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27. メリンダ=ブラッカー
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「便利だな……」
レオンさんもすっかり見慣れているためか、アイテム倉庫から大きめの釜を取り出したところであまり驚いた様子もない。
私もお人形はいくつか作成済みなので、お馴染みの材料を机の上に乗せていく。
もちろん大きさは人間仕様だから量はいつもの数倍になる。机に山を築きながら、これはボディ用、顔用、瞳、爪、髪用と部位ごとに分けていく。
「ちなみに見た目の希望ってあります? あ、もちろん後から私が寄せられる範囲内で」
「う~ん。そうだな……。パッと見た時に感じるイメージだけでもロザリアと離れさせることは可能か?」
「なら髪や瞳の色を変えときましょうか。それくらいなら後で私も変えられますし。その他の細かいところはメイクで調整していって……髪型も変えるとイメージ変わりますから色々試してみましょう。」
「ああ、詳しいことは任せる」
「了解しました~」
その言葉を聞いて、早速残りの材料を決めて突っ込んでいく。
今回は釜を使う錬金術で、しばらく火加減を調整しながらかき混ぜる必要があるが、基本的にはカレー作りと同じだ。一気に強火にしたりしなければ割と上手く出来上がる。
パーツが完成するごとに大きめのお玉で掬って机の上で自然乾燥させる。
ここでしっかりと乾かさなかったり、ドライヤーの要領で風魔法をかけると後でヒビが入ってしまうことがあるので注意が必要だ。
「はぁ……錬金術はこんなのまで作れるのか」
「まだ触っちゃ駄目ですからね」
「ああ」
手を伸ばそうとするレオンさんを注意し、パーツを乾かしている間、他のパーツの作成に取りかかっていく。
途中で暇そうなレオンさんを仕事に送り出して、作業を続けること数時間ーー黒い髪と瞳を持つ『メリンダ=ブラッカー』の人形が完成した。
私がメリンダの顔を作るに当たって参考にしたのは前世の私。
この世界の私に寄せるために鼻を高くしたり、瞳をやや大きくしたりと調整を加えつつ、落としどころを探していった。
そこに女子高生時代はお決まりだった太めの三つ編みを右側から垂らし、愛用していた茶縁のメガネを錬金術で作って装着すれば完璧だ。今世は視力が良く、前世でも大学からはコンタクトに切り替えていたため迷ったが、やはり伊達でもメガネがあるだけで安心感は急激に上がる。
そんなに難しくもないので、替え用と色違いも何本か作っておいた。これでクエスト中に壊れても問題はない。
服で隠せない顔面や手先に微調整を加えていると、仕事から帰ってきたらしいレオンさんがほおっと息を漏らした。
「黒髪にしたのか」
「嫌なら変えますが」
「いや、このままでいい。ただ珍しい色を選んだものだと思って。だが髪もすっきりとしていて、いいんじゃないか。服もシンプルだし」
なんだろう。このおじいちゃんみたいな感想は……。
確かに服装も髪型も我が母校の校則に従っているため、オシャレとは言いがたい。髪をまとめるのもシュシュや飾りが付いたゴムではなく、シンプルな黒ゴム。服装は飾り気のない白ブラウスにベージュのカーディガン、ギンガムチェックのスカートと比較的よく見かける学生風に揃えている。
ちなみに我が校はセーラー服だった。
最寄り駅にある私立高校の制服がオシャレなジャケットで、うらやましいと友達と一緒に眺めていたのは懐かしい思い出だ。
確かにシンプルと言えばシンプルな服装だが、もう少し反応が欲しかったような……。
それをレオンさんに求める方が間違っているのだろう。
「もう動かせるのか?」
「ある程度の調整は済んでいるので、いつでも大丈夫ですよ」
「なら早速ギルドに行って、顔見せを兼ねたクエストを行うか」
「はい!」
それからすぐに2人+1体でギルドに向かった。
だが顔見知りの市場のおじさんやおばさん達はもちろん、ギルドの冒険者達もメリンダが人形であることに気づくことはなかった。
新たな娘だと勘違いしているようで、レオンさんが「うちの娘のメリンダだ」と紹介すれば誰もがよろしくと笑みを浮かべた。
そして肝心なエドルドさんの反応だがーー。
「『メリンダ=ブラッカー』さんですね。登録は終わりましたので、今からクエストの受注が可能になります」
通常運転だ。
驚くこともなく、淡々と仕事をこなしていく。
職員さんの態度としては正しいのだろうが、私の力作を前にして何の反応もないというのは悔しいものだ。
子どもっぽく頬を膨らませば、エドルドさんは顎をクイッとさせて、お前もクエストボードに行けと指示を出す。
こんな調子で、本当にメリンダはエドルドさんの家に下宿出来るのだろうか。
今からでも一人暮らしを打診すべきではなかろうか。
そもそも武者修行に行ったがありなら、わざわざメリンダなんて架空の人物を作り上げず、本当に武者修行にでも出た方がいいのではないか。
レオンさんが教育熱心でさえなければ、だけど……。
話し合いをすれば負けそうだし、強行突破して逃げ出せば速攻で捕まえられるんだろうな~。
先が思いやられる……。
近い未来への不安と共にため息を吐いて、レオンさんとメリンダの元へと走る。
「ロザリア! 今日はメリンダの初クエストということで薬草狩りとゴブリン討伐にしようと思うんだが、どう思う?」
「いいんじゃないですか?」
「よし、これにしよう!」
「私達は先、外出てますから」
「ああ!」
なぜか張り切っているレオンさんを見送って、良い子で待機しているメリンダを連れて外へ出る。
