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97.ちょっぴり不憫な王子様
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「王子ってもしかして『今度は左! 敵数20以上。一気に攻めて!』恋愛対象がっ、同年代女性じゃないっ、のかしら?」
「そんなこと『サイドから敵二体ずつ! 交互に決めて!』ないと思いますけど」
「だって全く女性の影がないのよ? 『マンホールが壊れた! 下だ! 下から来てるぞ!』乙女ゲームシナリオがっ、壊れているとはいえっ、青春真っ盛りなのに!」
「一概に青春っていっても学園恋愛だけじゃないですからね! 『回復タイム! 綿飴回収して!』」
今日、私達が踊っているのは大人気を博したジェシー式ブートキャンプを監修したジェシー&ボブが満を持して発売したテレビゲーム『ボブのゴーストブレイク ~シャドーボクシングで鍛えた瞬発力を発揮する時が来たようだな~』である。
ジェシー式ブートキャンプですっかりシャープな身体になったボブは運動にはまり、シャドーボクシングを始めた。キレッキレなパンチを出せるようになったある日、ボブの街でゴーストが溢れた! 中には暴れるゴーストもいて、けが人は日に日に増えていくばかり。そこで同じ街に住む科学者が考案したのがゴーストに効く武器の数々。そこでボブが選んだのはボクシングのグローブ――ではなく、メリケンサックであった。グローブは先に来ていたボクサーが選んでしまったのだ。なぜか大量に用意されていたメリケンサックを両手に装着し、お騒がせ者のゴースト達を退治していく! という設定である。
回復アイテムが綿飴に板チョコなど、ブートキャンプのエクササイズネタが盛り込まれているのは一種のファンサービスだ。回復アイテム取得すらも休ませてくれない鬼畜っぷりはファンに愛されていた設定の一つだ。
ジェシー式ブートキャンプ同様、二人揃って前世でやりこんでいたため、画像を見ずとも敵のやって来る方向が分かる。
「まぁそうだけど……」
「そもそもなんで婚約破棄したいんですか?」
「え、だって『ボーナスタイム発生! はいっ、巻いて巻いて~』こんなのが国母とか嫌じゃない?」
教祖になっておいて、今さら国母になれるか心配するなんて……。
すでに大規模な集合体のトップに立っているから無用な心配ですよ、とツッコミたいところだがここはあえてスルーする。
それよりも重要なのは、ユリアスさんがまるで王子の好意に気づいていないということ。
悪役令嬢と王子様という関係があるため、多少なりともフィルターがかかっているのだろうが、あれだけあからさまな好意に気づかないとは鈍感すぎる。
王子との接点は同じ本を読んでいるだけなのだが、話を聞いているだけで不憫でたまらず、手を貸してあげたくなる。
「あ、王子が嫌いとかでは『上空だ! 上空から大群が攻めてきた!』ないんですね」
そうこう話しているうちにボス戦に突入する。
まだ初めの方のステージのため、相手が変な動きをすることはないが、前方でたたき落とし損ねると横に回ってきたりするのでなかなか厄介なのだ。この世界にはもちろんゲームなどはなく、前方から迫るゴーストなんて存在しないのだが、私の目にはしっかりとゴーストの大群が見える。もちろんユリアスさんの目にも。
よほどやりこんでいるのだろう。
出なければ音楽もなしに、二人でエアゲームなど出来るはずもない。
「久々のボス戦きっつ……耐久、何分だっけ?」
「5分です」
「長っ」
「ほらほらゴースト攻めてきてますよ。前で捌かないと横に回りこんじゃいますよ~。前方捌いて避けてサイドまで来るとなると、いくら低ステージとはいえなかなかつらいですよ~」
励ましながら、ユリアスさんに軽めの回復魔法をかける。
「なんでロザリアさんはそんなに息落ち着いてるの!」
「冒険者ですから~」
「リアルでモンスター相手に戦ってるんだった!」
ユリアスさんは目の前で威嚇するようにゆらゆら揺れるゴーストの襲撃に備え、ぐっと拳を構え直す。敵を見据え、ボス戦お決まりのボブの台詞を口にする。
「『よっしゃやってやるぜ!』私は嫌いじゃないけどっ、王子はきっと私のこと嫌いっよっ!」
たたき落としながらも、しっかりと会話は続行する。
息は切れ切れになっているが、一体一体確実に仕留めていっている所を見るに、多分ユリアスさんも冒険者向きだ。
パーティーにスカウトなんてしたら信者達や溺愛王子様に何されるかわかったもんじゃないから絶対しないけど!
