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5章
30.精霊王をパシる
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「これって斧用の砥石ですか?」
「ああ、そうだよ。このあたりじゃ包丁用と並んでよく売れるからな。お兄さん達は冒険者かい?」
ロドリーが指差したのはまん丸い砥石だ。私が気にしていたものと同じ。斧用の砥石だったのか。
シルヴェスター領では斧を使わないから、見るのは初めてだった。
ロドリーが知っていたのはライヒムさんが斧を使うからかな。じいっと魅入るように見ている。
「はい。近くまで魔物討伐に来ていて」
「ドライフルーツが売っていると聞いて寄ってみたんです」
「そうかい。なら今度はドライフルーツだけじゃなくて、天然砥石もやっているんだって覚えて帰ってくれ」
「天然ものなんですか?」
「元々はこっちがメインだったんだが、そう数が売れるようなもんでもないからな。ドライフルーツを始めたって訳だ」
天然ものの砥石とは珍しい。
人造砥石は手早く研ぐことが出来るが、研ぎすぎることもあるのだとか。
一方で天然砥石は人造砥石に比べて研磨力が弱く、時間はかかるが綺麗な仕上がりになる。料理人さんはこだわる人も多いと聞いたことがある。
「ウェスパル。しばらく見ていていいか? 兄貴の誕生日が近いから、プレゼントしたくて」
「分かった。なら私は先にドライフルーツを買ってくるから、ゆっくり見てて」
私が近くにいては集中して選ぶことが出来ないかもしれない。幸い、私は手持ちの砥石でも十分。ロドリーに断って店を離れることにした。
そこからすぐのところにあったドライフルーツ店でじっくりと吟味する。
ここで取れたものだけではなく、他の地方から入荷したものも多く、紅茶とブレンドして売り出しているものもある。
「悩むなぁ……」
ドーナッツに入れるならレーズンやクランベリーあたりが無難だ。
マンゴー・いちじく・オレンジなんかもいい。その他にも桃にアプリコット、林檎、キウイ、レモンにいちごまである。
サイズも亀蔵のおやつにぴったりで、ついこれもこれもと手に取ってしまう。だがあまり買いすぎるのも良くない。一袋がかなり大きいのだ。
ドーナッツに入れるならカットして使うので、そんなに量は使わない。亀蔵が気に入るか分からない今、三袋もあれば十分なほど。
「んーーーーーー」
一人、棚の前で唸る。ルクスさんがいたら相談も出来るのだが、一度入り口まで戻るのも面倒くさい。ロドリーのプレゼント選びも邪魔はしたくない。
悩みに悩んで、レーズン・クランベリー・オレンジを一袋ずつ買うことにした。結局選んだのはドーナッツセットだった。
その際、自然な流れで産地を尋ねてみた。
馬車に付着して死草が広まっていたのであれば、ここで関連性を見つけられると思ったのだ。
だが一致した箇所もあればそうでない箇所もある。季節によって入荷する場所も変わるということで、あまり参考にはならなかった。
そう上手くはいかないか。
「何か気になることでもございましたか?」
「いえ、こんなにドライフルーツが並んでいるのが珍しくって」
「うちの店は種類が豊富なのも売りなんです。是非ごひいきに」
店員さんスマイルで見送られながら店の外に出る。
購入したものをマジックバッグに入れ、砥石の店へと戻る。そこにはほくほく顔のロドリーがいた。
「いいもの買えた?」
「ああ! 今度の週末に渡してくる。そろそろ長期休暇に入るけど、やっぱり早く渡したいからさ。ウェスパルの方は?」
「沢山あって迷ったけど、三袋も買っちゃった。ドーナッツ、楽しみにしてて」
二人揃ってるんるんでルクスさんと亀蔵の元へと戻る。
すでに精霊に話を聞き終わった後らしい。ルクスさんの手に残っている袋は空になっていた。有力な情報が手に入れられたならいいのだが……。報告を聞くのは家に帰ってからだ。
グリフォンに乗って王都へ戻る。
ギルドで討伐と採取の報告をして、等分した報酬を受け取る。
「じゃあまた明日」
「うん、また明日」
ロドリーと別れ、屋敷に戻った後は自室に一直線。バッグを下ろしてすぐにルクスさんに問いかける。
「どうでした?」
「今現在、あの地周辺に死草はないそうだ。今後見つかった際には精霊王を通じて我に報告せよと伝えてきた」
「そんな精霊王をパシるようなことを……」
「あやつは我の活躍により多くの捧げ物を受け取っているのだから、これくらい当然だ」
捧げ物とはファドゥールのワインを指しているのだろう。スカビオ家も何か捧げているだろうし、イザラクのパンも捧げ物ということになっている。
イザラクのパンはともかく、ワインはファドゥールの人達が精霊と契約したおかげ。
精霊の契約はルクスさんがいたからなので、ルクスさんの活躍で捧げ物が増えたって事でいいのかな。
私からも精霊王に賄賂を、魔結晶を捧げよう。
手持ちはないが、精霊王に渡すのなら量よりサイズ。大きいものを一つでいい。お風呂上がりに作ることにしよう。
