第二部の悪役令嬢がシナリオ開始前に邪神の封印を解いたら闇落ち回避は出来ますか?~王子様との婚約解消はいつでも大歓迎です~

斯波@ジゼルの錬金飴②発売中

文字の大きさ
上 下
157 / 175
5章

33.ダグラス事件③

しおりを挟む
「レミリアはすっかりシェリリン様と意気投合したのね」

 遅れてやってきたイヴァンカとギュンタは微笑ましそうに彼らを眺めている。二人は発端となった場所に居合わせていたため、ダグラスファンの輪にも全く動じる気配がない。

「シェリリン様は私の知らないダグラス様を沢山教えてくださいますから!」
「私が知っているのは大会での活躍と王都での噂だけですわ。今後とも是非辺境でのダグラス様のご活躍をお聞かせ願いたいものです」
「我々も聞きたいな」
「話す際には是非声をかけてほしい」
「私達は旅先での活躍について話そう。少し長くなるから覚悟してほしい」
「ええ、いくらかかっても構いませんわ」

 すっかり意気投合した彼らは学園の外での約束を取り付けている。
 しかもお兄様のファンはここにいる五人だけではないようで、脳筋ズが「他にも声をかけたい人がいるんだ」と言っているのが聞こえてしまった。

 あの輪に入れるほど濃い人って一体……いや、深く考えるのは止めよう。小さく頭を振って、微かにあったダグラスファンへの興味を消す。

 そしてイヴァンカとギュンタの方へと向き直る。

「イヴァンカ、ギュンタ。私達、週末に実家に帰るんだけど、二人ともどう?」
「行く! 実はそろそろ薬草園の様子が見ておきたかったんだ」
「ロドリーも帰るって聞いたから、私もなんだか寂しくなっちゃってたのよね」

 昨日のイザラク同様に即答である。

 王都に来てから早数ヶ月。
 地元を長く離れたことがなかった二人も思うところがあったようだ。スカビオ・ファドゥールから来た他の子達にも声をかけたが、彼らは課題で忙しいようだ。

 ちなみにレミリアさんは週末の予定が入ったばかりなので、今回は見送りとなった。脳筋ズは辺境行きにとても興味を示していたが、彼らだけ連れて行ってシェリリン様を置いていくのは可哀想だ。

 公爵令嬢をドラゴンに乗せるのはギリギリ大丈夫だとしても、さすがにマーシャル王子を連れて行くのは怖い。

 聞けば王都から半日以上離れた場所への移動する際は主治医同伴とのこと。それもよほど外せない用事のみ。彼の体調を心配した王妃様と第一王子が外出を制限しているようだ。

 積極的に外出させたいサルガス王子とシェリリン様もさすがにドラゴンは……と、私と全く同意見だったため、今回は遠慮してもらうことにした。

 ゲーム版マーシャル王子は他の二人同様、魔王と闇落ちしたウェスパル、邪神の元へとやってくるのだが、どうやって魔界まで移動したのかは謎である。

 ヒロインと共にいるうちに元気になっていき……という流れだったが、特に光の力を使った様子もなかった。

 物語の中で徐々に元気になっていたのかと納得していたが、シェリリン様と王家がかなり力を入れて今の状態まで回復したのだ。自然治癒は考えづらい。

 もしや光の巫女が近くにいると治癒力が高まるのだろうか。だとすればシェリリン様とレミリアさんにはますます仲良くなって欲しいものである。

 いつかマーシャル王子達が辺境に来る時のためにアカに持ってもらう籠でも作っておこうか。まだまだ先のことかもしれないけれど、頭の中で鮮明に思い描けるくらいには叶いそうな未来になりつつあるのだった。


