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六章
6.魔と縁がある
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「魔法道具に気に入られる者の条件や魔については分かっていないことも多いが、『カルドレッド・ギルバート以外でも魔に犯されると精神異常があること』は分かっている。だがこの二つの領に比べれば、他の場所は圧倒的に精神異常を来す数が少ない。現在、カルドレッド職員の中では『高濃度の魔に触れると異常が引き起こるのではないか』と仮定を立てて調査を進めている。だが、どのくらいの量でそうなるのかは明らかになっていない。データも取っているが場所や対象者によってまちまちで、なかなか研究は進んでいないというのが実情だ。代わりに魔石を加工し、魔法道具の人工的な生産は進んでいる」
「魔法道具が悪用されたら大変なのでは?」
「確かに悪用されたら大変だろうが、人間からは魔法道具を選べない。その上、しっかりと自分を保ち続けないと身体に不調が出て魔法道具から関係を切られる。悪用できなくはないが、よほど大きな想いがなければ実行に移すことは難しい。結果、魔法道具所有者には我の強い変人ばかりが残った。まぁエリート揃いだし、衝突することはあっても他人を尊重出来る人しかいないけどな。またカルドレッドの外にも何人か、魔法道具所持者がいる。ザイル様がその一人だ。彼らはカルドレッドの外で魔法道具を扱った際のデータ収集を行ったり、外で起こった魔に関する事件にいち早く駆けつけて報告するのが主な仕事だ。あとは要注意人物の監視も兼ねていたりするが、いずれにせよ彼らはカルドレッドの管理下におり、定期検診を受けることが義務づけられている」
『人工物』と『天然物』か。イーディスの魔道書も自然発生した確証はないのだが、少なくともカルドレッドで作られたものではないのだろう。
「カルドレッドの外で魔法道具を使うことに何か意味が?」
「魔法道具が他に及ぼす影響とそれぞれの場所でどのくらいの力が使えるのか、またその際の体力と魔の消費量を確かめる意味がある」
「魔法道具の使用は体力を奪うのですか?」
「人工の魔法道具は使用の際に魔と使用者の体力を奪う。だが十年も魔法道具に囚われていたイーディス嬢には現在体調不良や過食などの症状が見られないことから、天然物も同じとは言えない。過眠気味なことだけは気になるが、そもそも魔法道具によって引き起こされたものなのか、今後も続くのかなど、経過を見なければ判断出来ない。またイーディス嬢の魔法道具がどのような能力を持っているのかも知っていく必要があると考えている。先ほど姿が消えていたことからおそらく幻術系だとは思うが、複数の力を有している可能性・力の一端であった可能性などが考えられる。何かあった時のために体力や魔の量も計測しておきたい。ただ魔道書が魔と体力を消耗させていなくても、精神的な負担があるはずだ。しばらくはよく寝て、よく食べて欲しい」
「はい」
要約すれば、イーディスがここに連れてこられたのは研究に必要なデータを取るため。悪く考えればモルモット要員だが、良く考えれば患者。ここにいる限りイーディスは自分の今後を悩まなくて済む。自分の役目が明確化されているのはありがたい。また魔について知ることも出来る。
リガロの婚約者、ギルバートの妻と来て、カルドレッドーーつくづく魔と縁があるらしい。だが悪い気はしない。今度こそ本腰を入れて魔を調べてやろうじゃないか。やる気がメラメラと燃え上がる。
「説明はこれくらいか。後は追って説明していくつもりだが、今の話の中で何か気になることはあるか?」
「領主様にご挨拶をしておきたいのですが、どちらにいらっしゃいますか?」
「現在、カルドレッドには領主はいない。ここ二十年ほど空席の状態が続いている。また次の領主が決まる目処も立っていない」
「後継者がいらっしゃらなかったのですか?」