移動中、メリンダと自然な会話を交しながら、彼女の精巧さと自分の能力の高さを再確認するのだった。
レオンさんもすっかり見慣れているためか、アイテム倉庫から大きめの釜を取り出したところであまり驚いた様子もない。
私もお人形はいくつか作成済みなので、お馴染みの材料を机の上に乗せていく。
もちろん大きさは人間仕様だから量はいつもの数倍になる。机に山を築きながら、これはボディ用、顔用、瞳、爪、髪用と部位ごとに分けていく。
「ちなみに見た目の希望ってあります? あ、もちろん後から私が寄せられる範囲内で」
「う~ん。そうだな……。パッと見た時に感じるイメージだけでもロザリアと離れさせることは可能か?」
「なら髪や瞳の色を変えときましょうか。それくらいなら後で私も変えられますし。その他の細かいところはメイクで調整していって……髪型も変えるとイメージ変わりますから色々試してみましょう。」
「ああ、詳しいことは任せる」
「了解しました~」
その言葉を聞いて、早速残りの材料を決めて突っ込んでいく。
今回は釜を使う錬金術で、しばらく火加減を調整しながらかき混ぜる必要があるが、基本的にはカレー作りと同じだ。一気に強火にしたりしなければ割と上手く出来上がる。
パーツが完成するごとに大きめのお玉で掬って机の上で自然乾燥させる。
ここでしっかりと乾かさなかったり、ドライヤーの要領で風魔法をかけると後でヒビが入ってしまうことがあるので注意が必要だ。
「はぁ……錬金術はこんなのまで作れるのか」
「まだ触っちゃ駄目ですからね」
「ああ」
手を伸ばそうとするレオンさんを注意し、パーツを乾かしている間、他のパーツの作成に取りかかっていく。
途中で暇そうなレオンさんを仕事に送り出して、作業を続けること数時間ーー黒い髪と瞳を持つ『メリンダ=ブラッカー』の人形が完成した。
私がメリンダの顔を作るに当たって参考にしたのは前世の私。
この世界の私に寄せるために鼻を高くしたり、瞳をやや大きくしたりと調整を加えつつ、落としどころを探していった。
そこに女子高生時代はお決まりだった太めの三つ編みを右側から垂らし、愛用していた茶縁のメガネを錬金術で作って装着すれば完璧だ。今世は視力が良く、前世でも大学からはコンタクトに切り替えていたため迷ったが、やはり伊達でもメガネがあるだけで安心感は急激に上がる。
そんなに難しくもないので、替え用と色違いも何本か作っておいた。これでクエスト中に壊れても問題はない。
服で隠せない顔面や手先に微調整を加えていると、仕事から帰ってきたらしいレオンさんがほおっと息を漏らした。
「黒髪にしたのか」
「嫌なら変えますが」
「いや、このままでいい。ただ珍しい色を選んだものだと思って。だが髪もすっきりとしていて、いいんじゃないか。服もシンプルだし」
なんだろう。このおじいちゃんみたいな感想は……。
確かに服装も髪型も我が母校の校則に従っているため、オシャレとは言いがたい。髪をまとめるのもシュシュや飾りが付いたゴムではなく、シンプルな黒ゴム。服装は飾り気のない白ブラウスにベージュのカーディガン、ギンガムチェックのスカートと比較的よく見かける学生風に揃えている。
ちなみに我が校はセーラー服だった。
最寄り駅にある私立高校の制服がオシャレなジャケットで、うらやましいと友達と一緒に眺めていたのは懐かしい思い出だ。
確かにシンプルと言えばシンプルな服装だが、もう少し反応が欲しかったような……。
それをレオンさんに求める方が間違っているのだろう。
「もう動かせるのか?」
「ある程度の調整は済んでいるので、いつでも大丈夫ですよ」
「なら早速ギルドに行って、顔見せを兼ねたクエストを行うか」
「はい!」
それからすぐに2人+1体でギルドに向かった。
だが顔見知りの市場のおじさんやおばさん達はもちろん、ギルドの冒険者達もメリンダが人形であることに気づくことはなかった。
新たな娘だと勘違いしているようで、レオンさんが「うちの娘のメリンダだ」と紹介すれば誰もがよろしくと笑みを浮かべた。
そして肝心なエドルドさんの反応だがーー。
「『メリンダ=ブラッカー』さんですね。登録は終わりましたので、今からクエストの受注が可能になります」
通常運転だ。
驚くこともなく、淡々と仕事をこなしていく。
職員さんの態度としては正しいのだろうが、私の力作を前にして何の反応もないというのは悔しいものだ。
子どもっぽく頬を膨らませば、エドルドさんは顎をクイッとさせて、お前もクエストボードに行けと指示を出す。
こんな調子で、本当にメリンダはエドルドさんの家に下宿出来るのだろうか。
今からでも一人暮らしを打診すべきではなかろうか。
そもそも武者修行に行ったがありなら、わざわざメリンダなんて架空の人物を作り上げず、本当に武者修行にでも出た方がいいのではないか。
レオンさんが教育熱心でさえなければ、だけど……。
話し合いをすれば負けそうだし、強行突破して逃げ出せば速攻で捕まえられるんだろうな~。
先が思いやられる……。
近い未来への不安と共にため息を吐いて、レオンさんとメリンダの元へと走る。
「ロザリア! 今日はメリンダの初クエストということで薬草狩りとゴブリン討伐にしようと思うんだが、どう思う?」
「いいんじゃないですか?」
「よし、これにしよう!」
「私達は先、外出てますから」
「ああ!」
なぜか張り切っているレオンさんを見送って、良い子で待機しているメリンダを連れて外へ出る。
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