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5章
35.親心と兄心
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追加のドーナッツを揚げ終わってちょっとしたくらいのタイミングでギュンタとイヴァンカがやってきた。
「アカ、久しぶり」
「今日はよろしくね。あ、これ、クッキー。よかったらみんなで食べて」
着いた後だと忘れそうだからと渡してくれたのは丸い缶。かなりの大きさで私の顔くらいある。それに数種類のクッキーを入れてくれたようだ。ルクスさんが早くも中身を気にしている。
「家に着いてからのお楽しみですよ」
「そうか……」
「私も先に渡しておくね」
「楽しみにしてたんだ。俺も帰ったら石鹸の追加分作るから、帰るときに渡す」
「うむ。楽しみにしているぞ」
二人と話しているうちにお兄様とアカは飛ぶ準備を始めた。準備といっても食べるのを止めて、場所を動くだけだが。アカが動く音でお祖父様とイザラクも屋敷から出てきた。
いざ数ヶ月ぶりの辺境へ。
ギュンタ、イヴァンカの順で実家に送り届け、最後にシルヴェスターへと到着する。屋敷の前ではすでにお父様とお母様、亀達とホムンクルス、使用人が待ち構えていた。すごい歓迎だ。
「ただいま帰りました」
「帰ったぞ」
「おかえり」
「おかえりなさい。元気にしていた?」
「うん。私もルクスさんも亀蔵も元気です。あ、これ私が作ったドーナッツ」
「ウェスパルのおやつは美味しいんだよな」
紙袋を取り出すと、お父様の表情はゆるゆると緩んでいく。お母様も嬉しそうな表情をドーナッツに向けたが、すぐに私へと向き直る。
「それで亀蔵は」
どうやら亀蔵が心配のようだ。お父様もお兄様もかなりの頻度で会っているが、お母様は私達が王都に行く前に会ったきり。ハウスから亀蔵を呼び出す。
「かめぇ」
「ああ、亀蔵! 会いに行けなくてごめんなさい」
服が汚れるのも気にせず、地面に膝をつく。亀蔵の身体をぎゅっと抱きしめた。亀蔵ロス状態だったらしい。亀蔵分を補充しながらお父様への文句を呟いている。
お母様が王都に来なかったのは、帰ってこないかもと心配したお父様によって阻まれていたからのようだ。
さすがに亀蔵と離れ難いからってそんなことはしない……と思いたいが、お母様は元々大陸中を駆け巡る冒険者だった。公爵屋敷に行った足でギルドに行き、そのまま仕事を開始してしまい~という可能性も否定はできない。
いや、私よりもお母様のことをよく知るお父様が止めるくらいだ。本当にやりかねない。王都への主な移動手段がアカであることから、お母様の王都行きの妨害にはお兄様も関わっている。お母様はかなり奔放なタイプなのかもしれない。
遠くを見つめているうちに、亀蔵は他の亀とホームズ一家と共に屋敷へと向かっていった。向かったのはおそらくお母様の部屋。留守にしていた間にホムンクルスもますますこの領に馴染んでる。
お祖父様とイザラクは使用人と共に客間へ。荷物を置いて、お茶でも飲んでゆっくりとしていたいのだろう。
私は錬金釜を使いたいので小屋へ。私のルクスさんの分のロイヤルミルクティーを運んできてもらえるように頼んだ。お父様とお兄様は私達に聞きたいことがあるとかで、一緒に小屋へとやってくる。
話は錬金術を使いながらでいいとのことで、お言葉に甘えさせてもらうことにした。久しぶりに使う錬金釜を濡れ雑巾で軽く綺麗にしてから魔結晶作りに取り掛かる。
「それで話って何ですか?」
「順を追って話そう。まずスカビオとファドゥールから亀達とホームズ一家を派遣してほしいと要請があった。ウェスパルの返事を待ってもらっている状態だが、どうだろうか」
「本人の許可さえ取れれば構いませんよ」
「分かった。後で聞いてみよう」
派遣が決まった際の送り迎えはお父様がしてくれるそう。私の作ったバギーは今も大活躍しているようで、連結パーツを使って荷台も引いているのだとか。
学園を卒業したらもう一台増やしてもいいかもしれない。
「亀達といえば、ウェスパル。ランブルング王国の王子からいじめられてないか?」
「すごい見られてはいるけど、虐められてはないよ」
「ウェスパルには我がついている。問題ない」
「ルクスさんのことも、もちろんイザラクのことも信用しているがやはり心配で……。あっちにいる時は気にならなくとも、実家に帰ってみたら王都に行きたくなくなったとかあるんじゃないか? そういう時はお兄様に遠慮なく言うんだぞ?」
お兄様は左右から私の顔を覗き込み、帰りたくないの言葉を探そうとする。
以前よりもお兄様の過保護が加速しているような気がする。お兄様もお父様もこれが聞きたかったのだろう。
二人とも昔はここまで心配性ではなかった。アカに乗せてもらえばすぐとはいえ、やはり王都は遠い。親心と兄心というやつか。
今週学園で起きた『ダグラス事件』のことをお兄様にも伝えようと思ったが、止めておこう。二人にとって笑い話にならなければ変に心配をかけてしまう。
