モブ令嬢は脳筋が嫌い

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六章

17.ジャムをたくさんのせて

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「寂しいか?」

「みんなもう学生ではないのですから仕方ないですわ」

「まぁな……スコーン食うか?」

「食べます」



 今日図書館メンバーが集まったのは写真撮影のためではない。仕事で足を運んだのだ。午前中は五人で過ごせるが、午後はそうもいかない。キースとマリアはギルバート家の代表として、ローザはカルドレッド職員としての仕事がある。

 それぞれ職員に呼ばれては一人ずつ欠けて、今はイーディスとアンクレットの二人きり。アンクレットも休みではなく、ただ一人になったイーディスを心配してきてくれただけ。かつての仕事部屋で彼がもってきてくれたお茶とお菓子に手を伸ばす。食堂に行く気がおきないので、今日はこれがお昼代わりだ。スコーンだけではなく、サンドイッチなどのしょっぱい系も持ってきてくれたのは嬉しかった。



「カルドレッドの外での仕事って何があるか知ってるか?」

「確か魔法道具使用時のデータ収集や魔に関する事件の早期対処、要注意人物の監視ですよね」

「そうだ。だが常駐場所には偏りがある。シンドレアやイストガルムなんかは多いが、それ以外は一人いればいいくらいだ。普段職員がいない国を定期的に回って魔量なんかを確認するのは中の職員の役目。あとは大規模イベントなんかがある時も警備に混ざったりする」

 各国からお金が集まる理由はここにもあるのだろう。カルドレッド関連の情報は公になっていないことばかりだが、ファファディアル星雲祭にも居たのだろうか。それにアンクレットの話し方だと、シンドレアに常駐している職員はローザやザイル以外に何人かいる可能性がある。癒やしの聖女やそのパートナーはどんな立ち位置にあるのだろう。聖女はもちろん、おそらくパートナーの方もカルドレッド滞在条件は満たしているのだろうが、二人の聖女は揃ってカルドレッド外に住んでいる。外の職員の扱いもいまいちよく分かっていないイーディスにはこの辺りのことを自分の中だけで結論づけるのは難しい。少しずつ知っていきたいものだ。

「そうなんですね」

 相づちを打ちつつ、新たなお菓子に手を伸ばす。スコーンの上にたっぷりとクレテッドクリームを載せ、その上にさらにアンクレット特製いちごジャムも載せる。溢れるギリギリのものを口元に運び、一気に頬張る。もごもごとリスのように口を動かせば、目の前から紙ナプキンが差し出された。ありがたく受け取って口を拭う。べったりとジャムがくっついたナプキンを畳んで端に避けて、カップに口を付けた。口内に残ったジャムの甘さが紅茶と混ざり合い、ロシアンティーを飲んでいる気分だ。アンクレットに倣ってジャムを作ろうかと考える。いちごは絶対。柑橘系のものも何か作りたい。ああ、レモンカードもいい。こうしてスコーンに載せるのも、朝食のパンに塗るのでもいい。今度キャラバンが来た時に果物を探してみよう。注文は出来るのだろうか、と考えていた時だった。

「再来週からバッカスはその仕事で外に出る。一緒について行ったらどうだ?」

 アンクレットはサンドイッチに手を伸ばしながらなんてことないように告げる。彼からしてみればさほど重要性の高いことでもないのだろう。それこそお茶をしながら提案する程度には。だがイーディスの頭は混乱状態に陥った。仕事に同行するという名目があるとはいえ、こんなに早く外を見られると思っていなかったのだ。キャラバンで新聞や雑誌を購入してから、毎晩それらを眺めているとはいえ、まだまだ知らないことばかりだ。イーディスは戸惑いつつ「外なんて」と漏らせば、彼は不思議そうに首を捻った。サンドイッチを放りこんだばかりの口を動かしながら、右に捻って、左に捻って。そしてごくんと飲み込んだ。

「イーディスの検査は終わっているし、バッカスが行く場所はなんかあったらすぐ帰ってこられる場所だ。こっち来てから初めて外に出るにはちょうどいいと思うぞ」

「でもバッカス様に迷惑じゃ」

「そんなこと言わないと思うが、拒否されたら今度俺が行く時に一緒に行こう。イーディスを他の地域に慣れさせると同時に、天然物の魔法道具所持者の移動に伴う魔量の変化のデータをとれるから一石二鳥だな。ついでに買い物をするか。キャラバンは便利だが、持ってくる物に偏りがあるからな~。やっぱりこだわりがあるなら外で買うのが一番だ。あ、俺のサファイア選びも手伝ってくれ」

「いっぱいありますね」

「カルドレッドは良いところだが、たまには外も見たいだろ。イーディスもどっか行きたいところとかないのか?」

「私は……海が見たいです」

「海か! カルドレッドにはないもんな~」



 海に行ったら、きっとまた寂しくなる。泣いてしまうかもしれない。

 それでもイーディスはこの世界の海が見たいと思ったのだ。
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