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四章
6.自己満足
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新たな聖女の登場により、簡単に話すだけの予定は伸びに伸びた。シャランデル家当主やら王家からの使いやらが到着するのを待ち、メリーズという聖女の『キャラ』を固めていく。生徒達から向けられる悪意を調整しつつ、癒やしの聖女の対抗馬をローザ一人に絞らせる。そんな計画が立てられていくのをリガロはぼうっと眺めていた。リガロには儀式が開始するまでほとんど役目らしい役目がない。それこそメリーズに危害が加えられでもすれば動くが、メインは護衛。威嚇要員であり、所詮お飾りである。
表で動くのは主にスチュワート王子と、王子の補助をしながら裏で動き回いて情報を集めるマルク。敵対勢力者が見つかった際に内部情報を吐かせるのは薬に精通しているアルガの役目だ。そして残るバッカスだが、彼は聖女を助ける役目ではなく聖女の儀式を見守り、事実を書き記す役目ーーだったのだが、事情が変わった。
「人員を増やす訳にもいかないからバッカスには臨機応変に動いてもらうことにして」
「臨機応変ってそれが一番仕事多い役目じゃないですか……。俺、書記として来てるんですけど」
「レクス家には他の書記役を送ってもらうことにするから安心してくれ」
「はぁ……報酬のために頑張らせてもらいますよ」
バッカスのため息で今日の招集はお開きとなった。メリーズはこれからキャラ付けを行うらしい。これでは聖女として来たのか演者として来たのか分からないが、彼女には頑張ってもらわなければならない。イーディスも巻き込まれてしまった以上、聖女が怖いだの苦手など言っている余裕はないのだ。
生徒会室から急いでカフェテリアへと向かえば、イーディスはマリアと楽しく話していた。リガロのことなどまるで気付く様子もない。すぐ戻ると言っておいて半刻も放置していたのだから、待っていてくれただけでもありがたいのだが。どう声をかけるべきか迷っていると、気付いたキースが小さく手を振った。
「イーディス嬢、迎えが来たようだ」
「待たせてすまなかった」
短く詫びれば彼女は複雑そうな笑みを浮かべてから「はい」とだけ答えた。マリアとキースと別れ、馬車に乗り込んだ。そして早速探りを入れることにした。
「マリア嬢がいて良かったな」
彼女の在学によって計画は大きく崩れることとなる。けれど社交界に仲の良い相手がいなかったイーディスにとって、マリアという存在は大きい。彼女がいなければきっとイーディスはこの一年間寂しい思いをして過ごすこととなっただろう。学園には王都から離れた場所で暮らす貴族の令息令嬢がやってくるため、新しい友人が出来るかもしれない。けれどマリアほど深く付き合える相手はいないのだろう。交流のほとんどが手紙であったとはいえ、長らくイーディスを支えていたのは、辛いときに寄り添ってくれたのはマリアなのだ。
「私、ずっと一人で過ごすものと思っていたので嬉しいです」
「一人?」
「ええ。社交界で話す相手くらいはいますが、マリア様以外のお友達はおりませんので」
「俺は頭数に含まれていないのか?」
「さすがにずっと婚約者と一緒という訳にはいかないでしょう?」
「キース様はそのつもりのようだが」
「わざわざ本人も学園に入学してくるほどですからね。でも彼が特殊なんです。通常の生徒にとって学園生活は社交の場であり、婚約者は家にメリットを生み出すための協力者でしかありません」
「……協力者、か」
「それ以外に何か?」
「生涯を共にする相棒とか」
「その関係性も否定はしませんが、必ずしも婚約者と生涯を添い遂げるとは限りません」
「どういうことだ?」
「いくら婚約者とはいえ、メリットを与えられぬと判断されれば婚約解消や破棄をする家もあるでしょう。もちろん夫婦になったとしても後に子が産まれないなどの理由で離縁されるケースもあります」
「それはそう、だが」
リガロは過去に突き放されても仕方のないことをした。例えこの数年間で少しは近づけたにしても、やはり溝は埋まらない。そしてこれからリガロがやろうとしていることもやはり自己満足でしかない。結局は言い訳だ。
表で動くのは主にスチュワート王子と、王子の補助をしながら裏で動き回いて情報を集めるマルク。敵対勢力者が見つかった際に内部情報を吐かせるのは薬に精通しているアルガの役目だ。そして残るバッカスだが、彼は聖女を助ける役目ではなく聖女の儀式を見守り、事実を書き記す役目ーーだったのだが、事情が変わった。
「人員を増やす訳にもいかないからバッカスには臨機応変に動いてもらうことにして」
「臨機応変ってそれが一番仕事多い役目じゃないですか……。俺、書記として来てるんですけど」
「レクス家には他の書記役を送ってもらうことにするから安心してくれ」
「はぁ……報酬のために頑張らせてもらいますよ」
バッカスのため息で今日の招集はお開きとなった。メリーズはこれからキャラ付けを行うらしい。これでは聖女として来たのか演者として来たのか分からないが、彼女には頑張ってもらわなければならない。イーディスも巻き込まれてしまった以上、聖女が怖いだの苦手など言っている余裕はないのだ。
生徒会室から急いでカフェテリアへと向かえば、イーディスはマリアと楽しく話していた。リガロのことなどまるで気付く様子もない。すぐ戻ると言っておいて半刻も放置していたのだから、待っていてくれただけでもありがたいのだが。どう声をかけるべきか迷っていると、気付いたキースが小さく手を振った。
「イーディス嬢、迎えが来たようだ」
「待たせてすまなかった」
短く詫びれば彼女は複雑そうな笑みを浮かべてから「はい」とだけ答えた。マリアとキースと別れ、馬車に乗り込んだ。そして早速探りを入れることにした。
「マリア嬢がいて良かったな」
彼女の在学によって計画は大きく崩れることとなる。けれど社交界に仲の良い相手がいなかったイーディスにとって、マリアという存在は大きい。彼女がいなければきっとイーディスはこの一年間寂しい思いをして過ごすこととなっただろう。学園には王都から離れた場所で暮らす貴族の令息令嬢がやってくるため、新しい友人が出来るかもしれない。けれどマリアほど深く付き合える相手はいないのだろう。交流のほとんどが手紙であったとはいえ、長らくイーディスを支えていたのは、辛いときに寄り添ってくれたのはマリアなのだ。
「私、ずっと一人で過ごすものと思っていたので嬉しいです」
「一人?」
「ええ。社交界で話す相手くらいはいますが、マリア様以外のお友達はおりませんので」
「俺は頭数に含まれていないのか?」
「さすがにずっと婚約者と一緒という訳にはいかないでしょう?」
「キース様はそのつもりのようだが」
「わざわざ本人も学園に入学してくるほどですからね。でも彼が特殊なんです。通常の生徒にとって学園生活は社交の場であり、婚約者は家にメリットを生み出すための協力者でしかありません」
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「いくら婚約者とはいえ、メリットを与えられぬと判断されれば婚約解消や破棄をする家もあるでしょう。もちろん夫婦になったとしても後に子が産まれないなどの理由で離縁されるケースもあります」
「それはそう、だが」
リガロは過去に突き放されても仕方のないことをした。例えこの数年間で少しは近づけたにしても、やはり溝は埋まらない。そしてこれからリガロがやろうとしていることもやはり自己満足でしかない。結局は言い訳だ。
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