 学園から帰宅後、すでに屋敷に到着していたアカに三通の手紙を託した。一通は私が書いたものだが、残りの二通はそれぞれイヴァンカとギュンタが実家に向けて書いたものだ。

「これがうちで、緑の封蝋がスカビオ家で赤い封蝋がファドゥール家ね。裏に名前が書いてあるから分からなくなったら確認してって伝えておいて」
「かしこまりました」
「それから、亀蔵もみんなと会えるのを楽しみにしているからっていうのもお願い」
「必ず」

 お兄様とお父様は度々亀蔵の様子を見に来ているが、亀蔵だって他の亀たちが心配のようだ。さすがは亀たちのリーダー。

 ドライフルーツのドーナッツは手土産に変更することにした。

 もちろんロドリーにも渡すつもりだ。すでに実家に戻る日に渡しに行くからと伝えてある。実家に持っていくついでにはなってしまうが、ロドリーもといタータス家からは色々ともらっている。いつもお世話になっていますという気持ちも込めて、こちらからも芋以外の何かを渡したいと思っていたのだ。

 私の手作りなのがあれだが、評判はいいのだ。少なくともロドリーは私のおやつを気に入ってくれるので、なんだったら一人で食べてほしい。

 もちろんスカビオ家とファドゥール家の分も作る。別にロドリーと話している時のギュンタとイヴァンカの視線が痛かったからとかではない。初めからちゃんと作るつもりだった。


 ダグラス事件により生まれた『スカーレットの令嬢がシルヴェスターへの嫁入りする!?』という噂は、ダグラスファンクラブが設立と共に消え去った。

 妹として複雑な気持ちはある。せめて私が王都から去った後にしてくれないかとも思う。

 だがマーシャル王子から「早急に噂を否定するためには必要なんだ」と力強い意志のこもった瞳で訴えられてしまえば、私も口をつぐむしかなかった。

 そんな彼はファンクラブ設立の功労者としてファンNo.1の座を獲得した。
 学園でほくほくとファンカードを眺める姿に、彼もまたファンの一人なのだと理解した。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

月が隠れるとき

いちい千冬
恋愛
ヒュイス王国のお城で、夜会が始まります。 その最中にどうやら王子様が婚約破棄を宣言するようです。悪役に仕立て上げられると分かっているので帰りますね。 という感じで始まる、婚約破棄話とその顛末。全8話。⇒9話になりました。 小説家になろう様で上げていた「月が隠れるとき」シリーズの短編を加筆修正し、連載っぽく仕立て直したものです。

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

いきなり結婚しろと言われても、相手は7才の王子だなんて冗談はよしてください

シンさん
恋愛
金貸しから追われる、靴職人のドロシー。 ある日突然、7才のアイザック王子にプロポーズされたんだけど、本当は20才の王太子様…。 こんな事になったのは、王家に伝わる魔術の7つ道具の1つ『子供に戻る靴』を履いてしまったから。 …何でそんな靴を履いたのか、本人でさえわからない。けど王太子が靴を履いた事には理由があった。 子供になってしまった20才の王太子と、靴職人ドロシーの恋愛ストーリー ストーリーは完結していますので、毎日更新です。 表紙はぷりりん様に描いていただきました(゜▽゜*)

だってお義姉様が

砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。 ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると…… 他サイトでも掲載中。

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ

暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】 5歳の時、母が亡くなった。 原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。 そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。 これからは姉と呼ぶようにと言われた。 そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。 母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。 私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。 たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。 でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。 でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ…… 今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。 でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。 私は耐えられなかった。 もうすべてに……… 病が治る見込みだってないのに。 なんて滑稽なのだろう。 もういや…… 誰からも愛されないのも 誰からも必要とされないのも 治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。 気付けば私は家の外に出ていた。 元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。 特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。 私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。 これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

秘密のカレはV(ヴィジュアル)系

ルカ(聖夜月ルカ)
恋愛
シュバルツ・シュメルツの華麗なるヴォーカリスト・瑠威には誰にも言えない秘密があって… ※表紙画はリカオ様に描いていただきました。m(__)m

処理中です...