お兄様なんてほぼ毎日王都に来ているのに、これ以上になったら公爵家に住むと言いかねない。
一部のファンは喜ぶだろうけど、この年になって兄からかなり心配されているなんて恥ずかしすぎる。毎日アカが飛んでくるので十分だ。
「アカ、久しぶり」
「今日はよろしくね。あ、これ、クッキー。よかったらみんなで食べて」
着いた後だと忘れそうだからと渡してくれたのは丸い缶。かなりの大きさで私の顔くらいある。それに数種類のクッキーを入れてくれたようだ。ルクスさんが早くも中身を気にしている。
「家に着いてからのお楽しみですよ」
「そうか……」
「私も先に渡しておくね」
「楽しみにしてたんだ。俺も帰ったら石鹸の追加分作るから、帰るときに渡す」
「うむ。楽しみにしているぞ」
二人と話しているうちにお兄様とアカは飛ぶ準備を始めた。準備といっても食べるのを止めて、場所を動くだけだが。アカが動く音でお祖父様とイザラクも屋敷から出てきた。
いざ数ヶ月ぶりの辺境へ。
ギュンタ、イヴァンカの順で実家に送り届け、最後にシルヴェスターへと到着する。屋敷の前ではすでにお父様とお母様、亀達とホムンクルス、使用人が待ち構えていた。すごい歓迎だ。
「ただいま帰りました」
「帰ったぞ」
「おかえり」
「おかえりなさい。元気にしていた?」
「うん。私もルクスさんも亀蔵も元気です。あ、これ私が作ったドーナッツ」
「ウェスパルのおやつは美味しいんだよな」
紙袋を取り出すと、お父様の表情はゆるゆると緩んでいく。お母様も嬉しそうな表情をドーナッツに向けたが、すぐに私へと向き直る。
「それで亀蔵は」
どうやら亀蔵が心配のようだ。お父様もお兄様もかなりの頻度で会っているが、お母様は私達が王都に行く前に会ったきり。ハウスから亀蔵を呼び出す。
「かめぇ」
「ああ、亀蔵! 会いに行けなくてごめんなさい」
服が汚れるのも気にせず、地面に膝をつく。亀蔵の身体をぎゅっと抱きしめた。亀蔵ロス状態だったらしい。亀蔵分を補充しながらお父様への文句を呟いている。
お母様が王都に来なかったのは、帰ってこないかもと心配したお父様によって阻まれていたからのようだ。
さすがに亀蔵と離れ難いからってそんなことはしない……と思いたいが、お母様は元々大陸中を駆け巡る冒険者だった。公爵屋敷に行った足でギルドに行き、そのまま仕事を開始してしまい~という可能性も否定はできない。
いや、私よりもお母様のことをよく知るお父様が止めるくらいだ。本当にやりかねない。王都への主な移動手段がアカであることから、お母様の王都行きの妨害にはお兄様も関わっている。お母様はかなり奔放なタイプなのかもしれない。
遠くを見つめているうちに、亀蔵は他の亀とホームズ一家と共に屋敷へと向かっていった。向かったのはおそらくお母様の部屋。留守にしていた間にホムンクルスもますますこの領に馴染んでる。
お祖父様とイザラクは使用人と共に客間へ。荷物を置いて、お茶でも飲んでゆっくりとしていたいのだろう。
私は錬金釜を使いたいので小屋へ。私のルクスさんの分のロイヤルミルクティーを運んできてもらえるように頼んだ。お父様とお兄様は私達に聞きたいことがあるとかで、一緒に小屋へとやってくる。
話は錬金術を使いながらでいいとのことで、お言葉に甘えさせてもらうことにした。久しぶりに使う錬金釜を濡れ雑巾で軽く綺麗にしてから魔結晶作りに取り掛かる。
「それで話って何ですか?」
「順を追って話そう。まずスカビオとファドゥールから亀達とホームズ一家を派遣してほしいと要請があった。ウェスパルの返事を待ってもらっている状態だが、どうだろうか」
「本人の許可さえ取れれば構いませんよ」
「分かった。後で聞いてみよう」
派遣が決まった際の送り迎えはお父様がしてくれるそう。私の作ったバギーは今も大活躍しているようで、連結パーツを使って荷台も引いているのだとか。
学園を卒業したらもう一台増やしてもいいかもしれない。
「亀達といえば、ウェスパル。ランブルング王国の王子からいじめられてないか?」
「すごい見られてはいるけど、虐められてはないよ」
「ウェスパルには我がついている。問題ない」
「ルクスさんのことも、もちろんイザラクのことも信用しているがやはり心配で……。あっちにいる時は気にならなくとも、実家に帰ってみたら王都に行きたくなくなったとかあるんじゃないか? そういう時はお兄様に遠慮なく言うんだぞ?」
お兄様は左右から私の顔を覗き込み、帰りたくないの言葉を探そうとする。
以前よりもお兄様の過保護が加速しているような気がする。お兄様もお父様もこれが聞きたかったのだろう。
二人とも昔はここまで心配性ではなかった。アカに乗せてもらえばすぐとはいえ、やはり王都は遠い。親心と兄心というやつか。
今週学園で起きた『ダグラス事件』のことをお兄様にも伝えようと思ったが、止めておこう。二人にとって笑い話にならなければ変に心配をかけてしまう。
お兄様なんてほぼ毎日王都に来ているのに、これ以上になったら公爵家に住むと言いかねない。
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