第二部の悪役令嬢がシナリオ開始前に邪神の封印を解いたら闇落ち回避は出来ますか?~王子様との婚約解消はいつでも大歓迎です~

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5章

45.イザラク=ヴァレンチノ

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「この本、お借りしますね」
「お二方が揃われていらっしゃることを楽しみにしております」

 司書は深々と頭を下げる。
 彼の後ろにはルシフェルニーア神国の民達がずらりと並んでいるような気がした。

 入館時刻前の図書館を去り、馬車に乗り込む。
 揺られる馬車の中でもう一度本を開く。ルクスさんがこの本を持ち去ったのは、かつて共に暮らした民達との思い出が詰まっているからなのだろうか。

 屋敷に戻り、今更ながらに寝間着から着替える。
 そしてもう一度、部屋の中を探す。今度はルクスさん本人ではなく、何か残したものやなくなっているものがないかを確認するために。

 何度も同じところを探していると、イザラクが部屋へとやってきた。

「伝言頼んできたよ。一刻もせずに来ると思う」
「ありがとう」
「知りたいことは分かった?」
「うん。全てではないけれど」

 言いながら、捜し物をする手を止めない。
 手を止めると、早く早くと気持ちばかりが急いてしまいそうだ。

 けれど急いだところで私にはルクスさんを追いかける手段がない。魔界に向かうにしても、アカの到着を待つしかないのだ。それが歯痒くてたまらない。

 枕をひっくり返し、シーツを引き剥がす。
 イザラクはしばらく私の行動を見守っているだけだったが、心を決めたように「じゃあ」と切り出した。

「じゃあ俺にも教えて。今日のことも、今までのことも。精霊達が来ていたの、魔結晶をもらうためだけじゃなかったんだろ」
「気づいて、いたの?」
「ウェスパルは昨日のルクスさんの様子がおかしかったって言ったけど、俺から見れば二人とも王都に来てから少しおかしかった。初めのうちは王都がまだ怖いのかなと思っていた。けど、違う。図書館で何を調べていたの?」

 知っていて、今まで何も聞かないでいてくれたのか。今も聞くかどうか悩んでくれた。適当にごまかすことは出来る。

 けれどイザラクの優しさがじんわりと胸に染みこんで、気づけば私は打ち明ける決心をしていた。

「錬金術師が残した記録。光の巫女と闇の巫女、そしてその力について調べていたつもりだった」
「つもりって……」
「私が読んでいた本はどれもルシフェルニーア神国の一部だったって、さっき知ったの」
「ルシフェルニーア神国? 初めて聞く名前だ。けど、なんとなく予想はつく」
「かつてルクスさんが治めていた国なんだって。ルクスさんが大地を焼いたのは民達を助けるため。ルクスさんはそのことに責任感を抱いて、封印されることを望んだ。その時の生き残り達が作ったのが辺境三領で、彼らはルクスさんが再び笑える日を待ち続けていた。……こんなこといきなり言われても信じられないかもしれないけど、ルクスさんは悪い神様じゃないの」

 先ほど知ったばかりの情報をつらつらと並べる。途中から自然と早口になっていた。突飛なことを話している自覚はある。嘘だって切り捨てられるのが怖い。震える口元を見せないため、小さく唇を噛んだ。

「詳しい部分を理解するのには時間がかかると思う。それでもルクスさんが悪い神様じゃないことは分かっている。俺だって、王都で暮らすルクスさんを見てきたから」
「イザラク……」

 私にとって大事な部分を肯定してくれた。私の言葉だからと手放しで認めるのではなく、ルクスさんと過ごした時間を信じてくれた。それだけでほんの少しだけ心が軽くなる。

 けれどイザラクの言葉はそれだけに留まらなかった。
 私の肩を掴み、まっすぐな視線を向ける。

「でもそんな本、図書館にはないはずだ。それに、なぜ二人はそんなことを調べようとしたの? ルクスさんがいるならわざわざ調べる必要ないよね?」
「それは……」
「ウェスパルは何を恐れて、ルクスさんは何に警戒し続けていたんだ?」

 彼の瞳は教えてほしいと必死で訴えている。
 きっと私が長年、ウェスパルの闇堕ちの謎を追い求め、幼馴染み二人の死亡を警戒していたのと同じ。

 イザラクも私達の行動の謎を知りたがっているのだ。いや、彼もまた何かに怯えているのかもしれない。そうさせてしまったのは他ならぬ私だ。


 肩に乗せられた彼の手をゆっくりと剥がし、そして両方の手で包み込む。
 信じてもらえないかもしれないけれど、と前置きをして、私の持つ前世の記憶について打ち明けることにした。

 といっても数年前にルクスさんに伝えたようなものではない。ゲームだなんだと言っても困らせるだけ。だからほんの一部だけ。

「…………私には少し変わった記憶があるの。私とは違う、別の人生を歩いたウェスパルが邪神の封印を解いて闇に落ちる姿を見ていた記憶が。彼女に関する情報は入学前に二人の幼馴染みを亡くしていることと、二年生の最後で邪神の封印を解いたこと。そして殺されたこと」
「俺とダグラス兄さんは何をしてたの」

 気にするポイントがなんともイザラクらしい。
 家族を大切に思う彼だからこそ、邪神の封印よりも自分達の行動が気になったのだろう。イザラクはやっぱりどこまでも私に、ウェスパルに優しいのだ。
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