モブ令嬢は脳筋が嫌い

斯波@ジゼルの錬金飴②発売中

文字の大きさ
上 下
54 / 177
四章

6.自己満足

しおりを挟む
 新たな聖女の登場により、簡単に話すだけの予定は伸びに伸びた。シャランデル家当主やら王家からの使いやらが到着するのを待ち、メリーズという聖女の『キャラ』を固めていく。生徒達から向けられる悪意を調整しつつ、癒やしの聖女の対抗馬をローザ一人に絞らせる。そんな計画が立てられていくのをリガロはぼうっと眺めていた。リガロには儀式が開始するまでほとんど役目らしい役目がない。それこそメリーズに危害が加えられでもすれば動くが、メインは護衛。威嚇要員であり、所詮お飾りである。

 表で動くのは主にスチュワート王子と、王子の補助をしながら裏で動き回いて情報を集めるマルク。敵対勢力者が見つかった際に内部情報を吐かせるのは薬に精通しているアルガの役目だ。そして残るバッカスだが、彼は聖女を助ける役目ではなく聖女の儀式を見守り、事実を書き記す役目ーーだったのだが、事情が変わった。

「人員を増やす訳にもいかないからバッカスには臨機応変に動いてもらうことにして」

「臨機応変ってそれが一番仕事多い役目じゃないですか……。俺、書記として来てるんですけど」

「レクス家には他の書記役を送ってもらうことにするから安心してくれ」

「はぁ……報酬のために頑張らせてもらいますよ」

 バッカスのため息で今日の招集はお開きとなった。メリーズはこれからキャラ付けを行うらしい。これでは聖女として来たのか演者として来たのか分からないが、彼女には頑張ってもらわなければならない。イーディスも巻き込まれてしまった以上、聖女が怖いだの苦手など言っている余裕はないのだ。





 生徒会室から急いでカフェテリアへと向かえば、イーディスはマリアと楽しく話していた。リガロのことなどまるで気付く様子もない。すぐ戻ると言っておいて半刻も放置していたのだから、待っていてくれただけでもありがたいのだが。どう声をかけるべきか迷っていると、気付いたキースが小さく手を振った。

「イーディス嬢、迎えが来たようだ」

「待たせてすまなかった」

 短く詫びれば彼女は複雑そうな笑みを浮かべてから「はい」とだけ答えた。マリアとキースと別れ、馬車に乗り込んだ。そして早速探りを入れることにした。

「マリア嬢がいて良かったな」

 彼女の在学によって計画は大きく崩れることとなる。けれど社交界に仲の良い相手がいなかったイーディスにとって、マリアという存在は大きい。彼女がいなければきっとイーディスはこの一年間寂しい思いをして過ごすこととなっただろう。学園には王都から離れた場所で暮らす貴族の令息令嬢がやってくるため、新しい友人が出来るかもしれない。けれどマリアほど深く付き合える相手はいないのだろう。交流のほとんどが手紙であったとはいえ、長らくイーディスを支えていたのは、辛いときに寄り添ってくれたのはマリアなのだ。

「私、ずっと一人で過ごすものと思っていたので嬉しいです」

「一人?」

「ええ。社交界で話す相手くらいはいますが、マリア様以外のお友達はおりませんので」

「俺は頭数に含まれていないのか?」

「さすがにずっと婚約者と一緒という訳にはいかないでしょう?」

「キース様はそのつもりのようだが」

「わざわざ本人も学園に入学してくるほどですからね。でも彼が特殊なんです。通常の生徒にとって学園生活は社交の場であり、婚約者は家にメリットを生み出すための協力者でしかありません」

「……協力者、か」

「それ以外に何か?」

「生涯を共にする相棒とか」

「その関係性も否定はしませんが、必ずしも婚約者と生涯を添い遂げるとは限りません」

「どういうことだ?」

「いくら婚約者とはいえ、メリットを与えられぬと判断されれば婚約解消や破棄をする家もあるでしょう。もちろん夫婦になったとしても後に子が産まれないなどの理由で離縁されるケースもあります」

「それはそう、だが」

 リガロは過去に突き放されても仕方のないことをした。例えこの数年間で少しは近づけたにしても、やはり溝は埋まらない。そしてこれからリガロがやろうとしていることもやはり自己満足でしかない。結局は言い訳だ。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///) ※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。 《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

婚約者を奪い返そうとしたらいきなり溺愛されました

宵闇 月
恋愛
異世界に転生したらスマホゲームの悪役令嬢でした。 しかも前世の推し且つ今世の婚約者は既にヒロインに攻略された後でした。 断罪まであと一年と少し。 だったら断罪回避より今から全力で奪い返してみせますわ。 と意気込んだはいいけど あれ? 婚約者様の様子がおかしいのだけど… ※ 4/26 内容とタイトルが合ってないない気がするのでタイトル変更しました。

あなたを忘れる魔法があれば

美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。 ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。 私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――? これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような?? R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。 ※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます

転生侍女は完全無欠のばあやを目指す

ロゼーナ
恋愛
十歳のターニャは、前の「私」の記憶を思い出した。そして自分が乙女ゲーム『月と太陽のリリー』に登場する、ヒロインでも悪役令嬢でもなく、サポートキャラであることに気付く。侍女として生涯仕えることになるヒロインにも、ゲームでは悪役令嬢となってしまう少女にも、この世界では不幸になってほしくない。ゲームには存在しなかった大団円エンドを目指しつつ、自分の夢である「完全無欠のばあやになること」だって、絶対に叶えてみせる! *三十話前後で完結予定、最終話まで毎日二話ずつ更新します。 (本作は『小説家になろう』『カクヨム』にも投稿しています)

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

処理中です...