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69.生徒と教師

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 放課後はガイナスさんの馬車に乗り、グルッドベルグ屋敷へと向かった。帰りは馬車で送ってくれるらしく、すでにガットさんとエドルドさんには報告済みだ。エドルドさんもグルッドベルグ家だったら心配はないと判断したらしい。今朝、学園へと向かう馬車の中でエドルドさんから注意されたことといえば『お菓子の食べ過ぎで夕食が食べられないということのないように』だけだった。
 打ち合いに行くと告げたのに、お菓子までご馳走になることはエドルドさんの脳内では確定事項らしかった。

「よく来たな、メリンダ君」
 お屋敷に到着すると、玄関先では公爵が出迎えてくれる。
 その手には自身の剣と、私が使用すると思われる模擬剣が握られている。今回は以前のものとは形状がやや異なる。前回のものは一般的に鍛錬に使用されるもので、長さ・重さは初心者にも扱いやすいものとなっていた。だが今回のものはやや大ぶりで刀身に当たる部分が広く分厚くなっている。
 大剣を使用する私には非常に馴染みの深い形となっているが、この形状の剣を使用している冒険者と出会う機会はなかなかない。
 数年ほど王都のギルドで活動しているが、大剣を背負っている人を見かけたのはたった数回。それも全て同じ人だ。クマかと見間違うほどの大柄で髭の濃い男性だった。髪もぼっさりとしていて、いつもフード付きのアウターを着込んでいるため年齢までは分からないが、持ち込むアイテムから上級冒険者であることは窺えた。話をしたことはないが、私の知っている大剣使いは彼一人だ。私はステータスやスキルの補正があるからあまり気にはならないが、扱いにくい武器なのだろう。

 そんなものをわざわざ持ち出すとは、何かしらの意図があるのだろうか?

 首を傾げれば、公爵はニカっと笑った。

「君は大剣を使うと聞いて作らせたんだ! 私も大剣を使ったのは初めてだが、なかなか扱いづらいんだな。メリンダ君との打ち合いでこの武器にも慣れたいと思っている」
「俺も何度かこの剣で打ち合いをしたが、パワーがある分重さに引っ張られやすい。だから是非師匠には見本を見せて頂きたい!」
「公爵も大剣を使われるということでよろしいですか?」
「ああ! だが余裕があれば他の武器を使った手合わせも行いたい」
「了解です」


 軽く片手で握り、二人と共に庭へと移る。
 前回と同様、公爵と一定距離を取って向き合う。公爵はまだ大剣の扱いには慣れていないからか、ブロードソードと同じように身体の前で剣先を上に向けて構えている。
 私も大剣の使い方を誰かに習った訳ではないので、正しい構えというものを知らないのだが、あれでは相当重いだろう。今は模擬剣を使用しているが、実際の剣となればもう少し重くなる。武器の扱いに慣れている公爵に限って、手首を痛めるということはないだろうが、形が違えば扱い方も変えなければ利点を殺してしまうこともある。
 前世のゲームでは大剣使いは大抵、肩に担ぐように構えていた。手に負担をかけないという意味もあるのだろうが、一気に振り下ろすことで大剣の一番の特徴である重さに重力をプラスして、最大限のパワーを発揮するという目的もあったのだろう。
 私の場合、力を考える必要がないため上からなら一気に振り下ろし、下からなら一気に引き上げる戦闘スタイルを取っている。ステータス補正が十分に発揮されるため負担に変化はない。だから教えてくれ、と言われたら困るのだが、この二人は見て学ぶタイプらしい。参考になるかは分からないが、良いとこどりで吸収していってくれることだろう。
 公爵もガイナスさんも脳筋だが、強くなるための学びをおろそかにすることはない。しっかりと吸うところは吸って、無理だと思ったら切り捨てることが出来る。パワー系でありながら正しい判断を下すことが出来る、良いタイプの脳筋だ。


「いつでもどうぞ」
「では、こちらから行くぞ!」

 公爵は大剣を手に入れてからの成果を存分に披露してくれる。通常時の戦い方が身についているせいか、どうも動きが堅い。だがカンカンと刃を交えるうちに微調整を効かせ、せめてくる所はさすがだ。少し離れた所で見守っているガイナスさんもブツブツと何かを呟きつつ、何かを学んでくれているようだ。
 こうしていると友人というよりも生徒と教師のようだ。
 もちろん額に汗をにじませながら虎視眈々と打撃ポイントを狙っている公爵が生徒で、相手を伺いつつも弱点を探す私が教師。

「脇が空いてますよ!」
 そう言いながら、手首のスナップを使って柄で脇を攻める。
「ぐっ」
 正面と重さばかりを気にしていた公爵は顔を歪めるが、すぐに立て直して脇を閉める。けれど今度は脇に気を取られて、握りが甘くなった。そこを見逃すつもりはない。下から思い切り剣を引き上げ、上に向かって弾いた。公爵の手の中から飛び出した模擬剣は音を立て、地面に叩きつけられる。


「んー、まだまだ精進は必要か……」
「慣れていないためかアラが目立ちますね」
「攻められてようやく弱点が見えてくるって感じだな。今回指摘された所を重点的に直していくか。では休憩後、こちらの剣での手合わせを頼む」
「はい!」

 汗を拭いながら、近くのパラソルの下へと腰を下ろす。来た時はなかったはずだから、打ち合いの最中に用意してくれたのだろう。お茶会で使われたオシャレな白いパラソルではなく、ビーチで使われるそれによく似ている。軽くて移動に適しているそれはこの場によく馴染んでいる。ここに大きめの水筒とおにぎりでも置かれたら完全に海水浴気分なのだが、さすがにそこまで海寄りになることはない。用意されたカップはプラスチックではなく、高そうな陶器のカップで、注がれるのは麦茶でもスポーツドリンクでもなく紅茶だ。さらに私が運動後でも構わずお菓子を食べると知ってか、お茶菓子もいくつか添えられている。クッキーにマカロン、スコーンと片手で食べられるセットにプラスしてサンドイッチまで。ありがたく口に運んでいけば、目の前の親子は先ほどの反省点の話し合いを開始する。そこに私も少し口を挟んで、わかりにくい所はまた実践で調整していく。
 武器を変えても打って、話し合って、調整しての繰り返しだ。

 双子の兄弟が帰ってきてからは、彼らも加わって複数人での手合わせへと突入する。
 5人で頭と剣を突き合わせるのが楽しすぎて、パトリシアさんの姿が見えないことに気づかなかった。
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