ユリアスさんの話に上がる度に思うが、なぜここまで通じないのか。
意外にも理由は近くに落ちていた。
「そう、ですかね?」
「そうよっ。だって私の態度っ、なかなかっひどいもの。っ素がほとんどだけどっつ、わざとやってるところも多いし」
どうやらこんな自分を好きになってくれる訳がない、という思考らしい。
彼女が珍しい行動をとり続けている上に、若干天然が入っていることは否定しないけれど……。
それでもユリアスさんが人を惹きつける魅力があるのもまた事実。
王子が態度だけではなく、言葉で示せば案外簡単に伝わるのではないだろうか?
ラングさん達もあっさりくっついたことだし。
「可愛くて頭がよくて選ばれし者感ぷんぷん出してる女の子の転校生来ないかな! 2ndヒロインかもん!」
「私は乙女ゲームってよく知らないのですが、ここでヒロイン役を求める悪役令嬢ってなかなかいないと思いますよ」
「イレギュラー上等!」
「私も珍しいものとか面白いもの好きですけどね」
今日も一応、フォローはしておく。
だが結局、どうにかなるには当人同士が互いの思いに気づくしかないのだ。
ボス戦達成の雄叫び代わりに「ヒロインかもおおおおん」と叫ぶ彼女だが、そんな相手が出てきたら潰す方向に動く者は多いだろう。もちろん私も、大事な友人が傷つけられるとあっては黙っているつもりはない。
ユリアスさんが王子妃として君臨する姿を想像して、思わず笑みがこぼれる。
隣にはいつだって王子様がいるのに、多分おとぎ話みたいにはならないんだろうな~。
そんなところもユリアスさんらしい。
彼女がいる限り、この国はいつまでも平和でいてくれることだろう。
「そんなこと『サイドから敵二体ずつ! 交互に決めて!』ないと思いますけど」
「だって全く女性の影がないのよ? 『マンホールが壊れた! 下だ! 下から来てるぞ!』乙女ゲームシナリオがっ、壊れているとはいえっ、青春真っ盛りなのに!」
「一概に青春っていっても学園恋愛だけじゃないですからね! 『回復タイム! 綿飴回収して!』」
今日、私達が踊っているのは大人気を博したジェシー式ブートキャンプを監修したジェシー&ボブが満を持して発売したテレビゲーム『ボブのゴーストブレイク ~シャドーボクシングで鍛えた瞬発力を発揮する時が来たようだな~』である。
ジェシー式ブートキャンプですっかりシャープな身体になったボブは運動にはまり、シャドーボクシングを始めた。キレッキレなパンチを出せるようになったある日、ボブの街でゴーストが溢れた! 中には暴れるゴーストもいて、けが人は日に日に増えていくばかり。そこで同じ街に住む科学者が考案したのがゴーストに効く武器の数々。そこでボブが選んだのはボクシングのグローブ――ではなく、メリケンサックであった。グローブは先に来ていたボクサーが選んでしまったのだ。なぜか大量に用意されていたメリケンサックを両手に装着し、お騒がせ者のゴースト達を退治していく! という設定である。
回復アイテムが綿飴に板チョコなど、ブートキャンプのエクササイズネタが盛り込まれているのは一種のファンサービスだ。回復アイテム取得すらも休ませてくれない鬼畜っぷりはファンに愛されていた設定の一つだ。
ジェシー式ブートキャンプ同様、二人揃って前世でやりこんでいたため、画像を見ずとも敵のやって来る方向が分かる。
「まぁそうだけど……」
「そもそもなんで婚約破棄したいんですか?」
「え、だって『ボーナスタイム発生! はいっ、巻いて巻いて~』こんなのが国母とか嫌じゃない?」
教祖になっておいて、今さら国母になれるか心配するなんて……。
すでに大規模な集合体のトップに立っているから無用な心配ですよ、とツッコミたいところだがここはあえてスルーする。
それよりも重要なのは、ユリアスさんがまるで王子の好意に気づいていないということ。
