モブ令嬢は脳筋が嫌い

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三章

13.週末の過ごし方

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 朝の読書会。バッカスは本を捲りながら、そういえばと呟いた。

「王都の本屋巡りの途中にアリッサム家の馬車を見かけたんだが、あっちの方に店なんかあったか?」

「いつだ?」

「昨日の昼頃」

「マリアと教会に行った時か」

「教会?」

「はい! 小説のモデルになった場所で、ステンドグラスがとても綺麗なのです!」

 小説のモデルにステンドグラスとくれば、イーディスにも思い当たるものがある。以前、マリアからの手紙に一度本物を見てみたいと書かれていた場所だ。確か東通りから少し外れた場所にあったはず。イーディスも足を運んでみたいと思いつつ、学園が始まるまでリガロがほぼ毎日訪問してくるのでまだ実行出来てはいない。

「それは知らなかった。こっちに来たばっかりの頃に王都は一通り見たつもりだったんだけどな」

「教会もそうだが、あそこの路地は意外と店あるぞ? 奥まったところにあるから見つけづらいが、異国の本ばかりを集めた古書店もある。良ければ地図を書くが」

「頼む!」

 バッカスはふんふんと鼻息を荒くしながら、キースの手元を見つめる。「ここは道が狭くて馬車は入れない」だの「分厚い本が多いから袋は丈夫なものを持っていった方がいい」だのキースからの助言にコクコクと頷き、地図を受け取った。金入ったら行こ……と惚けたように呟くと大事そうにその紙を胸元のポケットにしまい込んだ。

「イーディス様はこの週末、何をして過ごしましたか?」

「私はドレスのオーダーをしていましたの」

「ドレス! どんなドレスにしますの?」

 今度はマリアが爛々と目を輝かせる番だ。彼女は小説のモデルとなった場所だけではなく、服飾デザインにも興味があるのだ。夜会やお茶会には参加出来ないが、代わりに人目を気にせず好きなデザインのドレスを着ることが出来ると楽しげに綴っていたことを思い出す。今ならマリア自慢のドレス姿をこの目で見られるかもしれない。そう思うと自然と頬が緩んだ。

「昔読んだ絵本に出てきた海のようにキラキラしたデザインで、今まで着てきたどのドレスよりも気に入ってますの。華美なデザインなので似合わないかもしれませんが、腕を通せる日が本当に楽しみで」

「海ですか! 素敵だわ。まるでリガロ様みたい」

 メイドはともかく、マリアもまた『海』と聞いてリガロを想像するらしい。少し子どもじみたことをしてしまったかもしれない。だがデザイン自体を気に入っているのは本当だ。リガロに会うよりも前から大好きだった絵本は今でもイーディスの宝物なのだから。軽く微笑んで受け流せば、イーディス達の会話を聞いていたキースは目を丸くした。

「それにしてもイーディス嬢はもう準備してるのか」

「私は少し遅いくらいですわ。早い方ですと入学前、それこそ一年近く前からデザイナーと話し合っていますわ」

「一年!? そんなにかけるのか……女性のドレスは仕立てもデザインも時間がかかるから大変だよな~」

「確かに男性のものよりも時間はかかりますが、バッカス様だってそろそろ仕立てを始めなければ間に合いませんでしょう?」

「いや、俺は夜会用のジャケットを実家から持ってきているから」

「すでに仕立ててあったのですか?」

「仕立ててあったというか、男の場合、毎回変えるのはネクタイとタイピンくらいなものだ」

「え? でもリガロ様は毎回違う服を……」

 お茶会時代から同じ服を身につけていた試しがない。イーディスよりも多くの社交界に顔を出しているのに毎回毎回似合う服を用意してくるものだと感心していたほどだ。貴族の服は権力と財産の象徴なのだろうかと思っていたが、眉を潜めるバッカスを見ていればそうでもないらしい。

「王家やよほど家格の高い貴族ならともかく、多くの貴族はそんなことはしない。よほど特別な式典でもあれば新しく仕立てるかもしれないが、基本的には何着かを使いわける。毎回違う服を仕立てるのは女性か力のある貴族、それか社交界に招待された商人くらいだろう。男の服は型や色も多くないし、流行も関係ないからな~。最低限エスコート相手に合わせて、シャツとネクタイ、ピンを変える程度でいい。男の場合、家名で大体のことは分かるってのもあるが、力を示したかったら服装をどうするかよりも剣術や馬術を励めばいい。家督を継ぐ予定のない者だったら学業に励むのも効果的だな」

「その習慣、女性側でも流行らないかしら……」

 剣術や馬術はともかく、学業ならイーディスでもどうにかなりそうだ。何より、毎回ドレスを仕立てるのは面倒だ。羨ましいと呟けば、マリアは顔を真っ赤にした。
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