その他の魔結晶は週末に帰って、錬金釜でまとめて作ればいいか。
「ああ、そうだよ。このあたりじゃ包丁用と並んでよく売れるからな。お兄さん達は冒険者かい?」
ロドリーが指差したのはまん丸い砥石だ。私が気にしていたものと同じ。斧用の砥石だったのか。
シルヴェスター領では斧を使わないから、見るのは初めてだった。
ロドリーが知っていたのはライヒムさんが斧を使うからかな。じいっと魅入るように見ている。
「はい。近くまで魔物討伐に来ていて」
「ドライフルーツが売っていると聞いて寄ってみたんです」
「そうかい。なら今度はドライフルーツだけじゃなくて、天然砥石もやっているんだって覚えて帰ってくれ」
「天然ものなんですか?」
「元々はこっちがメインだったんだが、そう数が売れるようなもんでもないからな。ドライフルーツを始めたって訳だ」
天然ものの砥石とは珍しい。
人造砥石は手早く研ぐことが出来るが、研ぎすぎることもあるのだとか。
一方で天然砥石は人造砥石に比べて研磨力が弱く、時間はかかるが綺麗な仕上がりになる。料理人さんはこだわる人も多いと聞いたことがある。
「ウェスパル。しばらく見ていていいか? 兄貴の誕生日が近いから、プレゼントしたくて」
「分かった。なら私は先にドライフルーツを買ってくるから、ゆっくり見てて」
私が近くにいては集中して選ぶことが出来ないかもしれない。幸い、私は手持ちの砥石でも十分。ロドリーに断って店を離れることにした。
そこからすぐのところにあったドライフルーツ店でじっくりと吟味する。
ここで取れたものだけではなく、他の地方から入荷したものも多く、紅茶とブレンドして売り出しているものもある。
「悩むなぁ……」
ドーナッツに入れるならレーズンやクランベリーあたりが無難だ。
マンゴー・いちじく・オレンジなんかもいい。その他にも桃にアプリコット、林檎、キウイ、レモンにいちごまである。
サイズも亀蔵のおやつにぴったりで、ついこれもこれもと手に取ってしまう。だがあまり買いすぎるのも良くない。一袋がかなり大きいのだ。
ドーナッツに入れるならカットして使うので、そんなに量は使わない。亀蔵が気に入るか分からない今、三袋もあれば十分なほど。
「んーーーーーー」
一人、棚の前で唸る。ルクスさんがいたら相談も出来るのだが、一度入り口まで戻るのも面倒くさい。ロドリーのプレゼント選びも邪魔はしたくない。
悩みに悩んで、レーズン・クランベリー・オレンジを一袋ずつ買うことにした。結局選んだのはドーナッツセットだった。
その際、自然な流れで産地を尋ねてみた。
馬車に付着して死草が広まっていたのであれば、ここで関連性を見つけられると思ったのだ。
だが一致した箇所もあればそうでない箇所もある。季節によって入荷する場所も変わるということで、あまり参考にはならなかった。
そう上手くはいかないか。
「何か気になることでもございましたか?」
「いえ、こんなにドライフルーツが並んでいるのが珍しくって」
「うちの店は種類が豊富なのも売りなんです。是非ごひいきに」
店員さんスマイルで見送られながら店の外に出る。
購入したものをマジックバッグに入れ、砥石の店へと戻る。そこにはほくほく顔のロドリーがいた。
「いいもの買えた?」
「ああ! 今度の週末に渡してくる。そろそろ長期休暇に入るけど、やっぱり早く渡したいからさ。ウェスパルの方は?」
「沢山あって迷ったけど、三袋も買っちゃった。ドーナッツ、楽しみにしてて」
二人揃ってるんるんでルクスさんと亀蔵の元へと戻る。
すでに精霊に話を聞き終わった後らしい。ルクスさんの手に残っている袋は空になっていた。有力な情報が手に入れられたならいいのだが……。報告を聞くのは家に帰ってからだ。
グリフォンに乗って王都へ戻る。
ギルドで討伐と採取の報告をして、等分した報酬を受け取る。
「じゃあまた明日」
「うん、また明日」
ロドリーと別れ、屋敷に戻った後は自室に一直線。バッグを下ろしてすぐにルクスさんに問いかける。
「どうでした?」
「今現在、あの地周辺に死草はないそうだ。今後見つかった際には精霊王を通じて我に報告せよと伝えてきた」
「そんな精霊王をパシるようなことを……」
「あやつは我の活躍により多くの捧げ物を受け取っているのだから、これくらい当然だ」
捧げ物とはファドゥールのワインを指しているのだろう。スカビオ家も何か捧げているだろうし、イザラクのパンも捧げ物ということになっている。
イザラクのパンはともかく、ワインはファドゥールの人達が精霊と契約したおかげ。
精霊の契約はルクスさんがいたからなので、ルクスさんの活躍で捧げ物が増えたって事でいいのかな。
私からも精霊王に賄賂を、魔結晶を捧げよう。
手持ちはないが、精霊王に渡すのなら量よりサイズ。大きいものを一つでいい。お風呂上がりに作ることにしよう。
その他の魔結晶は週末に帰って、錬金釜でまとめて作ればいいか。
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