしていたからだったのか。認可証システムを知っているアルサムからすれば、私が短期間で何度も認可証申請を行っているように見えたに違いない。
変な勘違いにもちゃんと理由があったのだ。バッサリと切り捨ててしまったことを少しだけ反省する。全て目の前の男が悪いのだが。じどっとした目を向けるが、彼はどこ吹く風だ。
「アカデミーから出される本当の理由は、アルサムの学費を払う人間がいなくなったからだ。何かしらの成果があれば奨学金を得ることも出来るが、彼はすでに通常の在学期間よりも長くいるからな。実力は認めているアカデミー側も抱えきれなくなったというわけだ」
義兄は今さらながらに事情を打ち明けながら、その手元ではアルサムへの返事が生成されていく。器用なものだ。字だって私よりずっと上手い。けれど活版文字とは違う、どこか人間味のある文字だ。その手紙も私に運ばせるつもりなのだろう。いつものことなので深くは突っ込まず、会話に集中する。
「それを本人に伝えればもっと早く取り込めたんじゃないの?」
「伯爵家との縁がなくなったから出てくる、よりももっとよい理由があるのなら、アルサムの今後のためにもそれを採用するべきだろう」
「そのために私は三ヶ月近く時間を費やしたことに対して何かないの」
三ヶ月の間、ひたすら論文を読み込み、アルサムについて調査をし、何度も足を運んだ。
下準備だけでもそこそこの時間と労力を費やしている。お姉様のためとはいえ、楽に手に入れる方法があるのであればそちらを使ってほしかった。時間が空けば、昼寝するお姉様の代わりに子守りくらいできた。余裕ができればお茶だって……。
過ぎた三ヶ月を振り返り、不満が沸き上がる。だが目の前の男は楽しそうに笑うだけ。
「そうだな……後日、いちごのケーキを用意しよう。君、好きだろう?」
「お姉様が一緒に食べられないのに? 私、来年まで待つのは嫌よ」
「ならジェラートにしよう。暑くなって来た頃に招待する」
生まれてくる子は無理でも、一人目の子なら食べられる頃合い。
初ジェラートを一緒に迎えられると思うと悪くない提案だ。
「はい、確かにお預かりしました」
手紙を受け取り、一緒に生徒会室へと向かう。
他の生徒会メンバーはすでに帰った後だった。アルサムは書類をその場で確認し、小さくコクコクと頷いた。
「何かメモに出来るものあるか?」
「ありますよ、何に使うんですか?」
「研究室の見学日の希望を書いておこうと思ってな」
フッと笑うアルサムにペンとメモを渡す。
「これもさっきの封筒に入れておいてくれ」
メモには、『見学希望日』の文字の下に日にちと時間だけが書かれている。シンプルすぎるが、封筒を渡す時に先ほどの言葉を伝えればいいだろう。メモを先ほどの封筒に入れる。アルサムはそれを見届けると書類を小脇に挟み、生徒会室を後にした。
アルサムが去ってからすぐに生徒会室の戸締まりをし、馬車に乗り込んだ。そのまま王城に、第一王子の執務室に向かった。アルサムの研究室とは正反対の、埃一つない部屋だ。資料も綺麗にファイリングされている。書類が山になるなんてこともない。
「ーーというわけで、アルサム=ベルガからの手紙を預かってきたわ」
義兄に事情を説明して封筒を渡す。彼はすぐに中身を確認し、スッと視線を上げた。
「三ヶ月と経たずに立ち直らせるとは……。やはりメリッサに頼んで正解だったな」
「別に私じゃなくても良かったと思うけど。それにベルガ伯爵家の問題は何も解決していない」
「アルサムはすでにベルガ伯爵家の人間ではない。長年本人との連絡が取れなかったことを理由に、数ヶ月ほど前から籍を抜かれている。アカデミーの警備は王城の次に強固で、家族であろうと認可証を持たない限り入れない。そしてベルガ伯爵家は何度も認可証申請を拒まれていた」
「え?」
衝撃的な事実に思わず目を丸くしてしまう。私が認可証なしで出入り出来たのは、義兄が手回しをしていたからだったのか。認可証システムを知っているアルサムからすれば、私が短期間で何度も認可証申請を行っているように見えたに違いない。
変な勘違いにもちゃんと理由があったのだ。バッサリと切り捨ててしまったことを少しだけ反省する。全て目の前の男が悪いのだが。じどっとした目を向けるが、彼はどこ吹く風だ。
「アカデミーから出される本当の理由は、アルサムの学費を払う人間がいなくなったからだ。何かしらの成果があれば奨学金を得ることも出来るが、彼はすでに通常の在学期間よりも長くいるからな。実力は認めているアカデミー側も抱えきれなくなったというわけだ」
義兄は今さらながらに事情を打ち明けながら、その手元ではアルサムへの返事が生成されていく。器用なものだ。字だって私よりずっと上手い。けれど活版文字とは違う、どこか人間味のある文字だ。その手紙も私に運ばせるつもりなのだろう。いつものことなので深くは突っ込まず、会話に集中する。
「それを本人に伝えればもっと早く取り込めたんじゃないの?」
「伯爵家との縁がなくなったから出てくる、よりももっとよい理由があるのなら、アルサムの今後のためにもそれを採用するべきだろう」
「そのために私は三ヶ月近く時間を費やしたことに対して何かないの」
三ヶ月の間、ひたすら論文を読み込み、アルサムについて調査をし、何度も足を運んだ。
下準備だけでもそこそこの時間と労力を費やしている。お姉様のためとはいえ、楽に手に入れる方法があるのであればそちらを使ってほしかった。時間が空けば、昼寝するお姉様の代わりに子守りくらいできた。余裕ができればお茶だって……。
過ぎた三ヶ月を振り返り、不満が沸き上がる。だが目の前の男は楽しそうに笑うだけ。
「そうだな……後日、いちごのケーキを用意しよう。君、好きだろう?」
「お姉様が一緒に食べられないのに? 私、来年まで待つのは嫌よ」
「ならジェラートにしよう。暑くなって来た頃に招待する」
生まれてくる子は無理でも、一人目の子なら食べられる頃合い。
初ジェラートを一緒に迎えられると思うと悪くない提案だ。
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