悪役令嬢と王子様という関係があるため、多少なりともフィルターがかかっているのだろうが、あれだけあからさまな好意に気づかないとは鈍感すぎる。
王子との接点は同じ本を読んでいるだけなのだが、話を聞いているだけで不憫でたまらず、手を貸してあげたくなる。
「あ、王子が嫌いとかでは『上空だ! 上空から大群が攻めてきた!』ないんですね」
そうこう話しているうちにボス戦に突入する。
まだ初めの方のステージのため、相手が変な動きをすることはないが、前方でたたき落とし損ねると横に回ってきたりするのでなかなか厄介なのだ。この世界にはもちろんゲームなどはなく、前方から迫るゴーストなんて存在しないのだが、私の目にはしっかりとゴーストの大群が見える。もちろんユリアスさんの目にも。
よほどやりこんでいるのだろう。
出なければ音楽もなしに、二人でエアゲームなど出来るはずもない。
「久々のボス戦きっつ……耐久、何分だっけ?」
「5分です」
「長っ」
「ほらほらゴースト攻めてきてますよ。前で捌かないと横に回りこんじゃいますよ~。前方捌いて避けてサイドまで来るとなると、いくら低ステージとはいえなかなかつらいですよ~」
励ましながら、ユリアスさんに軽めの回復魔法をかける。
「なんでロザリアさんはそんなに息落ち着いてるの!」
「冒険者ですから~」
「リアルでモンスター相手に戦ってるんだった!」
ユリアスさんは目の前で威嚇するようにゆらゆら揺れるゴーストの襲撃に備え、ぐっと拳を構え直す。敵を見据え、ボス戦お決まりのボブの台詞を口にする。
「『よっしゃやってやるぜ!』私は嫌いじゃないけどっ、王子はきっと私のこと嫌いっよっ!」
たたき落としながらも、しっかりと会話は続行する。
息は切れ切れになっているが、一体一体確実に仕留めていっている所を見るに、多分ユリアスさんも冒険者向きだ。
パーティーにスカウトなんてしたら信者達や溺愛王子様に何されるかわかったもんじゃないから絶対しないけど!
ユリアスさんの話に上がる度に思うが、なぜここまで通じないのか。
意外にも理由は近くに落ちていた。
「そう、ですかね?」
「そうよっ。だって私の態度っ、なかなかっひどいもの。っ素がほとんどだけどっつ、わざとやってるところも多いし」
どうやらこんな自分を好きになってくれる訳がない、という思考らしい。
彼女が珍しい行動をとり続けている上に、若干天然が入っていることは否定しないけれど……。
それでもユリアスさんが人を惹きつける魅力があるのもまた事実。
王子が態度だけではなく、言葉で示せば案外簡単に伝わるのではないだろうか?
ラングさん達もあっさりくっついたことだし。
「可愛くて頭がよくて選ばれし者感ぷんぷん出してる女の子の転校生来ないかな! 2ndヒロインかもん!」
「私は乙女ゲームってよく知らないのですが、ここでヒロイン役を求める悪役令嬢ってなかなかいないと思いますよ」
「イレギュラー上等!」
「私も珍しいものとか面白いもの好きですけどね」
今日も一応、フォローはしておく。
だが結局、どうにかなるには当人同士が互いの思いに気づくしかないのだ。
ボス戦達成の雄叫び代わりに「ヒロインかもおおおおん」と叫ぶ彼女だが、そんな相手が出てきたら潰す方向に動く者は多いだろう。もちろん私も、大事な友人が傷つけられるとあっては黙っているつもりはない。
ユリアスさんが王子妃として君臨する姿を想像して、思わず笑みがこぼれる。
隣にはいつだって王子様がいるのに、多分おとぎ話みたいにはならないんだろうな~。
そんなところもユリアスさんらしい。
彼女がいる限り、この国はいつまでも平和でいてくれることだろう。
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