「カルドレッドの特性上、領主は世襲制ではない。また特定の国に権力が集中しないよう、指名制でもない。領主の試練を達成した者のみが代々領主を引き継ぐことになっているんだが、誰も突破出来ないまま時間が経過していてーーまぁ詳しいことは今度、カルドレッドを一周する時に現地に言って説明する」
「わかりました」
二十年間達成されることのない試練か。
よほど難しいのか、カルドレッド領主には魅力がないのか。どんなものか興味はあるが、イーディスには縁のないものだろう。
「魔法道具が悪用されたら大変なのでは?」
「確かに悪用されたら大変だろうが、人間からは魔法道具を選べない。その上、しっかりと自分を保ち続けないと身体に不調が出て魔法道具から関係を切られる。悪用できなくはないが、よほど大きな想いがなければ実行に移すことは難しい。結果、魔法道具所有者には我の強い変人ばかりが残った。まぁエリート揃いだし、衝突することはあっても他人を尊重出来る人しかいないけどな。またカルドレッドの外にも何人か、魔法道具所持者がいる。ザイル様がその一人だ。彼らはカルドレッドの外で魔法道具を扱った際のデータ収集を行ったり、外で起こった魔に関する事件にいち早く駆けつけて報告するのが主な仕事だ。あとは要注意人物の監視も兼ねていたりするが、いずれにせよ彼らはカルドレッドの管理下におり、定期検診を受けることが義務づけられている」
『人工物』と『天然物』か。イーディスの魔道書も自然発生した確証はないのだが、少なくともカルドレッドで作られたものではないのだろう。
「カルドレッドの外で魔法道具を使うことに何か意味が?」
「魔法道具が他に及ぼす影響とそれぞれの場所でどのくらいの力が使えるのか、またその際の体力と魔の消費量を確かめる意味がある」
「魔法道具の使用は体力を奪うのですか?」
「人工の魔法道具は使用の際に魔と使用者の体力を奪う。だが十年も魔法道具に囚われていたイーディス嬢には現在体調不良や過食などの症状が見られないことから、天然物も同じとは言えない。過眠気味なことだけは気になるが、そもそも魔法道具によって引き起こされたものなのか、今後も続くのかなど、経過を見なければ判断出来ない。またイーディス嬢の魔法道具がどのような能力を持っているのかも知っていく必要があると考えている。先ほど姿が消えていたことからおそらく幻術系だとは思うが、複数の力を有している可能性・力の一端であった可能性などが考えられる。何かあった時のために体力や魔の量も計測しておきたい。ただ魔道書が魔と体力を消耗させていなくても、精神的な負担があるはずだ。しばらくはよく寝て、よく食べて欲しい」
「はい」
要約すれば、イーディスがここに連れてこられたのは研究に必要なデータを取るため。悪く考えればモルモット要員だが、良く考えれば患者。ここにいる限りイーディスは自分の今後を悩まなくて済む。自分の役目が明確化されているのはありがたい。また魔について知ることも出来る。
リガロの婚約者、ギルバートの妻と来て、カルドレッドーーつくづく魔と縁があるらしい。だが悪い気はしない。今度こそ本腰を入れて魔を調べてやろうじゃないか。やる気がメラメラと燃え上がる。
「説明はこれくらいか。後は追って説明していくつもりだが、今の話の中で何か気になることはあるか?」
「領主様にご挨拶をしておきたいのですが、どちらにいらっしゃいますか?」
「現在、カルドレッドには領主はいない。ここ二十年ほど空席の状態が続いている。また次の領主が決まる目処も立っていない」
「後継者がいらっしゃらなかったのですか?」
「カルドレッドの特性上、領主は世襲制ではない。また特定の国に権力が集中しないよう、指名制でもない。領主の試練を達成した者のみが代々領主を引き継ぐことになっているんだが、誰も突破出来ないまま時間が経過していてーーまぁ詳しいことは今度、カルドレッドを一周する時に現地に言って説明する」
「わかりました」
二十年間達成されることのない試練か。
よほど難しいのか、カルドレッド領主には魅力がないのか。どんなものか興味はあるが、イーディスには縁のないものだろう。
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