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38.伝道者で踊り子なグルメマスター

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「緊張しているの?」
「ええ、まぁ」
「そうよね。斜め後ろの席の私も今から緊張しているもの。なのにお隣なんて……。失神したら私が先生を呼んで差し上げますわ」
「え……」
「遠慮しなくて良いのよ……っていらっしゃったわ!」

 一体なんのことでしょうか? と聞き返そうとすれば彼女はシッと指を口元に当てた。
 何がいらっしゃったのだろうか、と視線を後ろに向ければ入り口付近に異常に目立つ人物を見つけた。

 一緒にいる男性の顔は大層整っていて、一人でいれば彼も彼でとても目立つのだろうが、隣の人物のインパクトが凄まじい。顔立ち自体は可愛らしいのだが、体型がなんともボリューム感がある。例えるならばアザラシが歩いているかのよう。

 よくあんなサイズの制服が手に入ったものだ。
 そもそもあそこまで太るには相当な栄養が必要とされる。高カロリーなものを大量に摂取出来るということは彼女もお貴族様なのだろう。


 もしかして彼女が噂のグルメマスター?
 気になってしまい、思わず鑑定スキルを起動させる。


 ――――――――――――――――――――
 名前:ユリアス=シュタイナー
 レベル:16
 ジョブ①:学生
 ジョブ②:踊り子

 HP:92
 MP:19

 筋力:22
 耐久:37
 敏捷:20
 器用:7
 耐魔力:5

【スキル】
 カリスマLv.6
 暴食Lv.4
 身体強化Lv.2

【称号】
 ダンスマスター 初級
 グルメマスター 達人級
 レシピマスター 達人級
 伝道者 達人級
 ――――――――――――――――――――

 家名が『シュタイナー』で、称号欄にもきっちり『グルメマスター』とあるから彼女がグルメマスターで間違いないのだろう。

 私がステータスを勝手に見ている間に、彼女は私の隣へと向かってくる。
 このまま見続けているのも不躾だと思われるだろう。真っ正面へと視線を向ければ、彼女の隣を歩いていた男性はいくつかグルメマスターに言い聞かせてから前の方の席へと向かっていく。

 どうやら席が離れてしまったようだ。

 それにしても良い子にしてろだとか、お菓子を用意してやるだとか、二人は一体どんな関係なのだろうか。

 シュタイナー家の令嬢には双子の兄がいたのだろうか?
 そんな話聞いたことがないのだが……。

 男子生徒の方も鑑定してみるかと、彼を視線で追いかけていると周りからコソコソと話し声が聞こえてくる。

「あそこに座っていらっしゃるのはグルメマスターのユリアス様だわ」
「初めてお姿を拝見したが立派だ」
「さすがはグルメマスター」
「次期国母様は貫禄が違うわ」

 なるほど。
 この世界ではボリュームのある身体付きを貫禄と表現するのか。
 確かに今までこの世界で、隣の彼女ほどどっしりとした人に出会ったことがない。
 人とは体つきからして違う彼女が教祖と言われれば納得が出来るーー訳がない。

 伝道者って何!?
 初めて見たんだけど!
 頭は軽くパニックだ。

「ああ、神々しい」
「こんな間近でお姿を拝見出来るなんて」
「グルメマスターがこの世に舞い降りたことに感謝をいたします」

 伝道者どころか神や教祖に近いんだけど……。彼女は一体何者なんだろう。
 王都の店である程度耐性が付いたつもりでいたが、混乱は加速するばかり。
 他の学生の会話によって、私の思考は一緒にいた男性からグルメマスターのステータスに引っ張られる。

 カリスマのレベルが異様に高いことも気になるが、それよりも気になるのは彼女のジョブだ。

 グルメマスターが副ジョブとして『踊り子』を取得しているとは誰が予想出来ただろうか。

 そもそも副ジョブ自体相当レアなのだ。
 そこに踊り子を当ててくるなんて……。踊り子のジョブ持ちは仕事先でしばしば目にすることがある。だがたいていその名前通り、踊りでお金を稼いでいる人達だ。酒場など、人が多く集まる場所で踊りを披露している。

 だが貴族のご令嬢が他の踊り子ジョブ持ち達と同じ行動をしているとは考えづらい。

 かの有名なグルメマスターがそんなことをしていれば噂に乗って私の耳まで届いているだろう。

 ならばあのジョブは一体どうやって取得したのだろう。

 それにあのステータス。
 全てのステータスをカンストさせた私だが、それはあくまでチート能力と錬金術を用いて作り出したアイテムで底上げしたものだ。
 一般人があそこまで上げられる訳がない。

 もともと高かった?
 いや、今まで何人もの冒険者を見てきたがあんなステータスを持っている相手とは出会ったことがない。

 一体どうやって上げたのだろう。
 本人に聞く訳もいかず、入学式中はずっとグルメマスターのステータスについて考え込んでいた。

 式典中に発覚したのだが、グルマスターと共に講堂に入ってきた男子生徒の正体は彼女の婚約者であった。代表の挨拶を務めた彼は王子という身分であり、目立つ容姿を持ち合わせていながら、グルメマスターを前にすると一気に存在感が縮小していく。
 式が終わってすぐに彼女を迎えに来ていたところを見ると、溺愛しているという噂は本当のようだ。

 聞こえてくる会話の内容はお菓子がどうのこうのばかりで、気持ちは一方通行のようだが。

 婚約者の王子はともかく、グルメマスターの方は今後注意して追っていく必要がありそうだ。
 入学前はなるべく関わりたくないと思っていたのだが、グルメマスターがこんな意味不明なステータスを持ち合わせているなんて予想を出来なかったのだから仕方がない。

 人生何があるか分からないと割り切るしかないだろう。
 面倒事が起こりませんように、と祈りながら迎えに来てくれたエドルドさんと共に講堂を後にするのだった。

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